表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
戦姫アリシア物語  作者: mery/長門圭祐
公爵令嬢アリシア
5/116

友人宅に転がり込んだ公爵令嬢


翌朝、私とメアリは、乗馬を交換して出発した。


実は、私の身体強化は、触れている相手にも効果があるのだ!


残念ながら、自分に使うのと比べると、だいぶ控えめな効果ではあるのだが、長時間の騎乗時などで乗馬に使っておくと、なかなか馬鹿にならない効果を発揮する。


「あと、私のほうがいろいろと軽いから! 昨日頑張ったメアリのお馬さんは、今日は休憩タイムよ! 」


といったら、メアリに頭を小突かれた。


ふふん、事実を認めたまえよ、メアリ君。


それから、もう一日近く馬を駆けさせる。

そしてついに私達は、我が家の盟友であるウェルズリー侯爵領の街、ノーデンに到着した。


街につくと、ウェルズリー侯爵家当主カズンズ氏が、自ら出迎えてくれた。

婚約破棄会場で私をかばってくれたレイン君のお父上で、グレーシルバーの髪と瞳が眩しいナイスミドルある。

背はレイン君と同じ高さだ。

遺伝だね。


「わざわざのお出迎え、感謝いたします、ウェルズリー卿。なにぶんこのような見苦しい格好で、恐縮なのですけれど」


「なんの。ランズデール閣下のおんためとあらば、この程度」


差し出された右手を握り返す。


ちなみに、ランズデール閣下って私のことね。

将軍だから。

これでも。


「それにどのようなお姿であれ、閣下の美しさが損なわれることはございますまい」


そして、すごいさらっと容姿を褒められた。

ちょっと照れる。


実物は、ボロボロドレスにボサボサヘアーで、流れのダンサーみたいになってる小娘なのだが、たとえお世辞であっても嬉しいものは嬉しい。


「おおよその事情は、把握しているつもりです。こちらでご滞在の準備はしておりますゆえ、ひとまずはお休みください」


それを聞いて、私は表情を引き締めた。


説明の手間が省けたのをよろこびたいところだが、私の滞在の準備までできているって時点で、そういう話ではないだろう。


内心、かなりしょんぼりしてしまう。



その後、私達は町の領館に招かれた。


さすがに、まる二日近く騎乗してるとお尻が痛くなってくる。

メアリも股擦れが酷いらしく、恥をしのんで私に回復を頼んできた。

ちょっと恥じ入った表情が妙に可愛らしくて、わたしはちょっと嫉妬してしまう。


かたやケツが痛いと不平を言う公爵令嬢。

この差はいったい、どこで付いたというのか……。


入浴を勧められたが、これはメアリに譲った。


ありがたいことに、部屋には、私のサイズに合わせた騎士隊の制服が用意されていた。

騎士隊の制服は、赤地のジャケットに明るいグレーのスラックスで、デザインなどはなかなかかっこいいのだが、汚れがたいへん目立つという欠点がある。


袖を通しつつ、記章などがすっからかんなのに気付いて苦笑する。

そういえば、勲章の類を、全部学園に置いてきてしまった。

どっちにしろ、地位もなんも全部まとめて剥奪されているだろうし、いまさら気にするようなものでもないので忘れることにした。


続いて武器を調達だ。


もしかして渋られるかな、と少し心配したが、家政をにぎっているらしいおじいちゃん執事に相談すると、快く案内してくれた。

勝手知ったる人んちの武器庫、何度か来た場所でもあるので、とりあえず腰元に提げる分だけ確保する。


鋼鉄の重みが心強い。


それから厨房にお邪魔して、パンと野菜の酢漬けとベーコンを水で流し込むようにつめこんだ。


そして部屋に戻って一服する。

ここまで流れるような作業である。

もう完全にルーチンワークと化しているね!


お風呂上がりのメアリは、旅の疲れもあるのかすこしやつれて見えたが、久々にさっぱり出来て嬉しそうだった。


今日は、ウェルズリー候の晩餐会におよばれしている。


彼はなかなかの美食家で、いつもの滞在時は、これがちょっとした楽しみであったのだが、おそらく口にはできないであろうなぁと思うと少し残念であった。



晩餐会には、ウェルズリー候カズンズ氏と私、そしてメアリの席が用意されていた。


実はメアリ、れっきとした爵位持ちの貴族家当主なのである。

三年前に一代貴族になり、去年は準男爵に封じられている。


今年は、もしかしたら男爵位ももらえるんじゃね? バロネス(女男爵)って、響きが超かっこよくね? などと、つい一週間前まで馬鹿話しをしていたのであるが、流石にこの騒動では封爵は無理そうである。


晩餐会は、大変かたぁい雰囲気ではじまった。

特に対面のナイスミドル、カズンズ氏の態度が、かなり無理をしているようで、向かいに座る私の胸もちょっと切なくなる。


「先だっての西部の前線、帝国の動きはいかがでしたかな」


「ほとんど睨み合いに終止しましたわ。一部小競り合いがありましたけど、例年に比べればずっと小規模なものでした。犠牲がでないのはありがたいのですけど、つけいる隙も無いのは、正直気詰まりですわね」


当たり障りのない回答に、向かいの席のかっこいいおじさまが、眉をハの字にして困り顔を浮かべる。


本当は私なんかより知ってるくせにぃ、とでも言おうかと思ったのだが、これでも自重したのだ。

そんな顔をしないで欲しい。


そこで会話が途切れてしまい、しばらくはかちゃかちゃと食器を動かす音だけが響いた。


さらにもうしばらくすると、何の音もしなくなる。

横を見るとメアリの手も止まっていた。

私が水にさえ手を付けていないことがバレたらしい。


「お腹へってるでしょ? 折角のご厚意なのだから、頂きなさい」


自分のことを棚に上げて勧めるが、メアリは泣きそうな顔で首を横に振った。

これには私まですっかり困ってしまった。

しょうがないなぁ。

私以外のみんなは、ご飯ぐらいは食べておいたほうが良さそうなんだけど。


心の中でだけ、小さくため息をついてから、私は話を切り出した。


「ウェルズリー卿、本題を進めましょうか。まずは隣室の方もよんでくださる? 」


たぶん帝国軍の兵隊さんがわらわらっと出てくるぞ。

私は賢いんだ。


そんな私の予想に反して、部屋に入ってきたのは、黒地に金の刺繍をほどこした、帝国軍士官服の青年であった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
機動強襲型令嬢アリシア物語 発売中です
一巻 https://www.amazon.co.jp/dp/B0775KFGLK/
二巻 https://www.amazon.co.jp/dp/B077S1DPLV/
三巻 https://www.amazon.co.jp/dp/B078MSL5MY/
是非、お手にとって頂けると嬉しいです。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ