第四話 「学校」
中の作りも似たようなものだった。
表の入り口に『清風学園』と刻されていた学校。何故か鍵はかかっておらず中に入るのは簡単だった。
「日曜日の学校って、こんな感じかな」
リエが感想を漏らす。
静かな廊下は彼女の大きくはない声を必要以上に響かせる。
彼女の言う学校とはもちろん、茜雲中学校を指しているのだろう。その学校という共通する建物の作りはそういった親近感さえ覚えさえるほど似ていた。
「どうせなら三年D組に行ってみましょうよ」
リュウジの提案に目的地が決まる。
作りが似ている、とは言っても全く同じということは有り得ない。当てなく階段を登り廊下をうろうろとしながら、ようやく三年D組と表記のある教室を見付ける。
「なんか、普通に登校してきたって感じだな」
ケイゴはそういいつつ、自分の席と同じ場所に座る。
それにつられて一同は各々の席を探しそこに座った。決して始まるはずのない授業を待つ生徒たち。それは些か奇妙な空間だった。
「アオイちゃんの席はここね」
リエのすぐ後ろが彼女の席だった。
彼女はなんとはなしにその席の机を覗き込む。そして訝しい顔をして中に手を伸ばした。
「食べ物でも見つけたの? いいなぁ」
ヒロユキが呑気にぼやく。
だがその中から出てきたのはそんな空気を一瞬で凍らせる。
「やだ、それってもしかして……!」
リュウジが悲鳴を上げる。
リエのその手には、一冊のノートがあった。装飾のないどこにでもある大学ノート。しかし一同の脳裏には歩道で拾ったあの謎のノートが思い出されていた。あれは確か、そのまま置いてきたはずだ。
「もうやめて!」
リエはノートを投げ捨てた。
その表紙には佐々木ミチコの名前が記されている。中身を見ないまでも、同じものであることは明白だった。
「アオイ! やっぱりお前なのか! 俺たちを脅かして楽しいのか!」
怒り狂ったようにケイゴが叫ぶ。
だが返事はない。学校のなかの静けさがより増したように感じるだけだ。アオイがどこかに隠れているような気配すらないほどに。
「も、もう帰ろうよぉ。ぼく、もう帰りたい」
「私もそれがいいと思います……これがアオイさんの仕業であるかは定かではないとしても、夕空町に帰ればわかることです」
カオリまでもがきっぱりと言い放つ。
探検は終わりだと、誰もが理解したのだった。しかしどこか釈然としないのは同じであるはずだ。
アオイは行動的で何かを計画するのはいつものことだったが、隠れて人が怖がるのを楽しむような、そんな陰気な性格ではなかった。
「カオリの言うとおりだな。家に帰れば全部終わりさ……もし、もしもアオイが帰っていなくても親たちに任せよう。俺たちだけで探すのは限界がある」
「あの子が犯人だなんて、信じたくないけどね。でも考えるのは後でもできるわ。とっとと帰りましょう」
それ以上、口を開く者はいなかった。
こうしてあまりにも短い探検は終わった。
忘れない思い出とするはずだったが、思い出すのも苦い冒険となってしまった。一人を除いて、家に帰ると予想以上に叱られて罪の大きさを思い知る。
やはり町の外へ出るべきではなかった、と。