第六話 「決断」
ため息がひとつこぼれた。
眼鏡に光を映して少女が嘆息していた。
部屋の電気も点けずに、暗闇の中にパソコンの画面が浮かんでいる。カオリは夏休みの間、外出禁止を言い渡されてしまい、あの日から一週間、食事など以外はずっとこの部屋に閉じこもっている。
「わかってはいたけれど……代償は大き過ぎました……結局、調査らしい調査もできなかったですし……」
暗澹とした呟き。
「でも……ひとつだけわかったことが……これを皆に知らせられたら……」
彼女の瞳が光る。
パソコンの画面の中には、ある事件の記事が表示されていた。
十年前にあった、もうひとつの失踪事件。そしてその当事者の名前――佐々木ミチコ。それが何を意味しているのか、調べるべきであった。
と。
窓になにかが当たった。
カオリはすぐに、窓の外を見やる。するとやはり三年D組のメンバー、ケイゴらの姿があった。二階にあるこの部屋の窓に小石を投げつけていたのだ。
「どうしよう……」
彼女は迷っていた。
心はもちろん、彼らに会いに行きたかった。
だが外出禁止になってまだ一週間。これ以上に罪を重ねるとどんな罰が待っているのか想像できない。厳格な父と母は彼女の躾に異常なまでにうるさかった。
逡巡していると、机の上にある携帯電話が鳴る。
発信者を見るまでもなく、階下にいるリュウジが携帯電話を耳に当てていた。
そして彼女は決断する。
「いまいきます……」
電話に出ると、それだけ答える。
彼らには直接会って伝えたいことがあったし、罰を恐れる必要はないと思っていた。一度犯した罪をさらに上塗りするだけだ――もう大した差ではない。
家の廊下を音を立てずに抜ける。
玄関にやっと辿り着いて、一息ついた時だった。
「どこへ行くの!」
心臓が跳ね上がる。
振り返ると怒りの形相を浮かべる母親が立っていた。カオリと同じような眼鏡をしているが、それは何の救いにもならなかった。
「マ、ママ……ごめんなさい……ごめんなさい」
「謝れば済むと思ったら大間違いよ。誰のおかげで今の生活があると思ってるの、あなたは……私やお父さんをそうやって裏切って、それで満足なの!?」
父の怒鳴り声とはまた違う、ヒステリックな叫び。
カオリは心が挫けそうになりながら、それでも戦っていた。彼女は両親の操り人形になるつもりはなかった。自分にも自由があると信じているのだった。
「ごめんなさい……!」
「待ちなさい! カオリ!」
悲鳴のような母の声を背中に。
カオリは玄関から飛び出していた。