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戦姫アリシア物語  作者: mery/長門圭祐
アリシア・ランズデール帝国軍元帥
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武闘会とわたし

先鋒戦、向き合って礼をする。

先手は譲った。

私と対峙した騎士は、儀礼に則った一礼の後、刺突剣をかまえた。

もったいぶる様子はない。

彼は一気に間合いをつめるとコンパクトな構えから鋭い突きを放った。

手加減無用と申し渡した私の言葉を忠実に守る、思い切りのいい鋭い刺突だ。

雷光。

銀色の光が走り、鋭利な切っ先が私の喉元へ迫る。


でも、私にはちょっと届かないね。


私は軽い踏み込みとともに体軸をずらして躱す。

タン タタンと響く私と彼のステップは、ダンスのように軽やかだ。

私は、相手の持つ剣の切っ先を払うと、返す刀で柄元を弾きあげた。

硬質な音を立てて、彼の持つ鉄剣が宙を舞う。

それが地面に突き立つよりも早く、私が持つ長剣が彼の喉元に突きつけられた。


「どうかしら?」

「…参りました」


私のお相手を務めた王国の騎士は、頭垂れると膝をついた。

降参だね。

私は剣を高らかに掲げ、勝利を宣言する。

一瞬の静寂。

そして、会場の観客席を埋め尽くした兵士たちが、割れんばかりの歓声でこたえてくれた。


これで帝国が一勝。

順調な滑り出しであった。


勝ったよ!


選手席に目をやれば、私の大好きな恋人が、大きな声で叫んでいた。

「愛してるぞー!アリシアー!」


嬉しい!

喜びを噛み締めながら、しかし、わたしの脳裏には一つの疑問が浮かんでいた。


私は、なんで、舞踏会じゃなくて武闘会なんてやってるんだろう。


ジークの素敵なその台詞は、できれば私を優しく抱きしめながら、耳元で優しく囁いてもらいたかった。

私は今やお姫様であるのだが、身に染み付いた業からは、なかなか自由になれぬものなのだと、つくづくしみじみ思い知らされた。


わたしはこの武闘会で副将と大将も掛け持ちしていた。

気を緩める訳には行かぬ。


頬をぱちんと両手で叩くと、私は気合を入れ直した。


私たちの帝国チームは、その後、滅茶苦茶連勝した。


12対0で帝国の勝ちだった。

圧勝。

順当な結果であった。


さあ、今回の武闘会の話を始めようか。



決闘の要項が発表されてより、帝国-王国対抗戦の公式名称はカゼッセル武闘会として定着した。

だれも決闘などとは言わない。


表向き、10対10の代理人による決闘とされていた。

代理人。そう代理人なのだ。

エドワードは、ジークとの一騎打ちを恐れ、尻尾を巻いて逃げ出した。

自分から決闘を申し込んでおきながら、敵前逃亡とは、腰抜けの面目躍如である。


カゼッセルは王国から見れば敵地だ。

そして王国の者たちは、決闘で私を迎えるに辺り、罠を張っていたに違いない。

彼らは自分を基準に物を考える。

行けば死ぬとでも思っているのだろう。


つまりは、この決闘に駆り出された王国の騎士10人は、王国に見捨てられた生贄に違いなかった。。

家族を人質にとられた者たちが、勝てねば愛するものを殺すと脅されて決死の覚悟でやってくるはずだ。


家族。

私の家族とは、つまり父とメアリのことだ。

殺させるなど、絶対にそんなことはさせない。


私は決意した。

誰も死なせぬ。


私は、今回の戦いで一人の人死も出す気はなかった。

ジークも同じ考えでいてくれた。

やっぱり、こういう時に理解してくれるパートナーだとすごく嬉しい。


諜報部経由で王国の宰相に根回しをして、私はこの勇士10人を全員帝国に引き抜くつもりで準備した。


そして、武闘会の三日前、王国から12人の騎士と代表者兼見届人らしき宮廷貴族の男が1人やってきた。

彼らは、皆、程度の差こそあれ緊張と悲壮な覚悟をにじませていた。


ところで、12人って二人多くない?


メアリが、王国の見届人と思しき貴族に問いただした。


「そちら王国の代表は、人数が多いように見受けられますが、補欠の方ですか?」

「いえ、違います。『開催地は帝国側であるゆえ、我ら王国は不利。その分二名の増員を認めて頂く』と」


帝国側メンバーが額を押さえた。

いきなりのルール無視である。

王国のだれが言ったかなど想像ができた。


「その条件を私達が飲むとでお考えですか」

「何卒、私の首でお収め願いたい」


王国の代表の方は顔色も変えずに言い切った。

騎士だけじゃない、この人もみんな死ぬ気だ。


すっかり覚悟完了している彼らを見て、私は強い親近感をおぼえた。

なにせ、私が初めてこの要塞に来た時も、もう自分は終わりだと、覚悟を決めていたのだから。


「昔の私が13人もいるわね。クラリッサ」


私がぼそっ呟くと、一番近くで私のカチコチっぷりを見ていたクラリッサがこらえきれずに吹き出した。

受けたよ!メアリ!


メアリも当時の事を思い出したようだ。

彼女は、ふっと表情を緩めると、仕方ありませんね、と柔らかく微笑んで鉾をおさめた。


「部屋を用意してある。そちらで詳しく話そうか」


ジークに促されて、王国代表団の方と私たちは談話室に移動した。

ちょっとビクついてる人もいて、私は少し楽しかった。

昔の私もきっと彼らみたいだったのだろう。


今度は私がお迎えする番である。

ようこそ、帝国へ!

みんないい人たちだよ!

ちょっと馬鹿っぽいとか言われるけどね。



軽く自己紹介させてもらってから、私は王国からのお客人に要件を切り出した。


「最初に言っておくわね。貴方達と王国に人質として残してきた家族の命は、少なくともこの催し物に関する限り帝国が保証します。王国上層部に内通者がいるから信用してもらっていいわよ」

「アリシア様、話が急過ぎるのでは」

「こういうのは最初に言っておいたほうが話がし易いのよ、メアリ」


そう、話がしやすいのだ。主に私が。

安心してね、そんな気持ちを込めて私がにこっと笑うと、私の前に座っていた王国騎士の女の子がビクッと震えた。

真っ青な顔でカタカタ震えながら、「は、はい」と必死の思いで声を絞り出す。


わたしは、その反応に大変なショックを受けた。

優しく笑いかけたら狼に見つかった子うさぎみたいな顔をされたのだ。

わたしの柔らかハートに直撃弾である。


ちょっと!ひどくない!?

私、そんな怖がられるようなこと、言ったおぼえないんだけど!


出だしから盛大に転んでしまった私は、こめかみをひくつかせ、ジークがこらえきれずに吹き出していた。

ひどい!ひどい!ジークはそこ、フォローするところでしょう!?

私はかんかんである。


「ここは私がお話させていただきますね」


ステイシーが私に代わって対応することになった。

彼女はいつもにこにこしている。

王国の人たちも、幾分か安心したように彼女の話に聞き入っていた。


場には、さすがステイシーみたいな空気が流れたけど、私は大変不本意だった。

ステイシーはずるいと思う。

あと、日頃彼女のポンコツに悩まされている身としては、ステイシーに負けると無性に腹が立つ。



王国の参加メンバーが12人で二人多いため、穴埋めのために私が三回戦うことになった。

先鋒兼副将兼大将のアリシアである。

約束されし勝利の女だ。

既に帝国チームには「よし勝ったな」的な雰囲気が流れていた。


王国の人たちも、私の勇名を知っているようで苦笑いしていた。


命のやり取りはしないこと、怪我もできるだけしないように努めると話し合いがなされた。

具体的には、刃引きした武器を使うことや、寸止めのルールだ。


私の場合だけは例外で、対戦相手は真剣を使う。

私の体は、魔力が切れるまでは刃が通らないので、直撃を食らうと、刺さったり切れたりする前に、接触時の衝撃で吹っ飛ぶのだ。

ゆえに刃引きしていようとなかろうと、余り変わらない。


強い剣士から直撃をもらうと、玉突きの玉の気分を味わえる。

私は、体が軽いので、どーん!って感じで空を飛ぶのだ。

そこから、フルプレート完全装備で空中一回転して着地とかもできる。というか一回実戦でやった。

その時は、上手く凌いですごいでしょ、とドヤ顔をしたら、珍しく本気で心配したらしいメアリからポカリと頭を叩かれて、それからぎゅっと抱きしめられた。

危ないことをするとお母さんを心配させてしまうので、皆は気をつけよう。

今回の大会は安全対策バッチリなので、多分大丈夫。


「寸止めばかりですと、迫力に欠けますね」


そのメアリが苦言を呈した。

メアリ、やる気出してくれるのは嬉しいけど、安全対策…


帝国側のメンバーは、私と三人娘、ジーク、帝国軍人のルーデンドルフ大将、ジークの近衛騎士のクレメンス、これに加えてカゼッセル要塞で開催された帝国軍勝ち抜きトーナメントの勝者三人だ。

この内、殴り合いに強いのは、強い順にルーデンドルフ大将、ステイシー、クレメンス、メアリである。

私も含めると五人中三人が女性だ。

「男どもはだらしないですね」と参加を見合わせたコンラートがうそぶいて、ジークにはたかれていた。


「強者四名とアリシアは、寸止め無しの勝負のほうが盛り上がるだろうな」


ジークの提案で、腕っ節に自信があるメンバーはガチンコ勝負が確定した。

信頼されてるのは分かるけど、個人的には、いつもみたいに私の体を心配してもらいたかった気もする。

複雑な乙女心だ。


王国の人たちも交えて話し合い、リハーサルで一度手合わせをしてから、当日の大会を迎えた。

もうただの興行だった。

次の機会があるならはグッズとか販売したいなぁ。

私は、ジークのグッズを買い占めたい。サインも貰っちゃう。


「やられ役を押し付けてしまうみたいでごめんなさいね」

「犬死を覚悟していたのです。何ほどのこともありません」


私が謝ると、王国の代表の方は清々しい笑顔で答えてくれた。

彼は我が父ランズデール公とも面識がある方で、アリシア王女に騎士たちの助命嘆願をしようと今回の代表団に立候補されたのだそうだ。


国のために頑張る人から切り捨ててるんだから、それは国も傾いちゃうよ。


本格的な戦争になる前に、少しでも良い人材を引き抜けたのは幸いであったと思う。



当日の戦いはなんだかんだ言って盛り上がった。

観客はほとんどが要塞に詰める兵隊さんたちだ。

貴賓席にも、帝国本土から来たお客様がかなりの数入っていた。

一方の王国側の応援席は全て空席だ。

決闘を申し込んだ元王太子のエドワード含め、王国の宮廷にも招待状を送ったのだが、誰も参加しようとしなかった。


結果、エドワードは下品な物言いと合わせて、腰抜けの猿エドワードという俗称が定着した。

彼は帝国に住む、他の全てのエドワードさんたちに謝ったほうが良いと思う。

とんだ風評被害だ。


対戦は順当に帝国軍が全勝した。

もちろん私も勝った。

どの対戦も良かったけれど、中でも、一番盛り上がったのは、ルーデンドルフ大将の対戦であった。


ルーデンドルフ大将は既におじいちゃんなのであるが、めっちゃ体がでかい偉丈夫だ。

筋骨隆々である。


大将は上半身裸で、闘技場に姿を表した。


この時点で会場がものすごい熱気に包まれる。

王国の対戦相手は、今回の参加者の中で一番体が大きい人が務めることになっていた。

こちらの方は、体をやわらかい防具で固めていた。

お互い支柱みたいな木の棒に金属で補強した長くて太い棍棒を手に向かい合った。


まずは王国の騎士が思いっきり棍棒をぶん回す。

横殴りの一撃を、ドーン!とルーデンドルフ大将が受け止めた。

盛り上がる筋肉、飛び散る汗が輝くと、力む彼の体からは熱い蒸気が立ちのぼった。

ルーデンドルフ大将は、足を地面にめり込ませながら、圧倒的パワーの一撃を真っ向から受け止めた。

およそ、大股半歩分ほども地面をすべりながら、しかし大将は耐えきった。

恐るべき剛勇。漢ルーデンドルフ63歳、その口からは獣の咆哮がほとばしった。


おかしい、このお話はお姫様の恋愛譚であるはずだ。

私の可愛らしさアピールを差し置いて、なぜ熱い漢達の熱いバトルが描写されたのか。


私の疑問などお構いなしに、今度はルーデンドルフ大将が棍棒をブオンと回す。

王国の騎士がこれを受け、そのままドーンとふっとばされた。

体重が私3人分ぐらいありそうな、筋肉むきむきのお兄さんが宙を舞う。

彼は空中で体勢を整えると、どさぁっと地面に着地した。

そしてそのまま頭を垂れる。

降参のポーズだ。


ルーデンドルフ大将が大きくガッツポーズをすると、会場を割れんばかりの歓声と怒号が包んだ。


おおお!!!!!


とてもかっこよかった!

私もスタンディングオベーションである。


やっぱり勝敗がわかりやすいのがいいなぁ。

私も魅せる戦いをちょっと研究してみたい。


問題は私の体重がくっそ軽いことである。

ダメージは受けないのだがふっとばされてしまうので、ルーデンドルフ大将みたいな戦いは難しい。


すっかり場の空気に呑まれてしまった私は、この日一日、かっこいい戦い方についてうんうん頭を悩ませたのだった。


今だから言える。

それより先にダンスの練習しよ?

アリシア「恋愛ってなにかしらね」

メアリ「哲学かな」

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