始業式(3)
閲覧、評価ありがとうございます。
主要人物の名前は一応これでほぼ全員ですが、終わりませんでしたorzorz
あと少しだけ続きますorz
では今回も少しでも楽しんで頂ければ幸いです。
よろしくお願い致します。
「――成る程。それは風戸が悪いな。」
「ああ。弁解の余地すらない。黒坂、白宮。うちの馬鹿のせいで不快な思いをさせてすまなかったな。」
「あ、いえ。そんな、大丈夫です。それに虎向もわざと煽っちゃってたから、非がないとは、言い切れないよね?」
最後だけ確認するように虎向を振り返り言えば、どこか気まずそうに首の後ろを擦った彼が「……悪かった。」と呟いたのを見て仕方ないな、と私もまた眉を下げた。
あの後。
のたうち回る風戸夏生先輩を放置して何があったのか聞いてきた凛々しい顔立ちの月沢遼先輩ともう一人、騒ぎを聞き付けて側に来た黒のツーブロックヘアで前髪を左に流し、アンダーリムの眼鏡をかけた涼しげな切れ長の瞳が特徴的な綺麗系の顔立ちの雪岡寛哉先輩に今までの事を説明してくれたのは花石さんと花石先輩だった。
そのまま月沢先輩と雪岡先輩が二人がかりで風戸先輩にお説教を開始したのを尻目に、風戸先輩も含めた三人の軽い紹介と花石先輩も含めた四人全員が生徒会執行部のメンバーだという事を花石さん達に説明され、軽く目を瞠る。
「花石先輩と風戸先輩はそうだって分かったけど、月沢先輩と雪岡先輩もそうなんだ。」
「うん。ちなみに僕が書記で風戸が庶務、雪岡が会計で、副会長が月沢だね。」
「へえ……。でも、先輩達って全員二年っスよね。三年生はいないンスか?」
「あ、言われてみたら確かにそうだよね! あ、もしかして生徒会長さんのみ三年生がやるっていう決まりがあるとかですか?」
「アホ。んな決まりあるわけないだろ。」
「アホ!?」
「あ、でも大体は白宮さんの言う通りだよ?」
思わず虎向に言い返そうとした私にくすくすと笑いながら助け舟を出してくれたのは花石さんだった。
って、大元?
「今の生徒会長も二年生なんだけど、この人が凄い人でね。常に学年主席でスポーツ万能って言うのもあるんだけど、何よりもカリスマ性っていうのかな。そう言うオーラを持ってる人で物凄く目立つ人なんだよね。本人もそれを分かってるからか人を従える能力に秀でてるし。で、そんなだから入学してすぐに生徒会書記に抜擢されたかと思ったら、あっという間に生徒会長まで登りつめちゃったんだって。それで付いた渾名が『青宮高校尾の王様』。」
「……お、『王様』?」
「何つーか、凄い渾名だな。一介の高校生に付けるか?」
「うん、そうなんだけどね。あの人の能力って黒坂くんの言うように『一介の高校生』で済むようなもんじゃないんだよね。何せそ生徒会長になってまずやったのが、学校内のありとあらゆる不正を白日の下に晒した上での弾劾だったから。それこそ教師の不正も含めてね。生徒にセクハラしてた教師とか、クラス内の苛めを黙認してた教師とか全員この学校を去ったって聞いてるよ。」
「……せ、先生達まで?」
「うん、だからね。この学校内において生徒会長だけ特別だって言う白宮さんの考えは間違ってはないんだよね。今の生徒会役員達もあの人が任命したんだよ?」
「……うん。一人だけ三年生とかならちょっと特別でそれこそカリスマ性とか持ってるのかなとは思ったけど。『王様』は考えつかなかったよ?」
予想外過ぎる内容に思わず遠い目になりかけると虎向にぽんぽんと頭を撫でられる。
「……まあな。あ、じゃあ花石先輩達はそれで生徒会に入ったンスか?」
「うん、一年の二学期くらいにいきなり任命されてね。それ以来、僕らはフォロー役なんだ。」
「あとね『王様』の仲間って事で、お兄ちゃん達は『王子』って呼ばれてるんだよ?」
「「『王子』っ!!?」」
思わずバッと花石先輩を見れば、先輩はどこまでも遠くを見ながら頷いた。
「…………うん。何でそうなったのか分からないんだけどね。本当あの呼び名だけは勘弁して欲しい。」
片手で顔を覆い、はあああと深く息を吐きだす先輩に「お疲れ様です。」と何とか言いながらも、ちらりと虎向を見れば同じ事を思っているのか「……あいつ。」と呟く声が聞こえてくる。
うん、そもそも私達が青宮に進学したのは高校受験の時とある人にこの学校を推されまくったからなんだけど。
青宮の生徒会がここまで変わってるなんて話は私も虎向も聞いてない筈だ。
や、あの人の場合、わざと黙ってた可能性のが高い気がするけどさ。
「まあ、でも。生徒会長も悪い奴ではないんだけどね。それまでのやけにこじんまりしていた文化祭を大々的なものにしたのは会長だし、この部活紹介も兼ねた挨拶運動も彼の発案だしね。」
「そ、そうなんですか?」
「ああ。対面式の壇上に上がってプレゼンする形式の部活紹介だと、どうしても印象に残る部って決まってくる。それに壇上でアピールするには不向きな部もあるからね。『そういう不公平はなくしてやる。新入部員が欲しいなら自分達の実力でもぎ取ってみせろ』って言い出してさ。」
「……そうなんですか。」
説明が増えていくたびにその人物像が分からなくなって混乱する。
一体どんな人なんだろう、生徒会長って。
……でも。
「……お前は近寄らない方が良さそう奴だな、その生徒会長は。……色々探られたらまずいだろ。」
「うん、私もそう思った。」
そのまま兄妹で会話しだした花石さん達に気付かれないように、小声で会話する。
まあ普通に生活してればそう関わり合いになる事はなさそうだけど、多分。
「あーーもーー!! 月沢も雪岡もうるさい! 天使ちゃん、助けてよ!」
そう結論付け頷いていると、快活な声と共にどうやら拳骨の痛みから復活したらしい風戸先輩が再び私目掛けて走ってくるのが見えた。
……今度はそのすぐ後ろから月沢先輩が凄い顔で付いてきたけど。
さらに虎向まで再び眉を寄せ始めたのを見てしょうがないな、と彼の手をしっかり握り締める。
「……ヒナ。」
「大丈夫。だから、ね?」
そのままへらりと笑いかければはぁ、と深く息を吐いた彼が分かった、と頷いた。
そのまま風戸先輩に向き直れば天使ちゃん!と再び呼ばれ手を握られそうになったけど、私が体を引くのと同時に月沢先輩が風戸先輩の襟首を思い切り引っ張った事でそれは回避された。
「グェッ!? って月沢! いきなり引っ張るなよ!!」
「風戸、お前はその女子に対する見境のなさを何とかしろ。そもそも初対面の女子の手を握ろうとするんじゃない!」
「えぇーー! 良いじゃん手ぇ握るくらい! スキンシップだって! 天使ちゃんだって嫌がってな……。」
「思い切り避けられたの気が付いてなかったのか馬鹿が。」
「風戸、スキンシップって言えば誰にでも触っていいって訳じゃないからね?」
そう喚く風戸先輩に雪岡先輩と花石先輩がツッコめば、風戸先輩が「えぇーー……」と不満げに声を漏らす。
「天使ちゃんってスキンシップNGな人? そいつとは手ぇ繋いでるのに?」
「NGではないですけど初対面の人に、ましてや異性にいきなり手を握られたいとは思いません。あと風戸先輩、その呼び方やめて下さい。私の名前は白宮陽です。」
なるべく感情を含まずに言い切ると、先輩がさらに不満げに唇を尖らせた。
「えぇーー……いいじゃん、天使ちゃん。凄く似合ってるし。ね?」
「嫌です。」
「……マジかぁ……。」
あざとくこてりと首を傾け、にこりと笑った風戸先輩に冷めた目でぴしゃりと言い返せば、撃沈する先輩を尻目に他の先輩達から「おおーー」という歓声が上がる。
「風戸のあの『必殺おねだり』が効かない女子がいるとはな。」
「うん。皆、なんだかんだで風戸のあの顔に弱いのにね。」
「ああ。成程、なかなか面白いな。……気に入ったぞ、白宮。」
ぽんっと雪岡先輩に肩を叩かれ、今度は私がえぇーー……と顔を引きつらせる。
って言うかおれ、男だし。
男に「ね?」って語尾にハートマークが付きそうな勢いで言われても……。
「あ、じゃあヒナちゃん! ヒナちゃんならいいでしょ!」
「白宮でお願いします。」
いや、少しは懲りようよ! 距離感! 距離感大事!!
ここまで冷たくしても全くへこむ気配のない風戸先輩に何か既視感がじわじわと湧いてきた。
ああ、これあれだ。少し抜けてるけど元気一杯な子犬を相手にしてる感じと似てるんだ。
小学生の頃、近所の人の飼い犬が生んだふわふわの仔犬がまさにそんな感じで、そこら辺に落ちていた小枝を銜えて延々と振り回した挙句、そこで同じく飼われていた猫にフルスイングし、怒った猫に猫パンチを食らっていたあの子を思い出す。
確かその家の人の遠方に住んでいる親戚の家に貰われて行ったんだっけ。
懐かしいなぁ、なんて思っていると風戸先輩がまたぐっと身を乗り出した。
「それくらいいいじゃん!! そいつだってヒナって呼んでるんだし!」
…………前言撤回。
むしろこの人のがあの子の数倍バカ犬かもしれない。
びしっと虎向を指さした風戸先輩にさらにムッとして眉を寄せる。
「なら、虎向以外の男にヒナとか呼ばれたくないので白宮でお願いします。」
「ええええええ!! ちょっと待ってヒ………白宮ちゃん何かオレに怒ってる!? 何でそんな冷たいの!? ってかガード固すぎでしょ!!?」
それでも名前で呼ぼうとする先輩を軽く睨めば、さすがにまずいと思ったのか今度はちゃんと名字呼びされた。
それに応えるようにわざとらしく溜息を吐く。
「……まあ怒ってると言えば怒ってますね。私の大切な幼馴染を『ただの幼馴染』呼ばわりされたんだし。」
再びはぁ、と息を付きながら答えれば、「おい」と頭にぽんっと手を置かれた。
「……何かやけに機嫌わりぃなって思ってたら。お前、それが原因かよ。」
「……だって。腹立ったんだもん。」
むぅっと唇を尖らせて答えればさっきの私みたいに大きく息を付いた虎向にわしゃわしゃと髪を掻き混ぜらるように撫でられた。
「は……、はぁっ!!? 何それ、それが理由!? え、二人付き合ってるとかじゃないんだよね?」
それが心地よくて瞳を細めていると、明らかに納得行かないという表情を浮かべた風戸先輩に彼の襟首をぐいっと引っ張った月沢先輩が「そうではないだろう。」と声をかける。
「恋愛云々ではなく、自分の大切な相手を第三者に軽んじられて良い気分のする者はいないという事だ。」
「そうだね、今回ばかりは僕も風戸の味方できないかな。」
「うん。私も白宮さんの気持ち分かる。だって私も喧嘩ばっかりだけど、幼馴染の事『ただの』って言われたらやっぱ腹立つし。」
「まあ、お前は上辺の言葉ばかりに頼らず少しは他人に対して真摯になれという事だな。」
「美律ちゃんまで!? 待って、俺味方いなさすぎじゃね!?」
「――おい。」
先輩達全員と花石さんに言われさらに喚いた風戸先輩の声に耳障りの良い一本芯が通った凛とした声が重なったのはその時だ。
全員が反射的振り返った先には、虎向と変わらないくらいの身長で、細身だけど均整が取れた八頭身を制服に包んだ金髪のショートレイヤーに形の良い眉、少し吊り上がった切れ長の二重の灰青色の瞳の強い意志を宿した凛々しい目元とスッと通った鼻筋に薄い唇が特徴的な目が覚めるような気品あふれる美貌の持ち主がどこか憮然とした表情を浮かべ、腕を組んで立っていた。
「おい、お前ら。俺に全部押し付けるな。とっとと戻って来い。」
僅かに眉根を寄せ話す彼に、まずハッと反応したのは花石先輩だった。
「……会長。あ、そう言えば皆こっちに来てたね、ごめんごめん。こっちは問題ないから風戸と雪岡、月沢は会長と戻ってもらえるかな?」
「ああ、分かった。悪かったな、天賀谷。白宮、黒坂、花石。今日の対面式でまた顔を合わせるかもしれんがその時はよろしく頼むな。」
「「はい!」」
「はい。」
最後にそう言ってにかっと笑った月沢先輩に三人で返事を返せば、ではなと最後に私と花石さんはポンと肩を叩かれ、虎向に至ってはくしゃりと髪を掻き混ぜるようにして頭を撫でられ目を白黒させていた。
「ああ、すぐに戻る。それと月沢、俺もそいつを連れていくの手伝おう。……またな三人とも。」
カチャリと眼鏡のブリッジを中指で押し上げそれだけ言うとさっと踵を返した雪岡先輩がガッと風戸先輩の左腕を掴む。
「そうか、頼む。よし、では行くぞ風戸。」
「えええええっ!!? ちょおおおおお!? あっ、白宮ちゃん、美律ちゃんまたねっ!! あとオレは負けねえからな、幼馴染ィィイイ!!」
雪岡先輩の左腕に続き右腕を月沢先輩に掴まれ、二人がかりでずるずる引きずられていく風戸先輩を脳内にとある童謡の一節が過るのを感じながら見送る。
ん…………?
「ね、『負けない』ってどういう事?」
「……さあな。」
その一言にひっかかりを感じて隣で大きく息を付いている虎向に聞けば、すぃっと視線を逸らされた上でそう返され、花石さんは何故かそんな私達を見てにこにことしていた。
えーー……。
何か、二人だけ分かってるのずるい。
何か面白くなくて、繋いだままの虎向の手をぶんぶんと振っているとふと視線を感じ顔をあげれば、それこそモデルや俳優と比べても何ら遜色ない彼の灰青色の瞳と目が合った。
その目力の強さに少しだけたじろいで虎向の手をそっと握り直せば、すぅと細められた彼の瞳がおれから花石先輩へと移される。
「……状況が良く分からないんだが、一体何があったんだ花石。」
「あーー……あはは。まあ、いつもの風戸の悪い癖が出たって感じかな、大まかに言えば。」
「何? あいつ、またか。」
そのまま和やかに談笑し出した二人を見ていれば、「あの人が、この高校の生徒会長。天賀谷一煌先輩だよ。」と花石さんに説明された。
「……あの人が、生徒会長の天賀谷先輩。」
「何つーか、オーラからして違うな。」
「ね。」
「おいそこの新入生の。白宮。」
「ひゃ、は、はいっ!?」
虎向の言葉にこくこく頷いていると凛とした声で名前を呼ばれ、弾かれるように顔を向ければ天賀谷先輩が此方に真っすぐに向かってくるところだった。