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戦姫アリシア物語  作者: mery/長門圭祐
公爵令嬢アリシア
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歓迎をいまいち勘違いしている公爵令嬢

翌朝、私は馬上の人となった。

いざ帝国に向けて出発である! 隣にはメアリもいる。

彼女も一緒に行くそうだ。

メアリは、私とジークハルトの因縁を知っている。

昨日部屋で寝る前にちょっとだけ話したが、お供します、とだけ言って笑ってくれた。


残るように命令すれば、残ってくれるとは思うのだけど、私はついて来てもらうことにした。

私がメアリの立場だったら絶対一緒に行きたいしね。


で、朝からいざ出発だ! と意気込んでいたのだが、案内に立つはずのコンラートがなかなか来ない。

というか誰も来ない。

今、門前で待つのは私とメアリだけである。


訝しく思っていると、この領館の執事のおじいちゃんが慌てて駆けてきた。


「アリシア様! 旦那様をお止めください! 」


え、なにごと!?


呼ばれて駆けつけてみると、完全武装したウェルズリー候と領軍のおじさんたち、あわせて五十人程がコンラートを囲んでいた。

コンラートは顔面蒼白だ。

帝国軍の人たちもすごい困った顔をしている。


「いったい、なんの騒ぎです? 」


私が進み出る。


穏やかじゃないな。

君たち。


「なんの、アリシア様、せっかくの機会ですので、我々もお供しようというだけの話ですよ」


「それは無理だと申し上げたはずです! 」


コンラートの泣きが入る。

今気づいたんだけど、この人すっごい苦労人属性じゃない?


「メアリ様から事情は伺いましてな。約定のこともある。しっかりとこの目でたしかめさせていただきたい」


「アリシア様の身柄については、私の責任をもって丁重に扱わせて頂くとお約束いたします」


「ならば我らが同道したところで、なんの問題もありますまい。必要であれば人数は絞りますぞ。絶対に私は随行いたしますが」


「それは困るのです! 」


「だから理由をお伺いしたい! 」


わー、なんかすごいことになっちゃってるぞ。


会話の中にメアリの名前が出てきたので目線で尋ねると、私が候にお話したのです。

と小さく囁かれた。


君か、原因は。

なんてことしてくれるのかね!


なんでもウェルズリー候が、帝国と結んだ約定の中に、ランズデール公ならびに息女アリシアの身命保護なる条項が入っていたようで、私と彼の因縁に不安を持った候が、急遽同道を申し出たらしい。

しかも、街にいる領軍に招集をかけたとかで、強面のおじさんたちが集合している。

たしかにここにいるだけでなく、周りにも人が集まってる気配がする。


コンラートが慌てるわけである。


今すぐ、止めよう。

ここでさらに揉め事を起こして帝国の皆さんの心証を悪化させるのはまずい。

針のむしろ(予定)の帝国生活がさらに悲惨なことになりかねん。


「ウェルズリー卿」


「はっ」


「そのぐらいでお抑えくださいませ。今まで帝国と結ばれた協定で、守られなかったものはないのですから」


「しかしですな……」


「候には後のことをよろしくお願いしたいのです。頼めますか」


うちの父への伝言とかな!


ウェルズリー候はぐっとつまったが、最後には引いてくれた。

出発前から大騒動である。


ふーやれやれだぜ。


あと昨日から候がすごいかしこまってるのがとても居心地悪い。

地位としては、うちの父とウェルズリー候が同格で、候の嫡男であるレイン・ウェルズリー君のほうが私よりも上なのだよ。

低そうに見えるが、実際低いのです。


もういちいち指摘するのもしんどいから、何も言わなかったけどさ!


そして、私は帝国軍前線の要塞、カゼッセルに到着したのだ。


道中は省いた。

五日ほどかかったけど、本当に何もなかったからだ。

私の背嚢の中の保存食がちょっと減ったぐらいしか違いがなかった。


強いて言うなら、夜営の準備は帝国の人らが全部してくれたので、私とメアリは手持ち無沙汰でかえってしんどかったことぐらいだろうか。


お客様扱いも正直楽じゃないねって愚痴ったら「その貧乏性なところはアリシア様らしいですね」とのこと


メアリの毒舌が帰ってきたね! 私は嬉しいよ。



さて帝国領カゼッセル要塞である。


一口に要塞と言ってもいろいろある。

王国の要塞は、籠城と補給基地の機能を最低限つけただけの小規模なものがほとんどだ。


「要塞? 砦って言うほど小さくもないから一応要塞かな? 」ぐらいの勢いである。

一つあたり三百から五百人程度で籠もることになる。


対してこのカゼッセル要塞は違う。

でかい。

なんとかドーム二個分ぐらいある。

あと高い。

こんなに高くしてどうすんのってぐらい高い。

高さ的に四十アリシアぐらいありそう。


念のため言うと、一アリシアは私の背の高さね。

今年は小指一本分ぐらい伸びたよ。


中に入ると、儀仗兵の人たちが出迎えてくれた。

要塞なのに広間まである。

そこで殿下と謁見かな? と思っていたら、そのまま横を素通りして豪華な居室に通された。


あれ、私、家主に挨拶してないよ?


「こちらが、アリシア様のお部屋になります。どうぞご自由におくつろぎください」


そう言われて、私とメアリは放り出されてしまった。


二人きりになってメアリと顔を見合わせる。


部屋は見たことないレベルで豪華だった。

布がふんだんに使われていて、随分明るい雰囲気だ。

前線の要塞のくせして、部屋の中に、採光のための窓が広くとられているが印象的だった。

窓からは中庭が見えた。

意外とよく手入れされている。

日当たりも良さそうだ。


「籠城する時は畑とか作れそうね」


「流石にその感想はどうかと思いますが……」


でも食料大事じゃん? ま、どれだけ収穫できんのってはなしではあるけどさ。


ベットはとても大きかった。

天蓋までついてる。

この天蓋という代物なのだが、常々わたしはホコリが積もって使いにくい気がしている。

使ってみると良さがわかったりするのだろうか。


ベッドの上に座ると、ぼふっと音がして体が沈み込んだ。

ふかふかである。

試しにメアリを座らせてみると私より深く沈み込んだ。

私がにまーっと笑うと、頬をつかんでぐにぐにされる。


やめたまえ、しずまりたまえ、メアリ准男爵!


荷物をどさっと床に放り出した私達は、それからしばし思案に暮れた。


「さて、これからどうしたものかしらね」


「さしあたって、お着替えなどいたしましょうか。旅装のままというわけにも参りませんし」


「ならクローゼットを探さないとね。この部屋には見当たらないし……」


小さいテーブルや書き物机はあったが、まさか自室とやらが一室でないとは。


「これ、繋がってる別の部屋に入ったら、怒られたりしないかしら」


「問題ないかと。おそらくですけど」


順に部屋を見て回ると、ドレスでいっぱいの部屋があった。

豪華なドレスが四列横隊でお出迎えである。

シルクの光沢が眩しい。


「これ、私、触ってもいいのかしら」


「サイズ的にはアリシア様のもののようですけど」


まぁね。

私の服は標準サイズよりだいぶ小さいからわかりやすいよね。

なんで私の服のサイズ知ってるんだろうとかはあまり考えない。

怖くなるから。


さてどうしたものか。

と二人で固まっていると、来客を告げるベルが鳴った。


ベルで呼ぶのかよ。

うちは普通にノックだというのに!


メアリが迎えに出ると、侍女っぽい格好をした女性が二人入ってきた。


「はじめてお目通りをいたします。私、ステイシーと申します」


「はじめまして、クラリッサと申します。本日より、私共がアリシア様の身の回りのお世話をさせていただくことになりました。よろしくお願いいたします」


さらりと自己紹介され、ぺこりとお辞儀をされる。

二人の完全にシンクロした動きに、私は目を瞬いた。


すごいプロっぽい侍女が来たよ、メアリ!


うちのメアリが一歩前に進み出る。

見せてやれ、ランズデール家の底力を!


「アリシア様のお側仕えは、私メアリが務めさせていただいております」


「はい、メアリ様、そのように仰せつかっております。私共にもそのお手伝いをさせていただければ、と。例えばこのお部屋のことなど、ご案内させて頂きたく存じます」


クラリッサが、ニッコリ笑ってお返事する。

メアリが一歩後ずさった。


だめだ、メアリ、いきなり押し負けてどうする!


ちなみにメアリの侍女的な知識であるが、実は親戚のおばちゃんに教えてもらった程度の付け焼き刃である。

彼女の侍女力を数値にしたら、たぶん15ぐらいしか無い。


その後、メアリは二人に呼ばれて、侍女三人でこそこそっと話をした後、私は入浴することになった。

旅のホコリにまみれたままの客人に、お部屋をうろうろされるのも困るということだろう。


そして人生初の、人にお世話になりながらの入浴である。

いや、初ではないか。

赤ちゃんの時には乳母のおばちゃんに入れてもらってたはずだし。


湯船にはシャボンがいっぱいで体中あわあわにされた。

そのまま隅々まで磨かれる。

髪の毛も解いて洗われたが、すごいきしきしいうせいで、クラリッサはめっちゃ顔しかめてた。

多分私の髪は、のきなみキューティクルが死滅してると思う。

実は髪の毛って死んだ細胞の集まりだから、身体強化魔法でも修復できないのだ。

これ豆知識である。


ステイシーはメアリと一緒に黙々と私の体を磨いてくれる。

でもだんだん灰色がかってくる湯船のお湯を見る目がすごい怖かった。


湯上がりに香油も勧められたのだが、私は遠慮した。


そしてお着替えだ。


「コルセットは要りません」


私が止めると、二人は粛々として従ってくれた。

あれつけると、体を前に折れなくなるから、見た目以上に動きづらいんだよね。


そんなことを言って、体型をさっぱり矯正してこなかった私のお腹は、若干ぽっこりしている。

お腹に力をいれると結構へっこむから、今回もそれでごまかせないかな。


ドレスは、メアリに適当に選んでもらった。

殿下の好みを聞いたほうがいいかな、とも思ったが、今回はまぁ別にどっちでもよかろう。

その時になれば指定してくれるはずだ。


と思っていたら、メアリは真っ黒なドレスを持ち出してきた。

まるで喪服みたいだ。

いやこれ喪服だ。

なんでこんなのが普通の衣装の中に混じってるの。


「流石にそれはあてつけがすぎるわ、メアリ。

他のにしてちょうだい」


わたしが返そうとしたら、それはそれでよろしいのでは? と、何故か新人侍女二人に後押しされてしまう。

メアリと二人思わず真顔になった。


「こちらの青色のものなど、いかがでしょう? 御髪の銀もよく映えますし」


結局ステイシーが勧めてくれたものに決まった。


しゃららーん!


しゃなりしゃなりと歩いてみると、「お綺麗です。

アリシア様」とメアリが褒めてくれた。

えへへ。


さあ、あとは皇子様を迎え撃つばかりだ。

アリシア、突貫します!

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