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見物人の正体

大変お待たせいたしました。

今回も予定を護れず申し訳ありません。

今年は厄年なのでしょうか。病院通いが続いています。


今回はお風呂から始まりますが、肌色表現は略ありません。それでも苦手な方は◇ ◇ ◇ ◇迄読み飛ばす事をお勧めします。


ブックマークやいいねをして下さった方々、本当に有り難う御座います。

今回も予定より遅なってしまいましたが、僅かでも楽しんで頂けたら幸いです。

 一〇二 見物人の正体



 風呂場に行き、湯で汚れを流すと春菜に全身を確認して貰い、細かな傷も治療して貰った。

 転んだ時に打った額も元に戻り、湯に浸かって一息入れる。


「ふーっ、疲れと共に痛みの記憶までが湯に溶けて行く様じゃ」


 痛みそのものは治療で傷と共に消えているが、痛かった記憶は未だ健在だった。

 しかし、湯に浸かった心地よさに、その記憶も薄れて行く気がする。


「姫様、未だ痛い処が有ったのですか?」

「いや、只の気分じゃ。傷は春菜に全て癒して貰った。実際の痛みはとうに引いておる」


 三刃が心配そうに尋ねて来たので、問題無いと答える。


「王族でありながら苦行を受ける姫様も大概ですが、その歳で苦行を受けた三刃殿も凄いで御座るよ」

「そうなのですか?」

「そうですね、通常は十四、早くても十二といった処ですから、十歳は十分早いと思います。三刃さんは優秀ですね」

「えへへへー、春菜母上、ありがとうございます」


 三刃が春菜に尋ねると、確かに早いと答えが返って来る。褒められた三刃は嬉しそうだ。


「それにしても四狼の奴、仮にも自分の婚約者候補の手足をぶった斬るなんて、童に対する情とか無いのじゃろうか」


 多少なりとも好意があれば、女の子の手足を斬り飛ばすなんてできないと思うのだが、四狼は躊躇いも見せずにやってくれた。

 本人も婚約に余り乗り気でなかったし、実は嫌われている可能性もあるのではと考えると、少し悲しくなる。


「姫様、それは逆で御座るよ。私達、武家の者にとっては厳しさこそが情の深さなので御座る」

「伊吹さんの言う通りです。戦う事を生業(なりわい)とする我ら武家の者は、弱ければ生き残れません。厳しさこそが相手を生き永らえさせる最良の道と、受け継がれてきた歴史が物語っているのです。好意が無ければ何処でくたばろうと気にしませんから、厳しいのは四狼さんなりに姫様を大切にしている証なのですよ」

「そうか、嫌われている訳では無いというのなら、そういう事にするのじゃ」


 武家の者とは何とも歪んだ愛情表現をするものだ。しかし弱ければ町の外では生きていけないのも事実。そう考えると春菜の言葉にも一理あるのではと納得するしかない。

 王位を継ぐにしても継げないにしても、今後も国の為に働く事に変わりは無い。ならば町の外にも相応に出る事になるのだから、例え護衛が付くとしても、自身の強さもあって損は無いのだ。


「お二人の頑張りは今後に能力として開花されるでしょう。良く頑張りました」

「春菜の治療のおかげじゃ。感謝する」

「春菜母上、ありがとうございました」


 三刃の怪我を見ても修行を受けられたのは、春菜の治癒術で間違いなく完治すると分かっていたというのも大きい。

 でなければ手足を失う危険な修業等、受けられる筈も無い。寧ろ私にとっては胸を四狼に見られる方が問題だったのだ。


「でも姫様、服をちゃんと着替えなかったのは良くないで御座る。下着も準備されていたのには、正当な理由も有るのですから、今後はしっかりして欲しいで御座るよ」

「わ、分ったのじゃ」

「しかし見届けの男性陣に姫様の胸を晒さなかったのですから、結果的には良かったのかもしれません」


 伊吹の苦言には納得だが春菜の言う通り、規則を守らなかったお陰で三刃の様に胸は晒さずに済んだのだ。

 トップレスとノーパンミニスカ、どちらがより恥ずかしいかは意見が分かれる処だが、結果的に見られていないのなら、確かにそうかもと思わなくもない。


「胸は晒さずとも尻は晒したで御座るが、胸を晒すよりは良かったと思えば、気が楽になるで御座るよ」


 私が難しい顔をしていると、伊吹は気を使ってくれたのだろう、言葉にされた事で逆に思い出してしまい、恥ずかしさも蘇る。しかし、確かに水着になれば半分程晒す尻は、胸や股間を晒すよりはマシと言えなくもない。それよりも。


「しかしあの者共、下着を穿いていない童を下から覗き込むとか、変態過ぎではないか!?」


 思い出すと恥ずかしさと共に、腹立たしさも覚えてしまう。


「見届け人とはその為の者です。苦行を受けている者に羞恥心を感じさせねば意味がありません」


 春菜が言うには、羞恥の中でも動ける様にという修行の趣旨から、それこそが彼らの仕事だという。

 しかし理解はできても納得できないのが、乙女心というものだ。後で四狼を問い詰めたやろうかしら。


「まあまあ姫様、今は苦行をやり遂げた事を誇り、更なる高みを目指すで御座るよ」


 ふむ、確かに何事も前向きの方が精神衛生上好ましいのは確かだ。少し癪だが伊吹の口車に乗ってやるとしよう。


「そうじゃな。先ずは一歩前進したと喜ぶ事にするのじゃ」


 そうして(わだかま)りも汚れと一緒に湯で流し、身支度を整えると四狼の部屋に向かった。



    ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



「四狼、入るぞ」


 僕が自室の畳の上で寝転がって休んでいると、桜花様が伊吹さんを伴ってやって来た。


「桜花様、いらっしゃい」


 僕は身体を起こし、桜花様を部屋に招き入れる。


「四狼、先程の修行の件で少し聞きたいのじゃが……四狼は一応、私の婚約者候補なのよ。なのに、他の男性の前で下着を剥ぐだなんて、四狼は私の裸を他の男性に見られても良いって思っているの?」


 桜花様は、恥ずかしさと悩ましさを含んだ複雑な表情で訪ねて来る。

 勿論、僕も他人に桜花様の肌を晒しても良い気分にはならない。しかし、苦行は羞恥心を煽る必要が有るから、その為の見物人として、人と見分け難い精密型の絡繰り人形を用意したのだ。

 それも、絡繰りなら道具だから、人に見せるよりは遥かにマシと考えたからだ。

 しかし、それを桜花様にどう伝えるのが正しいかは難しい問題だ。


『ここは正直に絡繰りの正体をばらすのが最善です』

『でも、精密型の絡繰りは和富王国では明らかに過剰技術だけど、大丈夫なの?』

『主様は既に色々な新型の魔道具を出しているので、今更なのですよ』


 月詠のツッコミに、それもそうかと納得する。


「勿論、余り良い気分ではありませんので、彼らをお借りしたのです。詳細は本人に示して貰いましょう」


 僕は着いて来て下さいと桜花様に言い、絡繰り達を待たせている客間に案内した。


「うっ……」


 卓を挟んで絡繰り達と対面するが、先程の事を思い出したのか、桜花様の顔が僅かに引き攣る。


「代表だけで構いません。胸部整備状態に移行して下さい」

「他の者が居ますが、構わないのですか?」

「問題ありません。君達の正体を明かすのが目的です」

「了解しました」


 一番年上に見える絡繰りが上着を(はだ)けると、胸の中央が左右に開き、更にカシャカシャと内部構造が開いて行く。


「ええっ!」

「おおうっ!」


 突然男が服を開けて胸を顕わにすると、その胸が開いて明らかに人とは違う内部構造を晒した事で、桜花様達は驚いて声を上げる。


「御覧通り、彼らは人では無く絡繰り人形なのです。目的は三刃や桜花様の羞恥心を煽る事なので、本物の男性で有る必要も無いし、彼らなら人ですらないので、桜花様の肌を晒しても問題は生じ難いと考えたのです」

「ええと、人で無いなら、問題無い? でも恥ずかしかったのは確かだし? 伊吹はどう思う?」


 桜花様も突然の見物人の正体に混乱している様だ。


「確かに、姫様に肌を見られるのは恥ずかしいけど、動かなければもっと酷い事になるとご理解頂ければ目的は達成できるで御座るし、人で無いなら政治的な問題も起きないで御座る。ふむ、四狼殿も上手く考えたで御座るな。後は姫様のお気持ち次第で御座るよ」


 伊吹さんは、桜花様が苦行を完遂しながらも王族の女性が複数の男達に肌を晒すという問題も回避できる僕の策を理解してくれた様で、桜花様にも説明してくれた。


「うーーーっ、何か上手く誤魔化された気もするけど、伊吹が問題無いって言うなら納得してあげるわ! それよりも、こんなに人にそっくりな絡繰りなんて初めて見たんだけど、此れも四狼が作ったの?」


 桜花様が絡繰りの胸の中央にある魔力増幅器を眺めながら質問してくる。


「いえ、僕が作った訳じゃありません。魔動車等の魔道具を作った方の物です」


 そもそもこの絡繰り人形は初めから無限倉庫に入っていた初期配布の物なので、僕達が作った訳じゃない。

 僕が答えると、桜花様は異界からテニスボールくらいの大きさの水晶を取り出して呪力を籠め始めた。


『あれは嘘看破の魔道具ですね』

『あの魔道具には主様の偽装、隠蔽、詐術等の能力を見破る程の性能は無いのですよ』


 折角用意した魔道具も僕には効かないらしいが、できれば桜花様に嘘は吐きたくないものだ。

 やがて水晶が淡く光り出すと、桜花様は更に質問を重ねる。


「魔道車は四狼が作ったんじゃないの?」

「はい、魔動車はこの(・・)僕が作った訳じゃありません。販売の中継ぎをしているだけです」


 うん、魔動車を作ったのは分体一号だから、この(・・)僕じゃない。つまり嘘は言っていない。


「反応しないわね」

「本当の事の様で御座るな」


 二人は僕の返事を聞きながら水晶を見詰めて相談している。


「少し残念だけど彼らを作ったのは本当に四狼じゃないのね。疑う様な真似をして悪かったわ。父上から確かめる様に頼まれたのよ」

「王様に頼まれたのなら仕方ありませんね。僕は気にしてません」


 魔道車は普通の移動手段以外にも兵員の大量輸送等、軍事的にも使えるし、実際に町外用の魔道車は軍用車に近い。王様なら気にしない訳にもいかないのだろう。


「それにしても普通の絡繰りの中は殆ど空洞の筈で御座るが、此方の絡繰りには何やら中がぎっしり詰まっているで御座る。不思議な絡繰り人形で御座るが、危険は無いので御座るな?」


 伊吹さんが言っているのは簡易型の絡繰りだが、今回用意した精密型の絡繰りは通常型の更なる発展形だ。内部構造はより複雑になり、人に見える様に疑似呼吸等の一寸した偽装機能迄付いている。

 簡易型の絡繰りでも一般人より戦闘力は十分高い。絡繰り戦争の事を知っているなら警戒するなという方が無理な話だ。


「確かに力は強いですが彼らは大工仕事用の絡繰りなので、戦闘に使える能力は殆ど持っていないそうです」

「殆どって事は少しは持っているのよね?」

「異界倉庫や無生物鑑定、手加減程度だと聞いています」


 桜花様が事細かに聞いてくるが、異界は素材を運ぶには必要だし、無生物鑑定で相手の装備を調べたり、手加減で適切な損傷を与えたりもできるが、何方も繊細な大工仕事にはあって損のない能力ばかりだ。


「異界倉庫を持っているだけでとんでもない性能だと思うけど、役割上必要と言われると納得するしかないのかしら」

「異界の魔道具は高価ですから、別の道具にしたら作業中に盗まれる可能性も有るで御座る。中の建材も量次第で馬鹿にできない価格になるで御座るから、自己防衛機能だと考えれば直接付与にも納得で御座る」


 十分破格の能力だが、戦闘力としては当たり障りのない能力に、その程度ならと桜花様も納得してくれる。


「折角なので頼んでいた物をお願いします」


 絡繰りに整備状態を解いて貰うと、絡繰りは異界から一辺が一尺二寸程(約三十六センチ)の四角い箱を二つ取り出した。


「これは頼まれていた付与の魔道具の見本です。暫く試して頂いて、これで問題が無ければ残りの注文分も納品する予定です」


 続けて絡繰りから、天板が青いのが能力付与で、赤いのが魔術付与の魔道具だと説明が入る。

 正面上手(うわて)に取っ手が付いた四角い箱は、覚醒者なら電子レンジを思い出させる形をしていた。

 使い方は、付与したい物を中に入れ、天板に手を置いて付与したい効果を念じて呪力を流すか、呪印を描いて呪力を流すかするだけだ。

 付与の能力は魔道具が持っているので付与の能力を持っていない者でも、自分の持つ能力や使える魔術を付与する事ができる。

 勿論、付与の強度は使用者の付与したい能力や魔術の熟練度迄になるが、付与する強度が上がればその分加速度的に消費呪力が増えるので、魔石柱で魔力を補完できる様にもしてある。

 これで最低限の呪力が有れば誰でも付与が出来る、優しい仕様だ。


「思ったより早かったわね。助かるわ。値段は幾らかしら?」

「此方は一台四百両になります。一緒に注文を受けている中型の方は五千両になりますが、構いませんか?」

「問題無いわ。予想より十分安いくらいだもの」


 桜花様が絡繰りと値段の確認をしている。

 これでも材料費から見るとかなりぼったくり価格なのだが、桜花様も安いと言っているくらいだし、効果を考えれば元は直ぐに取れる程度の筈だ。

 地球でも機械は素材だけで価格が決まっていた訳じゃなく、技術料や加工費等、様々な費用と多くの付加価値が付いての値段だったのだ。


 お金は後日僕に払うと約束し、桜花様達は帰って行った。

 一応、厳しい修行の後だし、明後日の狩りの為にも明日はゆっくり休む様に言っておいた。

 流石の桜花様も狩りの前日に無理はしないだろう。

 絡繰り達も屋敷を出る時に分体に連絡しておいたので、向こうで回収されている筈だ。

 色々大変だったが、何とか苦行が無事に終わって僕も肩の荷が下りた気がする。


 夕食での会話はやはり三刃の苦行に対するものが中心になったが、一狼兄上も三狼兄上も素直に褒めていたので、三刃も終始ご機嫌だった。


 さて、明日は巧兄上の処に新店舗の図面を持って行く予定だ。

 特別な事では無いが、何時もと同じ時間に床に就く。

 『おやすみなさい』



読んで下さった方々、有難う御座います。

次こそは三週間以内に更新出来る様に目指して頑張りますので、今後も宜しくお願い致します。

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