剣鬼
その頃、李英風は街にやって来た。
武館の前で立ち止まると男が近ずいて来た。
「この道場のよ、鄭先生が殺されたって大騒ぎだよ」
「鄭先生は剣の達人として名高い。それが殺されたのですか?」李が聞くと男は「そりゃさ。いくら達人でも上には上がいるべ。それに、先生はもう歳だったしさ。ま、門弟達は犯人探しで血眼さ」
「犯人は分かっているのですか?」
「何でも門弟達は先生に破門された朱と言う奴を犯人だと決めつけてるみたいだ。俺にはよく分からんけどさ。ホンじゃな、アバヨ」男はそう言って去って行った。
李は武館の中に入って行った。
「どちら様です。今、取り込んでいる最中ですが」男が言った。
「少林寺の李英風と言います」李が名乗ると男の態度が変わった。
「李先生ですか、失礼しました。実は館主が亡くなりまして」
「聞きました。朱と言う男が犯人とか」
「よく御存知で。ま、中にお入り下さい」
男は室内に李を招き入れた。
「まあ、どうぞお座り下さい」男は茶を李に勧めた。
「一年前の事です。朱は我々の仲間でしたが先生の教えを破り他流試合をし相手を切り殺しました。それで先生は破門にしたのです」
「成る程」李は頷いた。
「しかし、朱は以前から先生に内緒で他流試合をし多くの人達を殺していた殺人鬼だったのです」
「物騒な奴ですね」李が言う。
「まあ、試合ですから仕方がないと言えない事もない。が、素行も不良でしたので先生は破門の決断をされたと思います」そこまで言って男は茶を飲んだ。
「捕まえてどうするんですか?」李が問う。
「殺してやりたい気持ちは山々ですが、改心させるつもりでいます。仏門に入らせるとか考えています。取り敢えず捕まえるため、門下生一同が奴を探しています」。
男はそう言うと「奴は剣鬼です。早く捕まえないと第二、第三の犠牲者が出るかもしれません。我々にも敵意を持っているでしょうからね」と話を締めくくった。
話を聞き、李は武館を出た。
「かなりの使い手だな。朱と言う奴。他に犠牲者が出なければ良いが」と思い、街を歩いて行った。