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第二章 兄と妹

終業式を終えて冬休みです。

皆さんいかがお過ごしでしょうか?

こちらは内地にお暮らしになる皆さんのご想像とは違って異常な環境ですよ。詳しくはあとがきで……。


これはないだろと言われるような戦車の魂。士魂。チハですが、こういう妹キャラとボクッ子を書くのは初めてですので頑張っていきたいです。もちろん同時に葛城の話も……。でもまずはチハ優先で進めたいと思います。そんなに長く続く予定はありませんので。ごめんね葛城ッ!

ではどうぞ。

 ――妹は兄のことが大好きだった。

 ――兄も妹のことが大好きでした。

 二人は親もいない中で懸命にお互いを支えあって生きてきた。

 しかし……運命は残酷にも二人を引き裂いてしまった。

 だからボクはその【妹】の代わりになりたい。

 大好きな彼を支えてあげたい。

 彼の本当に辛い気持ちはわかる。だから今度は自分が支えてあげたい。

 だって……ボクは。

 お兄ちゃんのことは本当に昔から知ってるんだもの。

 ボクがいなくなったらお兄ちゃんは家族がいなくて一人ぼっちになってしまう。

 だからボクはお兄ちゃんのそばにいる。

 ボクの気持ち、わかってもらえるかな―――?

 お兄ちゃんが元気なら嬉しい。

 お兄ちゃんがそばにいてくれるなら嬉しい。

 ボク、大好きだもん。

 二人で生きていこうよ―――

 ねえ、お兄ちゃん。

 

 

                       ●


 

 桐嶋は今日も今までどおり、しかし昨日から変わった愛車との時間を過ごしていた。

 「………」

 桐嶋は油漏れに黒まみれになりながらも、懸命に当時の最新技術空冷ディーゼルエンジンの調整を行っていた。

 日本製のエンジンはなにもしなくても油漏れが酷いので困ったものである。

 複雑な回路をいじり回し、ピストン系列とシリンダ軸の調子を細かく見据える。ディーゼルの排煙と満載にした軽油の匂いとこびれた油、そして始動したときのうるさいほどの音がエンジンの調子を教えてくれる。

 「お兄ちゃん、なにしてるの?」

 「ッ?!」

 ドクン、と鼓動の脈を打った。

 血が熱くなって頭に上り、ざわざわとした感覚が身体の精神を駆け巡る。思い切り振り返ると、そこには首を傾げている妹が―――いや、チハがいた。

 「な、なんだ。お前か……」

 「ど、どうしたの……? お兄ちゃん、大丈夫……?」

 「な、なんでもない…」

 誤魔化すように顔を背けて再びエンジンに視線を戻す。額から滲む汗を拭いとり、エンジンの複雑な中身をジッと見詰めたまま、頭の中では色々なものの整理を始めた。

 まるで、今は亡き妹に話しかけられた錯覚を感じた。

 この気を紛らわすかのように、エンジンとの格闘を再開する。

 チハはそんな彼の広い背中をその丸い瞳で見詰める。

 「おにいーちゃん」

 「うわっ」

 背後から抱きつかれた桐嶋は小さい驚きの声をあげる。

 「な、なんだよチハ……」

 「えへへ」

 ぎゅっと桐嶋の背後から抱き締めるチハは頬ずりをする。外見の幼さとは正反対に実ったふたつの果実が意外と柔らかい。お互いにお互いの温もりを感じる二人はそれぞれその温もりに対する感じ方が違った。

 やっと触れられた温もり。

 そして思い出させる温もり。

 「…ッ! う、ぐ…ッ!」

 また、ドクンッ!と鼓動が強く打つ。

 そして思い出す、光景。

 白いもやの中から浮かぶ古い記憶。畳の上で新聞を読んでいた自分に背後から小さな温もりが抱き締める。振り返るとそこには妹の無邪気な笑顔があり、そして抱き締められる背中は心臓の生きている鼓動が伝わり、温かった。

 「おにい、ちゃん……?」

 はっと気が付くと、背後に密着していた温もりは離れていた。ゆっくりと振り返ると、妹とはまったく別人の少女、不安そうに心配してくれているチハがいた。

 「………」

 今度は無言でジッと不安げに揺れる丸い漆黒の瞳が桐嶋のその表情を映した。

 桐嶋はこれ以上心配をかけてはいけないと、笑ってみせた。

 「大丈夫。なにもないから、心配するな」

 それでもチハの心配げな表情は晴れない。

 ……この娘は妹とは違う。確かに似ているが、何故か彼女の触れるものが悲しみの中に埋もれていた古い記憶をよみがえらせてしまう。しかしそれは――自分自身の所為だ。

 無論妹の所為でも彼女の所為でもない。自分自身の所為。

 わかっている。

 だったら、これ以上彼女に無駄な心配をさせてはいけない。

 彼女も昔から自分の隣にいたのだ。だって、自分が訓練生時代から進んできた相棒なのだから。

 彼女との日々は今始まったばかりではない。実はずっと前からあったのだ。

 ……妹を失った、その頃から。

 桐嶋は古い記憶に負けないことを誓い、そして実行した。

 記憶を掘り起こした行為を行う。

 その行為にチハは一瞬びくりとしたが、すぐに頭に乗った温もりがそれを宥めた。

 手袋をはずした桐嶋の手がチハの頭をそっと撫でた。頭を優しく撫でられるチハは一瞬驚いた表情で桐嶋を見詰めていたが、やがて表情を和らげて、緑に涙を浮かばせて綺麗に微笑んだ。

 「えへへ…。嬉しい、なぁ…」

 「嬉しいか?」

 「うん。もっと撫でてほしい」

 「ああ…」

 片方の真っ黒に汚れた手袋とは相反したその肌色に染めた大きな手で、小さな少女の頭を覆うように優しく撫でていく。

 くすぐったそうに微笑む妹と優しげな表情で撫でる兄の光景が、そこにあった。


 

 広大に広がる草原の中に鎮座する戦車。その車体に肩を並べて寄り添う兄妹がいた。

 「あ…チョウチョ……」

 桐嶋の肩に頭を乗せていたチハは目の前の青い光景の中にひらひらと舞う蝶を見つけた。

 それはひらひらと二人の周りを舞い、戦車の砲身にとまった。

 くすぐったそうに微笑むチハ。

 隣では寝息を立てる桐嶋がいた。昼の陽光を浴びて昼寝する兄の温もりをチハは肌で感じていた。

 まるで懐かしい感じがする温もり。

 そばにいてくれているだけで、嬉しかった。

 「お兄ちゃん……」

 先ほどの頭を撫でられたことを思い出して、えへへと恥ずかしそうに笑う。撫でられた部分を何度も触れて、頬を朱色に染める。

 幸せだった。本当に。

 こんな時間がずっと続けばいいと思った。

 今は戦争だけど、そんなことさえどうでもいいと思えた。

 ただ大好きな兄とこうしていられるだけで、世界はどうでもよかった。

 置いてあった彼の手をそっと触れてみる。おそるおそる桐嶋のほうを見るが、桐嶋の瞳は閉じたままで寝息を立てていた。今度は思い切って握ってみた。

 手を握って、チハは微笑んで彼の肩に身を預けた。

 自分も寝ようかなと瞳を閉じかけたとき、二人の前に下りた影があった。

 突然現れた気配に気付いて、チハはゆっくりと閉じかけた目を開けた。

 「熟睡してる……」

 チハは驚いて目を見開いた。

 目の前の光景には見慣れない少女がそこにいた。桐嶋の寝顔を覗き込むように首を傾げた少女。白いシャツと紺色の吊スカートを着た、おさげを下げた少女。

 「あら?あなたは……」

 チハに気付いた少女はきょとんとした表情でチハを見詰めた。

 「………ッ」

 チハは彼女の存在を見たとき、心のうちがざわざわとざわめいて、チクリと針が刺さったかのような痛い感覚を覚えた。

 チハの顔を呆けた表情でジッと見詰めていたが、桐嶋が目覚め、視線が桐嶋のほうに戻る。

 「う〜ん……んぁ?」

 間抜けな声をあげる桐嶋の目の前に、近い距離に彼女の覗き込む顔と丸い瞳があった。

 「うおっ!? …ってなんだ。摩耶か……」

 「おはようございます。時雄さん」

 「いきなりなんだ。びっくりするだろ」

 「それはごめんなさい。でもまたこんなところで寝ていては風邪引きますよ?」

 「心配するな」

 目の前で他愛の無い会話をする二人。チハはそれをただ見ているだけだった。

 「それにしても…」

 桐嶋は立ち上がり、尻の砂をぽんぽんと払った。

 「こんなところまでどうした?」

 「はい。ちょっと伝えたいことがありまして……」

 そう言う彼女はぽっと顔を赤らめて首を傾げる。

 彼女は如月摩耶きさらぎまや。占守島にある缶詰工場の女子工員の一人である。桐嶋たちとは交流が深く、今回はその深い交流に基づくものがあった。

 「その…。実はウチ(工場)で、週末の休日に演芸会があるんですよ……」

 「へぇ。年に二回ほどやっているが、もうそんな時期か」

 「はい。だから一生懸命今まで仕事の合間や後に練習してきたんです」

 「摩耶はピアノだっけか?」

 「……はいっ。そうです。私がピアノで、もう一人の友人が歌を披露するんです」

 「摩耶、ピアノうまいもんな。前の冬にあったときなんて絶賛だったろ」

 「そ、そんな…。私は別に…。それよりお歌を歌う中波さんのほうが……」

 「いやいや。本当にそうだったから」

 「あ、ありがとうございます……」

 顔を赤くして俯く摩耶を、桐嶋は優しく笑う。

 そんな二人の光景をただチハは蚊帳の外のような場所に立って、細めた瞳で二人の会話を見ていた。

 「それでその…。もしよろしければ、また今回も……」

 口もとを懸命に動かしながら、声を絞り込む。

 「き、来てくれたら……えっと…その……」

 ぐっと拳に力をこめて、思いのうちを言い放つ。

 「今回もまた、演芸会に来てください……ッ! ぜ、ぜひ…!」

 桐嶋はいつもこうして緊張しながら自分を誘ってくれる彼女の姿を見てきた。

 そして今回も恒例にように優しげな笑顔を輝かせて、ニカッと笑う。

 「もちろんっ」

 その言葉を聴いて、摩耶はぱぁっと嬉しそうな表情になった。

 「よ、良かったですっ! でもその、あの……本当によろしいのですか? お忙しいのなら…その……」

 「いやいいよ。忙しかったらここで寝てないよ」

 「それもそうですね…」

 楽しそうに笑いあう二人。それはとても微笑ましい光景に他ならない。

 しかしそれを一人だけ嫌悪な視線で見詰める存在がいた。

 瞳を細め、口をぎゅっとつぐみ、拳を握った。

 「あの、そちらの子もご一緒に……」

 二人の視線がずっと自分たちの会話を聞いて見ていた一人の少女に向けられる。

 その表情はムスッとしていて不機嫌そうだったことに桐嶋は気付いて疑問に思った。

 「あ、いや…あいつは……」

 この場から離れられないらしいことを聞いた桐嶋は思い出して口を開きかけた。

 「行かない」

 ぴしゃりと言い放ったチハの言葉が通る。

 ふんっと顔を背け、てててっと背を向けて車体の裏側に回りこんで消えていった。

 「あ、あの…。私なにか粗相を……」

 「いや、摩耶はなにも悪くないよ……」

 桐嶋は彼女の行動に疑問を抱き、なにもわからずに首を傾げた。 

 


 摩耶がいなくなってその後、桐嶋はまたチハと二人でいた。すぐ後ろにチハがいるのだが、こちらに背を向けて黙ったままであった。

 「さっきはどうしたんだよ」

 「………」

 明らかに不機嫌だった。ぶすっとしていて否定的な態度だった。

 桐嶋はご機嫌斜めの妹を見詰め、溜息を吐いた。

 妹のご機嫌取りなんて、何年ぶりだろうか。

 「なぁ……チ…」

 「行かないで」

 「え?」

 その背に触れようとした手が止まる。

 こちらに背を向けたまま、顔も向けない妹の言葉が紡がれる。

 「お兄ちゃんはそこに行っちゃ駄目……。ボクを置いていかないでよ…」

 「演奏会のことか。 まぁ…でもお前、ここを離れられないんだろ?」

 「……ヤダ。お兄ちゃんといたい」

 「………」

 再び沈黙が降りる。何故かその背にまだ触れられない雰囲気がそこにあった。

 「……あんな女のところに行かないでよ。ボクのそばにずっといてよ、お兄ちゃん…」

 「…我侭だなぁ、チハは」

 桐嶋はフッと微笑んで、そっとチハの前に自分の手を回して、優しく抱き締めた。

 チハの前に出した手に、ぽたぽたと温かい感触が伝わる。

 抱き締める肩が小刻みに震え、嗚咽が聞こえてくる。

 「離れないで……行かないで……一人は、嫌だ……」

 「チハ……」

 一人は嫌だ。

 この気持ちは、妹を失って家族がいなくなった桐嶋にも痛いほど知っている心情だ。

 二人の共通点。

 妹に似た少女は何故か、自分とも似ているところがあった。

 まるで本当に兄妹のようだった。

 

 その存在が見えるようになる前から、彼女は自分たちのことを見ていたという。

 それは彼女が話せる相手もいなく、ずっと一人ぼっちだったということだった。

 

 わかったよ……一人にしない…。

 まったく、しょうがない妹だなぁ…。

 「わかった。どこにも行かないよ、チハ」

 「本当……?」

 「ああ」

 「………」

 不意に振り返って見せたチハは、声も無く、ただ瞳に涙を浮かばせながらきらきらと輝くような笑顔を放っていた。



 

 ずっとそばにいる。一人にしない。それを約束した。

 彼女はあの鎮座した場所から動けない。

 まさか戦車で工場まで行くことはできない。そんなことをすればどんな目に合うのか……。

 しかし、恒例の彼女達が織り成す演芸会は、チハにも聴かせてあげたかった。

 桐嶋はあることを考え、ある日、チハのところに行く前に工場へと赴いた。

 「…というわけなんだ。……できるかな?」

 桐嶋は彼女たちの作業が終わるまで待ち続け、ようやく休憩時間になったところで目的の摩耶を呼び出し、とある願いを伝えている。

 「そうですねぇ……。でも、ここ以外なのは初めてです……」

 「頼む」

 「時雄さん、任せてください。 みなさんと相談してみますが、きっとみなさん賛成してくれると思います」

 「ありがとう……」

 いつもお世話になる彼女への感謝をまたひとつ積み重ねた桐嶋だった。

 これでチハも楽しんでくれる。

 桐嶋は軽い足取りで、今日もまた妹のところへと向かった。



 そして週末―――

 演芸会の日がやって来た。

 桐嶋はいつものとおりに、妹のところにいた。

 「本当にお兄ちゃん、ここにいてくれるの…?」

 「ああ。どこにも行かないって約束したからな」

 「………」

 チハは隣に寄り添う桐嶋から視線をはずし、視線を下げた。

 あの時、自分の我侭のせいで彼を引き止めてしまった。それが罪悪感を生み出す。

 悪いことをしてしまったのでは……。

 そう思えてならなかった。

 「…ごめんね、お兄ちゃん」

 「なんでお前が謝るんだ?」

 何故かさっきから兄は機嫌が良い。なにか良いことでもあったのだろうか。

 本来なら兄が嬉しいなら自分も嬉しくなる。なのに気持ちは晴れない。

 「ボクの我侭で……その…」

 「チハ」

 「えっ?」

 振り向くと、そこには兄の笑顔があった。そしてそのまま手を引かれる。

 「いいもん見せてやる」

 「えっ…?」

 物音がする。

 さっきから裏側から聞こえるのだが、いつも覗き込もうとすると桐嶋に止められる。

 「ちょ……お、お兄ちゃんッ?!」

 ぐいっと手を引かれ、今まで制止をかけられてきた車体の裏側に回りこんだ。

 鎮座した車体の360度はなにもない緑である。だから見る光景は同じ―――

 「え……っ」

 見慣れない光景が広がっていた。

 今までに見たことがないような大勢の人々がいた。工場に勤める女子工員である女子たちと観客の日本兵たち。そして目の前の中央にはピアノと自分と歳が近い少女がいた。

 そしてピアノにはあの時に訪れた摩耶がいた。摩耶はチハのほうを見ると、ニコリと微笑む。

 チハは状況が理解できず、うろたえる。

 「え、えっと…? お兄ちゃん、これって一体……」

 「驚いたか?チハ。 まぁ無理ないよな。 もうすぐ始まるから、ほら、前向け」

 「???」

 桐嶋に促されて前方に視線を戻すチハ。

 中央に立つ白のシャツにスカートを履いた可愛らしい顔をした一人の少女がにこやかに微笑み、スカートの裾を摘んでぺこりと頭を下げてお辞儀をする。と、同時にピアノに立つ摩耶も挨拶のように頭を下げた。

 観客の日本兵と少女たちを見渡しながら、口を開く。

 「それでは恒例の演芸会をはじめたいと思います。日本から遠く離れたこの島ですが、私たちの歌が遠い日本に届く気持ちで頑張って歌いたいと思っています。兵隊さんたちも今日は訓練をお休みにして楽にしてお聴きください。みんなもこの後のお仕事励むためにも。皆さん、今日は楽しんでください」

 中央に立つ少女が述べると、一斉に拍手が沸いた。次に歓声も飛び交い、一時騒がしくなる。

 「今回は初めての野外です。 お天気も晴れて本当に良い演芸会日和です」

 摩耶がスッと座り込み、ピアノと向かい合う。

 「では、歌わせていただきます」

 二人の少女が視線をチラリと合わせ、頷きあう。

 チハがきょとんとした表情で目を見開いて見据える中、その音色の軌跡が紡がれた。

 摩耶の長い指がピアノの螺旋から音色を紡ぎ、それに続いて、波に乗るようにしてもう一人の彼女が胸に手を当てて、開いた口から華やかな歌声を滑らせる。

 ピアノの音色と歌声が織り成す歌に光はあった。戦争という辛い現実を忘れさせるように、この世の中に一筋の光を射したかのようだった。日本兵たちはその透きとおるような歌を聴き浸り、故郷を思い出していた。少女たちも同じ。ある者はうっとりと、ある者は瞳を閉じて、ある者は楽しそうに、ある者は涙を微かに浮かばせる。

 驚きに打たれているような表情でその歌を聴くチハに、隣から桐嶋が口を開いた。

 「いい歌だろ。日本にある古い歌さ。子供の頃は学校でも歌わされた有名な歌なんだが……だからこそみんなに故郷を思い出させるんだな」

 「……初めて聴いたよ。―――いい、歌だね…」

 「チハにも聴かせたかったんだ」

 「お兄ちゃん……?」

 チハははっと、桐嶋のほうを見る。そこには桐嶋の、兄の眩しくて優しげな笑顔があった。

 「……ッ」

 何故か兄のその笑顔を見たとき、ドキッと高鳴って身体が熱くなり、顔が一瞬で紅潮した。

 赤くなった顔を隠すように俯き、口を紡いだ。

 そんな妹を見て、桐嶋は不安になったが、その俯いた顔に見える口からボソリと小さい声が通った。

 「ありがとう、お兄ちゃん……」

 それを聞いて、桐嶋は心が温かくなるのを感じた。

 顔を上げた妹の表情はドキリとしてしまうほどの明るい笑顔で、瞳の縁に涙を浮かばせ、可愛いものだった。

 こいつは……俺の妹だ。

 兄である俺が、この笑顔を、守ってあげなくちゃいけない。

 桐嶋はフッと微笑んで、頷いた。

 二人は互いに微笑み合い、えへへと小恥ずかしそうに微笑むチハと、優しげな瞳で微笑む桐嶋。

 チハは浸透するように入り込んでくる美しい音色を紡がせる歌のほうに振り戻り、桐嶋も並んで歌を聴くことにした。

 螺旋状に紡がれていく音色が綺麗に響く中、チハはそばにいてくれている兄の手の上に、そっと自分の小さな手を重ねた。

 【登場人物紹介】



如月摩耶きさらぎまや

×××中等女子学校生徒・占守島缶詰工場女子工員

年齢 17歳

身長 158cm

体重 36k

占守島にある缶詰工場に勤労する女子工員の一人。北海道にある某女子校から派遣され、現在に至る。満州から転進してきた第十一連隊に所属する桐嶋たちとそのときに出会い、恒例の演芸会を開いたりと、交流を深めている。家族は北海道に残しており、毎日家族への手紙を書いている。ピアノが得意で、心優しい少女。夢は音楽学校に進学して音楽を勉強することだが、戦争によって現在はその道を阻まれている。しかし戦争が終わったらと考えて、夢を諦めていない。それを知っている桐嶋は彼女をある意味尊敬している。色々と桐嶋たちのお世話をしているらしい。



終業式を終えて、いよいよ冬休みです。

しかし一年というものは早いですねぇ……。クリスマスを過ごして、あともうすこしで今年も終わりですよ。時が経つのは早いですが、来年になって無事進級できたとしたら三年生。きっと来年のほうが時が経つのが早く感じるようになるんだろうなぁ……。


真冬。地元は寒いです。……のはずっ!なんですかこれ?雪が積もったと思えば、また暖かい日が来たり雨の日があったりと、また雪が溶ける!

現在私が住むところは雪が全然ありません!田舎のほうでは雪が積もっているようですが、都市部は雪ないっ!怖ッ!例年に比べて雪無さすぎ……。

雪嫌いですから無いのも助かるんですが……それはそれでちょっと異常。温暖化の影響でしょうかね?

そして突然本来の季節を思い出したかのように吹雪く日もあったり。

おかしいよ、地球……。


冬休みはゆっくりと過ごしたいものです。外出たくないけどバイトある……。家の中で執筆を進めたり他の作品も読みたいですけど…。

地球がおかしい今日この頃でした。

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