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絶望の食卓  作者: 枝鳥
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エビフライ

 大きなエビフライにレモンを絞り、タルタルソースをたっぷりとつけてかぶりつく。

 ザクリとした衣。

 プリップリの海老。

 海老の甘味がタルタルソースの酸味によって引き上げられる。

 弾力のある海老が、これでもかと歯を押し返す。

 それを嚙みしめるたびに、海老の旨味が溢れてくる。

 そこへグビリとビールを流し込む。

 最高だ。


 エビフライを食べる時は、なぜか瓶ビールを選んでしまう。

 冷えた瓶は表面にいくつもの水滴をつけている。

 瓶を傾けてビールをグラスに注ぐ。

 皿の上にはまだまだ巨大なエビフライが一本と半分。

 顔を上げて窓の外を見れば、美しい夕焼けが空を染めている。

 エビフライの尻尾の色だ。



 エビフライはご馳走だ。

 それも大きいほどに素晴らしい。

 手を広げた親指の先から小指の先までよりも大きなエビフライにかぶりつく。

 ムフフと喉の奥から笑いが出る。

 申し訳なさそうにトンカツやハンバーグに添えられているようなエビフライではなく、それだけで主役級のエビフライを食べるという幸せ。


 店内を見渡すと、皆うれしそうにエビフライを頬張っている。

 年配のご老人もデートの最中であろう若者も幼い子供も、みんなが笑顔でエビフライを食べている。

 どうして巨大なエビフライを食べると、人は笑顔になるのだろう。

 そう思って目の前のガラス窓に映る枝鳥も、やはり笑顔である。



 悲しげな顔でエビフライを頬張る。

 どんなシチュエーションになるんだろうか。

 枝鳥には想像もつかない。



 ああ楽しくてたまらない。

 カラリとよく揚がったキツネ色した衣のエビフライ。

 海老であることに逆らうかのように真っ直ぐなエビフライ。

 赤い尻尾が可愛らしいエビフライ。

 プリップリの白い身を隠したエビフライ。


 エビフライは幸せな笑顔の象徴だ。

 休日の夕方にエビフライと瓶ビール。

 一週間よく頑張ったと自分で自分を褒めたくなる。

 ご褒美だよと言いたくなる。

 まあ、ちょっとしたトラブルなんかもあったけれど、それも全部エビフライのためだったんだよ。

 ああ、こんなに美味いエビフライを食べるためなら仕方ない。

 こんなにも美味いエビフライのためなら、また来週からも頑張ろう。



 枝鳥は、笑顔になりたい時には巨大なエビフライを食べに行く。

 巨大なエビフライには、そんなパワーがあるのだから。

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