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桜花様の策

大変お待たせしてしまい、申し訳ありません。

予約した心算で、していませんでした。


今回も、痛いシーンと肌色多めです。苦手な方はご注意ください。


ブックマークや評価、いいねをして下さった方々、本当に有り難う御座います。

今回も予定より遅くなりましたが、僅かでも楽しんで頂けたら幸いです。

 一〇一 桜花様の策



 実際に三刃の苦行を見せれば諦めてくれるかもという僕の淡い期待は叶わなかった訳だが、ならば僕の方が諦めて桜花様に苦行を行うしかない。

 やるからには効果を得られる様に、全力で修行を行わなければと、気合を入れる。


「では、三刃の苦行が終わったので俺は道場に戻る。四狼、後の事は任せるぞ」

「はい、元より桜花様の修行は僕に一任されておりますから、お任せ下さい」


 一狼兄上は予定通りに桜花様の苦行には立ち会わず、退出して行った。


「何じゃ? 一狼は童の修行には付き合わぬのか?」

「ええ、長く道場を開ける訳にもいきませんし、元から姫様の修行は僕に任されていますから」

「ふむ、そうじゃな、男性が減るのは童にとっても都合が良い」


 桜花様も肌を見られるのは恥ずかしいのだろう。見物する男性が減るのは助かると、あっさりと納得してくれた。


「姫様、本当にやるのですか? 凄く痛いし、結構恥ずかしいのですよ」

「大丈夫じゃ。怪我は春菜が直してくれるし、問題無いのじゃ」


 襤褸(ぼろ)になった服を隠す為に、上から羽織を羽織った三刃が心配そうに桜花様に尋ねるが、桜花様は不敵な笑いを見せて答えた。

 桜花様が偶に見せる、何か良からぬ事を考えている時の顔だが、僕のやる事に変わりは無い。


「では、早速始めましょう」

「そうじゃな、始めるのじゃ」


 僕達は早速苦行を始めようと、道場の中央に向かう。


「姫様が妙に積極的ですが、普段からあの様に積極的なのですか?」

「三刃の修行を見ていたのに、姫様は何時もと変わりません。姫様は斬られるのが怖くないのでしょうか?」

「いや、姫様のあの顔は何か考えが有るので御座ろう。しかし、四狼殿が相手では今回も恐らく通じぬで御座るな。何時もの事で御座る」


 春菜母上と三刃が桜花様の落ち着き様に疑問を持つが、伊吹さんが桜花様には考えが有ると答え、しかもその考えは空振りに終わると予想を告げる。


「では、姫様のお手並みを拝見させて頂きましょう」


 春菜母上が道場の中央に目を向けると、丁度試合稽古が始まる。

 開始と同時に桜花様は僕に接近して袈裟切りに斬り掛かって来るが、僕は桜花様の刀を外に弾くと逆に袈裟切りをお返しする。桜花様は弾かれながらも手首を返し、刀を回転させて斬撃の前に刀を割り込ませて防いだ。

 そのまま桜花様が(やいば)を滑らせて僕の袈裟切りを凌ぐと、弾かれた手を更に開いて後ろに回し、刀の切っ先が此方を向いた処で突きを放ってきた。


「ほう、姫様も思っていた以上に動きが良いですね」

「此処最近の狩りで一気に実力も上がったので御座るよ」


 春菜母上と伊吹さんが、桜花様の力量を素直に称賛するが、見物人が評価をしている間も僕達の攻防は続いている。


 暫くお互いに攻防が繰り替えされていたが、やがて僕の攻撃が桜花様の胸元を斬った処で、キィンと緋桜が弾かれた。


「ふふ、四狼、驚いておるようじゃが童の下着は聖銀を織り込んである特注品なのじゃ。並の鎧よりも頑丈なのじゃから切れなくて当然。残念じゃったな」


 桜花様がドヤ顔で語って来る。どうやらこれが桜花様の策だったのだろう。


「桜花様、替えの下着もご用意していた筈ですが、用意した下着に着替えなかったのですか?」

「当然じゃ。普段から城の外では早々下着を脱ぐ事も有るまい。ましてや怪我をする事も有る修行の前に、防具を兼ねた下着を脱ぐなぞ、余計に有えんのじゃ」


 これが桜花様が余裕ぶっていた理由か。


「伊吹さん、姫様にはしかと説明をしたのですか?」

「はい、姫様にはちゃんと用意してある服に着替える様にと言ったので御座るが、下着の確認まではしていなかったで御座るよ」

「そうですか、苦行を受けると言ったのは姫様ご本人なのですから仕方がありませんね。規則を守れば余計な恥を掻かずに済んだものを」


 春菜母上と伊吹さんが少し困った顔をしながら、小声で話しているのが聞こえて来る。

 どうしようかと春菜母上の方を見ると一瞬目が合い、そのまま桜花様の一点を視線で訴えて来た。

 やはりそうするしか無いのか。


「どうしたのじゃ四狼、切れるものなら切ってみるが良いのじゃ」


『今の主様なら完全に聖銀の鎧でも余裕で斬れるのですよ』

『しかし、春菜母上の前でその腕前を振るうのは、少々問題が有ります』


 桜花様は能天気に煽って来るが、八神流には防具破壊の技もある。

 しかも、今の僕なら緋桜が有るから、月詠の言う様に例え聖銀の鎧でも余裕で斬れる筈だ。

 しかし、只の鉄鎧なら兎も角、流石に聖銀入りの強化された鎧を斬ってしまうと、天照が問題視する様に母上に色々と不審に思われかねない。

 なので、胸の下着を斬るのは無しの方向になるから、春菜母上の指示には従うしかない。皆には僕の余計な負担も考えて欲しいものだ。

 桜花様は両手を広げて余裕の待ちの構えで無防備状態。折角なので今は下着の問題を少し先送りにして、本来の目的を果たそう。


「では、斬ります」


 僕は桜花様に一声掛けると、そのまま素早く近付いて袖毎(そでごと)右腕を斬り落とした。


「あ゛あ゛あ゛ーっ! うっ、くぅっ! あ゛あ゛あ゛ぁーっ!」


 腕を斬られた桜花様が、大きな声を上げながら蹲ってしまう。


「桜花様、今日の修行は真剣を使った模擬戦ですよ。普段以上に真面目にやって貰わなければ危険です。なのに無防備を晒すなんて、斬って下さいと言っている様なものです」

「な…………服………先……じゃ……」

「此れは苦痛の行です。痛みを経験するのが本来の目的で、服を切るのは(つい)でです。女性にはその手の精神的苦痛を戦闘中だけでも受け流せる心構えが有った方が、いざという時にでも動けるだろうという、先人の経験から付け加えられた、おまけに過ぎません」


 桜花様は主目的を履き違えていたのかもしれないと思い説明するが、果たして激しい痛みに耐えている桜花様の耳に届いているかは疑問だ。


「一旦休憩にしましょう。治療をしてきて下さい」


 蹲って動けない桜花様に治療を促し、僕は先程と同じ様に春菜母上とは反対側の、絡繰りの元に向かう。

 僕が背を向けると、桜花様もゆっくりと動き出し、腕を拾って春菜母上の元へと向かった。


「姫様、大丈夫ですか?」


 三刃の言葉に桜花様は声も出せずに、軽く首を振るだけだ。


「姫様、腕を繋げます。伊吹さん、姫様の腕を固定していて下さい」


 春菜母上の指示を受け、伊吹さんが桜花様の腕を受け取って元の位置に近付ける。

 春菜母上が切り口を術で消毒し、治療が始まった。


「童は、四狼を怒らせてしまった、のじゃろうか?」


 治療が始まり、暫くすると痛みが緩和してきたのか、桜花様が春菜母上に尋ねる。


「四狼さんは怒ってなどいませんよ。腕を斬るのは初めから決まっていた事です。四狼さんは姫様が下着を変えて居なかった事に若干困っているだけです」

「そうで御座るな。四狼殿はその程度の事で怒ったりはしないで御座るよ。寧ろ姫様を傷つける事を悩んでいるくらいで御座るよ」


 桜花様も僕が怒っている訳では無いと、皆に説得されて若干顔が緩む。


「只、真剣を使った修行中に巫山戯(ふざけ)るのは、私としても感心致しません」

「巫山戯て居た心算(つもり)は無いのじゃがな」


 春菜母上の注意に、桜花様も反論する。


「姫様、一応、八神流には鎧を斬る技が有るので御座る。私でも只の鉄鎧なら簡単に切れるで御座るよ。今の四狼殿なら」

「そうじゃったな」


 伊吹さんの耳打ちに桜花様も気付いたのだろう。そう、今の僕ならば魔術的に強化された鎧でも斬れるのでは、と。


「ですから、これから起こる事は自業自得と割り切るで御座るよ」

「そうじゃな、斬られるのは仕方が無いのじゃ」


 若干噛み合っていない会話の最中も治療が進み、やがて治療を終えると一息つき、その後は再び苦行の続きだ。


「四狼、先程は悪かったのじゃ。巫山戯ている心算は無いのじゃ」

「ええ、分っています」


 多分、僕を出し抜けたと思って楽しくなったのだろう。

 しかし、此れから起こる事は桜花様にとっては楽しくないだろう事も分かっている。お互いの為にも手早く終わらせよう。


 しかし、腕を斬られた経験からか、若干動きが鈍い桜花様との試合稽古は、結局指導稽古的なものになっていった。

 桜花様の遠慮がちな攻撃を躱し、流し、弾きながら、隙にができると服を切るのを繰り返す。

 やがて、これはという隙を見付けたので、春菜母上の指示通りに桜花様の帯を斬る。

 すると桜花様の穿いている袴がするりと落ち、その上に白い布も落ちてきた。


「えっ? う、うにゃーーーっ!」


 桜花様が落ちた布を確認すると、猫みたいな声で叫んで(うずくま)ってしまう。

 そう、先程落ちた白い布は桜花様の下着だったのだ。


「ちょ、四狼! 此れは洒落にならないのじゃっ!」

「すみません、桜花様。上が斬れないのなら下を斬れと、春菜母上の指示です」

「本当の様ね」


 桜花様がばっと春菜母上を見るが、春菜母上が微笑んでいるのを見て納得した様だ。


「さて、早く立って抵抗しないと、もっと酷い事になりますよ」

「これ以上、何が有るのよ!」


 僕の言葉に、桜花様も裾を気にしながらも立ち上がった。

 再会された修行は、桜花様が片手で裾を押えながらなので、桜花様は僕の攻撃を刀で受け続ける一方だ。

 上着が長めな為、太腿の中より下くらいまで隠れているのが幸いだが、派手に動けば確実に大事な部分が見えてしまいそうだから仕方が無い。

 しかし、裾を気にして防戦一方の桜花様は、先程自身が流した血溜まりに足を滑らせ、前のめりに盛大に転んでしまう。

 しかも転んだ拍子に裾が捲れて僕からはお尻が見えてしまっているし、更に、滑った拍子に足が開いてしまったので、角度的に春菜母上の方からは大事な処まで丸見えだろう。向きが逆でなくて良かったよ。


「痛っ!」

「桜花様、早く立たないと、春菜母上の方から見えてしまいそうですよ」

「ええっ! うぅ、にゃーーーっ!」


 僕の指摘に桜花様は素早く裾を直して起き上がると、顔を赤く染め、半泣きで叫びながら僕に向かって刀を振るう。


「あまり大きく動くと、今度は彼方の方に見えてしまいますよ」


 僕が絡繰りの方を指摘すると、若い絡繰りは横になって下から覗き込む様にして居た。演技、だよな?

 それに気づいた桜花様は再び裾を押えて下がってしまった。

 少し言い方が意地悪だったかもしれない。そろそろ桜花様の精神と上着が限界の様だし、ここ等で終わらせよう。

 下がった桜花様の動きに合わせて近付くと、そのまま桜花様の左足を膝上で斬り落とす。


「!!!!っ!」


 片足を無くした桜花様が又しても派手に転んだ拍子に足が大開きになったが、僕の影になっていた為、他の者からは見えなかった筈だ。

 桜花様は痛みに気を取られながらも直ぐに体勢を整えると、三刃の様に持っていた刀を僕に投げ付け、更に異界から小太刀や苦無等、次々と取り出して投げ付けて来た。

 僕が刃物を弾いて対処していると、桜花様はやがて爆弾等の物騒な物迄投げて来た。


「桜花様、もう良いです。苦行は終了です」


 流石に爆発物は拙いと、受け止めて無限倉庫に仕舞いながら、修行の終了を宣言する。


「うううーーっ」


 終了宣言を聞いた事で、桜花様も僕を睨みながらも一先ず投擲を終了させてくれた。


「桜花様、良く頑張りました。先ずは治療をして下さい。治療を終えるまでが苦行です」


 僕が斬ったとは言っても、女性の足を手に取るのは躊躇われたので、桜花様に自分で運んで貰い、治療を受けさせる。

 桜花様がずりずりと這いながら進むのも、苦行ならではの姿だろう。流石に八神流も普段から其処迄悪魔的ではない、と思いたい。


「姫様、良く耐えましたね。治療しましょう」

「姫様、お疲れ様です」

「頼む……のじゃ」


 桜花様も一言答えるのが精一杯だった様で、その場で横になってしまう。

 僕は襤褸しか身に付けていない桜花様の方を見ない様に注意しながら、桜花様の投げた刃物を回収した。

 そして床に散らばった血液を吸血器を使って取り除き、柄付雑巾で掃除をする。

 一通りの掃除が終わった頃には、桜花様の治療も終わっていた様だ。


「姫様、三刃さん、残りの細かい傷の治療と、汚れを落とす為にお風呂に参りましょう」

「分かったのじゃ」

「はいです」

「では、私も付き合うで御座る」


 女性陣は連れ立って道場を出て行った。

 桜花様を治療していた場所も掃除をした後は、絡繰り達には一旦客間に行って貰い、僕は部屋に戻る。

 僕は術で身体の汚れを落とすと、着替えて横になった。

 苦痛の行は、僕にとっても苦痛だったのか、何だか妙に疲れた気がする。



読んで下さった方々、有難う御座います。

次からは以前の様に三週間以内に更新出来る様に目指して頑張りますので、今後も宜しくお願い致します。

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