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クールビューティーは、たいてい作り物だったりする

 数分後、ピクリとも動かない男どもの脇でガクガク震えている女子たちに向かって、言葉を放つ。


「おい、何ボケーっと立ってるんだ? 今から30秒以内に視界から失せろ。さもないと」

 

 弾かれたように女子たちが動き出し、男たちを裏路地へと引っ張っていく。30秒と言ったが、結局10秒もしないうちに見えなくなったな、あの連中。

 

 近くにいるはずの桜川さんを探そうとした時、強烈な目眩を感じた。ああ、『特異体質』が終わるんだな、と思い至った時には、すでにアスファルトの上に崩れ落ちていた。

       *****


「……ぶですか……。だいじょうぶですか……?」

 

 どこからか聞き覚えのある声が聞こえてくる。同時に意識が徐々に覚醒し、色々なことを思い返す。

 

 確か、『特異体質』で桜川さんに絡んでいた集団をぶちのめした気がする……。で、そのまま意識を失った俺はゲームセンターの前転がってるはずなんだよな……。

 

 しかし、背中に感じるのは硬いアスファルトのそれではなく、布団の柔らかい感触だ。しかも、かなり高級っぽい。大いに疑問を感じつつ、恐る恐る目を開けた。


「ああ、こりゃ女子の部屋だな。しかも、かなり金持ちの」

 

 寝起きのせいか、自然と漏れた独り言に返事する声があった。


「あのっ、そんなにお金はありません! じゃなくてっ、だいじょうぶ……? どこか調子の悪いところとかない?」

 

 最近よく聞く、銀糸を爪弾いたような声はどこか安心感があって、上機嫌だった。よくよく考えたら、俺が運ばれた先など三つしか選択肢がない。病院と、自宅。そして……


「ここ、どこだかわかる? 私の部屋なんだけど……勝手に連れてきちゃってごめんなさいっ!」

 

 ちょっと待った、軽く予想の上をいったのだが⁈ 桜川さんの家に運ばれてるところまでは予想していたが、まさか桜川さんの部屋に運ばれているとは……


「んや、大丈夫だけど……ていうか、桜川さんはよかったの? こんな、見ず知らずの男を部屋に入れちゃって?」 

 

 冗談めかして言ったつもりだったのだが、なぜか固まる桜川さん。見る見る間に頬が染まっていき、俯いてしまう。なにか、問題発言をしただろうか?


「その……さっきは助けてくれてありがとう。わたしなんかのためにケガまでして……」

 

 そう言いながら、左腕のあたりをさすってくる。よく見たら、いつの間にか大きな痣ができていた。どうやら、何発かは食らったらしい。


「ま、これぐらいどうってことないよ。それより、桜川さんは大丈夫?」


「ええ、私はおかげでどこもケガしてないわ。でも、北原くんはケガしてるし……」


「俺が言ったのは、体のケガじゃなくて心の、だよ」

 

 ビクッと震える桜川さん。ゆっくりと体を起こし、目を合わせて話しかける。ていうか、我ながらくさい台詞だな。


「もう、どうでもいいのよ。どうせ、私が何を言ったところで、彼らが変わるわけじゃないし」

 

 深く、深く沈んだ声。瞳には光がなく、声には力がない。


「どうでもいいなんて、本当は思ってないでしょ?」


「違う……」


「本当は、イジメられたくないって思ってるんじゃない?」


「ふざけないでッ!」

 

 突然の、激しい激高。形の良い、食い縛られた歯から漏れる、怨嗟じみた声。


「冗談じゃないわ! 私が、何も抵抗しなかったってそう言いたいの? そんな訳ないじゃない!」

 

 髪を振り乱しながら、喉を枯らしながら叫ぶ桜川さん。使用人と思しき人が二人、部屋に入ってきた。だが、桜川さんは全く気付かずに叫び続ける。


「諦めるより、抵抗してた方がずっと楽だったよッ! でも、しょうがないじゃない! 私ごときが、何を言ったところで何も変わらない。イジメてきた奴らはせせら嗤ってるだけだし、周りも見て見ぬ振り……。結局、自分可愛さで誰も助けてくれないのよ!」

 

 少女の悲痛な叫びが豪奢な内装に反響し、虚ろに響く。


「だって、私だっていじめる側にいたんだから……」


 少女の独白は、とても痛々しかった。

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