地雷
体調不良で書けなかったのですが、一向に調子が良くならないので、書き始めました。
リハビリです。。。。
見せ掛けの世界、虚栄の社会。
限られた収入しかないのに…。カードという便利な借金で、ブランドのアイテムで身を包み、テナント料が材料代の数倍という値段設定の食事を何の疑問もなく口に運ぶ。煌びやかな環境設定に慣れてしまい、「分相応」、という言葉を忘れ見てくれだけの世界に満足してしまう。
それがトウキョウという街で住む流儀。
しかし、自分で稼いで、自分で使うのならばまだ良いが。この世には子供の言う侭に金品を与える事を愛情と履き違える大人がいる。何をしでかしているのかも知ろうとせず、求められる侭に差し出すことを責務であると思い込み…。
与えられた金で己の性欲を満たそうと、アキバやブクロで闊歩する愛好者。またそれらの財布の中身を搾り取ろうとするネット上の女衒達。拡張された現実は「カワイイ」などと言う潮流を生み出し、擬似的な恋愛劇を世界に発信する。課金という柔らかなしめ縄を用意して。
この国の首都の闇は深い。
いや、この地が葦原を開拓された時から何の代わりもないのかもしれない…。
「若旦那、これから向かわれる丁子屋の太夫さんに。えらいべっぴんのようですね。」
「定松、よだれをお吹き。どおしてお前さんが太夫の顔立ちを知ってるんだい?」
月代も落としていない奉公人は、店の金を吉原の金蔵にせっせと運ぶ放蕩息子に棘のある言葉をかけられた。
「へい、若旦那。この絵草紙に…。」
「何々、見せてご覧よ。吉原総覧だって、大仰だねぇ。」
「そもそもここで遊ぶ時は、そんなもん出していたら粋じゃないだろう…。うんうん、『丁子屋の葵太夫は容姿淡麗なり、話す声は鈴の如く。』か、なかなか的を得た草子じゃぁないか。お前さんがお店をさぼって、太夫の道中を覗きに来たってわけじゃあないんだね。」
「へい、若旦那。あっしは若旦那はご存知じゃあないかもしれませんが、普段は番頭さんの言い付けを守って。そりゃあ真面目にお勤めさせていただいているんです。」
ニキビズラの丁稚が誇らし気に話していると、若旦那は伽羅の香を染み込ませた扇子で頭をこずくと。
「そんな事より、禿のお菊さんとお花さんへの手土産は、どうなってるんだい。」
「へい、若旦那のお言いつけ通り、五榮堂の干菓子を。三段のお重で。」
「でかした、お前は新造さんのお相手をして貰えるよう、店には話をとうしてあるからな…。」
「ん?それで、その荷物はどうしたんだい。」
「持ったらたいそう重かったんで、運んでもらうことに致しやした。」
「定や、何処に運ばせたんかい?」
「へい、お店に…。」
「莫迦!それじゃあ土産にならんだろ。あぁ、お前を使いに出した私が莫迦だった…。」
「今から取りに行きましょうか?」
「いや駄目だ、お店に帰ろう。」
「えぇ、若旦那。ご新造さんとの話しは…。」
「無いよ、さぁ、帰って仕事し!」
泣きそうな顔の丁稚を大門に残し、放蕩息子は籠を拾うと来た道を引き返して行った。
今の世ならば、配送先をメール1本で変更することなど簡単な事であるのだが、唯一の情報伝達手段が手紙でしかない社会。世の中の流れも性に対するモラルもたいそう緩くはあったが、青臭いお年頃には少々生きずらい面もあったのかも知れない。
ゲームとVRアイドル。
サーバに接続すれば理想の恋人が安易に手に入る時代。
言葉や嗜好も相手に気兼ねする事なく押し付け、性欲に従属させる。課金という罠に気を止める事なく、只欲望のはけ口としてキャラを買い漁る。
「300クレジットか、たけぇナ。コヅカイぶっ飛んじまうよ。」
「でも、レアだし。構わないか。ソレ、よーし、コイコイ。んだよ、コレこの前のヤツじゃんかよ。。。こいつの声飽きてるんだよなぁ。もうレア感皆無だぜ。」
「くそっ!ろくなキャラださねぇでここの運営、最悪だな。晒してやるか…。」
誰でも、何処からでも、情報発信できるようになって、気軽に自分の欲する情報を手に入れられ、バイアスやフィルタリングされた情報しか垂れ流さなかった既存のものが衰退し。メディアレスな世界が立ち上がり風通しが良くなった反面、自分の気に沿わない事には直ちにヒステリックに声を上げる輩、また、炎上と称しその極端な思想を煽る輩が出現した。
「お、コイツら、運営の批判してやがる。確かこのアドレス他の運営会社にもうクレーム上げてたな…。特定して、運営に売るか。ブラックリスト入り確実だな、コイツ。」
「通報、通報っと。」
ネット上の情報は、スキル上位のもの。半端な知識では格好な獲物に成り下がる。
「次のは…、食品メーカーへのクレームか。あまりおいしくは無いが、DMで共闘を呼び掛けて火種を大きくした所で特定通報するかな。営業妨害食らうのはコイツになるように文面を気をつけて…。ハイ、送信と。」
「おお速いね、相当怒ってるんだね。被害者の会立ち上げると来ましたか。カニ缶に爪が入っていようと無かろうと、そんなに大きな問題なんかねぇ?」
「こいつは放置して、もう少し拡散してから収穫かな…。お次は…。」
情報の海はモニターの向こう側に悪意が、無数の罠が、仕掛けれている。まるで地雷原のように。
おわり
前作までのアップは過去に書いたものです。
今回からは頻発する期外収縮と闘いながら書いていくつもりです。