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絶望の食卓  作者: 枝鳥
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小籠包

 枝鳥は猫舌である。

 いや別に、本物の猫のようなザラリとした舌をしているわけではない。

 熱々のものを食べるのが苦手なのである。

 ふと枝鳥の周囲を観察していて気がついた。

 猫舌なる人物には、食いしん坊が多い。

 そもそもが人間の耐熱性にそんなに差分が出るものではないのだ。

 人間も一つのタンパク質の塊である以上、熱過ぎればそれを忌避するようにできているはずなのだ。

 ではなぜに猫舌になる人間とそうでない人間がいるのだろうか。

 枝鳥は、食べることが大好きである。

 美味いものを目にしたならば、早く味わいたいとはやる心を抑えきれない。

 そうして一目散に料理を口に運び、舌一面で味わおうとして火傷をする。

 毎度繰り返しても学習しない。

 つまり、食いしん坊であることと猫舌はイコールの関係に近いのではないかと推察する。



 さて、小籠包である。

 熱い。

 これこそ枝鳥に火傷をもたらす食べ物のTOP3にランクインしているであろう。


 蒸し立ての小籠包が蒸篭に3つ、湯気を立てている。

 充分に注意しないと火傷をするが、しかし熱々こそが美味いのである。

 生姜の千切りを少し乗せ、黒酢を入れたレンゲにそっと移し替え、箸で皮を破り熱いスープを味わう。

 意外にスープの時点ではまだ火傷をすることは少ない。

 そしてパクリと小籠包を口に入れる。

 アツッ!

 ハフッハフッ!!

 必死に冷たい空気を取り込もうとするが、ちょっとやそっとじゃ口の中の小籠包の熱が逃げることはない。

 涙目になりながらも、なんとか小籠包を嚙みしめる。

 薄皮の中には肉汁たっぷりの餡がぎっしりと詰まり、噛むごとにその旨味が口に溢れ出していく。

 千切りの生姜のシャキシャキ感と黒酢のさっぱり感が心地良い。

 肉の旨味と合わさり、文字通りいくらでも食べられそうである。


 先ほどまでの口中の大惨事など物ともせずに、次の小籠包を準備する。

 レンゲに生姜の千切りと黒酢、そしてそっと小籠包を乗せる。

 なにやらレンゲでママゴトをしているかのようで、楽しくなる。



 枝鳥が小籠包を食べる時には、必ず食べ放題に行く。

 思いっきり食べてこその小籠包だと信じているからだ。

 最近の小籠包の食べ放題には、色々な点心などが食べられる。

 サラダや麺類、チャーハンに炒め物。

 それらに心惹かれないわけではないが、小籠包を食べ放題したいのだ。

 小籠包は、スープと主食である小麦の皮、メインである肉でできた餡がある。

 だから浮気はせずに、ひたすら小籠包の蒸篭を重ねていく。

 アツッ、美味い!

 ハフッハフッ、美味い!でも熱い!

 小籠包を食べるのならば、夏がいい。

 エアコンのよく効いた涼しい店内で熱々の小籠包を食べる気持ち良さ。

 時々熱いジャスミン茶で口の中の脂をさっぱりとさせながら、次々と小籠包を頬張っていく。

 卓の上に空になった蒸篭が積み上がっていくのも面白い。

 そうしてついつい食べ過ぎる。


 小籠包だけでみっしりと膨れた腹を撫で、ふと食べ放題メニューに目を通す。

 すっかり暑くなった体を少しばかり冷ますのは、さぞや気持ちが良いことだろう。

 オーギョーチーと杏仁豆腐をツルリとこの火照った体に滑り込ませたらどうだろうか。

 その想像は思わず腹がいっぱいなのに、店員を呼んでしまう。


 せっかくの食べ放題だしな。

 初志貫徹など無理はしない。

 デザートは別腹だとも言うではないか。



 かくしてちょっとばかり食べ過ぎた幸せな後悔と共に店を出る。

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