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ブックマーク有難う御座います。

遂に二桁なのですよ。

今後も宜しくお願いします。


 そうやって僕が草薙の事を調べている間も桜花様達の話は続いていた様だ。


「素性も何も私は西の辺境生まれですからね、特に大きな家も有りませんでしたし、当然士族の方も居られませんでした。大抵の村人は魔物を狩って暮らしていたのですが、田舎なので魔石の有効利用も出来なかったので、それを利益に繋げる為に郷に出向いたのが始まりです。私の生まれた地域では役に立たなくても、郷では必需品になっていましたからね。おかげで私の故郷も潤って一石二鳥、誰も損をしていないから問題は無いと思いますが?」

「損得の話では無いのじゃがな。結局お主は辺境から出てきただけの素性の知れぬ者に変わりは無いのじゃっ」

「その様な事を仰られても、それでは引っ越してきた者は全てが素性の知れない者になってしまいます」

「他の街にも士族や商候は居るのじゃ、全てが素性の知れない者ではない。お主は郷に移り住んでから代を重ねた訳でも無いのじゃ。せめて何代か前から住んでいれば話も違ったのじゃろうがな」


 流石に話が進まないと思ったのか、ここで王子が話に加わる。


「確かに草薙が桜花の婿候補に入った経緯は分からないけど、数年で第一商候にまで上り詰めたのは功績と言っても良いと思う」

「兄上!」

「流石は王子様、良く分かっておられる」

「でも、結局最後に婿を決めるのは桜花自身と父上なのだから、候補に誰が居るかとか、細かい事に拘っても意味が無いと思うよ。嫌なら選ばなければ良いだけだからね」

「王子様っ!」


 援護かと思ったらそうではなかったと知り、草薙が非難の声を上げるがそれを桜花様が遮る。


「なるほど、それもそうじゃな。最後は童が決める事、途中経過なぞ気にする必要も無いのじゃ」


 話は済んだと桜花様が席を立つ。


「では童は当初の予定通り、四狼を案内して回るのでこれで失礼するのじゃ。院長、子供達の所へ行っても構わぬな?」


 今まで巻き込まれまいと空気に徹していた院長が、初めて話を向けられて一瞬びくっとしたが、話し掛けられた内容にほっとした表情で答える。


「勿論で御座います姫様。皆も喜びます」

「では四狼、子供たちの所に参ろうか」

「はい、桜花様。それでは王子様、院長殿、失礼致します。それと草薙殿、一つ宜しいですか?」

「なんだ? 私に何か用か?」


 僕が声を掛けると草薙は不機嫌そうに答える。


「はい、草薙殿の短い髪型が気になったのですが、それも故郷の風習なのでしょうか?」


 そう、この国の成人男性の一般的な髪型は総髪に近い形、所謂ポニーテールの先端をバッサリ切った感じの髪型が一般的で、士族の成人男性は全員この髪型だ。ちなみにまだ未成年の僕は首の後ろで束ねているだけだが、やはり先端はバッサリ切っている。なのに草薙の髪は首の手前までしかなく、束ねてもいなかった。一部の犯罪者が髪を落とされ、入れ墨による呪印を首筋に入れられている場合や、獣人の様に種族的に総髪に出来ない者以外ではとても珍しい筈なので気になったのだ。なお、髪を落とされない犯罪者は首を落とされる事になるので、髪を落とされた犯罪者は重犯罪を犯した訳では無いのだが、それでも犯罪者には変わりがないので晒し者の意味も有るのだから、好き好んでする髪型ではない筈なのだ。


「そうだ、私の生まれた地域は男女問わず、皆髪は短くしていた。郷程良い武器も無く、魔物と戦うのに邪魔だったのでな」

「そうでしたか、郷の街ではあまり見かけない髪型だったので少し気になったのですが、故郷の風習でしたか。呪印も無いので少し不思議に思ったのですが納得致しました」

「確かに珍しいね。四狼が言うまで気にしていなかったけど、この街で髪を短くするのは大抵前科者か一部の流れ者位しか居ないからね。何で今まで気にしていなかったんだろう?」


 王子様も不思議そうにしていたが、桜花様はあえて狙って草薙を煽る。


「本当に草薙は前科者なのかもしれんぬぞ」

「桜花様、私を犯罪者呼ばわりはしないで頂きたい」

「四狼の言う通り、呪印も無いのだし、前科者では無いのは間違いないよ」


 王子様は否定したが、前科が無いのは捕まっていないだけなんじゃないかと思ったのだが、証拠が無いので僕はその言葉を飲み込んだ。


「ふん、草薙の髪型なぞどうでも良い。時間が勿体ないのじゃ、四狼、行くぞ」

「あ、はい、王子様、失礼致します」


 本当にどうでも良いのだろう、それ以上は興味が無いと、桜花様は扉を開けて出て行ったので、僕も急いで後に続く。

 孤児院入り口の少し手前まで戻ると階段があり、その階段を上って玄関で靴を脱ぐと子供達の居住区に入る。すると桜花様を見つけた子供達が姫様だ~っと言いながら近寄ってきた。


「皆、元気にしておるか? 悪い事はしていないじゃろうな?」


 桜花様はそんな事を言いながら笑い掛ける。4~5歳位の小さな子供達は口々に良い子にしてたーとか、悪い事なんかしないよーっと否定し、十歳位の子供達は桜花様に感謝の言葉を贈る。


「私達は姫様のおかげで今日も生きていられます。ありがとうございます」

「感謝の言葉も貰っておくが、一番のお返しは大人になったら真面目に働いて幸せになる事なのじゃ。頑張るのじゃぞ」

「「はい、姫様!」」


 皆が笑顔で話している中で何人かが僕を見て不思議そうな顔をして話している。


「しらない人がいる」

「だれだろう?」


 そんな子供達の声を聞いた桜花様がまたニヤリと笑い僕を紹介してくれる。


「こ奴の名は四狼、童の結婚相手…」

「え~っ姫様結婚するの?」

「僕が姫様と結婚したかったー」

「姫様はわたさないぞー!」


 桜花様は子供達にもモテモテの様だ。


「になるかもしれない男じゃ」


 しかし、続く言葉に皆が呆然とするのを桜花様は楽しそうに見ていた。

 少し不本意な紹介だったので、僕は訂正しておく事にする。


「確かに婿候補では有りますが、正確には姫様の刀の先生です。今日は姫様が作った孤児院を紹介してくれるという事で来たので、皆よろしく」


 僕の言葉に皆は納得してくれたのか、それぞれ話ている。


「ほんとだ刀もってるぞ」

「刀の先生?」

「強いのかな?」

「先生っていうんだし、強いんじゃないの?」

「姫様はわたさない!」


 一人まだ結婚に拘ってるのがいるけど、殆どの子供達が僕の言う事を信じてくれた様だ。


「今日も土産を持ってきたのじゃ。後で皆で分けて仲良く食べるのじゃぞ」


 桜花様はそう言うと、異界倉庫から箱を4つ取り出し年長の子供達に渡していく。


「おかしかな?」

「あまいと良いな」

「あとっていつ?」

「皆、先に姫様にお礼を言いなさい!」


 年長の子がお土産に気を取られている小さな子達に言うと、皆が一斉に桜花様にお礼の言葉を言った。


「「姫様、ありがとうございます!」」

「うむ、どういたしましてなのじゃ!」


 お礼の言葉に桜花様も嬉しそうに答える。

 その後は普段どう過ごしているかや、何か不都合や足りない物が無いか等の話を横で聞きながら考える。

 食べ物は問題ないらしいが、年少組の遊び道具が足りない様でたまに喧嘩になるらしいので、いくつか簡単に作れそうな物を今度お土産に持って来る事を約束し、折角なので色々聞いてみた。


「皆は将来、就きたい仕事ややってみたい事ってあるのかな?」

「僕は兵隊になって魔物を倒したい!」

「兄ちゃん、俺にも刀を教えてよ」

「魔物は怖いから畑で野菜とか作りたいけど、畑ないから…」

「狩りとか出来たら肉がいっぱい食べられるよねー」

「私は食堂で働きたい」

「食堂は食べたくなるから食べ物じゃないお店が良いー」

「おかし食べたい」

「あまいのおいしいよねー」


 年少組にはまだ早かったのか話がずれている。


「術とか使えたら便利だよね」

「お前は先に本が読める様にならないとなー」

「少しは読めるもん!」


 なるほど、男の子は狩人や兵士等の武闘派が多く、女の子は食事処や商店の店員が多かった。少数だが術師になりたいという子も居たが、術については年少組はまだ良く判っていない子も多い様だ。

 それならば今度持って来る玩具はそれらも伸ばせる物が良いかな、っと考える。桜花様に渡した術札程の物は渡せないが、もっと簡単な物も考えてみよう。所謂知育玩具という奴だ。

 そうして30分程話た後、次の孤児院に向かう為に外に出ると王子様一行が帰った為、多数止まっていた自走車も居なくなり、桜花様の自走車が待機していたので乗り込む。


「勢多、次の孤児院に行ってくれ」

「承知致しました」


 桜花様は座席に着くなり指示を出すと力を抜いて座席にもたれ掛かる。


「草薙のせいで無駄に疲れた」

「桜花様に決定権が有るのなら、あまり気にしなくて良いのではないでしょうか?」

「残念だけどそう簡単な問題でも無いのよ。草薙商会の卸してる魔石の量がどの位か知ってる?」

「いいえ、そもそも草薙殿の事すらさっき迄知りませんでしたし」

「四狼はもう少し世間の事も知った方が良いわよ。第一商候の商会位は覚えておきなさい」


 桜花様が呆れた顔で窘める。確かに第一商候の商会位は知っておいたほうが良かったのかもしれない。


「分かりました。努力します」

「それで、魔石の供給量なんだけど、郷で使う分の約四分の一近くを納めているのよ。これは一番多い軍に次ぐ量よ」

「それは凄いですね」

「つまり、草薙が魔石の供給を止めると、郷の生活事態にもかなりの問題が発生するのよ」


 草薙はただの商候とは思えない影響力を持っているらしい。何か対策を考えないと困った事になりそうだ。


「何か対策は考えているのですか?」

「考えていても有効な案が出てこないから困っているのよ。四狼は何か案は無い?」

「いきなり言われても、それこそ何も出ませんよ。他にも供給先を見つけるとか、消費効率を上げるとかは、簡単には出来ないですよね?」

「出来ないわね。白魔石みたいに呪力を充填しようにも充填の労力の方が大きいから無駄だし、結局は技術的な事は専門外だから分からないしね」


 通常の赤い魔石は力を使い果たすと消えて無くなるが、白い魔石はそのままでは使えないが、呪力を籠めると中に呪力を蓄えておけるし何度も使えるのだが、その呪力を籠める際に呪力漏れが起こるので漏れた呪力は無駄になってしまうのだ。それなら直接呪力を使った方が効率が良いので直接呪力の使用が出来ない場合にしか使い道が無いのだが、何か方法は無いのかな?


『魔導金属を使用するというのはどうでしょうか? 初期費用は多くなりますが、長期間使う事で元が取れますし、魔石の補充も必要ありません』

『魔導金属は魔力を発生させているので常時能力の発動が可能なのですよ』

『それって、もしかして素材だけで永久機関になるんじゃないの?』

『出力の問題があるので仮に魔導金属で自走車を作った場合、和富王国のお城位の大きさになります』

『お城って400メートル四方位あったよね? そんなに大きいんじゃ自走車は無理だよ』

『素材の元を取るのに億単位の年数が掛かるのですよ』

『高すぎだよっ!』

『増幅機を作れば永久機関も可能ですが、これも通常なら膨大な材料費が掛かります。ご主人様以外には材料の調達も制作も不可能だと思います』


 永久機関実現かと思ったが、そこまで旨い話では無い様だった。僕には作れるらしいが、一般に普及させないと今回は意味が無いし、色々利権とかの問題も出てくるだろうから今は作れない。なので桜花様には無難に答えておく。


「今は他に思いつかないので、何か思いついたらまたお話しします」

「そうね、何かあったら宜しくね」


 桜花様はそう言いながらもまだ何か考えている様な顔をしていたが、ふと思い出した様に僕を見て言った。


「そういえば、何で今まで草薙の髪型に気が付かなかったのかしら? 四狼は気が付いたのに」

「確かに不自然ですね、何か偽装や意識誘導でもしていたのでしょうか?」

「髪の短いのは珍しいけど、そんな事までして隠すような事でも無い筈なんだけど、何なのかしら」

「話すほどに謎が深まりますね」


 桜花様は本当にそうよねっと困り顔だ。


「変な事を企んでいないと良いんだけど」


 桜花様はそう言うが、変な事を企んでいるのは称号的に間違いないと思う。探究者だしね。


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