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戦姫アリシア物語  作者: mery/長門圭祐
女王アリシア
93/116

赤ちゃんとわたし

三ヶ月。

直前のそれから、既に三ヶ月が経過していた。


私はお腹を撫でた。

最近、ちょっと張り気味なのだ。

こころもち、体もふっくらしてきたように思う。

これは、たぶん確定だよなぁ。


出来ちゃったのかもしれない。

だとしたら、とてもうれしいな。


自覚があった私は、最近、コルセットも緩めにしかつけていない。

お腹を冷やしたりしないように、服も気をつけていたのだ。


腹巻きも考えたのだけど、これはやめた。

夏じゃなきゃ、絶対に巻いていた。

見た目より実用重視である。

当然だ。


ベッドの上でゴロゴロしていた私は、むくりと起き上がる。

それから、内緒で仕入れた、お母さん用品のカタログを、ベッドの下にしまいこんだ。


ただ、疑問に思うこともあった。

噂に聞いていた妊娠初期の症状と、大分様子が違ったのだ。


まず悪阻がない。

私の食欲は大変に旺盛である。

なんでもおいしく頂ける。


酸っぱいものも、とくに欲しいとは思わない。

いや、正確を期すなら、酸っぱいものはもともと好きだ。

揚げ物に限らず、レモンとか、がんがんかけちゃう。

エリスとは、不倶戴天の敵同士である。


白身魚のフライについてだけは、和平協定を結べたのだけれど、それ以外はさっぱりだ。

牡蠣フライに、レモンかけないのはあり得ないと思う。


間が開いていることには当然気づいていた。

それでも、確信を持つことは難しかった。


私は、魔法を使って、代謝を抑えることがままある。

このせいで、二か月ぐらいの遅れは、よくあることだったのだ。


もしかしたら。

いやでも、まだわからない。


無駄に周囲を心配させるのも嫌なので、私は黙っていたのである。


だが、ことここに至って、流石に勘違いということもないだろう。

自覚症状として、情緒不安定な時期が、あったりもした。

多少の違和感は、感じていたのである。


よし。

私は決意した。


重い腰を上げて、主治医のヘルマン先生のもとを、訪ねることにしたのである。

怒られる覚悟は、完了済みだ。

恐れずに立ち向かわなければなるまい。


そして、私はお母さんになるのだ!

医局は、既に、王城の中に移っていた。

その中でも、ヘルマン先生は、私の主治医ということもあって、大きなお部屋をお持ちである。


立派な扉をくぐって、私は雷魔神、ヘルマン先生のところへ出頭した。


お久しぶりです、ヘルマン先生。

挨拶もそこそこに、私は、早速要件を切り出した。


「できちゃったみたいです。確認したいので、検査薬を下さい」


「ほほう。ちなみに、以前の生理からはどのくらいですかな?」


「三ヶ月です」


ヘルマン先生はにっこり笑ってから、筆を出した。


筆だ。

ペンじゃない。

筆だ。

そんなもの、どこから出した。


そして彼は、大変、力強い筆跡で、壁に貼り付けた人体図の上に、荒ぶる思いを書きなぐった。


『どうして、今まで黙っておられたのですか!!!』

でかい。

そして雄々しく、荒々しい。


ヘルマン先生、入魂の一筆である。


私は、当然の質問を、ヘルマン先生に投げかけた。


「あの、先生、なぜ筆談を?」


「大声を出しますと、お腹の赤ちゃんが、びっくりしてしまいますからな。当然の配慮ですぞ」


ヘルマン先生は、仏の笑顔で微笑まれた。

でも、彼のこめかみがひくついている。


やっぱり、激おこモードだぁ。


いや、当然だ。

予想もしていた。


やっぱ黙ってたのはまずかったなぁ。

でも、私も初めてのことなのだ。

次から気をつけるから、許してもらいたいね。


私は、とりあえず検査薬をもらって退出した。


それから、ちょいちょいっと確認。

ばっちり陽性になって、ぐっと、ガッツポーズを決める。


おおー。


なんか感動である。

えへへ。

すごいな。


大好きな人との子供となると、感慨もひとしおだった。

結果を片手に、お腹を撫でながら、私は、ヘルマン先生のお部屋に取ってかえした。


「陽性でしたわ、ヘルマン先生!」


「おお、おお! おめでとうございます、アリシア様! では、お説教の時間ですぞ!」


「えぇー、そんなー」


私はにやにやしながら、ヘルマン先生の向かいに座る。

普段は、お説教なんてごめんだけれど、今日は違う。

何しろ、このお小言で、おめでたを実感できるのだ。

どんどん、怒ってくれたまえ。

そして、私をお母さん扱いしてください。


ヘルマン先生は、満面のにこにこ笑顔で、こんこんとお説教をしてくれた。


よいですかな。

私は、皇統などというものは、正直どうでもいいのです。

それよりも、アリシア様のお体が心配なのです。

子供を産むと言うことは、素晴らしいことです。

ですが、同時に母体には、大変な負担がかかる。

女性にとっては、大事業なのです。

しかし、アリシア様には、どうにも、その自覚が薄くていらっしゃる。

・・・・・・。


私は、これを聞きながら、にやにやと、しまりのない笑顔を浮かべていた。

もっとだ、もっと言っておくれ!


「アリシア様、反省しておられますかな?」


「もちろんですわ、ヘルマン先生。このアリシア、大いに反省しておりますのよ」


「そのお顔では、反省しておられるようには、見えません。まったく、アリシア様には困ったものですなぁ」


にこにこ、ごちーん。


にこにこ、ぷんのヘルマン先生から、拳骨をいただきました。


でも今は、この痛みすら、誇らしい。

痛いってことは夢じゃないのだ。


「もう、ヘルマン先生、赤ちゃんが、びっくりしちゃうじゃありませんか」


「だまらっしゃい。今迄、どれだけの無理されてきたか、ご自覚がおありか」


ヘルマン先生は、真面目な顔だ。

私も、ちょっとだけ反省する。


私はこの内戦でも、陣頭で指揮をとった。

野戦も攻城戦も夜討も朝駆けも、戦闘行動をフルセットでこなしちゃったのである。


でも、私の戦場行脚に、この子はついてこれた。

きっと、強い子に育つに違いない。


それに、私は、自分の体に自信があったのだ。


「私は、魔法使いです。私の体は人間離れしているのです。ご心配には及びませんわ」


私は、事実を事実として、ヘルマン先生に告げた。


ヘルマン先生は、これを聞いて怒ってしまった。


「それがどうしたというのですか! アリシア様が、初産の女性であることに、変わりありませんぞ! 魔法だかなんだか知りませんが、そんなものは、関係ないのです。今まで以上に、お体には、気をつけていただかなくては困ります。これからは、週一で検診ですぞ!」

もう、カンカンである。

私は、三度のげんこつを落とされて、半泣きだ。


もう!先生ったら、何度もげんこつを落とさないでくださいませ。


ぽろりと涙がこぼれ落ちる。


私の涙には、どうしても、うれし涙が混ざってしまう。


だって、ヘルマン先生は、とても優しいのだ。


私は、魔法使いだ。

衝撃を受けても、魔法の壁が吸収するし、体が傷つくのも防いでくれる。

私の体は、人間のそれよりよっぽど丈夫で、頑丈なのである。


現に、妊娠してからも、ほとんど変調がないのである。

間違いなく魔力の影響だろう。

こと身体に関して言えば、私は、女の体をした、化け物の一種なのだ。


でも、ヘルマン先生は、そんな私のことを心配してくれる。


これまでも、今この時も、先生は、真摯にそんな私に向き合ってくれるのだ。

本当に大事にしてもらっていると思う。


私には、それがうれしかった。

うれしくて、うれしくて、だからついつい甘えちゃうのだ。

ごめんね、ヘルマン先生。


ごちーん。


それはそれとして、先生はちょっと、手が早すぎるんじゃないかな。


本日四回目の物理攻撃であった。

一日の最多記録を、更新である。

先生の怒り大きさが、知れようというものだ。


ヘルマン先生は、ふんすと、威厳ある鼻息を吹き出した。


「アリシア様は、魔法使いですからな。ご理解いただくには、これぐらいしませんと」


「先生。さっきは魔法使いだからって、特別扱いしないと、仰っていたじゃありませんか!」


「魔法使いは、頑固で言うことを聞かないと、私は学んだのですぞ! アリシア様にはこれまで以上に、びしばし指導をさせてもらいますぞ!」


性格と、魔法使いは、多分関係ないよ、ヘルマン先生!

怒られて、私は、わざとらしく膨れ面をしてみせた。

不機嫌を装いきれずに、頬のあたりがひくついてしまう。


先生は、そんな私のしまらない変顔を見て、笑っていた。


先生は、有言実行の人だった。


以後、魔法使いには、厳しめの検診をするようになったらしい。

この後しばらくして、メアリも、先生に見てもらうことになる。


大魔法使いのメアリは、私のとばっちりで、大変に厳しく生活を指導されたらしい。

いい迷惑だとぼやいていた。

ごめんね、メアリ。

でもメアリも無茶するから、彼女に関する限りは、私はヘルマン先生の味方であった。



私は私室に戻ると、このことをメアリに報告した。

メアリは、大喜びしてくれた。


「おめでとうございます。アリシア様! 良かったです。本当に、良かった」彼女は、私を、ぎゅっと抱きしめてくれる。

抱きしめられるとあったかい。


でも泣かないで、メアリ。


ちょうど来ていたコンラートが、メアリに絡もうとして、思いっきり蹴っ飛ばされていた。

そこは空気を読め、コンラート。


彼は、私のおめでたを、ジークに知らせに行った。


メアリは、父の元へ伝令を飛ばした。

メアリ本人は、私の側にいてくれるみたいだ。


「触っても、よろしいですか、アリシア様」


「ええ、もちろんよ」


メアリは、優しくわたしのお腹に触れる。

まだ、膨らんでないから、わからないよ。


私の優しい気持ちは、だが、メアリとは共有できていなかった。

なんと、奴は、次の瞬間、こう言ったのだ。


「良かった。これ、脂肪じゃなかったんですね。アリシア様が、本物の子豚になるんじゃないかって、わたくし、心配で心配で」


おい、こら、メアリ、さっきの「良かった」ってそういう意味かよ!

私は笑いながら憤慨して見せた。


それから、私は、側近の皆にも、このことをお知らせした。

みんなも、負けず劣らずの祝福をくれる。


普段、クールな女を気取っているクラリッサは、目をうるうるさせながら、唇をぎざぎざ一文字にして、涙をこらえていた。

顔をぐしゃぐしゃにしながら、お祝いしてくれる。


「おべでどうございばす」


ありがとう、クラリッサ。

キャラ変わるぐらい、喜んでくれると、私もうれしいよ。


ステイシーは、相変わらずにこにこしていた。

でもいつもより、嬉しそうなにこにこ具合だ。

最近、ステイシーの微笑みも見分けがつくようになってきた気がする。


よく考えてみたら、彼女は、二児のお母さんだ。

私の大先輩である。


「これから、よろしくね。私は、わからないことだらけだから、頼りにしてるわ」


「ええ、お任せくださいませ、アリシア様」


私が頼むと、ステイシーは、目をきらーんと光らせてから請け負ってくれた。

頼もしい。

目に見えてやる気になったステイシーは、ちょっと珍しいかもしれない。


エリスは、手放しでおめでたを祝福してくれた。

それから、お母さん向けのグッズの取り寄せるべく、実家に手紙を書いてくれる。


「無償で提供させますから、お任せくださいませ!」


アリシア様は、最高の新製品をいち早く使えて幸せ。

私たちも宣伝できて幸せ、これぞ両得の作戦ですわ!

エリスはやっぱりエリスだった。


こいつめぇ、と私がつつくと、彼女は私の体の具合を聞いてくれた。

エリスは、早くに妊娠して苦労している、親戚の女の子の面倒を見たことがあるそうだ。

その時に試した、いろいろな食べ物を教えてくれると言っていた。


「唐揚げレモンも、しばらくは、多めにみて差し上げます」


ありがとう、エリス。

でも、しばらく揚げ物は自重するつもりだから、好きに食べてくれて良いよ。


私は、側近のみんなから、思い切り祝福されたり、沢山かわいがられたりしていた。

そこに、だだだっと、外から近づいてくる足音がする。

気配は、私の部屋の扉の前で急停止する。


こんこん、おそるおそるのノックの音が響いた。


「どうぞ」

心当たりがあった私は、入室の許可を出す。


お客は、やっぱり父だった。

彼は、やけに丁寧に扉を開けて、足音まで忍ばせて部屋に入ってきた。

父は、肩で息を切らせながら、自分のお腹をまるっとゼスチャーで指し示す。


私もにっこりとうなずきを返した。


「お父様、できちゃいました」


「そうか・・・・・・、そうか、アリシア! やったな、俺は、俺はうれしいぞ!」

父は、感極まったように、空を仰ぎ、それから力を漲らせた。


上半身の筋肉が急激に肥大化する。


ばしゅー!

威勢をのいい音とともに、バチンバチンと音がして、シャツのボタンがはじけ飛んだ。


父のバンプアップだ。

ちぎれたシャツの胸元から、厚い胸板が覗いている。

ボタンを三段吹き飛ばすとか、今回は、相当に気合いが入っていた。


今日もキレキレですわ、お父様。

相変わらず、汗臭くて、暑苦しい。

私はとっても落ち着くよ。


胸元をはだけさせた父が、湯気を立ち上らせながら、恍惚とした表情を浮かべていた。


「ふー、久々にやってしまったよ。アリシア、おめでとう」


「ありがとう、お父様。今日もいい筋肉ですわね」


父は満足げだ。

メアリは目を細めてにこにこしている。

ほかのみんなは目を丸くしていた。


これは、父なりの喜びの表現なのだ。

実は、彼はゴリラなんだ。

暖かく見守ってあげてほしい。


父は、跪いて私の髪を優しく撫でてくれた。

優しい大きな手のひらに、私も手を重ねて目を閉じる。


「そうか、アリシアも母になるのか」


「ええ、お父様は、もうじきおじいちゃんですよ」


「それは、楽しみだ。とても楽しみだな」


父は、私をぎゅっと抱きしめてくれた。

それから、やる事があると言って、部屋を後にした。


「お父様は、お忙しいのね」


「ええ、大変に、やる気になっておられましたよ」


メアリは、にっこりと微笑んだ

私は、お部屋でおしゃべりしながら、ジークのことを待つことにした。

もう知らせは行っているはずなのに、ジークは遅いなぁ。

本当は一番に教えてあげたかったのだけど、こういうのはなかなか難しい。


「殿下は、まだいらっしゃらないのかしら」


「今日は、お忙しいとのことですわ」


「そう。ではお待ちするしかないわね」


私は、一つ頷いて、エリスが差し入れてくれた、赤ちゃん用品のカタログに目線を戻したのだった。


その日、ジークは、私の部屋に来なかった。



ここからは、人から聞いた話だ。


私が部屋で、子供の名前を考えている時、ジークは、私の部屋へと向かっていた。

アリシアの懐妊を知らされたジークは、仕事なんて放り出して、私の部屋へと直行したそうだ。


でかした、アリシア!


急くように歩みを進めるジーク。

その彼を、呼び止める声があった。


「ジークハルトくぅぅぅぅぅん」


ラベルだった。


どうした、ラベル、いつもより、数段暑苦しいな。


父とジークは気安い仲だ。

ジークは、歩みを止めずに、返事する。


「ラベルか。今、俺は急いでいる。また後でな」


「いやいや。ちょっとオハナシしようじゃないか。大事な話があるんだよ」


背後にぬるりと回り込んだ父は、がしぃっとジークを捕まえた。


父の腕は、ジークを力強く拘束する。

剛力で押さえ込まれて、ジークは身動きがとれなくなった。


「なんだ、ラベル。俺は急いでいると言っただろう」


父は、ジークの問いには答えずに、ぐるんと彼の前に回り込んだ。


ジークと父と目線がぶつかる。

ラベルの瞳にあったのは、暗くよどんだ、漆黒の深淵であった。


ここでジークは異変に気づく。

彼の頭脳が、危険を知らせる警鐘を鳴らす。


「ラベル。手を離してくれ」


父は、ジークの言葉には答えない。

代わりに、護衛の騎士に問いかける。


「彼を借りるが、よろしいか?」


ラベルから水を向けられた近衛の騎士は、どうぞどうぞと微笑んだ。


父が再び、ジークハルトに向き直る。

間近に寄せられたラベルの体からは、むわっと汗のにおいがした。


ジークは戦慄した。


「さあ、付き合ってくれ給え、ジークハルト君。まだ一日は長いんだゾ」


付き合ってくれ給え。


ジークは、この言葉に覚えがあった。


夏の日、練兵場、初の顔合わせ。

ジークの脳裏によみがえるのは、あの汗臭い夏の思い出だ。


嫌だ。

筋肉は嫌だ。

俺は、アリシアの柔らかい体がいい!

ジークは、父の手から逃れようと暴れた。

そしてあえなく捕まり、拘束された。


「おい、やめろ、離せ。アリシア、アリシアァァァ!」


そしてジークは、連れ去られたそうだ。

近衛騎士の方は、ただ笑顔で見送ったとのこと。


父とジークの仲がいいのは嬉しいけれど、皇子の護衛がそれでいいのかしら。


お父様がその気になったら、誘拐できてしまいそう。

というか誘拐だよね、これ。



日もとっぷり落ちた頃、私の元に、ジークが帰還したと報告が入る。

私は、いそいそと彼の元へと出向いたのだ。

私はジークと、医務室のベッドの上で再会した。


ジークはぐったりとした様子で、ベッドの上に横たわっていた。


「一体、何があったというの?」


「実は・・・・・・」


担当の医官が、重い口を開く。


ジークは、汗と、ぬるぬるする液にまみれて、練兵場で倒れていたそうだ。

彼を見つけてくれた、帝国の兵隊さんは「ひどい有様でした」とだけ口にして、あとは黙秘を貫いた。

ジークは、命に別状はなく、ただひたすらに、精力をそがれていたとのこと。


なんてこと!

私は彼にすがりついた。


「ジーク、大丈夫なの、ジーク? 一体、誰がこんなひどいことを!」


私は、彼の手を握り、呼びかける。

彼は、うっすらと目を開けた。


「あぁ、アリシアか。君と俺の子供ができたんだな。アリシア。ありがとう、これだけは、俺の口から伝えたかったんだ。俺は、もうだめだ。後は、任せた・・・・・・」


ガクリ。

そして、ジークは力尽きた。


ジークー!

泣き崩れた私の肩を、そっとメアリが抱きしめてくれる。


「ジークハルト殿下の分まで、生きてくださいませ、アリシア様」


「そうね、ジークの愛は、私の中にあるのだから」


そして、私は、医務室を後にした。


今日は、お父様から夕食を一緒に食べようと、お誘いを頂いていた。


久しぶりに、メアリと三人でお食事会だ。

ちょっと紳士な感じのお誘いに、私は内心うきうきである。


お父様はいっぱい食べるから、見ていてとても気持ちがいい。

メアリが私をエスコートしてくれる。


「・・・・・・あぁ、アリシア。アリシア、そこにいるのか? アリシア?」


ベッドの上でうめくジークを置いて、私は医務室を後にしたのだった。


私は、しっかりお夕食も完食した。


とても、楽しい一日であった。


これからは、私だけの体ではなくなるのだ。

健康管理には気をつけねばなるまい。


私もお部屋に引っ込んで、その日はしっかりお休みしたのであった。


これが、王国と協商の宣戦布告、翌日の出来事である。


戦争開始から一日目、王国軍では、司令官アリシア・ランズデール元帥の懐妊が明らかとなる。

司令部は、全会一致で彼女の戦線離脱を決定、ランズデール元帥は、これを受けて前線から退くことになる。


同時に、連合軍総司令官ジークハルト・フォン・ミュンテフェーリングが、謎の事故により精力を喪失。

彼もまた、丸一日の休養を余儀なくされる。


連合軍の士気は、異常なまでに高揚し、意味もなく叫びを上げるもの、全裸で街区に繰り出すものなどが続出し、綱紀を正すため、憲兵隊が動員される騒ぎとなった。


ランズデール騎兵隊は、アリシアの父、ラベルが指揮することになった。

帝国軍は、復活するたびにパワーアップすると噂のジークハルトが、これまで通り統括する。


協商は、王国の国境を越え、その東部へと侵攻を開始。

連合軍は、王都にて、これを迎え撃つ構えをとった。


我が連合軍に、憂いはない。

戦争の勝利は、疑いなかった。

ステイシー「子育ても、戦争ですわよ!」

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