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優しい世界

ブックマーク有難う御座います。

あと一人で二桁なのですよ。

頑張ります。


「少し気になったのですが、この桜第一孤児院の桜って桜花様の名前から来ているのでしょうか?」

「その通りよ。私が創設させた最初の孤児院だから、桜第一孤児院なのよ」


 当然でしょっと桜花様は胸を張って答えるが、やっぱりというか、何故か桜花様の中では異世界と孤児院は切っても切れない関係らしいが、この世界から見れば地球の方が異世界なんだけどな、っと思ったが口には出さない。桜花様は楽しんでいる様だし、人の為にもなっているのだから水を差す必要も無いし、そんな桜花様を僕は好ましいとも思ったからだ。それに。


「第一という事は他にも在るという事ですか?」

「そうよ、今日は私が作った第一から第四の4つの孤児院全てを回る予定よ」


 今日覚醒したばかりの僕とは違い、何年も前に覚醒したらしい桜花様は既に色々とこの世界で功績を積んでいる様だ。


「やっぱり覚醒してから孤児院を作り始めたんですか?」

「そうよ、私が覚醒したのが8歳の頃だったから、丁度5年位前だけど、孤児院を最初に作ったのは3年前ね」


 3年前というと、桜花様はまだ10歳の筈。普通ならご自身が孤児院に入っている子供達と同じ様な年齢なのに、助けられる側ではなく、助ける側に居るというのは、王家に生まれたというのも影響が大きいのだろうけど、それでも流石と思わずにはいられない。


「桜花様は流石ですね。その行動力には尊敬の念すら覚えます」

「そう、四狼に褒められるとなんだか嬉しいわね」


 桜花様は少し頬を染め、嬉しくも恥ずかしそうに微笑んでくれた。

 とても可愛いと思うが、僕には刺激が強すぎるので話を変える。


「それにしても8歳で覚醒していたなんて、桜花様は覚醒も早かったのですね。14になってからの僕とは大違いです」

「それは私の能力の影響なんじゃないかって思ってるんだけど、確証はないわね」

「桜花様の能力ですか?」

「どうせ四狼には見えているんでしょ? 私の能力、”優しい世界”はイージーモードらしいから、早く覚醒して色々出来る様にしてくれてるんじゃないかと思ったのよ」


 僕に判断出来ない事は知っていそうな者に聞くに限る。


『天照、そうなの?』

『概ね正解です。優しい世界は成長に時間が掛かるので、覚醒を速めて成長の時間を捻出しています』


 つまり、桜花様の予測は間違ってはいない様だ。


「えっと、間違ってないと思いますよ」

「本当にそう思ってる?」

「それこそ証拠は有りませんが、僕はそう思いました」


 桜花様は何処か胡散臭いとでも思っているのか、じとっと僕を見つめていたが、すぐに諦めたのか更に問い掛けてくる。


「まぁ良いわ、実証は出来ないのだからこれ以上問い詰めても意味が無いわね」

「先程も初代様の能力にも興味を持っていた様ですが、何か気になる事でもあるのですか?」


 僕からの質問に桜花様は少し迷いながらも答えてくれた。


「私の”優しい世界”の説明にはイージーモードって書いてあったのに、実際にはあまり効果を実感出来ないのよね。だから他の能力も実感が無いのかと思って調べてたんだけど、大抵はそれなりに効果を実感しているみたいだから、ますます気になってるのよ。何か失敗したのかしらって」


 なるほど、優しい世界は大器晩成型、初めは効果も殆ど無いのだから、実感が無いのも当然だろう。ならば僕なりの考えを伝えようと思う。


「桜花様の優しい世界の能力はそのままでは効果が低いので、実感出来無いのだと思います」

「それはどういう事?」


 桜花様が訝しげに問う。


「能力の倍化ですから、1は2にしかなりませんが、10は20になります。つまり基本の値が高い方が伸び代が大きいのです」

「それって、本当は役に立たない能力って事なの?」


 桜花様の少し不安そうにしていた顔が、今度は悔しそうな顔になっていく。


「それも違うと思います。10が20になる様に、100は200になるんです。つまり努力に上方修正が掛かると思えば、努力が報われるのであれば、それはやっぱり、優しい世界なんじゃないかと思うんです。報われない努力は空しいけど結構ありますからね」


 桜花様は僕の言葉に一瞬目を見開き、その後少し俯いて考え、やがて微笑みながら答えてくれた。


「そうね、私はまだまだこれからなのよね。有難う四狼、正直あまり効果を実感出来ていなかったから、少し不安になっていたのよ。でも今なら、四狼の言葉なら信じられる気がするわ。四狼に相談して本当に良かったわ」


 その微笑はカメラが無いのが惜しいと思わせる位に美しく、絵になる表情だなと見惚れていたら、そこに月詠達の訂正が入る。


『主様の能力には完全記録が有りますから、いつでも思い出せるのですよ』

『そうですね、幻影魔術を使い、紙に物理転写させれば写真の様な物は残せるかと思います』

『いや、折角綺麗に纏まりそうだったのに、そこで落とすの?』


 二人のやり取りに僕は思わずツッコんでしまった。


『そんな事よりも、主様おめでとうのなですよ。桜花様の好感度が順調に上がっているのですよ』

『ご主人様おめでとう御座います。この調子で好感度を上げれば、お嫁さんと国政を任せられる人材の両方が確保出来ます』

『いやいやいや、そんな打算なんか無いからね! ただ桜花様が悲しんでいるのは嫌だっただけだからね!』


 言い方がツンデレみたいになってしまったが、僕は美少女には、正確には桜花様には笑顔でいて欲しい。それだけだったのだが、二人の案内人はやはり僕に国造りを進めさせたいらしい。僕はもっとゆっくり出来そうな未来を求めているというか、そもそも転生直前の目的は長生きだった筈なのだ。

 でもそうすると功績は詰め無さそうなので難しいとは思うけど、それでも国王とかは面倒の方が多い気がするんだよね。なんといっても自分以外の人達の未来まで背負う事になるという精神的負担が増えるのだ、自分一人でも手一杯なのに他人の人生まで左右する様な真似はしたくなかった。

 もしかして、初代様もこうやって案内人になし崩し的に国王にされたんじゃ無いよね?

 そんな疑念が頭に浮かんだが、桜花様の言葉に思考が戻る。


「つまり優しい世界は努力が前提にあると、四狼は考えているのね?」


 先程までの弱気な会話が恥ずかしかったのか、桜花様は少し頬を染めながら話しかけてくる。


「そうですね、基礎能力が上がればその分効果も上がる筈ですから、位階を上げる事で効果が増えていくと思って間違いないと思います」

「分かったわ。これからは今まで以上にもっと頑張る事にするわ」

「頑張るのは良いですが、無理の無い範囲で頑張って下さい。頑張り過ぎて身体を壊してしまっては意味が有りませんからね」


 何時も真直ぐな桜花様に、僕は一応無理はしない様にとお願いしておいたが桜花様の事だ、何処まで聞いて貰えるか心配だ。


「その辺は鑑定も有るし、自分の体調位はある程度の判断は出来ると思うわ」


 桜花様のある程度が信用出来ないのだが、その辺りは伊吹さん達も見張っているだろうから問題は無いだろう。


「ところで四狼、何か変じゃない? 少し前から全然進んでいない気がするんだけど? 孤児院が見えてから随分経つのに辿り着かないわ」


 あまり信じて貰えていないと分かったのか、桜花様が話題を変えてきた。


「そういえば、先程から自走車が止まったままですね」


 僕は中道に入り、孤児院見えてから暫くして自走車が止まっている事には気が付いていたが、交差点の侵入待ち等でも時々止まっていたので気にしていなかったのだ。

 そこで桜花様は運転手に状況確認する為、通信機を操作する。


「勢多、先程から進んでいない様じゃが、原因は分かっておるのか?」

「申し訳御座いません姫様、前方の自走車も馬車も止まっていて進めませんので、この位置からでは原因が分かりません。ご許可頂ければ確認してまいりますが、如何致しましょう?」


 原因の一部でも分からないかと地図を確認してみると、目的の孤児院には僕の知っている人が二人居た。多分その人物の内の一人が自走車の止まっている原因なのだろう。

 その事を桜花様に伝え様にも、どうして分かったのかが説明出来ないので伝えられない。なので直接確認に行く事を勧める。


「桜花様、目的の孤児院まであと僅かなので、直接歩いて行った方が早いと思うのですが、如何致しますか?」


 桜花様は少し考えて、それもそうねと同意してくれた。


「勢多、目的の孤児院も直ぐ側なのじゃ。童たちは先に直接出向く事にする。お主は自走車が動ける様になったら所定の場所にて待機しておれ」

「はっ、承知致しました」

「では四狼、参るぞ」

「はい、桜花様」


 そう言って僕達は刀掛け台から刀を取り、自走車を降りて腰に差した。

 自走車の外は時間も昼過ぎと最も暑い時間でもあり、現代日本程ではないが結構な暑さになっている。


「流石に五月も半ばになると結構暑いですね。桜花様は大丈夫ですか?」

「時間も時間だから仕方がないけど、私たちが居た頃の日本程じゃないし問題無いわ」


 一年が八ヶ月のこの国での五月といえば丁度夏真っ盛り、現代日本程ではないがそれなりに暑いのだが、僕と桜花様はしっかり鍛えているので問題は無かったが、僕達の前方からこの国では珍しい獣人族の人達が暑そうに歩いて来て横を通り過ぎる。実際この気温にあの毛皮は辛そうだ。

 そんな真夏の暑い時間、僕と桜花様は目的の孤児院に向かって歩いて行くが自走車を降りた場所からは200メートルも無かったのでこちらも問題なく到着するのだが、孤児院の前の道路を何人もの武士が入り口を固めていた。それを見た桜花様は訝しげに武士に語り掛ける。


「お主達は兄上の手の者だったと思うが何故此処に居る?」

「はっ!姫様、私どもは勿論、王子の警護で御座います」

「やはり兄上が来ておるのか。しかし兄上が童の作った孤児院に何の用がある?」

「それは私どもには分りかねますので、直接お尋ね下さい」


 そう、何故か目的の孤児院には第一王子が先に来ていたのだ。その警備の者達の乗る自走車が数台道路に止まっていた為、孤児院周辺が封鎖されてしまったのが自走車が来られなかった理由だ。桜花様は自分が作った直轄の孤児院であり、関与していない筈の王子様が来ているのが納得出来ないのに、更にその周辺で通行を妨害しているのも問題だと自走車を動かす様命じる。

 

「では直接聞く事にするが、お主達は邪魔な自走車を動かすのじゃ! 他の自走車や馬車が動けなくて困っておるのじゃ」

「はっ! 承知致しました!」


 桜花様の命令を受けた数名の王子の護衛がそれぞれ自走車を一定間隔にある駐車場に移動させる為に乗り込む。


「では、そこを通せ」

「はっ!王子は現在院長室に居る筈で御座います」

「うむ、了解した」


 王子様の目的はまだ分からないが、居場所は分かったので桜花様は孤児院に入り、院長室に向かう。当然僕も付いて行く。


「兄上は何の目的でここに来たんじゃろう? 四狼には分かるか?」

「いえ、桜花様にも分からない目的が、僕に分かる筈ありませんよ」

「それもそうじゃな」


 桜花様は更に歩く速度を上げ、院長室に向かう。

 一応もう一度確認した地図上では孤児院の造りは2階建てでこの国の城等の公共施設には多い少し洋風というか、土足でそのまま入れる様になっていたが、2階は階段を上がった先に玄関があり、その奥は普通に和風になっている様だ。

 そして1階の奥にある院長室に居るのは院長と第一王子の他に護衛が三人ともう一人、知らない人物が表示されている。

 孤児院という施設からか、それほど大きな建物でもない為、直ぐに院長室に着くが扉の前にも護衛が一人立っていた。


「兄上が来ているそうだが邪魔をするぞ」

「これは姫様、確認致しますので少々お待ち下さい」


 護衛はそう言い扉を叩き中に入るが、少し話すと直ぐに出てきて僕達を通してくれた。


「兄上、この孤児院は童の管轄、何用が有ってこちらに来ているのか、説明はして貰えるのじゃろうか?」

「ああ、桜花、お邪魔しているよ」


 王子様は桜花様の強めの質問にも軽く爽やかに流して答える。その後ろには二人の護衛が立っていたが、その内の一人に僕は目だけで挨拶する。

 お王子様に質問を軽く流されてしまった桜花様は更に強く問い詰める。


「兄上は詳しい説明をする気は無いのじゃろうか?」

「そんな事は無いよ、ただ草薙が興味を持ったのか、案内を頼まれてね」


 そこでもう一人の知らない人物が立ち上がり、桜花様に挨拶をする。


「桜花様、御久し振りで御座います、今日もお美しく何よりです」

「草薙、お主に名前で呼ぶ事を許した覚えは無いのじゃがな」

「何を仰りますか、私は桜花様の婚約者では有りませんか」

「候補の一人でしかないし、その地位すら金で買った候補ではないか、童は認めておらぬがな」


 桜花様は不機嫌を隠さずに否定しながら空いている椅子に座ったので、僕はその後ろに立つ。


「それに、次の選定で外される者の一人でしかないのじゃ」

「それはどうでしょう。王子様には次の選定でも残して下さるとお約束を頂いでおりますが」

「兄上! 何故その様な事を勝手に決めておられるのですか! 王族の婚姻は本人の希望が最優先されるのは初代様が決められた事の筈ですよ! 兄上は金で妹姫を売るというのですか!?」

「金で妹を売るとは言い過ぎじゃないかな。実際に草薙は多くの税を払ってくれているし、今回も桜花の運営する孤児院に多額の寄付を約束してくれたんだぞ」

「それこそ金で売ると言っているのと同じではないですか!」


 うん、これは桜花様が言ってる事の方が正しい気がするんだけど、王子様は何が言いたいんだろう?


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