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戦姫アリシア物語  作者: mery/長門圭祐
アリシア・ランズデール帝国軍元帥
62/116

アリシアと皇子

エロ回です。ご注意。

アリシアは不思議な娘だった。

特に親しくなるに従って、俺のその思いは強くなる。

俺は、だんだんと彼女に女を感じなくなっていったのだ。


いや、違う、悪い意味じゃない。

だから、悪い意味じゃ、おい、やめろ、痛い痛いかじるな。

かじるなアリシア。


…失礼。

いや、魅力がないという意味では断じて無い。

ただ、彼女といると古くからの友人といるような気分になるのだ。

とても、落ち着くのである。


会ってまだ半年も経っていない、年も一回り違う異性であるというのにだ。

隣りにいて、こうも自然体でいられる相手は、同性であってもそうはいない。


アリシアは穏やかな娘だ。

怒らぬわけではない。

不機嫌に頬を膨らませ、あるいは顔を赤くして抗議したりはする。

そんなことは、しょっちゅうだ。

しかし、明確な敵意をもって怒気を露わにする姿を、俺はついぞ見たことがなかった。

例外は、アリシアが亡命するきっかけになった、件のパーティの一件ぐらいのものだろう。


「殴っただけで済ませてしまうアリシア様は、やはりとても寛大な方だと思いますわ」


メアリなどは、そう言って底冷えする怒気を放っていた。

よほどこの従者のほうが剣呑である。



アリシアの感情表現は、極めてあけすけだ。

嬉しければ笑い、悲しければ顔を曇らせる。

好きなもの、楽しいものには貪欲で、欲しいものがあれば、目を輝かせて、おおいにねだり、好物を口にすれば頬を押さえて喜びを溢れさせる。

きれいな飾りを手にすれば、揃いでメアリにもつけさせたがり、美味い食事はおかわりを所望する。


逆に、嫌いなもの、苦手なものは、近づく気配を察した途端、脱兎のごとく逃げていく。

主治医のヘルマンなど、アリシアのこの扱いに密かに傷ついているらしい。

帝国で、一番苦手な相手を聞かれ、「ヘルマン先生!」と元気よく答えたアリシアに、ヘルマンは密かに涙を流していた。

すまん、ヘルマン、俺のせいで。


気に入った相手には、触れるのも触れられるのも好きらしい。

頭を撫でてやれば、もっともっととせがんでは、他も撫でろと体を寄せ、俺の手を両手で包んで督促もする。


総括しよう。

優しい大型犬のような娘だ。

俺は、そう思っていた。


「婚約者を捕まえて、メス犬とか、流石に言いますね」


黙れコンラート。

だれもそんなことは言っていない。



先に言おう。

俺は愚かであったと思う。

あるいは、アリシアに絆されて、若年性健忘症でも患ったのか。

なにしろ、初めてここカゼッセルで、アリシアの姿を目にした時の衝撃を、俺はすっかり忘れてしまっていたのだから。


俺は、その日、アリシアの寝室に呼ばれた。

そして、いろいろと思い出すことになる。

アリシアが女であること、俺が男であったこと、そして彼女を見て抱いた、俺の劣情のことなどをだ。


彼女をカゼッセルに迎えたあの日、アリシアは怯えた目をしていた。

その意味を、俺が察しなかったわけでは、無論無い。

俺を拒みながら、だが受け入れざるをえないアリシアに、男の嗜虐心が疼かなかったといえば嘘になる。

あの場所で二人きり、これからすることを、決して口外するなと脅しつければ、彼女を俺のものにすることもできたのだ。


アリシアは悔しげに唇を噛みながら、それでもおれに従っただろう。

ドレスを傷めぬよう、自らの手で剥ぎ取らせ、痩せた裸体を仰向けにして、寝台の上に組み伏せる。

脚に手をやり、強引に体を開かせれば、抗う術などなかったはずだ。

あるいは、その時、俺に犯されたアリシアは、喘ぎ声をあげただろうか。

辱められて涙を流したのだろうか。


全ては俺の妄想のうちだ。

アリシアの心を失うつもりはなかった。

そして、俺は、一時の欲望に身を任せる愚を知っていて、アリシアを守る諸々の事情もそれを許さなかった。

だから、あれは全て、終わったことだ。


そして、それから、俺たち二人の関係は、変わった。

無論、良い方向に。

半年という短い期間は、俺達の友情であるとか、男女の情愛であるとかを育むのに十分な期間でもあった。



この日、薄衣一枚を身に纏い、寝室に俺を迎えたアリシアは、恥じらいに俺への信頼をにじませて、柔らかい笑みを浮かべていた。


部屋を照らすのは、半分欠けた月の明かりと、夜光灯の淡い橙の光だけだった。

夜着をまとったアリシアは、寝台の前で俺を手招く。

俺は、足元をふらつかせぬよう、踏みしめるように歩みを進めて、アリシアの前に立った。

彼女はするりとガウンを脱ぎ捨てる。


薄絹に透けるアリシアの体の稜線は、柔かな膨らみを伴って、白い肌を透けさせていた。

慣れぬ薄着に、視線を受けて、恥ずかしげに隠す仕草がいじらしい。

左手が胸元を、右手が脚の間を隠すように動けば、恐れを知る少女のような仕草が、俺の目には、かえって艶かしかった。


アリシアは、俺が立ち止まるのを待って、唇を開いた。

彼女が腕を、ためらいがちに開けば、薄衣が揺れてすこしだけ肌が覗いた。


「どうです、似合いますか?ジーク」

「ああ、とても似合う」


もっとも布地などろくに見てはいない。

薄く透けるアリシアの体に、俺の視線は囚われたままだ。

俺は、半ば意識を奪われながら、それでも義務感にかられて口を開いた。

約束は守らねばならぬ。

どこまでいっても、俺は意地っぱりで頑固であった。


「背はどうなった?」

「少しだけ足りませんでした。残念です」


言ってアリシアは苦笑した。

俺も落胆の声を出す。


「そうか。俺も残念だ。とても、とても残念だ」

「ジーク、今晩、それでも私は貴方をお誘いしたいのです」

「俺の答えは以前のままだ。もう少しだけ待って欲しい」


それから、俺は、肺の底から息を吐き出す。

誓いなど、するものではない。

つくづく、俺は思い知らされた。

これほど意に反する事を口にしたのは、人生でも初めてのことであった。


アリシアは、それを聞いて笑う。

「貴方なら、そう言うと思いました」

そう、彼女の瞳は語っていた。

アリシアは、薄い唇にいたずらげな笑みを浮かべる。


「ええ、だからジーク、ここからは私のお願いです」


私に負けてくださいませんか?


アリシアはそう言って、俺の手を両手で包みこむと、ゆっくりと胸元まで運んだ。

それから、ささやかな膨らみにそっと俺の手をおしつける。


ちょっとあざといぐらいの角度で首をかしげれば、ふわりとゆれる銀の髪が肩をするりと滑り落ちた。

演技指導はクラリッサあたりか。

やるな。だがこの程度、ただの致命傷だ。


アリシアの瞳が俺を見上げていた。


「アリシアに負けて、あなたの約束を破ってくださいませんか?」


淡い光が、アリシアの薄い色をした瞳に宿る。

そして、俺のプライドと、愛する婚約者のお願いが、心の両天秤に載せられた。

その重さを比べるのだ。


結果などいうまでもない。

愛の重みが、天秤の腕を跳ね上げる。

そして、ちっぽけな俺のプライドは、空の彼方まで飛んでいき、煌めく夜空の星になった。


ご苦労だったな。

もう帰ってこなくていいぞ。


しがらみから解き放たれた俺は、とりあえず今一番したいことをした。


「あぁ、貴方に負けるなら本望だ。とりあえず抱きしめていいか?」

「良かった。でももう抱きしめてますよね?」


俺は自由だからな。

それに手は速い方だ。

俺の腕は、口よりも先に、勝手に動き、一番柔らかくてきれいなものを捕まえていた。

強く力を込めれば、アリシアもまた俺の胸に顔をうずめる。


「うれしい」


俺もうれしい。

俺は、彼女の体を抱え上げ、二人してベッドの上へと倒れ込んだ。

弾む寝台の弾力に、小さく悲鳴をあげたアリシアを、横からきつく抱きしめる。


「もう!ジークは途端にこれなんだから」


アリシアは口調こそ怒ったように尖らせたが、声もその口元も、優しく微笑みを浮かべていた。

細い腰に手を回し、へその周りを撫で回せば、アリシアはくすぐったがって笑い声をあげる。


ジークの馬鹿、えっちなどとなじりながらも、アリシアは俺の手を彼女の体の柔らかいところへ誘う。

ゆっくりと擦れば、体を少し捩りながら楽しげに笑った。



以上、延々続きそうなのでここで一旦打ち切ろう。

ここから先をご所望であればわっふるわっふるとでも書き込んでくれ。


別に続きを語るつもりもないが、様式美というやつだ。


睦事は、滞りなく進んだ。

初めての痛みに耐えながら、強く敷布を掴む彼女の指に、俺の心は少し痛み、別の心が疼いた。

その眼から涙を流しながら、アリシアは俺を受け入れた。

「安心したのです」

全て終わって抱きしめた俺に、彼女はそうポツリと漏らす。

それからしばらく俺達は抱き合っていた。



ここまでが前半戦だ。

俺は大いに面目を施したつもりであった。


しかし残念ながら、相手は不敗の名将アリシアであった。

アリシアは俺の勝ち逃げを許さなかったのだ。

まこと、ひどい女である。


俺達はしばらく二人で抱き合ったままベッドに横になっていた。

余韻に浸る俺を尻目に、ついに真のアリシアが覚醒する。


「続きをしましょう!」

「なんだと!」


俺は驚愕した。

なんとアリシアは、瞑目しながら、力を回復させていたのである。

瞑想アリシアだった。

彼女は、まだ、元気いっぱいだったのだ。


そこからが、本当に大変だった。

アリシアの体力は、無尽蔵である。

およそ一昼夜にわたり、休まず戦場を駆け続けることすらできるのだ。

この程度で疲れるわけがなかった。


しかも、ベッドの上で、俺に構われるのが、よほどに楽しかったらしい。

もっともっととねだるアリシアに、俺は、必死にしがみつき、最後はあっさり敗北した。

アリシアは、うなぎのようにぬるりと俺の後ろに回り込むと、へたれた俺の首筋や耳元に、口付けたりかじりついたりしていた。


アリシアが叫ぶ。


「楽しい!」


そうか、満足してもらえて嬉しいよ。

後半戦、いいようにやられた俺は、「そう言えば、今日は『負けてくれ』と言われていたな」と、アリシアの言葉を思い出しながら眠りについた。


やはりアリシアには、勝てなかった。

残念ではあったが、また納得するところでもあった。



うそだ。

超、悔しい。

俺は復讐を誓った。


◇◇◇


それからしばらく、俺とアリシアは夜を共に過ごすようになった。

その間、二人の間で変化もあった。


最初の頃は肌を晒す度に、恥じらっていたアリシアであるが、そのうち俺の視線にも慣れてしまうと、持ち前のあけすけさを発揮するようになった。


「喉が渇きましたね」


夜、ベッドに腰掛けた俺の前で、全裸のアリシアがぺたぺたと水を汲みに行く。

片手に盆、もう片手に水差しを持ったアリシアは、隠すものなど何もないと言わんばかりの男らしさで、前を全開にしていた。

俺の隣に腰を下ろし、にこりと笑って、杯を差し出す。


「ジークも一杯如何です?」

「ああ、もらおう」


原生林で発見した、野生の少女が見つかれば、このような有様であるかも知れぬ。

俺はぬるい水で喉を潤しながら物思いに耽った。

アリシアは美しい。

だが全くエロくないのが、俺はたいへん残念だった。

加えて、随所に見せるアリシアの振る舞いが、素晴らしく男前なのも癪に障る。

アリシアをいじめてやりたい。

俺は胸に野望を抱いた。



俺は考えぬいた挙句、腹心に相談することにした。


「エロい下着を贈りましょう」


コンラートはいい笑顔で提案した。

その隣で報告にあたっていたメアリが、まなじりを釣り上げてコンラートの足を蹴り飛ばす。

なるほど、そういうことか。


「それは貴様の経験談か?」

「はい」

「コンラート、少しお話があります」


やりきった笑顔を浮かべ、真っ赤になったメアリに引きずられていくコンラートを見送りながら、俺は思案にくれた。

全裸も恥ずかしがらないアリシアが、果たして下着程度で恥じらってくれるのだろうかと。


ものは試しと一着手配し、俺は、アリシアにそれを贈った。

アリシアは俺の贈り物を喜び、包を開いて硬直した。


「あの、今晩、これを着るのですか。私が」

「あぁ、是非ともお願いしたい」


顔を真赤にしたアリシアとメアリに対し、虫けらを見るような目で俺を見やったクラリッサの表情が対称的だった。


いけるじゃないか!

俺は内心で快哉を叫んだ。


なお、ステイシーだけはいつもどおりの笑顔であった。

彼女に視線をやればぐっと握り込んだ拳に親指を立てて、俺の英雄的行動を後押しする。


そうか、貴様も俺の同類であったか。

俺は、理解者らしいこの女の更迭を、本気で検討することにした。

このような邪な心を持つ人間を、アリシアの傍には置いておけぬ。

自分のことを棚に上げ俺は強く決意した。


「…頑張ります」


アリシアは耳まで赤くなって俯いていた。


その晩、俺はとても楽しいひと時をすごした。

久々に恥じらいを思い出したアリシアは、敷布を胸元まで引き上げて「見ないで、見ないで」と必死に隠す。

良いではないかと、シーツを剥けば、小さく悲鳴をあげながら、アリシアは寝台の上を逃げ回った。

追い詰められたアリシアは、ついにころりと転がり落ちると、今度は天蓋の後ろに回り込んだ。

アリシアは痩せた肩を怒らせて、睨む瞳を潤ませながら、必死に俺を威嚇した。


「もうもう!」


灯りに照らされて恥じらうアリシアは、それはそれは可愛かった。

もう一度いう。

とてもとても楽しかった。



その後、アリシアからの報復もあった。

俺は、股間から、がちょうの首が生えた下着を贈られたのだ

宴会芸の定番だな。


俺は、そいつを装着すると、彫像のごとく威厳ある姿勢をとった。

アリシアはその眼を細めながら、しげしげと俺を鑑賞する。


「もうちょっと恥ずかしがってもらいたかったです。でも無駄にカッコイイ」


こういうものは、こそこそするからみっともないのだ。

俺は、自信満々のキメ顔でさらなるポージングを決めた。


この姿を残そうと、写生についての可否を問われたが、当然のごとく断った。

見せる相手はアリシアだけだ。


あと男を恥じらわせたければ、女用下着を贈ると良いぞ。

俺は絶対に拒否する。

アリシアに頼まれても、だ。



アリシアと同衾するようになってから、俺は体の変化を感じていた。

なんと、朝の目覚めがすこぶる良いのである。

それも、夜更け過ぎまでアリシアと二人、さんざん遊んでいるにも関わらず、だ。

俺には、思い当たることがあった。

俺は、ベッドで微笑むアリシアを見る。


「アリシア、ひょっとして魔法を使っていないか」

「…えへへ」


今晩もお待ちしていますね。

アリシアは照れ笑いを浮かべるだけで、明言はしなかった。


なんという、娘だろうか。

夫となる男のあれやこれやの、回復までやってのけるのだ。

これは、とんでもない皇妃を迎えてしまったかもしれない。

俺は、戦慄しながらも、その日も元気に執務室に向かうのだった。


ジークハルト「やっぱり、アリシアには勝てなかったよ…」

アリシア「えへへ」

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