第七話 「幽霊」
泣いていた。
家から飛び出すように出てきたカオリの眼鏡の下は濡れていた。
「大丈夫? よく頑張ったわね、あんたは良くやったわよ」
「はい、ごめんなさい……もう、大丈夫です……」
一同はカオリの家から少し離れた公園にいた。
まずは彼女を落ち着かせるのが先決だったためだ。十分ほど嗚咽を漏らしていた少女はようやくまともに口を開いた。
「やっぱ悪かったかな、無理に連れ出して」
「一体誰よ、引っ張り出せなんて言ったの!」
「お前だろ!」
ケイゴとリュウジのやり取りにカオリも微笑みを浮かべる。
そしてすぐに真剣な顔に戻ると、意外な事を口にしたのだった。
「彼女の正体がわかりました……」
「え?」
「なに? 誰?」
皆が疑問を浮かべるなか、カオリは淡々と続ける。
「佐々木ミチコです……インターネットで名前だけを頼りに調べてみました……」
一同がおおっ、と驚きの声を上げる。
勉強だけが彼女の趣味であったなどと、そんな馬鹿げたことを思っていたわけではあるまい。だがしかし、真面目で控えめな少女にそんな特技があったとは誰も知らなかった。
「それでそれで?」
リエが興味津々と尋ねる。
「それで……実は、彼女は十年前……失踪しているんです……」
言い難そうにしている理由を一同は知った。
失踪事件と言えば現実問題として彼らの前で起こっていた。アオイの失踪。行方不明というだけでは関連性はそれだけだが、そうではないと知っている。あの日、事件の発端となったノートにはその名前が記されていたのだから。
「で、でもぉ。ただの偶然かも」
ヒロユキの意見に一同が頷く。
「そうですね……でも、その失踪した佐々木ミチコは……」
そこで言葉が止まってしまう。
間を置いて強調するつもりなのか、ただ単に吐きつくした空気を吸っただけなのか、一拍して後を続ける。
「彼女は……茜雲中学校の生徒だったんです……三年生の夏休み、彼女は失踪した……」
もはや、誰も偶然の一致と言い逃れできない。
あまりにも符合する点が多い。そしてそれ故にあのノートの異常さが沸きあがってくる。まるで、助けを求めるかのように書き殴られたあの文字。
「まさか、彼女の幽霊か何かがアオイを連れて行ったとか?」
「ちょっと、そんな馬鹿な話、誰が信じるのよ!」
蒸し暑いはずなのに。
強気に怒鳴っても、その薄ら寒い空気を変えることはできない。いや、きっかけとはなっただろう。
「そうです……そんな非現実的な話、有り得ません……」
カオリの言葉に一同は冷静になる。
そしてリエが思いついたように口を開いた。
「それって、誰かが仕組んだってこと?」
「そうか……そういうことか」
ケイゴが確信したように呟く。
彼には思い当たる節があった。それは単なる憶測でしかなかったが、こうなってくると真実味を帯びてくる。
「犯人を知ってるの?」
「まだそうとは言い切れない。でも、試す価値はあると思う」
そう言うケイゴの瞳に迷いはなかった。