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絶望の食卓  作者: 枝鳥
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ニョッキ

 本場のニョッキは、ジャガイモと小麦粉で作るという。

 これも、枝鳥の知る人によると、採れたばかりのジャガイモではいけないらしい。

 新ジャガと言われるものは、どうにも水分が多過ぎて、ニョッキにするには向いていないという。


 だが、まあ、そんなことはどうでもいい。

 要は私にとっての美味いニョッキが食べたいのだ。

 練りすぎてグルテンが結合してモチモチなニョッキは苦手だ。

 あくまでも、生地の段階ではザックリと。

 卵を入れる入れないは気にしない。



 ちょっと良いシャツを着て、ジャケットなども羽織って店に向かう。

 川沿いにあるイタリアン。

 ランチ時なんかに見かけた時には、いつもずいぶんと混んでいる。

 が、夜に見るといつも空いている。

 春には川沿いの桜が美しい、ロマンティックな店だ。

 天井から下がるいくつものオレンジ色の照明が、それぞれの卓を暖かく照らし出している。


 私は夜景が見える席よりも、厨房が見える席を希望する。

 前菜は生ハム。

 そしてニョッキを二種類頼む。


 ビールと生ハムで、ニョッキが来るまでのんびりと厨房を観察する。

 今、あの鍋に入ったニョッキは私のオーダーしたニョッキだろうな。

 ニョッキの味を思い返しながら、生ハムを口にする。

 思えば生ハムなんかもずいぶんと気軽に手に入れられる時代になったもんだ。

 だが、どうもコンビニなんかで買える生ハムは美味しくない。見た目だけで言うなら、コンビニの方が綺麗な透明をしていて美味しそうに見えるんだがなあ。

 濃い赤色をした透明感のないカサリと乾燥した生ハム。

 こいつを食べると、コンビニで手に入る生ハムがひどくベタベタしたケミカルなものだと実感する。

 豚と塩の旨味、それだけなのに美味い。こんな生ハムがある店のニョッキが美味しくないわけがない。

 生ハムとビールを入れた腹が、空腹を呼び起こされてキュウキュウと鳴る。


 そんなこんなを考えていると、待ち望んだ白い皿が運ばれてくる。

 白に近い薄黄色をしたニョッキにかけられているのは、赤いトマトソース、白いモッツァレラ、緑のフレッシュバジル。

 トマトの酸味のある香りにモッツァレラの乳の匂い、そして鮮烈なバジルの香りを胸いっぱいに吸い込んでから、取り皿によそう。

 もうお腹の虫は空腹の大合唱だ。

 モッツァレラが糸を引いてなかなかうまく取り皿に収まりきらないのも愛嬌だ。


 ニョッキにしっかりとソースをからめてから口に入れる。

 ほわり。

 舌の上で、ほわりとニョッキがほどける。

 ジャガイモの風味が舌を撫でる。

 それはトマトソースの酸味もモッツァレラのコクもフレッシュバジルの鮮烈さも受け止める。

 なのに、もうすでに口中にない。

 慌てて私は、もう一つ口に入れる。

 何が起きたのか確認しなくてはならない。

 だがやはり、口に入れるたびにすぐに消えてしまうのだ。

 そうして、気がつけば目の前の皿はすっかり空っぽになっている。


 やや呆然として、空っぽになった皿を眺めていると、次の一皿が運ばれてくる。


 芳醇なゴルゴンゾーラの香り。

 散らされたパセリの葉が美しい。

 ドロリとしたゴルゴンゾーラソースをまとったニョッキ。

 たっぷりとソースごと新しい取り皿に取り分ける。

 口に運ぶ。

 ガツンとくるような濃厚なチーズソースとゴルゴンゾーラの風味。

 それすらも、この儚く口にほどけるニョッキは受け止める。

 勝つ、負けるではないのだ。

 むしろ、並び立つ。

 鼻に抜けるゴルゴンゾーラの風味を楽しみ、舌でほどけるニョッキを楽しんでいるうちに、やはり皿は空っぽになってしまう。

 いつの間に!?

 私は茫然自失となる。


 確かに、食べたのだ。

 だが、空になった皿を目の前にして、すでに私はニョッキに飢えている。

 だが、腹はすでに膨れている。


 ニョッキを食べた後に、ニョッキが食べたくなる。


 釈然としないままに、家路につく。

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