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戦姫アリシア物語  作者: mery/長門圭祐
花嫁アリシア
100/116

和平とわたし

「ジークお帰りなさい」


「・・・・・・ああ、いま戻った。それがジェレミアか?」


「ええ」


ガーディセリから、連合軍が帰還していた。

戦士達の凱旋である。


留守を預かっていた私は、執務室で、みんなを出迎える。

椅子から立ち上がり、にっこり笑顔でお辞儀である。

その机の隣には、薬液に漬け込んだジェレミアの首があった。


私は、敵の襲撃を予想していたのに、ジーク達に話をしていなかった。


情報は出来るだけ広めない方が、成功率を上げられるからね。

それに、ジークが襲撃計画を知ったら、絶対に止められると思ったのだ。

ゆえに、独断専行したのである。


独断専行した自覚はあります。

まず間違いなく、怒られる所業であった。


そこで、私は、雷を落とされる前に、大戦果を報告して、うやむやにしてしまおうと考えたのだ。

智将アリシアである。


ジークは、ジェレミアの生首をしげしげと眺めつつ、私の鮮やかな仕事を褒めてくれた。

見事だ、まさか、城にいながら殊勲をあげるとは、思わなかったぞ、と。


それから、彼は、とてもとても優しい笑みを、私に向けた。


「それで、アリシア。敵の襲撃を予想して、待ち伏せしたそうだな。俺たちは話を聞いていない。メアリも話があると言っていた。後で俺の部屋まで来るように」


あ、これは怒られる奴ですね。

知ってます。


残念ながら、こんな方法では、ジークは騙されてくれなかった。

ジークの後ろでは、メアリが目を三角にして怒っている。


やっぱだめだったかー。

アリシアの命運は、ここで尽きた。


ジークを、戦果でびっくりさせて、うやむやにしてしまおう作戦はあえなく失敗。

私の部屋に来た全員が、言葉少なに立ち去っていく。

皆の背中からは、怒りのオーラが立ち上っていて、わたしは胸の奥がきゅうってなったのだ。

戦闘より、こっちの方が心臓に悪いよぅ。


その後、本部に出頭した私は、周りを、怒った大人達に囲まれて、散々にお叱りを頂いた

どこで聞きつけたのか、ヘルマン先生までやってきた。

お説教の十字砲火だ。


私は涙目である。

ジークが言う。


「それで、以前俺がやらかした時には、アランの鎧を着せられたわけだが、アリシアには、どんな罰が良いだろうか」


「おやつ抜きですわね」


「あー! やーめーてー!」


私が涙目で抗議するのを、周りの皆は意地悪く見守っている。


今回の事件で、私と一緒に留守番となったのは、ステイシーとクラリッサだ。

ステイシーは、微笑むだけだ。

奴は戦力外。

クラリッサはおへそを曲げている。

彼女は、敵の包囲に加わっている。


味方が、かかし一人だけだ。

間違いない、これは負け戦だ!


完全に、孤立無援になった私は、散々にお説教をされ、しばらくは、お仕事禁止を申しつけられた。

お部屋から出ては、駄目だそうだ。

お腹の赤ちゃんを、大事にしなさいだってさ。


そして私は、事務仕事の代わりに、刺繍の糸とハンカチを渡された。


「お仕置きです。この機会にきっちり練習してくださいませ」


酷い嫌がらせである。

懲罰として、アリシアには、ハンカチの刺繍五枚分のノルマが課せられた。

メアリの監視の下、厳しい指導をもらいつつ、わたしはちくちくと手を動かすことになる。

苦役だ。

強制労働である。

私は一室に抑留され、楽しくも無い、針仕事を強いられながら、私は、しぱしぱと目をしばたたかせた。


「メアリ、目が痛いわ。しょぼしょぼする」


「そうですか。それはそれとして、ここ針が飛んでます。やり直し」


ひーん。

皆に怒られた私は、もう、独断専行なんてしないぞと、固く心に誓ったのだった。



私が、刺繍道具と一緒に部屋に軟禁されている間、司令部では、ジークの指揮の下、戦後処理が進められた。

まず戦果の確認だ。


ガーディセリの戦いでは、私達、連合軍側の損害は三百程度に留まった。

対する協商の死傷者は一万五千を超え、残る生存者も、ほとんどは捕虜になった。

捕虜の数は、約二万だ。

街一つ分の人口がある。

二万人全員を万歳させて縦にならべたら、王都の外壁を二周ぐらいできてしまうのだ。

すごい。


ジークが、数字を見て呻く。


「捕虜に喰わせる食料がばかにならん」


「賠償金に上乗せですわね」


彼は面倒ごとに、額を押さえていた。

幸い、食料自体には余裕がある。

だが、果たして、国内がボロボロの協商に、賠償金を支払うだけの余力はあるのかだろうか。


もし、賠償金が支払われなければ、捕虜達の未来は暗い。

なにしろ彼らは、略奪の前科者でもあるのだ。

このままでは、戦争奴隷として鉱山送りになってしまう。


捕虜の中には、実家にお金がある人もいるらしく、自分の身代金を払わせてくれという人も居て、かなり面倒な騒ぎになっていた。


そんな中、協商から使者がやってくる。

彼がもたらした書簡を見て、ジークの頭痛はさらに酷くなった。


「協商は、今回の戦争について関知しない。あれは、ジェレミアの私兵による暴走で、協商の責によるものでは無い。そう貴様らは主張するのか」


「はい」


使者は、その目に悲壮な決意を浮かべながらも、首肯した。

ジェレミアの私財についても、協商側で没収するそうだ。

協商は、賠償金支払いを拒否する構えである。


「協商からは、正式な宣戦布告を受けている。貴様の言い分を飲むわけにはいかない」


「であれば、我らは戦うまでです」


「・・・・・・もういい、下がれ」


ジークは使者に命じてから、頭をおさえた。


協商は、帝国のことをよく調べていたのだ。

帝国は略奪を働かない。

加えて、戦後、支配下に置いた領地の統治も穏やかだ。


蛮族に荒らされ放題の現状を考えるなら、帝国軍を引き込んで、占領してもらった方が楽なのである。

ゆえに戦争の継続を望んだのである。

一方の帝国は正直新領地なんて欲しくない。

王国の安定が先だ。


「奴らも、なかなか強かであるな」


とは、父ラベルの言葉だ。


「王国が協商に、悪知恵をつけたのでは無かろうな」


そう言って、ジークは憎々しげに、元王国軍の名将を睨んでいた。

帝国の戦略を利用したのは、かつての王国も同じであった。

ある意味で帝国は甘く見られているのである。


開き直った協商に、ジークは歯がみした。


「やつら、いっそ奴らを攻め滅ぼして、地図から消し去ってくれようか」


私の部屋に一服しに来たジークが、物騒な事を口走る。

失う物が無い相手というのは、なかなかに手強い。

ジークも苦戦しているようだ。


「では、こういう案は如何でしょう?」


私は、彼に助言した。

現金の支払い能力が無いなら、土地を差し押さえるのだ。

原野をもらっても仕方が無い。

狭くても、一番お金になる場所、即ち港をもらってしまうのである。


「協商に、港の租借権を要求するのです」


その港には、軍船も含めて、帝国船舶の自由な出入りを認めさせるのだ。

関税も撤廃させる。


「賠償金は、貿易で取り返しましょう」


今、協商は荒れている。


この状況で、協商全域を攻め落とすのは、ちょっと非現実的だ。

働き者ジークの処理能力が、パンクしてしまう。


なので、しばらくは協商自身に頑張ってもらいつつ、私達は、徐々にその内部へと支配を浸透させるのだ。

その橋頭堡が、この租借地である。

港だけで無く、協商国内における軍事施設の建設許可を出させて、そこに軍を駐留させても良い。

侵略の一歩手前まで、駒を進めておくのである。


「もし向こうが断ったら?」


「力尽くで、ぶんどれば、よろしいのではありませんか」


私がぐっと力強く拳を握り込む。


ジークは一瞬あっけにとられてから、アリシアも言うようになったなぁ、といって笑った。

たしかに私の発言は、侵略者そのものである。

帝国第一皇子の妃として、だんだん自覚が出てきたのかも知れない。


ジークは、しばらく考えていたが、


「もうそれでいいか」


と、さじを高くに放り投げた。

彼は、疲れちゃったらしい。


ジークが、へとへとになっているようだったので、私はいっぱい甘やかしてあげた。

いつもより優しくしてあげると、ジークはとても喜んでくれる。

でも、なんだか、大きい赤ちゃんみたい。



協商にはいずれ攻め込むことになるだろう。

それが帝国の国是だからだ。


であれば侵攻ルートは複数用意しておくべきだ。

私は、海だけで無く、陸からも進出することを前提に、準備をすすめておくことを決めた。


王都から延びる街道は、王国東部の主要都市を通って、協商まで伸びている。

そして、街道周辺に領地を持っていた、東部諸侯のほとんどは、今回の戦いで私と戦うことを選んでいた。

もちろん、中には、強かな連中もいた。

彼らは、戦争中も「周りを全部敵に囲まれちゃったので、協商側につきましたが、忠誠は女王陛下に捧げます」なんて、内容の手紙を書いてきたのだ。

なかなか、目端が利く連中でのようなので、そういった者達は、今後の働きを見ながら処遇を決めたいと考えている。


いずれにせよ、東部の広大な領地のうち、大部分の扱いが、私の手に委ねられていた。


そして私に、領地経営の知識は、ない。

当たり前だ。

こちとら十八歳の女の子だぞ。

メアリが「こんな時だけ女の子ぶるなよ」みたいな目で見ているけれど、領地の運営は、その土地に足をつけた地道な仕事が必要になるのだ。

できるわけがない。


直轄地にしたうえで、代官を派遣しようにも、今度は人がいない。

それに私は結婚式の準備のために帝国行きが決まっているし、父は私の代理で忙しくなるのがわかりきっている。

この上、新しい領地の面倒まで見るのは、無理無理かたつむりだ。


ゆえに、私は、信頼できる人物に、東部の慰撫と復興をお任せすることにしたのである。


私は、執務室にその人物を呼び出した。

私の前に立った彼は、女王アリシアの要請を受けて目を細めた。


「ほほう。陛下は、私に東部へ行けと仰られますか」


「ええ。是非、候に彼の地へと入って頂きたいのです」


その人物とは、ウェルズリー候である。


彼は、王国きっての内政家だ。

加えて、帝国にまで恐れられた、戦争屋でもある。

ウェルズリー候は、西部の平野を、畑だらけにしながら、槍と弓を持って戦争に明け暮れていた益荒男なのだ。

東部は、協商と境を接する王国の最前線になる。

統治と守りを任せられる、ウェルズリー候に委ねたいと私は思った。


彼の、忠誠心の高さは疑いようがないし、なにより強い。

領地を富ませる事に熱心で、領民の生活の事も考えてくれる。

ちょっと激情家なきらいはあるけれど、とても信頼できる人物なのだ。


ただ、この話は、必ずしも彼にとってはいい話とはいえない。


いまや、彼の根拠地である西部は安全だ。

このため、彼に東部の広大な領地を任せる場合、代わりに西部に持つ領地の一部を王家の直轄領とさせてもらうことになるのだ。

バランスを取る意味で、飲んでもらうしか無いのだが、普通、領地替えは喜ばれない。

きちんと、私の考えを伝えた上で、お願いする形になるだろう。


候は、私にギラリとした視線を向けた。

そして、高らかに宣言する。


「謹んでお受けいたしますぞ!」


「私、まだ、詳しい話をしていないのですけれど!」


「陛下に全てお任せします。いかなご命令であろうと、私に否やはありませんぞ!」


そう言って、ウェルズリー候は、胸を叩いた。


えぇー。


隣で聞いていたクラリッサが吹き出す。

私は困ってしまった。


これは、どこまでお言葉に甘えて良いのだろうか。

よくわからなかったので、取り敢えず、遠慮も何も無しに、私の希望をてんこ盛りにしてお伝えしたところ、候は二つ返事で了承してくれた。

結果、東部の統治と復興は、ウェルズリー候に全部丸投げで、代わりに、西部の街道沿いの領地は、かなりの部分が王家の直轄領となった。

彼にしてみれば、手塩にかけて育てた領地を取り上げられて、戦争が終わったばかりの旧敵地を押しつけられた格好だ。


でも、ウェルズリー候、嬉しそう。


これはなぜなのか。

では、お願いします、と私が頭を下げると、候は、もう一度「お任せくだされ」とにこやかに請け負ってくれた。

そして候は、来たときよりもご機嫌な笑顔で、私の執務室を後にしたのだった。


私は、椅子に深く沈み込む。

絶対に、いい顔はされないと思ったんだけど。


「候のご厚意に、全面的に甘えてしまう格好になってしまったのだけれど、これで良かったのかしら」


私の口から漏れたつぶやきに、横で聞いていたクラリッサが破顔した。

彼女は、ひとしきり笑ってから、気にしないでいいと、私に教えてくれる。


「候は陛下に頼られて、嬉しかったのだと思います。陛下のご厚情に報いる機会が欲しいと、よく仰っていましたから」


「そうなのかしら」


「ええ、私も候の気持ちがよくわかるので」


どういう意味かしら。


そういえば、私は、クラリッサにも頼りきりだ。

でも、彼女にも仕事を回すと、とても喜んでくれる。

もしかしたら、お仕事人間同士、通じ合うことがあるのかも知れない。


「じゃあ、候のご厚意に甘えさせてもらうことにします。でも、甘えるばかりというわけにもいかないから、なにかお礼を差し上げたいわ」


「ええ、何を差し上げても、きっと、とても喜ばれますよ」


ウェルズリー候は、本人の言葉通り、よろこんで領地替えを引き受けてくれた。

勇躍して東部に乗り込んだ彼は、もっぱら領地の開発に精を出しつつ、協商へもにらみを利かせてくれた。

まこと頼りになる方であった。


私は、お礼にいろいろ贈り物をしたけれど、彼一番喜んでくれたのは、アリシア謹製の刺繍入りハンカチであった。

私のがたがたした刺繍でイニシャルが刻まれている。


一応読めるはずだ。

メアリからも、「大負けに負けて合格です」と太鼓判を押してもらった逸品である。


候は、このハンカチに大喜びして、みんなに自慢してまわったそうだ。

私のお粗末な刺繍の腕前が、みんなに知れ渡ってしまい、私はとても恥ずかしい思いをした。

このせいでちょっとトラブルも発生した。

候の奥様が、またしても焼きもちを焼いてしまったのだ。

対抗意識を燃やした奥様は、ハンカチといわず、候の身の回り品の全てに、お手製の刺繍を刻み込んだ。

奥様の愛に包まれて、候は嬉しいような怯えるような複雑な顔で、笑っていたそうだ。


ウェルズリー候の領地替えは、各方面からも好評をもらったのだが、特に、帝国の皆さんからは、とても喜ばれた。

どうもウェルズリー候は、帝国軍の皆さんから怖がられていたようだ。


私も気持ちはわかる。

ウェルズリー候は、いい人なのだけれど、その分怒らせるとおっかないのだ。

王国との折衝で、苦労した経験があるコンラートは、「これで胃薬の量を減らせる!」と喜んでいた。


協商は王国に攻め込む余裕などなく、ウェルズリー候が戦場に出ることは無かった。

彼は、もっぱら優しい領主として、その手腕を振るうことになった。


東部も畑でいっぱいになり、王国の食糧自給率はどんどんと上昇した。

後の話になるが、王国が、小麦の主な輸出先である帝国から、ちょっと嫌な顔をされるぐらいの食料生産力を持てるようになったのは、候の働きによるところがおおきいのだ。


帝国のパン籠とも呼ばれた王国の礎を、彼は築いてくれたのである。



協商との交渉に話を戻そう。


ジークは、和平にあたり、港の租借権について譲渡するよう、協商側に申し入れた。

この条件を提示された協商は、大いに難色を示した。

国の一部、しかも一番豊かな場所を取られてしまうのだから、気持ちはわかる。


その後も、長々と交渉は続いたが、協商は、最終的に、港を譲ることに同意した。


とにもかくにも、帝国軍に進駐してもらうことのメリットを、協商は取ったのだ。

既に自力で立ち続けることが難しくなっていた協商には、帝国の要求をつっぱねるだけの余力が残っていなかった。

海軍を派遣されて、力尽くで奪われるよりは、和平の材料にしたほうがまだしもましだったのだ。


同時に、大量に確保した捕虜の処遇も、早々に決着した。

ただ飯を喰わせ続ける訳にもいかない私達は、協商の市民権を持つ兵士を、さっさと解放してしまったのだ。

傭兵崩れや蛮族出身者については、慣例に従って鉱山送りで決着した。


結局、第一次協商戦争で、私達は賠償金は取れずじまいに終わってしまった。

むかーしに盗まれた、美術品も取り返せていない。


だが、帝国は、協商に侵攻の足がかりを作る事にも成功した。

王国も、東部国境の安定化を果たし、国内の復興に注力できる体制を整えることができた。私達にとっては、満足のいく結果であったと言えよう。



さて租借した港だ。


協商は貿易が盛んな国で、港も多く抱えている。

長い交渉の結果、その中でも王国近くに位置する、立派な港を私達は譲り受けることになった。

その港に、ジークが変な名前を付けた。


その名もアリエンテ。


「素敵なお名前ですね」


「だろう」


メアリの言葉に、ジークが得意げに頷く。


だが、私は聞いてない。


アリエンテ。


私は、自分の自意識過剰も疑った。

でも、ジークの満足げな顔を見て、確信する。

彼は、奥さんの名前を、租借地につけちゃったのだ。


おいおい。

何、勝手に、人様の名前を使っているんだい。

私のお名前を借りるなら、ちゃんと使用許諾をとってくださいよ。


私は、ジト目に頬袋を膨らませるダブルコンボで、ジークに不満を表明した。

恥ずかしかったからだ。


私の無言の抗議を受けて、ジークは、膨れたほおを、楽しげにつつきながらのたまった。


「綺麗な港だった。アリシアの名にふさわしいと俺は思う」


ぷひゅー。

わたしの口から息が漏れる。


くそぅ。

このジークの物言いに、私は弱いのだ。

こんな風に言われたら、私は何も言えなくなってしまう。

まぁ、私の名前の先頭数文字を拝借されただけだ。


あまり細かいことは言うまい。


「・・・・・・本当に綺麗なんですか」


「ああ、本物には及ばないが」


もうっ!


このジークの言葉に偽りは無かった。

大分後の話になるが、私達は二人、アリエンテに旅行に行った。

彼の地は、紺碧の海の色に、真っ白な建物の色が映える、とてもきれいな港であった。

湾にせりだし出した高台からの眺望は格別で、内海の至宝とまで称されるのもうなずける美しさであった。

私のお気に入りの避暑地で、小さいものだが、皇室の別荘も一つ建ててもらうことになった。


なおこのアリエンテ、観光地としても有名だったが、湾の水深の深さも一つの特徴であった。

ゆえに、大型船も停泊も可能だったのだ。

大型船、とくれば当然思い浮かぶのは軍船である。

その結果、この港は、帝国の一大軍港としても有名になる。

後に、東部の海域支配のため、帝国が艦隊を整備した際には、このアリエンテが根拠地として指定された。

これが後に勇名と悪名をとどろかせる、アリエンテ艦隊だ。


このアリエンテ艦隊は、帝国軍の主力艦隊として有名になり、世界各地の海で大海戦を繰り広げた。

そして、大体の戦いでは勝つが、負ける時は大負けする、素敵な艦隊として、その名を海軍史に刻み込むことになったのだ。

アリエンテ艦隊に配属されたら、栄光か死の二択を迫られる。

そんな風聞に恐れられる艦隊となったそうだ。


皇后アリシアそっくりだと評されたけれど、私は一度も負けなかったぞと、主張したい。



こうして、王国と協商の戦争は、決着した。

アリシア率いる王国は、東部の支配権も確立し、王国全域を統治下に置くことに成功する。

東に国境を接する協商との国境も安定させた王国は、ついに待ち望んだ平和を手にしたのである。

ジーク「あとは帝国空軍インペリアル・エアフォースを創設できれば、完成だな」

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