あたり前の転生
私の初小説です。
色々拙いとは思いますが楽しんで頂ければ幸いです。
〇〇一 「あたり前の転生」
「あ、あー愚者よ、今回も何の成果も出さずに死んでしまうとは嘆かわしい」
少し棒読み調の、しかし何処かで聞いた事のある様な台詞で僕を咎める声がする。
「誰が愚者ですか! 誰が!」
その失礼な呼び方に、僕は思わず言い返してしまった。
「此処にはお主しか居らぬじゃろ? つまりお主の事じゃ」
僕の言葉に、声の主は若干呆れた様な口調で答える。
その返答に改めて辺りを見廻してみると、確かに此処には他には誰も居ない処か何も無く、只白い床が広がるだけの空間だった。
声の主も白い影の様な存在で、輪郭的に女性だと判るだけで顔の判別は出来ないのに、何処か神々しい迄の美人オーラを放っていた。
その状況に戸惑いつつも、僕は疑問をそのまま口にする。
「ここは何処で、貴女は誰なんですか?」
「うむ、ここは霊界、あの世、時空の狭間等と呼ばれている場所と思ってくれて問題はないのじゃ。そして我は転生の神とも呼ばれる存在じゃ」
僕の質問に、声の主は一度頷くと素直に答えてくれた。
「あれ? えっと、それって、つまり、僕は死んだって事なんですか?」
「ま、そういう事じゃな」
さらりと自分の死を宣告されて、僕は呆気にとられながらも何となく納得していた。
自分が誰か判らないのに、色んな知識が薄っすらと思い浮かぶのだ。
その中に幾つかあった、転生物のお話に出てくる場所に何処か似ているなーと思いつつ、そういえば本人? 本神? も転生の神って名乗っていたし、納得してしまえば欲も出たのか、物語的チート転生に僕は期待し始めた。
死んだ事を納得したからには、この後の事が気になったので聞いてみる。
「僕はこれから天国か地獄に行くことになるのでしょうか? それとも転生や生き返ったりできるのですか?」
「うむ、魂の休息の場は有るが、天国や地獄といった明確な世界は存在しないのじゃ。此処は次の生の前の調整所じゃ。此処で前世の不要な記憶を消し、次の生で必要と思う能力、つまり才能等を選び、獲得する場所じゃ。一度死んだ者は代償も大きいし、簡単には生き返れんのじゃ」
次の生、つまり転生は決定って事で、僕も普通の転生できるという事なのか?
「前世の記憶は薄っすらとしか無いので、いまいち実感が沸かないのですが……」
「前世の記憶が少し残っておるのは、前世を引きずらぬ様、前世の未練は消しつつ、来世で役立つ選択をするためじゃ。赤子の知能では何も選択もできぬであろう? しかし、新たに産まれればそれすらも忘れる」
死んだらお終いでないのは良いけど……
「記憶が無いんじゃ、あんまり転生の意味は無い様な気がするんだけど……」
「転生の意味とは、全ての魂は何度も生を繰り返し、魂の功績を積み、百回以上の転生ののちに霊格を上げて、やがて神に至るのが目的じゃ」
「つまり、誰もがあたり前の転生をして、何度も人生をやり直しているって事ですか?」
「人に限らぬのじゃが概ねそうじゃ。しかし、お主は過去二百五十四回の転生で略功績を積まずに死んだ。次の二百五十五回目で霊格を上げれなければ、お主の魂は消滅されるというのにじゃ」
「消滅……」
「只、子を作るだけでも功績になるというのに、お主ときたら二百五十四回の人生全てで童貞を守るとは、違った意味で偉業を達した訳だ。功績にはならんのじゃがな」
「えー前世の僕って、どんだけモテなかったの……」
これには死んだ事より衝撃的だった。
「他にも、歴史に残る偉業をなせば大きな功績になるし、他者を助ける、他者を殺す、何かを創る、何かを壊す、小さくともこれ等も全て功績じゃ。じゃが、お主には功績を積もうという気概が全く感じられん。これは魂の消滅程度では生温そうじゃな」
なんだか嫌な予感がする。
「魂の消滅以外にも何かあるの!? 魂の消滅は十分過ぎる位に重い罰だと思いますから、他の罰はご遠慮申し上げます」
「何、霊格を上げれば問題無い。遠慮はいらぬのじゃ。うむ、次に死ぬまでに霊格が上がらなかったら、お主の次からの生は記憶を残したままのゴキブリの一生を一万回の刑じゃ!」
はーーーっ!? ゴキって、なんで……人類に最も嫌われてるだろう生き物の一つに……当然、僕も大嫌いだ!
「なんで、ゴキって……嫌われ者に……?」
「嫌いじゃから罰になるのじゃろ?」
「でも、じゃあ、なんで一万回も?」
「寿命の差じゃ、ゴキブリの一生が一回じゃと一瞬で終わってしまうじゃろ? まぁ、これでお主も真面目に功績を積む気になるじゃろうて」
「ゴキ生一万回なんて絶対に嫌だけど、過去二百五十四回もやって駄目だった事が、次の一回で出来る筈が無いじゃないかっ!」
僕はあまりの目標の高さに途方に暮れてしまう。
「希望はある。その為の能力調整なのじゃ。皆には転生する度に能力交換用の点数が一点加算されておる。能力の選択にはこの点数を消費するのじゃが、お主は過去に一度も能力選択をしとらんからの、点数が全部残っておる。最後なのじゃから全部使い切れば、王や英雄、魔王を目指したりハーレム等を作ったりと、何とでもなるじゃろうて」
「そんな、他人事だからって……」
「実際他人事じゃ、あたり前の転生では功績を積み切れん、必死に頑張って有用な能力を選ぶ事じゃ」
取り付く島もないとは、こういう事なんだろう。
「さて、転生先の世界じゃが、前世地球の様な優しい世界では功績を積み難いのじゃ。もっと危険度の高い世界に転生して貰う」
「更に危険度まで上がるのっ!?」
「当然じゃ、地球は特別な脅威が無く安全じゃった分、功績を積み難い世界でもあるのじゃ。まぁ、死に難いってだけで、子作りに励めば数十回の転生で霊格も上がるのじゃから、本来は楽な世界なのじゃがのう」
その子作りすら出来なかったってのに……。
「逆に危険度が高ければその分、功績を積む機会も増えると云うもの。頑張って生き延びるのじゃ。死に難い能力を選択するのも良いじゃろう。彼方の世界には魔術等もある、延命方法も複数あるのじゃから、頑張って探してみるのも手じゃろう」
「死に難い能力って何なの?」
「能力についての助言は禁止されておるので答えられんのじゃ。我から伝えられるのは、一度選択するとやり直せぬので最後まで見てから慎重に選べという事と、この世界なら転生後も努力次第で能力は増やせるという事位かの」
全く参考にならない。
「それだけ?」
「そうじゃな、後はどのような国に転生したいか、希望はあるか?」
「どんな国って言われても、どんな国があるのか判らないんだけど」
「地球より遥かに大きく国も多い。知的生命体だけで八千億以上住んでおる」
「八千億!?」
余りの多さに吃驚してしまったが、人じゃなく知的生命体っていう事は、他の知性の有る種族も居るって事だよね?
ファンタジーの定番のエルフとか、ドワーフとかも居るのかな?
「人と言わずに知的生命体ってい言う事は、人以外の知的生命体も居るって事ですか? 例えばエルフみたいなのとか?」
「お主の想像と同じかは判らぬが、そう呼ばれておる種族は存在するのじゃ」
リアルにエルフに会えるなら、転生も悪くないかも。
寧ろ、見た目も良く、寿命も長いエルフに転生したい位だ。
「エルフに転生するにはどうしたら良いの?」
「まぁ、その位は教えても良かろう。通常転生種族は運と選んだ能力で決まるが、能力選択で種族を選択する事もできる。ただし、お勧めはせんぞ」
「何か問題が?」
「恩恵に対して必要な得点が多いのじゃ。他の能力を選んだ方がよっぽど得じゃ。それに、寿命の長い種族は出生率も低い、寿命が長くとも、早々多くの子は作れんし、生き急がんから発展も緩やかになるから功績も積み難い」
憧れのエルフ生は欠点が多い様だ。残念だが諦めるしかない。
種族で選べないのなら重要なのは、文化、文明、治安、衣食住、気候、等か? 何を優先したら良いのかな?
「エルフが駄目なら他にはどんな国があるんですか? 文明のレベルや治安、衣食住環境等、判断基準になりそうな事を教えて下さい」
「駄目だと断言はしておらぬのじゃが、やる気を出したのなら重畳。文明は魔術の類があるので単純に比較は出来んが、平成日本と比べると近い国でも百数十年、遅い国だと三千年以上遅れておる。衣食住も化学合成素材が少ない分、多少遅れておるが、代わりの素材があるのでそれ程気にはならんじゃろう。治安については平成日本とは比べ物にならん程に悪いが、平成日本が良過ぎただけじゃ。世界的に見れば魔物がいる分を除けば、然程変わらんじゃろう。まぁ、全てにおいて国に依るが、何を優先させるかじゃな」
文明は遅れ気味で、衣食住は気にならないレベル、治安は海外の話だと毎日の様に銃撃があるって聞いた事があったから、結構危ないみたいだ。
食が気にならないって事はお話に良くある、米・醤油・味噌もあるのかな?
実際に無いと寂しいよね。
衣はよっぽど恥ずかしい物でなければ良いとして、住はそれなりに必要だけど、まずは安全第一で二番が食だな。
僕はそう結論付けると、更なる情報収集の為に色々質問する。
「米・醤油・味噌のある国は在りますか?」
「幾つかあるのじゃ」
有るんだ、良かった。
「その国の家はどんな作りなのですか?」
「木造の国が一番多く、二番目に多いのは石造りの家の国じゃな」
木造なら問題無いよね。
「その国は海に面していますか?」
「大半が海に面しておる」
海が無いと魚介類が食べれないからね。
「治安は?」
「それこそ国に由るが、この世界は魔物が多い為、町の外は危険じゃが、その分町中は比較的に安全じゃ」
町から出なければ問題無い。
よし! これだ! っと思った僕は即決する。
「では、米・醤油が有って、木造住宅で、海の有る、町中が安全な国。つまり、なるべく日本に近い国でお願いします!」
「えらく簡単に決めておる様じゃが、それで良いのか?」
「安全第一! 米が有ればなお良し!」
「成程のう。しかし、安全は功績と真逆じゃぞ、本当に良いのか?」
「今度死んだら終わりじゃないですか! まずは死なない事から始めます」
「今までもそれで失敗してきたのじゃがなぁ」
あれ? また繰り返す事になるのかな?
少し不安になったが、今回は能力を取りまくるので何とかなる、と思おう。
「それで、能力というのはどうやったら貰えるんでしょう?」
「能力選択と念じてみよ、目の前に浮かんで来る筈じゃ」
言われた通りに能力選択と念じると、目の前に文字列が浮かんできた。
文字列に意識を向けると、その能力の詳細が浮かんで来る。
『優しい世界』必要点24-全ての能力が倍になる。所謂イージーモードである。
『前世知識』必要点8-前世の知識を引き継げる。十歳程度で覚醒。
『生物鑑定』必要点8-生き物の詳細が解る様になる。
『無生物鑑定』必要点8-無生物の詳細が解る様になる。
『異界収納』必要点4-異世界に物品を収納出来る様になる。大きさは熟練度や魔力、空間系能力等に依存。
『筋力加点』必要点1-筋力が8増える。
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なんだこれ?
意識を下に向けると、次々と新しい能力が表示されていく。
この必要点ってのを使って能力を追加出来るんみたいだな。
いっぱいあるみたいだけど、能力っていったいいくつあるんだろう。
神様も最後まで見ろって言ってたし、確認しておいた方が早いと思い、神様に聞いてみる。
「この能力って随分多そうですが、全部で何種類あるんですか?」
「全部で千六百万以上じゃ」
「千六百万……それ、全部確認するの?」
「嫌なら適当に選べば良い、選ぶのはお主じゃ。幸い時間はたっぷりある。最後の人生、悔いの無い様にの」
最後って、縁起の悪い。そう言われると、全部見ない訳にはいかないじゃないか。
僕は仕方なく、確認作業を続ける事にした。
「では、能力選択が終わったら、そちらのボタンを押すと良い。転生が開始されるのじゃ」
指示された方向を見ると、いつの間にか高さ一メートル程の円柱が立っており、少し斜めになった天辺には赤い文字で『転生』と書かれたボタンが一つあった。
僕はこの適当さに少し脱力しながら確認する。
「え、何処かに行ってしまうの?」
「当り前じゃ、次の者が待っておるのじゃ。何かあればこれに話しかけるが良い」
神様はそう言うと白く光る球体を空中に出し、本人は消えてしまった。
こんな只広いだけの空間に一人で居ると、急に心細くなってくる。
「とにかく確認するか」
寂しさを紛らす為、独り言を呟いてしまうと、光の玉がふよふよと空中を漂って近づいて来て、僕の頭の上でポンポン励ます様にバウンドした。
「励ましてくれてるのか? ありがとう」
返事のつもりか光の玉は少し明滅して答えてくれた。
「さて、頑張るかな」
僕はもう一度呟くと確認を再開した。
『剣術』『槍術』『弓術』…この辺りは武術系か。
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『魔術』『呪術』『巫術』…この辺りは魔術系っと。
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『鍛冶』『錬金術』『調剤』…この辺りは生産系でっと。
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『苦痛耐性』『恐怖耐性』『精神耐性』…この辺りは耐性系。
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『他人種族選択-龍人族』必要点24-龍人族に転生する。
『他人種族選択-森人族』必要点24-森人族に転生する。
『他人種族選択-山人族』必要点16-山人族に転生する。
『他人種族選択-巨人族』必要点16-巨人族に転生する。
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種族選択系は確かに必要点が多いな。
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『他種族選択-妖魔』加点24-妖魔族に転生する。
『他種族選択-特殊生物』加点12-特殊生物に転生する。
『他種族選択-魔族』加点8-魔族に転生する。
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加点なんてあるんだ。
逆にもの凄く胡散臭い。
まぁ、好き好んで妖魔とかにはなりたくないし。
あと、特殊生物って何だろ?
気になるけど、選ぶつもりは無いから無視で良いや。
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『算術』『記憶術』『閃き』…この辺りは学習系かな?
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「あーーっ、珠ちゃん、もう疲れたよー」
僕は何時しか光の玉の事を、珠ちゃんと名付けて話しかけながら確認作業を続けていた。
何か話して、気を紛らわせてないとやっていられなかったからだ。
もう何時間経ったのかすら分からない位の時間、確認しているのに未だ終わらない。
幸い、腹も減らなければ、眠くもならないのが救いなのだろうが、逆に眠れないのが辛い。
初めの頃に見た能力も既に全部は覚えていないし、こんなので本当に良い能力が選べるのかな?
「多分、まだ一割も確認出来ていないし、何時になったら終わるんだよ、これ」
僕は途方にくれながらも確認作業をひたすら続ける。
ゴキ転生地獄を回避する、希望を手に入れる為に。