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戦姫アリシア物語  作者: mery/長門圭祐
皇子ジークハルト
12/116

こぼれ話

俺は国にとって良い皇子であったと思う。

それは義務感というよりは、俺自身が求めたことであった。


軍務であれ、政務であれ、俺自身の手で何かを成すことに、喜びと充実を感じていた。

賢帝と名高い父譲りであるともよく言われたし、俺もそのことを誇りに思っていた。


母は、そんな父にとって、少なくとも公的な面での理解者ではなかった。


私には興味のないことですから。


そう言った母を、父もまたそういうものとして扱っていた。

分からぬものを分からぬとして、自ら距離をおけた母もまた、賢い人であったと今では理解している。


俺とて皇子だ。

社交もすれば、その延長線上で女性と関係をもったこともある。


ただ、この俺の充足感や喜びについては、彼女らもまた母と同じように、少し困った顔で首をかしげるだけであった。


俺は、理解してもらいたかったのだと思う。

伴侶とはそういうものだと、半ばあきらめかけていた俺にとって、だからアリシアは輝いて見えた。

会ったこともないアリシアに、俺はある種の幻想と仲間意識を抱いていたのだ。


実際のところ、彼女は、俺が思うように戦争を思ったことは、一度もなかったのであるが、それを喜びをもって知ることができる将来のおれは、つくづく幸せものであったと思う。


アリシアの人となりについても、幾つか知る機会があった。


アリシアと鍋の話などもその一つだ。


アリシアに、常に帯同できる部隊は存在しなかった。

いかな精兵であれ、常人の範囲に留まる限り彼女についていけないからだ。

そこで彼女はいくつかの部隊を転々と渡り歩きながら、その時々で、動ける隊を率いて出撃を繰り返したそうだ。


当然、専任の従卒なども存在しない。

食事も自力で用意しなければならないが、煮炊きする手間を惜しんだ彼女は一計を案じた。

アリシアは、毎回食事時になると椀を一つだけ抱えて、一番うまそうな料理の前で分け前をねだるようになったそうだ。


そして見事彼女に選ばれた料理人は、その日の夕食を麗しの公爵令嬢と、ご一緒できるというわけだ。


そのうち彼女が、鍋を使った料理の前にしか止まらないことが知れ渡ると、誰しも鍋を担いで従軍するようになったらしい。

絶食明けのアリシアは、欠食児童そのものの勢いで食い尽くすらしく、作った当人はアリシアに食わせるばかりで、翌日空きっ腹を抱える羽目になったそうだ。


その話をしてくれた元王国騎兵の男は、自分もご相伴にあずかったことがありますと、どこか誇らしげに語っていた。


最後に、アリシアへの思いを隠そうともしない男へ、なぜ帝国へ降ったのか尋ねると、

「自分はもう駆けれませんし、戻っても傷病者の見舞いで金を食うだけです。

だったらせいぜい帝国の食い扶持を減らしてやろうと思いまして」


と、右足の義足を見せながら笑った。


どうやら、俺に対するあてつけであるらしかった。

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