フルーツフラッペ
色とりどりの果物が所狭しと並べられた店内。
熟された果物が放つ芳香。
イチゴ、バナナ、メロン、キウイ、オレンジ、マンゴー、ブドウ。
とある駅から5分ほど歩いた先に、そのフルーツショップはある。
真新しい店ではない。
学生時代に女の先輩に連れられて来たのが、この店を知るきっかけだったなと思い出す。
あの頃の枝鳥はまだまだ初心だった。
そんな甘酸っぱい気持ちになるのは、この店内の甘酸っぱい芳香のせいに違いない。
果物屋の店の奥に、ひっそりとイートスペースがある。
10席にも満たないカウンターだ。
腰掛けてから、メニューにさっと目を通す。
春はやはりイチゴだな。
「イチゴのフルーツフラッペを一つ」
中年の女性にオーダーを告げる。
学生時代には老婆だった覚えがある。
代替わりしたんだろうなと、時の移り変わりに何だか少し切なくなる。
オーダーを受けると、すぐにカウンターの奥にあるかき氷機でガリゴリと氷を削り出す。
そして、それと同時にジューサーにボトボトと大量のイチゴが投入される。
よおく熟した真っ赤なイチゴ。
売り物にするにはちょっと熟し過ぎている。
ガーッガーッ。
みるみるうちにイチゴはその形状を無くし、ドロリとした液体になる。
フルーツフラッペなんて洒落た言葉で言うが、何のことはない。
かき氷である。
しかし、このかき氷は只者じゃない。
ガラスの器に盛られたイチゴのかき氷が、カウンター越しに枝鳥の前に置かれる。
銀色に光るスプーンを差し込み、豪快に一口頬張る。
甘酸っぱいイチゴ、しかもケーキの上に乗っているような、見栄え重視ではない完全に熟したイチゴの味が口中に広がる。
甘い、酸っぱい、美味い。
今まで縁日の屋台で食べていたかき氷とは何だったんだろうと、過去の己に問い詰めたくなる美味さである。
あんまりにも急いで食べると鼻がキーンとする。しかしのんびり食べていたら溶けてしまう。
完熟のイチゴを堪能しながら、できるだけ急いでフルーツフラッペの山を頂上から食べ進めていく。
そうすると、なんと!
この山の中腹にはバニラアイスが仕込まれている!
少し氷の刺激に疲れてきた私を、優しくバニラアイスが受け入れてくれる。
シャクシャクした氷の舌触りが、滑らかなバニラアイスに切り替わる。
イチゴのソースを絡めてストロベリーアイスにしてもまた美味い。
バニラアイスの休憩の後は、かき氷の後半である。
たっぷりとかけられた完熟イチゴのソースは、しっかりとかき氷の下まで赤く染め上げている。
赤く染まった氷を何度も口に運び、そして最後の一匙を口に入れる。
だが悲しいかな、溶けぬうちにと急いで食べても、ガラスの器にはまだたっぷりと赤い汁が残っている。
キョロキョロと辺りを見回す。
よし。
今日は客が少ない時間を狙って来た甲斐があった。
スイッと器を持ち上げて、傾けた器に溜まったイチゴジュースを匙で高速で口へと運んで往復させて完食する。
そして何食わぬ顔をして器をそっとカウンターに置く。
銀色の大きな硬貨一枚と、銀色の小さな穴の開いた硬貨一枚を残して、充足感と共に店を出る。
最近は縁日の屋台もだいぶ値上がりしたものだ。
高い時などこのフルーツフラッペとそう変わらない値段ではないか。
そう思うとこの満足感はとても安い。
ニヤニヤしながら街を歩く。
しかし、この店には枝鳥が行ってはならぬ時間がある。
平日の夕方がそれにあたる。
近隣の高校、女子高、大学、女子大から多くの女性が訪れるのである。
土日なんてもってのほかだ。
若い女性たちの前で、何度ジュースを諦めたことか。
枝鳥にだってなけなしのプライドはある。
だから、そう。
棚卸しなんかで休みになった平日の昼間。
そういった限られた時間だけ、枝鳥はこの店で人目を気にせずに満足するまでフルーツフラッペを食べられるのである。




