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戦姫アリシア物語  作者: mery/長門圭祐
アリシア・ランズデール帝国軍元帥
30/116

蛮族とわたし

本編とは別立てで閑話集を掲載しました。

右ストレート閑話集の形でシリーズに追加しております。

アリシア、ジークハルト視点では情報が不足する部分について、補完的なお話を掲載していく予定です。

裏話的な内容ですので、読まなくても本編には関係ありません。

背景が気になるー、という方は良ければご確認ください。

私は王女になった。

王女になった私の存在は、対外的にも公表され、同時に私の王女様業務も開始されることになった。


王女様業務とは何か。

それは、このお盆に山盛りになったお手紙へのお返事作業に他ならない。

溜まりに溜まったり一ヶ月分、私のメールボックスの開封作業が始まったのだ。


最初の手紙を手に取る。

封蝋は切られていなかった。


「帝国で中身の検閲はしないのかしら」

「いまからアリシア様とご一緒にさせて頂く予定です」


私の隣りに座ったクラリッサがにっこり笑顔で答える。

私は笑った。検閲と言いつつ、どうやらクラリッサも手伝ってくれる心づもりらしい。

まこと、優秀な側仕えである。

正直とても助かります。


私が一番最初に探したのは、父からの手紙だ。

探したら、良かった、ちゃんとあった。一通だけだけれど。

急いで開封する。気が急いたからかちょっと手が震えた。


手紙には、

こちらは心配ない。

アリシアは自分の思う通りの道を進みなさい。

元気でいてくれることを祈っている。

そんな内容が書かれていた。


胸が暖かくなった。

元気でいるって、早く伝えたいな、と思った私は、この手紙を要返信のお手紙の一番上に入れた。


その他のお手紙は、やはり私の帝国入りを知っている領主諸侯からのものが多かった。

特に多かったのはウェルズリー候からのもので、全部で十三通も届いていた。

迷惑メールみたいな分量だが、全部私の身を心配した安否確認のお手紙だった。

日を追うごとに内容に切迫感が増していき、最後のほうは丁寧な言葉でかかれた帝国への脅迫文みたいな内容になっていた。

姪の心配をする過保護な叔父さんみたいな勢いに、私はクラリッサと一緒になって笑ってしまった。

「愛されてますねぇ」

とのこと。他所の家の娘であるのにありがたいことである。


王都からも何通か来ていた。

その中に、一応私の所在は掴んでいるらしい宰相からの手紙も混じっていた。

中には、「今後は帝国を盛り立てていくため、過去の諍いは水に流して、共に歩んでいこう」

的なことが書かれていた、ような気がした。

気がしたのだが、読んでいる途中でクラリッサに取り上げられてしまった。


「これはこっちで処分しておきますんで。次行きましょ、次」


クラリッサ、超笑顔。

私としても文通したいお相手ではないのでお言葉に甘えることにしたけれど、クラリッサの笑顔が、私はちょっと怖かったです。


どんどん開封して、手紙を要返信、保管、処分の3つに振り分けていく。

そんな中、私は、一枚の手紙を見て固まった。


差出人はアデル・バールモンド辺境伯令嬢。

そこにはこうあったのだ。

「今年も、北部では蛮族の心配をしなくて済みそうです。アリシアちゃん、本当にありがとう」

と。


私は、開始一日目にして、優雅なお姫様業務の終わりを感じた。



蛮族とは何か。

蛮族とは、棍棒をもった貧乏人である。と私は考えている。


人は、なにか欲しいものがあった時、その手にお金があれば対価として払い、麦があれば交換をもちかけるだろう。

そして棍棒があったならば、殴るか、脅しつけるかして奪う。


どうせ奪うなら、たくさん持っている相手がいい。

どうせ戦うなら、なるべく弱い相手がいい。


ジョンの戴冠以来、国内が乱れていた王国は、そんな彼らにとって絶好の草刈り場であった。

彼らは散々に、王国北部を荒らして回った。


そんな、実入りとザル警備を両立させていた、王国という蛮族向け貯金箱に一つの転機が訪れた。

彼の地を守るランズデール警備保障の警備主任に、わたしアリシア・ランズデールが就任したからだ。

私は、就任して一年目で敷地内の賊をすべて叩き出すと、二年目で手近な盗賊団の巣穴を一つ焼き払った。

残された周囲の蛮族共には、衝撃が走ったはずだ。

「王国に、すげー新人が来やがったぜ」と。


一方で、徹底的に蛮族を叩きのめした私も、こんな願望を抱いていた。

「こいつら全部、帝国の方に行ってくれねーかな」と。


蛮族にも、王様がいる。

王様というものに求められる資質は、基本的にどの国にあっても変わらない。

従うものは皆、自分たちを豊かにしてくれる人間に、王様になって欲しいと考えている。


たとえば、蛮族の王が突然きれいな蛮族の王に変身し、

「皆で作物を作って、豊かになろう」

といったら、彼ら蛮族は農業を始めるだろうか。

これは否である。

蛮族は、そんな王を放り出し、新しい王を据える。

そして略奪を続ける。それが彼らが豊かになる唯一の道だからだ。

彼ら蛮族は絶対に侵略をやめない。

彼らに狙われる場所が変わるだけなのである。


アデルからの手紙は、北部戦線にいた頃の私の願望を裏付けるものだった。

残っている周辺の蛮族は、少なくとも王国のほうには向っていない。


向かうのは王国の西か東か。そして王国の西には帝国がある。

ここ最近、王国という誘蛾灯を上手く利用して、北部の開発を進めてきた帝国に、今の私はいた。


蛮族、帝国に来そう。


私の嫌な予感はよく当たる。

いささかげんなりしながらも、私はメアリに招集をかけた。



私だって、ちょっと迷ったのだ。

私は、帝国にきてまだ一ヶ月だ。

蛮族に交渉が通じない以上、軍事的な行動が必要になる。

新参の人間が軽々しく口をはさむのには、やはりためらいがあった。


でも半分以上、私が撒いた種のような気がするんだ。

ジークなら私の差し出口も、聞いてくれるだろう。


そう思って、私は面会依頼を出した。

北の蛮族の動向についてお知らせしたいことがある、という私の依頼に、ジークは夕食後、話す時間を設けてくれた。


「夕食後とか、王女様を呼びつける時間じゃないですよね!?」


クラリッサのある意味当然の憤慨に、王国でもしょっちゅう夜中に諸侯を呼び出していた私は、新鮮な驚きを覚えた。

そういえばそうだね!



執務室では、ジークとコンラートが待っていた。


「アリシア・ランズデール元帥、メアリ・オルグレン大佐、かけてくれ。早速だが帝国東部方面の北部戦線に関しての意見交換を始めたい」


率直な意見をもらえると助かる。

殿下はそう言って、私たちに席を勧めた。

席の前には、ひとまとめにされた紙束が置いてあった。

題名は「縦深防御戦術における高機動部隊運用の実践と考察」だ。


うっへー。


私は苦笑した。メアリもあちゃーって顔をしている。

実はこれ、わたしとメアリの共著で、バカ学園の進級に使った論文である。

宿題をめんどくさがった私達が、もう終わった蛮族討伐の作戦案を、重要な部分だけぼかして提出したのだ。

元となる作戦案も私達が書いたので、著作権に問題はない。

蛮族絡みの話ということで、ジークが手を回してくれたのだろう。

でも「骨付き仔羊ロース肉のオーブン焼き グリュニエ風 季節の野菜を添えて」みたいな響きの題名も含めて、とても人様にお見せできるような内容ではなかった。

とても、恥ずかしい。


「お目汚し申し訳ありません。お時間をいただければ、もう少しましな作戦案を用意します」

「これはたたき台だ。仮に俺がアリシアなら三年前の王国北部の再現を狙う。そう思ってとりあえず用意した。見当違いであればすまない」

「いえ、であれば問題ありません。殿下のご賢察のとおりです」


恐縮した私の申し出であったが、ジークは特に気にしていないとのこと。

ついでに蛮族対策についての私の考えも、なんとなく察してくださっているようだ。

正直に言って、とてもありがたかった。

差し出口を叩くな、と怒られることもちょっと覚悟していたのだ。


「先に帝国で掴んでいる状況について共有しようか。コンラート、頼む」

「了解です、殿下」


ジークから話を受けたコンラートが、帝国北部の現状について教えてくれた。

北部の蛮族が、侵入の気配を見せていること。

確認される数も増加していること。

彼らがやってくるのは夏の終わりから秋頃が予想されることなどを教えてくれた。

そして最後に、コンラートはこう締めくくった。


「できればこちらから侵攻し、国境外で叩きたいと考えています」


私が以前用意した作戦は、王国の国内に侵入してきた相手を追い出すためのものだ。

国境線を超えて戦うのであれば前提条件が変わってくる。

一つずつ、相違点を詰めていかなければならない。

難しい話になるだろう、と私は覚悟した。


結論から言おう。

これっぽっちも難しい話にならなかった。

この点について、私とメアリの見解は、ジークハルト殿下まじすげぇで完全なる一致を見た。

まじすごかった。


一例を挙げてみよう。

自分でいうのも何だが、私は蛮族相手にはめっぽう強い。だから、私自身も出撃したかった。

でも今の私の身分は客将で、そもそも自分の部隊を持っていないのだ。

帝国軍の騎兵を使うのは、私が訓練を受けていないから苦しい。帝国の人も嫌だろう。

できれば実家の人たちを呼んできたい。

それでダメ元で聞いてみたのだ。


「私が指揮する部隊に、ランズデール領軍を用いることは可能でしょうか」

「構わない。その場合、王国領から帝国国境線までの移動はまかせる。国境で先導にあたる部隊を待機させておく。帝国領内の移動には予め物資集積所を用意しておくので利用してもらいたい。国境線を出てからは、原則貴方の運用におまかせする形になると思う。上限は10000。これを超える場合は準備期間が必要になる。手薄になるランズデール公領に派遣する部隊なども含め、詳細についてはランズデール公も交えて詰めさせてくれ」

「はい」


はいと答えるしか無かった私を責めないで欲しい。

私が予想していたのは、構わないの一言だけだ。

むしろダメだと言われることも予想して、お願いを聞いてもらえるように色々理由を考えていたのだ。

それがこれである。

多分、このままでも、私は帝国北部の国境線で待っているだけで、殿下に運搬されたランズデール騎兵隊がどんぶらことやってくるのだろう。

なにもすることがない。

なお、上限10000と言われたが、ランズデール騎兵は全部かき集めても7000に届かない。

余裕であった。


敵地で戦う以上、部隊の選定、地理、補給、索敵、各部隊間の連絡線確保、その他いろいろ考えることはたくさんある。

全部、問題なかった。

下手をしなくても王国国内で戦うより楽であった。

帝国軍ほんとすごい。


そのままトントン拍子に話は進んで、非公式の作戦会議は日付が変わる前に終了となった。

ジークの中で素案がまとまったのだろう、解散、とのお言葉を私達は貰った。

言われたとおり、私は自室に戻って就寝した。


お風呂に入り忘れたので、翌朝朝風呂に入ろうとしたらメアリに呆れられてしまった。

こういう時、ステイシーはなにも言わずに私に付き合ってくれるから、ホント好き。



後に、ジークの辣腕ぶりについてコンラートと話す機会があった。


「殿下はアリシア様の研究に熱心でしたからね。アリシア様ならどうするか、どうしたいと思うかをずっと考えておられました。予め腹案があったのだと思います。殿下も、アリシア様とは話がしやすかったそうで、とても喜んでおられましたよ」


これを聞いて、わたしは恥ずかしいやら、誇らしいやらで、とても困ってしまった。

でもできれば、私の女の子としての趣味のほうも知ってもらいたい。

メアリ、そんなもの無いとか言わないで!


結局、この冬が暖冬だったことが決め手となり、帝国軍による北方遠征が決まった。

詳細は全部殿下が詰めてくださった。



方針が決まったので、私は早速父からの手紙に返信を書いた。

急いで私の部隊をおねだりしなくてはいけない。

内容はこんな感じだ。

「元気で過ごしています。帝国の第一皇子ジークハルト殿下と婚約しました。今度遠征で使いたいので騎兵を6000ほど送ってください」


「これを見たら、ラベル様が驚きでひっくり返ってしまわれますね」

メアリは目頭を抑えた。

「でも騎兵はできるだけ欲しいわ」

と私は答えたけれど、そっちじゃありません、とメアリに呆れられてしまった。

じゃあどっちよ?



この一件を通じて、私がわかったことが一つある。

ジークは私を甘やかすのが上手だ。

とても上手だ。


気をつけないと、大変なことになってしまう、と私は気合を入れなおした。


アリシア「クリーク!」

メアリ「クリーク!」

ジークハルト「クリーク!」

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