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戦姫アリシア物語  作者: mery/長門圭祐
女王アリシア
80/116

奇襲作戦とわたし

夜。


私は、えっちらおっちら、長い梯子を登っていた。

場所は王都の外壁、東門付近だ。


敵拠点に、夜間襲撃をかけに来たのである。


その日、私達は、王都城壁を中から制圧するための作戦に従事していた。

今は、王国兵の手引の元、城壁内部への侵入を試みているところである。


南門周辺は、ランズデールから近いということで、警備が厳しいだろうという予想があった。

故に最も警戒が薄いであろう、東門近辺から、忍び込む事になったのである。


でも、このザルみたいな警戒体制だと、どこから攻めても同じだったかもしれない。


城壁上には、哨兵の姿が見えなかった。

遠目に見る限り、歩哨はまばらにしか配置されていないようだ。


これで、王国軍は、戦争に勝つ気が、あるのだろうか。

私は首をかしげた。


煌々と照らす月明かりのおかげで、視界はとても良好だった。

夜の闇の中、長い長い、梯子の上を、五十人ほどの人間が、順番に登っていく。

私、メアリ、ステイシーと帝国軍特殊部隊の精鋭、二個小隊が、その内訳だ。


状況は順調だった。

既に、半分ほどのメンバーが、登はんを完了している。

今は私が梯子を登る段であった。

せっせと手足を動かしながら、私は上へと進んでいく。


空を見上げれば、真ん丸のお月さまが浮かんでいた。

今日は綺麗な満月である。

こんな明るい夜に夜襲とか、常識で考えたらあり得ないのだ。

でも、明るければ、事故も少なかろうということで、本日の奇襲決行とあいなった次第である。


王国軍の馬鹿にされっぷりが酷かった。

でもそれでうまくいっちゃうんだから、彼らは反論できないだろう。


空の月から視線を移して、私は、梯子を先行する同僚を見上げた、

すると今度は、真ん丸なお尻が見えた。


メアリだ。

メアリのお尻は大きい。

どっしりしている。

お肉がしっかりついているのだ。


あっ、メアリがこっち見た。


ちょっ、おい、やめろ、メアリ。

蹴るんじゃない。

落ちたらどうするんだ。

私の下には、ステイシーと、帝国兵の皆さんがいるんだぞ。


みんながどうなってもいいのか!

メアリは、容赦なく、私の頭を踏んづけてきた。

一体、奴は、主であるアリシアを何だと思っているのだろうか。

足蹴にするとか、相当だぞ。


それとは別に、メアリの読心術が、人外の域に達しつつあるのだけれど、どういうことなのだろうか。

新種の魔法を覚えたのか。

メアリが、どんどん手に負えなくなってしまう。


要らぬ諍いで体力を消耗しつつ、私は、目的地までたどり着いた。

狭い鎧戸をくぐって、塔の中に侵入する。


お邪魔しまーす。


軽い身のこなしで、ぞろぞろと私の手下たちもやってきた。

欠員はなし、良い滑り出しである。


私達が足を踏み入れたのは、かなり広めの一室だった。

百人ぐらいで詰めても、余裕がありそうな大部屋だ。

天井も、長槍を振り回せるぐらいには、高さがある。

防御塔の、指揮所のようなものかもしれない。


窓は小さいが、灯りを増幅する魔術具のおかげか、部屋の中は意外と明るかった。

石造りの壁の上に、等間隔に灯りが並んでいる。


塔の中に乗り込んだ私の周囲には、先行していた帝国兵の皆さんの他に、手引にあたった王国兵の姿もあった。


その中の一人が、手を上げて近づいてくる。


王国兵の恰好をした男は、王国人ではなかった。

その男の顔を見て、私は相好を崩した。


「ランベルト、あなた、こんなところにいたのね」


「クラリッサから、命令書が届きましてね。敵地に潜り込んで、閣下の手引きしろと。もう、無茶振りばっかりですよ。このままじゃ、過労死しちまいます」


「そう言いつつ、しっかり仕事をするあたり、貴方もなかなかやるわね。ご苦労様」


この男の名はランベルト。


クラリッサの配下に付けた、帝国の自由騎士の男だった。

私にとっては、カゼッセル武闘会以来の顔合わせである。


クラリッサが「こき使ってます」と言っていたけれど、本当にこき使われているようだ。

なにより、元気そうで私は安心した。


「俺が、今日の案内役です。概ね、作戦は予定通りに進行中です。概ねですがね」


「もう少し、詳しく説明してもらえないかしら」


「へい」


この男、説明が適当すぎて、状況がわからん。


こんなにいい加減なのに、あのきっちりしたクラリッサと、うまくコンビを組めるのだから謎である。


騎士なのに、全然騎士らしくないランベルトが、状況について説明してくれた。


今回の作戦目標は、王都の城門の一つを制圧することだ。

門さえおさえてしまえば、城壁がいくら高くても、障害にはならない。

頑丈な城壁を無力化するのだ。


はじめに、私たちは内通した王国兵達を、王都の守備隊に潜り込ませることにした。

彼ら、アリシアに忠誠を誓った王国兵達は、何食わぬ顔で王都に帰還すると、近々、敵軍からの攻撃があることを、王都の人間に知らせたのである。


通常なら、この手の情報をもたらした人間は、多少なりと疑われて、取り調べを受けることになる。

だが、彼らはなんの猜疑も受けなかった。


当時の王国は、それどころではなかったからだ。


原因は、アランの敗戦処理だ。

王国の騎士団中枢は、帰還した王国兵の処遇より、負け戦の責任をなすりつけ合うのに、忙しかったのである。


特に騎士団長は、自らの保身のため、弁明に忙しかった。

勝利は確実とばかりに言い立てた挙句、兵を増員までしたのに、部隊を全滅させられてしまったからだ。


しかも敗軍の将は、彼ご自慢の嫡男である。

人の良さぐらいしか取り柄がない僭主ジョンにまで、手腕を疑われて、騎士団長は必死の釈明に追われていた。


王国軍のトップは、防衛戦の指揮よりも、自己保身を優先した。

帰還した王国兵達は、勝手に持ち場を守れと、放置されることになったのである。


なら勝手にさせてもらいますよと、私の手先の兵達は、王都防衛の要である城壁の守備隊に潜り込むことに成功した。


息子が息子なら、親も親だ。

戦争する気があるのかさえ、疑わしい。


守備隊に潜伏した彼らは、次は仲間を増やすことにした。

信用できそうな人間に、奇襲の計画を教えて、仲間を増やしたのだ。


もちろん、全ての兵士が信用できるわけではない。

だがほとんどの兵士は、既に戦意が萎えていた。


白旗を掲げれば、連合軍に見逃してもらえるという噂話を吹き込んだところ、その情報は口伝てで、あっという間に広がった。

そして、今、守備隊の間では、白いシーツが大人気だ。

このシーツを切り裂いて、白旗を作るのである。


襲撃が予告されてから、しばらくの間は、それでも、比較的マシな警戒態勢が敷かれていた。

しかし、三日も経てば、緊張感も薄れてくる。

警戒に当たる兵士たちの意識は、また緩んでしまった。


そして私の元へ、好機到来の密書が届く。


「今なら、確実に成功します」

そして、内通者達に手引された、私アリシアが直卒する精鋭部隊が、まんまと侵入を果たしたという次第である。



王都を守る城壁は、十を超える防御塔と、四つの城門、そして、それらを結ぶ防壁で成り立っている。


私たちが侵入したのは、東門のすぐ南に位置する塔の一室だ。

ここから時計回りに、城壁上を進んで、南門を制圧するのが、今回の作戦である。

塔一つを挟んで、その隣が南門だ。


味方の兵力は、私、直属の帝国兵が五十、これに加えて、寝返った王国兵が約千ほどである。

正直、戦力としては心もとないが、半日持ちこたえれば、ランズデールから、増援が駆けつける手はずになっていた。


飢えて士気も低い王国兵が相手なら、例え一万の兵に囲まれてたとしても、すぐに負けたりはしないはずだ。


しかし、その見立ては狂った。


ランベルトからの報告を聞いて、私は目を剥いた。


「城壁の守備兵は、たったの三千しかいないの? 」


「ええ、今、王都は大荒れでして。特にアランが負けてから、一気に状況が悪化しやした。それで、市民の蜂起を怖がった、国王と側近共が、兵を王城に集めたんでさ」


なんとこの緊急時に、城壁上の守備兵が減らされていた。

王城に一万以上の兵を引き上げたせいで、城壁にはたった三千弱しか兵が残っていないとのこと。


しかも、そのうちの千名は、裏切り者だ。


実質的な守備兵はたったの二千。


最大人口三十万を抱える大都市を、ぐるりと囲む外壁にたった二千である。

これで防壁を守れるわけがない。


だって、すかすかになってしまうもの。


各塔と城門に百人、城壁に百人置いたら人がいなくなる計算だ。

しかも三交代制で勤務するとした場合、数は単純計算で三分の一になる。


城門を守る守備兵はたったの数十名。

下手をすれば、大きめの商店よりも警備が薄そうである。

盗賊団に襲われたら、突破されちゃうんじゃなかろうか。


既に、勝利が確定しそうな感じであった。


これはついてる!

楽な戦いが大好きなわたしは、この情報を手放しで喜んだ。


緩みそうな頬を、努力して引き締めながら、私はみんなを見回した。


「状況が楽になったと考えましょうか。当初の作戦通り、始めるわよ」


私が声を落として宣言すると、皆も「おう!」、と唱和した。

全員、なぜかちょっと声量は抑えめだ。

今から大騒ぎするので、小声に意味は無いのだけれど、ちょっとコミカルである。


作戦内容は単純だ。

塔や門といった防御施設は、防壁内を通る回廊でつながっている。

その回廊には、宿直の兵士たちのための休憩室へつながるものもある。


そこは、とても警備が薄い。


この、警備の薄い回廊を突っ切って、城門と防御塔だけを、制圧してしまうのだ。

長い防壁は完全無視だ。

防壁と各施設との出入り口を、バリケードで封鎖して、城壁上の守備兵は、閉じ込めてしまう算段である。


あるいは、就寝中の兵隊が、回廊につながる部屋の中にいるかもしれない。

彼らに、連絡路を封鎖されてしまうと困るので、私が最先行して寝所の扉を壊していくことになっている。


もし、部屋に人間がいた場合は、私の後ろからついてきた、王国兵の人たちが、縄で縛りあげてくれる手はずになっていた。


私は、超パワーで扉をぶっ壊していく係である。

そんな私の得物は、金属製のハンマーだ。


そして、クラッシャーアリシアが出陣する。


私たちは、夜の城壁、部屋の扉、壊してまわった。

王都の支配からの卒業だ。


メアリも私とおそろいの鉄槌装備だ。


廊下を走り、木製の扉を見つけたら、二人で囲んでぶったたく。

餅つきみたいな要領で、ぺたこん、ぺたこん殴るのである。


いや、効果音は、「ぺたこん」なんて可愛いものじゃなくて、「ドグシャァッ」とか「ボゴフ」みたいな物騒な感じなんだけどね。


私もメアリも身体強化を効かせている。

二人とも動きは軽やかなので、破砕音さえしなければ、「ぺたこん」という感じなのである。


見つけた扉は、粉砕する。


私たちは手際よく、作業を進めていった。


最初の二部屋は、もぬけの空だった。

三つ目の扉を破ったところ、お部屋の住人さんたちと目があった。

彼らは、就寝中に叩き起こされた感じだ。

全部で十人ぐらいかな。


私はおはようの挨拶をする。


「帝国軍です。夜襲にきました」


「降伏します!」


寝起きにも関わらず、王国兵の皆さんは、とても動きが機敏だった。

枕元から白旗を取り出すと、力いっぱい広げてみせる。

彼らはすぐに投降した。


良いね。

余計な流血がないのがとても良い。


私は、後を、後続の王国兵に任せることにした。

作戦は、大変順調に進んでいき、私はどんどんと先に進む。


それなりに、大きな音をさせているのだが、警備の兵士などはあらわれない。


守備隊には、本当に人間が少ないのだ。

あと、少人数で分散しているせいで、対応にあたることができないのかもしれない。


そして私は、隣の塔に突入した。


道中、五十人ほどの王国兵を捕虜にした。

彼らは、誰ひとりとして抵抗しなかった。

犠牲は私に酷使された鉄ハンマー、一本だけだだ。


鉄槌は、柄がポッキリ折れてしまった。

信頼性に定評がある、帝国製品とは思えない、軟弱さだ。

製造者に文句を言わねばなるまい。


私は、二代目のハンマーを背負い、腰の帯剣に手をかけて、塔の階段を駆け上る。

ざっざか勇ましい足音をたてて、階段を駆け上り、大部屋の前までたどり着いた。

おそらく、ここがこの塔の指揮所であろう。


一旦、私はその場で止まり、率いるの面々が集まるのを待ち受けた。


扉の隙間からは、部屋の灯りが漏れていた。

おそらく、守備兵が詰めているだろう。


城壁内に突入して、初めての戦闘の予感に私は気を引き締めた。


(だれが行く?)

(はいはい! 私が行きます)

(いえ、ここは私が)


私が出番を振れば、メアリとステイシーが、出番の取り合いだ。

女バーサーカーどもは、本当にぶれないな。


でも、なんで君たち、そんなに血に飢えてるの?

今回、メアリは、木の扉などの無機物相手に、大暴れしている。


故に対人戦の切り込みは、ステイシーに任せることにした。


ステイシーを先頭に、メアリ、私、帝国軍特殊部隊の順で部屋の中に突入だ。


目線でタイミングを合わせてから、私とメアリが扉をぶち破る。

二人の息の合った攻撃が、頑丈な扉に炸裂し、ズガァーンとわかりやすい破砕音を響かせた。


飛び散る木片、金属片。


そして、ひしゃげた扉に穴が開く。

それを突き破って、脳筋ステイシーがダイナミックに入室である。


素晴らしいアクションだ。


メアリ、それから私も、彼女のすぐ後に続いた。

身を低くして突入する。

ハンマーを脇に投げ捨てながら、敵の迎撃を予期した私は、帯剣を抜き放った。


敵は待ち構えているはずだ。


その、私の予想は、外れた。


部屋の中で、私達を待ち受けていたのは、歩兵隊の槍衾でも、玉砕戦術を企図した油まみれの男でもなかった。


その部屋にいたのは、二十人を超える半裸の男達と、数人の全裸の女性であった。


部屋の中は、夏の暑さに人間の体臭が加わて、酷く空気が淀んでいた。

薄暗い灯りに照らされた、テーブルの上は荒れ放題だ。

酒瓶が転がり、食べかけのパンやらチーズやらで、台の上が、汚されている。

王都の食糧不足を反映してか、種類も量も少ないが、食い散らかしているのは明らかだった。


少なくとも、彼らの有り様は、戦いに備えてのものでは無い。


恥を偲んで告白しよう。


私は、一瞬、思考停止に陥った。


まさかこんな前線で、破廉恥行為にふける人間がいるなどとは、私の想像の埒外であった。

うっかり寝起きに、お父さんとお母さんがいたしているところを目撃してしまった、子供の気分である。

私は、ついぞそんな経験はなかったけれど。


ただ、如何な予想外の状況であれ、立場ある指揮官が、仰天して止まってしまうのは頂けない。


面目無いと思う。


私は、不覚をとった。

以後気をつけます。


私の中身は、ねんねな小娘であった。

そんなお子様な私と違い、ステイシーは流石だった。


敵の晒した醜態を、与しやすしと彼女は断じ、電光石火の素早さで、早く鋭く切り込んだ。

容赦ない刺突が、一人を血の海に沈め、剣を抜きざまに、もう一人の頸部を断ち切る。


ちっ。


私は、半ば自分の失策に舌打ちしながら、腰元から投擲用の短剣を引き抜いた。

狙うは、テーブル中央に陣取る、一番偉そうな男だ。

弛緩した腹に一発、眉間に一発。


絶命の悲鳴も上げぬまま、男はその場に昏倒する。

その後の展開は、一方的だ。


どう見ても非戦闘員である女性を除いて、私たちは、敵と思しき人間たちを、打ち倒した。


残された女達は、尖った肩を震わせて、泣いていた。


「末期ですわね」


メアリが嫌悪感と侮蔑をないまぜにして、吐き捨てる。

ああ、同感だ。


彼女たちも、非戦闘員とは言え、状況が落ち着くまでは拘束する必要がある。

ここは、最近城壁で大人気だったらしい、グッズの出番だろう。


シーツだ。


私はとりあえずそれを持ってこさせると、彼女たちをくるんでおいた。


塔の制圧は、さしたる障害もなく完了した。

作戦に従って、私達は、南門まで駆け抜けた。


通路を走り抜けながら、扉をぶっ壊していくのは忘れない。

もっとも襲撃騒ぎは、王国軍にも、知れ渡っているようだ。

どの部屋も、空であった。


私たちは、まもなく、南門に到着する。

そこでは、白旗を掲げた兵士の群れが待っていた。


守備兵の長と思しき男が、私の姿を認めて、進み出た。

彼は、平服姿に丸腰で、白い手旗を掲げている。


「投降します」


私は、頷く。


それからの交渉を、メアリに任せた。


「そちらの司令官は? 」


「名目上の司令官は、既に戦死しております。現在は、私が代行を務めております」


「そう、わかったわ。あなた方、王国軍の投降を認めます。残りの兵たちも、ただちに指示に服させなさい」


「承知しました」


男が合図すると、彼の部下と思しき兵達が駆けていく。

飢えもあるのだろう、王国兵達は皆、やつれた顔をしていた。


私に降伏を申し出たこの男は、守備隊を実質的に取り仕切っている男だった。

彼は、ランズデールからの攻撃が予想される南門に、まだしも戦意がある者たちを集結させていた。

だが城壁内に侵入されたことが判明し、彼らは戦うことを諦めた。


なによりも、徹底抗戦を叫んでいた貴族出身の司令官が、既に死んでいたのが大きかった。


そう、私が殺したあの男が、守備隊の司令官だったのである。

期せずして、私は殊勲を上げていたことになる。

これほど、「要らねぇ」と思った手柄首も珍しい。


私は、とてもしょっぱい気分になった。


「あんな男の首など、欲しくもないわ。共同戦果にしましょうか」


「それでしたら、ランベルトの武勲としてみては? 」


ステイシーは提案した。

今回、私たちの案内にあたったランベルトは、王国に潜入し、伝令やら連絡係やらで、特に働きが著しかったそうだ。


あと危ない橋を、片手で足りないぐらい渡ってくれたらしい。


酷い扱いだと、嘆いていたそうだ。


ごめん。

でも本当に、あの男は頑丈だよね。

さっき見た感じでも、王国兵の格好をした人間の中では、一人だけ血色が良かったし。

食糧不足の王都の中で、きっちりご飯まで確保しているということだ。


彼のしぶとさは折り紙付きだ。


「クラリッサも喜ぶでしょう」


このステイシーの言葉が決め手となり、彼は手柄首を手にすることになった。


武勲を譲られる形になったランベルトからは、「もらえるものは、もらっときます。

でも、多少、釈然としないものがありますね」と複雑な顔で、お礼をされた。


恩に着ろとは、言わないよ。

特別ボーナスの、名分だと思っておくれ。


伝令が走り、武装解除した王国兵達が、続々と集まってくる。

私はその報告を、南門のてっぺんで受けていた。

間もなく、王国兵の全てが投降し、私達の作戦は完了した。


南門の制圧を目指した私たちは、期せずして、王都の城壁全てを制圧することになったのである。



かつて、王国がまだ小さかった時代、度々、王国は蛮族の脅威に晒されてきた。

王は、国民を守るため、何百年もかけて、王都の城壁を築きあげた。

時に、その高く備え付けられた胸壁の後ろに国民を庇いながら、王都は一度たりとも、落とされることはなかったのだ。


この城壁は、この地の守護者たる王国の象徴であった。


しかし象徴は、その目的を失っても肥大化を続けた。

理念を忘れたまま、高く大きくなり続けたその壁を、この日、私たちは、一夜のうちに制圧した。

ただ、巨大で堅牢なだけの石の壁は、私達にとって、何の障害にもならなかったのである。


高い城壁の向こう、東の空にら朝日が昇る。

私が立つ場所からは、壮麗な王城が見えた。


内乱の終わりが近づいていた。


アリシア「王国は滅びぬ!何度でも蘇るさ!」

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