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絶望の食卓  作者: 枝鳥
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雲丹

 雲丹。

 ウニ。

 うに。


 待ち兼ねた時が遂に来た。

 クール便で届いた箱をそうっと慎重に開けていく。

 緩衝材の中に鎮座する小さな木箱。

 ミョウバン不使用の無添加ウニ。

 その身は淡く輝く黄金。

 美しい。


 ご飯は炊きたてよりもやや冷ました方がいい。

 到着時間を見計らって15分ほど前に炊き上がった米は、お櫃に移してある。

 この日のために用意したお櫃だ。


 お櫃から丼にそっとご飯をよそい、おもむろにウニを載せていく。

 余分なものなど載せない。

 ただひたすらにウニの身を崩さないように載せていく。

 ミョウバン不使用のウニは、ミョウバンを使ったものに比べると、とても崩れやすい。

 焦る気持ちを抑え、慎重にウニを載せる。

 そして敷き詰めたウニの上に、そっとワサビを載せる。


 何という美しさだ。

 一面の黄金の上に、控えめなワサビの黄緑色のアクセント。

 思わず、正座してウニ丼と対面する。


「いただきます」

 まずは、そっと箸でウニだけを掬って口に運ぶ。

 芳醇な北の海の香りが鼻腔に抜けていく。

 そして甘い。

 海の香りの甘さが、口中に広がり溶けていく。

 優しい甘さに頬が緩んでいく。

 

 その辺のスーパーなんかで買うことのできるウニと一緒にしてもらっては困る。

 確かに見た目だけならば、このミョウバン不使用のウニの方が身が崩れたかのように見えるだろう。ミョウバンを使ったウニは、一つ一つがくっきりとした形状で新鮮に見える。

 だが、それはあくまでも見た目だけの話なのだ。

 ウニがそんなに好きじゃない、むしろ嫌いな人にこそ、このミョウバン不使用のウニを食べてみてほしい。

 変なえぐみなど一切ない。

 ひんやりとしたウニを口に運べば、磯の香りと共に濃厚な甘さだけが広がるのだ。


 次はご飯と一緒に口に運ぶ。

 ご飯も、北の海の幸には北の大地のものが相性が良かろうと選んだユメピリカ。

 コシヒカリに比べてやや小粒。

 しかし、甘みと粘り気ははるかに高い。

 正に米だけで美味い。

 冷めてもうまい良い米だ。


 何ということだ。

 米の甘さとウニの甘さが、渾然一体となって口中に広がっていく。

 そこへアクセントとして添えたワサビの辛味が、よりウニの甘さを引き立てていく。


 そりゃ、ウニには棘が必要なわけだ。

 こんなに美味いのだ、棘が無ければあっという間に厳しい海の生存競争を生き残ることなんて、とても出来はしないだろう。


 かつて、北の大地が出身の知人が私にこう言った。

 ウニなんて、その辺の海岸で取ってささっと海水で洗ったものをよくオヤツ代わりにしたものだ、と。

 ふざけんな。

 そのようなオヤツがあっていいわけがない。

 もっとこう、ウニはオヤツなんかじゃ済まない食べ物だ。

 けしからん話だ。



 掻き込みたくなる気持ちを抑えながら食してきたウニ丼も、今や残るは最後の一口。

 丼なんかでは、私はいつもわざとご飯を多めに食べるようにしている。

 そうすることで、最後の一口こそが、最も贅沢な一口になるのだから。

 半分以上がウニの最後の一口を頬張る。

 圧倒的な幸福感。




 ツラツラと、北の大地のことを考える。

 このウニを取り寄せた店は、北の大地で店舗を構えている。

 ウニのグラタン。

 生ウニ入りのだし巻き卵。

 なんと素敵な響きであろう。

 どんな美味な味なんだろうか。

 これは是が非でも、いつかは行かねばならない様だ。

 更には、北の大地は花粉の飛散も本州の半分だという。


 なぜに私は北の大地にいないのだろうか。

 窓の外に飛んでいるであろう花粉を思い、私は溜息をつく。

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