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第六章 航空部隊の活躍

今回は航空部隊の物語です。

島に残された航空機はたった7機しか残されていませんでした。

しかし大空の侍たちは圧倒的物量を以って上陸部隊を背後から支えるソ連艦隊に向かって出撃していきました。

陸海軍混同の航空機部隊がソ連艦隊と戦います。

そして航空部隊を援護する戦車第十一連隊。


寒い日が続く今日この頃。まぁ特にこちらがめっきり冷えてますが、日本各地でも冷えているようで。真冬だから当然ですが……。

では、どうぞ。

 ―――「断乎、反撃に転じ、ソ連軍を撃滅すべし―――


 第5方面軍司令官・樋口 季一郎の指示を受け、各師団や戦車連隊は総力を以ってソ連軍に反撃を決行した。

 それは電報として島にわずかに残された航空機が置かれた飛行場にも通達された。

 いや、もはや飛行場とはいえない。終戦前の敵機の爆撃によって飛行場を含めた軍事施設は徹底的に破壊し尽くされている。

 ただ周りに穴が開いているが、辛うじて使用できる滑走路だけが残されていた。

 そんな滑走路にわずかに残されていた唯一の島の航空兵力、航空機が整備兵たちによって出撃準備を行っていた。

 準備が整い次第、あの艦攻で飛び立ち、海にいる敵艦船を攻撃するのが目的だ。

 すでに飛行服を身にまとって準備万端という風に、一人の青年パイロットが手袋をはめて待っていた。

 「……あまり見えないな」

 霧がたちこめる滑走路。普通に見れば濃霧状態で離陸に適した環境とは到底思えるはずがない。しかし飛ばなければ、祖国とそこにいる家族が危ないのだ。

 「白鷺しらさぎ

 声に振り返ると、同じく飛行服を身に纏って、飛行帽を被りながら同年代の青年が歩み寄ってきた。

 「もうすぐ出撃だ。 早めに乗っちまえってさ」

 「言われずともわかってるよ」

 白鷺――と呼ばれた青年は自分の愛機である艦攻――九七式艦上攻撃機を見詰めていた。ちょうど整備兵たちが、魚雷ではなく爆弾を翼の下に装着している光景が見られた。

 「魚雷じゃなく、対地上爆弾で艦船相手に戦えってか」

 「既に武装解除の準備の時点で魚雷はすべて撤去した後だったからな。仕方ない」

 「まぁ、艦攻でよかったよ。あいつは魚雷攻撃なら真珠湾で花を咲かせたが、水平爆撃もできちゃう優等生だ。しっかりとケツを守ってくれよ、雲雀ひばり

 「お前もロシア人どもを地獄の底に沈めてやってくれよ」

 「合点だ」

 「そうそう、知っているか? 陸軍と合同でやるらしい」

 「まぁ、そうなるな。なにせ飛べる機体はたったこれだけだ」

 「陸軍機と混同しても十機に満たないと聞いている」

 「そりゃ笑っちまうな……。いや、笑えないか…」

 彼らが呼び合っている名前は、本名ではない。

 二人は互いの実力を認め合っているエースパイロットであり、そして良き戦友であり親友だった。

 彼らはそれぞれ【鳥】の名称を愛称とされ、二人も互いをそれで呼び合っている。

 大空を駆ける、日本最後のエースパイロットが日本の最北端に立っていた。

 そして今、北の防人としての責務を果たすべく大空へと再び飛び立とうとしている。

 白鷺は激戦区だった南太平洋の南海で数多の敵艦を撃沈した功績を持ち、勲章もいくつか貰っているような正真正銘のエースパイロット、――撃沈王だった。

 雲雀は朝鮮半島で金日成キムイルソン率いるゲリラ軍と米英の支援を受けた国民党軍航空部隊相手に戦ってきた歴戦の撃墜王エースパイロットである。撃墜した敵機数は米軍機も含めて撃墜王の中で上位に入るほどだ。

 「俺たちがこんな北の最果ての小さな島にいたことがロシア人の運の尽きってやつだな、相棒」

 「もし撃ち落されれば冬は氷の下で過ごすことになるぜ?」

 「それは勘弁。俺ぁ寒いのが大の苦手だ。死んだ後まで寒いのはごめんだよ」

 白鷺はヒヒヒと独特の笑みを浮かべた。 

 「じゃ、お前も頑張れよ」

 「奴らに度肝抜かせてやろう」

 二人はまるで友達同士二人がそれぞれの家に帰るように各々の愛機へと小走りに向かっていった。

 「エンジン回せーっ!」

 エンジンを回し、プロペラが回転を始める。スパナやシリンダなどの各部品、特にスパナ擦れが酷い日本製のエンジンだが、その勢いは轟然と震動と音で伝わってくる。

 「かの有名な白鷺さんと最後をご一緒できるなんて光栄です」

 後方に座る自分より一段と若くて少年さが残っている搭乗員を一瞥し、白鷺は答える。

 「おいおい、わずか数機とはいえ艦攻一機には三人の命も乗ってるんだ。 一度に三人も枕を並べることはない」

 同じ三人乗りなら、さらに高性能で運動性も良い天山が良かったかも……と思った白鷺だったがすぐにその思考を払いのけ、操縦提を握った。

 「おい、もう一人。後部機銃座」

 「はいっ!」

 「おお、威勢がいいな。準備は良さそうだな? その調子で頼むよ」

 「任せてくださいっ! ケツに敵が喰らいつくならばこちらのケツから敵を喰らいついてやりますよ」

 「その意気だ」

 まだ少年といえるような若々しさ。この高揚した士気。――いや、彼らはただ実戦おそれを知らない無知な子供というだけである。

 「(それが判別できる歳まで生きてもらいたいが……。俺がヘマしないだけの話だ)」

 ぎゅっと操縦提を握り、回転するプロペラ音とエンジンの轟音がただ耳をつんざく。

 「だけどそれはあまり使うことにはならないさ。何故なら俺がすべてかわしてみせるからな」

 そんな彼の心強い言葉は、さらに若い彼らのテンションを上げた。

 「はいっ! ですが、自分も勿論頑張ります!」

 「それより爆弾のほう。 実戦はおそらく相当揺れるかもしれないし、第一機体が動いているんだからな。投弾の調整、そしてタイミング、一任したぞ」

 「任せてくださいっ」

 「よし、準備完了だな」

 準備完了を、外からコクピットを覗き込んでいる整備兵に合図する。

 「気をつけてください。霧が濃くて視界が不安定です。この濃霧の中を離陸するなんて前代未聞ですから」

 「信じろ」

 整備兵は、白鷺のこぼれた白い歯を見た。

 「やってやるさ」

 「…はいっ」

 「飛ばなきゃ話にならないからな。…ありがとな」

 「…いえ。ご武運を」

 「ああ」

 整備兵が敬礼し、白鷺も答礼する。

 そして整備兵たちが機体から離れ、白鷺はキャノピーを閉じた。

 「いくぞっ!」

 「「はいっ!」」

 後ろにいる若い二人に心の準備をさせ、操縦提を前にゆっくりと押し出した。

 「総員、帽振れ〜っ!」

 並んだ整備兵たちや、残る多くの兵士たちが帽子を振った。

 白い霧の中を、一機が滑走していく。

 揺れは想像以上に酷かった。先日の空爆のせいか滑走路は平面ではなかった。しかも濃霧という視界が不安定の中での滑走は恐怖だった。しかしその恐怖と戦いながら前に突き進み、操縦提を握る。

 「本当になにも見えねえ…ッ!」

 白い霧があたりを隠す。まるで自分たちがなにもない白い世界に迷い込んだかのような錯覚を思わせる。

 しかし、突然霧がさっと引いた。それを瞬間的に見定めた白鷺は、咄嗟に叫んだ。

 「絞弁引けっ!」

 水平器を見詰める。

 徐々に機体は離陸体勢に入りつつあった。

 「うおぉりゃっっ!!」

 操縦提を思い切り引いた。

 ぐぃんっ、と機首が上がり、翼が霧を引き裂いて、緑色の機体が飛び立った。

 霧の間から機首を上げて高度を上げていく機体を見つけた地上の者たちの歓声が沸いた。

 「やりやがった…。これは俺もうかうかしてられないな」

 零戦に乗った雲雀も、操縦提を握って、白鷺の後に続いた。

 初めに飛び立った白鷺機をはじめとして、数機の機体もわずかな晴れ間を見定めて霧の中から大空へと飛び立っていった。

 一機が飛び立つごとに歓声が沸き、地上からは歓声と敬礼に見送られていった。

 濃霧が再び覆い、飛び立っていった彼らはすぐに見えなくなってしまった。


 

 

 濃霧がたちこめる地上から高度を上げていくたびに視界が晴れていく。

 一度、編隊を組むため(編隊と呼べるほどの数もないが)に旋回、全機揃ったところで目的地へと向かう。

 「針路は間違いないな」

 「はい。順調です」

 「よし」

 霧のせいで困難かと思われたが、なんとか航法にも異常なし。

 「機銃、異常ないか」

 「試射します」

 後方から軽やかな射撃音が聞こえる。

 コクピットの尻に備えられた機関銃から放たれた弾が虚空へと消えていく。

 「異常ありません」

 「機体も正常。エンジン異常なし。すべて順調だな」

 白鷺は満足そうに頷いた。

 すべての機器が異常なしと見て取り、自分たちもやる気満々だ。

 不意に機体の横に一機の零戦が前に出た。護衛の雲雀機だ。敵機がいないか念のために戦闘機が前に出る。

 

 前に出た雲雀機はあたりを慎重に見渡し、霧がたちこめる下方も見落とさない。霧を利用した敵が襲い掛かってきたらたまったものではない。

 しかも空は厚い雲に覆われ、風も若干吹き、飛行に適した天候とは言い難い。

 「……!」

 霧の間から数機の飛行機を目視。それを敵か味方かを見定める。

 雲雀機、機体を左右に揺らしたバンクを使って後方にいる味方に事を伝える。

 「バンクだ」

 機体を左右に揺らすことによって、僚機であることを示すことと何かしらの報告を伝える合図のことである。

 「下方に味方機」

 見下ろすと、うっすらとした霧から編隊を組んで飛行する機が確認できた。

 「陸軍だ」

 陸海軍航空部隊合同で今作戦を行うため、海軍航空部隊である白鷺と雲雀たちは味方の陸軍機と合流、編隊を組んで憎き敵が集結した海へと目指した。


 

 視界に見えるのは、なんの変哲もないように見える小さな島。

 しかしあの島の戦略的価値は大きい。先の大戦に屈した日本軍が未だに陣取っている島だが、その島から日本軍を排除し、占領する。最終的目標である北海道を占領するためのスタート地点となる。

 上層部の豪語では「一日で占領できる」と聞いていたが、一日で占領できる島で苦戦するとはどういうことなのか。

 損害は予想以上だった。上陸前から三割の兵力を失い、浜辺には兵士たちの遺体が浮かんでいる。なんとか上陸できた兵士たちも内陸へと侵攻したが、先ほど聞いた定時連絡では日本軍の反撃にあって後退しているという。

 すぐに「さがるな! とにかく前に進め!」と怒鳴り返してやったが、上陸した浜まで追い詰められている兵士たちの姿を見て、歯軋りをたてた。

 「日本人ヤポンスキー相手になにを手間取っているのだ?」

 参加艦船の一隻、上陸用舟艇を送り込んだ艦長、ラポーチア・ロマノフ大佐が苛立ちげにトントンと腕を組んだ指を叩いていた。

 「一日、というのは間に合いそうですか?」

 若々しい凛と通った声に、ロマノフは眉間に皺を寄せたまま振り返った。そこには艦橋の入り口に立つスラリと背が伸びた政治将校、アラン・ココツェフ将校がいた。

 男がイラつくほどのイケメンで、しかも若い。その高学歴と才能から若くしてエリート道を進んだ彼は、軍の極東最高司令部から派遣された色男だった。

 嫌味が含まれた発言にロマノフはさらに眉間に皺を寄せながら、彼から視線をすぐにはずして島を見詰めた。

 「同志スターリンはあそこを一日で占領できると仰っていました。同志閣下の期待を裏切らないようにお願いしますよ?」

 「それはブルカエフ閣下に言われたらどうだ」

 「もちろん司令官殿もそうですが、あなたは現地の責任者でしょう」

 嫌味しか言えない若造が。と、閉じた口の中で罵る。

 「いくら艦砲射撃や遠方からの砲台による射撃をしても、最終的には上陸部隊が目的を果たさなければならない。その上陸部隊の兵士がこうも中々作戦を進められないのであれば、作戦自体が進行するわけがない」

 「兵隊の責任は上の責任でもあることはおわかりでしょう」

 「ならばさらにその上も責任があるといえる」

 「では最終的には一番上が、同志スターリンに責任があるということを仰りたいのですか?」

 「貴様は口だけでここまで昇りつけたのか? 黙っててもらおうか。 大人しく監視だけしていろ」

 「監視、とは聞き心地が悪いですね」

 「政治将校コミッサール殿の仕事はほかにあるだろう。現場の仕事は我々の仕事だっ!」

 「まぁ、拝見させていただくとしましょう。…敵は亡国の兵士。護るべく国も失った哀れな兵士たちだ。そんな者たちがいつまでも戦い理由も意味もない。いずれ白旗が見えるのは時間の問題でしょう」

 「当たり前だ」

 まったく、この政治将校の若造とは一言も口を聞きたくない。

 わざわざ味方を監視して、失敗を認めれば容赦ない罰を与える。それが軍上層部の国体から繋がるシステムの一部だ。司令部からの部外者は艦にとってはイレギュラーな存在。雰囲気をぶち壊すのは必ず部外者しかいない。

 余計な口を挟むことはやめてほしい。頭だけで解決できると信じている馬鹿は嫌いだ。

 「艦長!」

 突然、島の反対側を監視していた監視兵からの報告を受けた副長が切羽詰まった表情で叫んだ。

 「どうした、副長」

 「敵機です!」

 「なにっ?! 機数は!」

 「二機ですっ! …いえ、三機です!」

 「……ふふ。苦し紛れの抵抗、というわけですか」

 後ろで政治将校殿がなにか言っているが無視する。

 「我が艦隊にたったそれだけか?」

 「はい。すでにこちらからも迎撃機をあげております」

 「うむ…」

 「艦長、なにも心配することはないでしょう。物量は圧倒的にこちらが有利。それに迎撃機もあげている。そして対空火砲。なにも心配はありません」

 「…といっても、こちらは十機しかおりませんが」

 副長の言葉にも軽く流す。

 「敵はそれよりもっと少ない。十分でしょう」

 「……だが奴らを甘く見すぎるわけにもいかんぞ」

 ロマノフは嫌な予感を感じていた。

 そしてその予感が的中した。

 「艦長! さらに機影を確認!」

 島の方向に視線を向けていた水兵が叫ぶ。

 ロマノフは目を凝らすと、たしかに霧の間からこちらに真っ直ぐに向かってくる機体が見えた。

 「小さいな……」

 「小型機、おそらく雷撃機でしょうか。……いえ、魚雷を積んでいないので爆撃機、もしくは戦闘機です」

 「可能性としては爆撃機だな。艦船を攻撃するなら戦闘機より爆撃機だろ」

 「艦長、敵はまだ距離が離れています」

 「そうだな。 奴らが来る前に対空戦闘を準備しろっ!急げ!」

 艦長の命令に艦橋が騒がしくなる。艦内でも警報が鳴り響き、水兵たちがそれぞれの配置につく。

 そして上空を旋回していた戦闘機も迫り来る敵に向かっていった。

 「射程に入り次第、攻撃を開始しろ。もしかしたらカミカゼを仕掛けてくるかもしれん。用心しろ」

 「艦長!」

 水兵の叫び声が届く。

 「左舷から新たに敵機!」

 「しまった!?」

 右舷、島の方向から来ていたのは囮だった。左舷からは、本命の爆弾を積んだ爆撃機が迫ってくる。

 「いつの間に! 回避運動!」

 間に合わない。

 爆撃機かと思った機体は三人乗りの雷撃機であった。迎撃の対空砲火が放たれる前に上空を通り過ぎる間際に投下された250キロ爆弾が艦体中央に炸裂する。

 爆発の衝撃が艦橋を激しく揺らし、全員が耐え切れずに倒れた。

 艦は中央から黒煙を噴出し、炎上した。そしてすこしずつ折られた艦体を曲げて海水に浸からせていった。

 


 「爆弾命中。一隻大破炎上ッ!」

 「よし、よくやったな」

 「へへ…。 白鷺さんの操縦のおかげです。タイミングを合わせやすくて助かりました」

 「あれはお前のおかげでもある、俺たちの戦果だ」

 「光栄ですっ」

 白鷺に褒められ、嬉しそうに照れる。そんな彼に対して三番席に座る同僚が唇を尖らせて嫉妬する。

 「ぶー。金子ばっかりずるいぞー」

 「…お前にも見せ所が来たぞ」

 「えっ? うわっ!?」

 突然機体が右へと翼を下げた。そしてさっきまで機体があったところに光の弾が過ぎ、無数の水柱の波紋が浮かんだ。

 「後方に敵機!」

 慌てるも冷静を取り戻し、機銃を即座に撃つ。後方に旋回するロシア戦闘機を照準に捉えて連射する。

 「当たれぇっ!」

 敵機は機銃の銃弾をかわし、また射撃を繰り返してくる。そのたびに動きにくい機体が必死にそれをかわす。

 「さすが白鷺さん」

 「俺の見せ所でもあるな」

 「くそっ! 落ちろっ!」

 「慌てるな、宮下。 冷静によく狙って撃て。 いいか、相手の予測進路を読め」

 「はい!」

 よく定め、こちらの動きについてこようと尻にピッタリとついた敵機を睨む。機銃の先を敵機とはわずかに違う方向に向け、その照準に敵機が自ら飛び込んできた。

 「今だっ!」

 叫び、思い切りトリガーを引く。

 軽やかな射撃音とともに放たれた曳弾が敵機をかすめ、次の瞬間には敵機の前方エンジンがシリンダを弾き飛ばして、エンジンが炎上して機体もろとも爆発四散した。

 「やった! ――って、あれ?」

 機銃の取っ手を握ったまま、違和感を感じて上を仰ぐ。

 そしてちょうど敵機が爆発四散した上空を過ぎて姿を現した零戦が見えた。

 「どうやら手柄、あいつに取られちまったらしいな」

 「そ、そんな〜」

 どうやら実際に撃墜したのはあの零戦だったようだ。

 確かにかすめることはできたが、数瞬遅れてあの零戦が放った銃撃に譲ってしまったようだ。

 コクピットからは雲雀が見えた。そしてまた彼は機首を上げて視界から消えた。

 「航空部隊を援護しろっ! 撃てぇっ!」

 上陸して侵攻してきたソ連軍を浜辺まで追い詰めた戦車第十一連隊の火砲が空中に向けられた。

 そして海上へと飛び込む放火が敵機を妨害し、艦隊を攻撃する航空部隊は戦車連隊の援護もあってその任務を順調に進めていった。

 大破炎上した艦、その艦橋では惨事が起こっていた。

 爆発の後、突然のように前方から接近してきた零戦が艦橋に向かって二十ミリ弾を叩き込んだ。艦橋内の者たちのほとんどが銃弾の餌食となって倒れた。

 そして、あの政治将校も……。

 「敵は……たったこれだけか!?」

 起き上がったロマノフが見た上空を飛び回っている日本軍機は一目見ても5機以上。

 それを対空砲弾の花火と護衛機が追い回しているが、逆に撃ち落されているのはこちら側で、すでに他の数隻の艦船からも火の手がのぼっていた。

 「馬鹿な……。そんな馬鹿な……」

 呆然としていたロマノフの正面から、一機の零戦が旋回して接近してきた。

 立ち尽くすロマノフに零戦から放たれた二十ミリ弾が叩き込まれ、艦長は吹き飛んで倒れ、絶命した。


 島に上陸したソ連軍の背景にいた54隻の艦隊に、残されていたわずか7機の陸海軍混同の航空部隊が発進した。

 魚雷はすでに処分してしまっていたため、通常の爆弾や対戦車用炸裂弾を搭載して攻撃、わずか7機で、輸送船2隻、駆逐艦2隻、艦種不明1隻撃沈、輸送船2隻撃破という大戦果を収めた。

 ソ連軍も10機ほど戦闘機を出撃させたが、航空部隊の反撃と戦車隊の懸命な防空射撃はこれを寄せ付けなかった。

 しかし撃沈された艦などから投げ出されたロシア人たちが自力で浜辺まで泳ぎきり、上陸するということもあって、さらに脅威となる日本軍の戦車連隊に対して対戦車火器の陸揚げなど、島の戦いは過激さを増してずっと続くのだった。

はるかに圧倒的物量を有していたソ連艦隊に対して大戦果をあげ、航空部隊側も艦攻1機撃墜という損害でした。

作中では執筆の都合でちょっとしか書かれていませんでしたが、戦車第十一連隊も援護射撃を行って航空部隊を支援してくれたのです。

ソ連軍に占領された国端崎に前進し、独歩第283大隊がソ連軍が占領していた防備の要所を奪還、ソ連軍はこの地の再奪取を目指して攻撃を開始し、激しい戦闘となります。さらに上陸したソ連軍を海岸付近まで追い詰めた日本軍でしたが、ソ連軍も負けじと対戦車火砲を陸揚げしたりと、戦車第十一連隊も奮闘します。

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