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序文
2016年春、絶望の病に身を侵されました。
その病の名は花粉症。
なんとなく、食欲がわかない。
体の節々が痛い。
四六時中だるい。
微熱が出る。
風邪が治らない。
日が進むにつれて深刻になる症状。
そして白い衣をまとった絶対者によりくだされる絶望の言葉。
「花粉症ですね」
絶望した。
急いで空気清浄機を手に入れ、ありとあらゆる対抗策を取ったが、抵抗虚しくあらゆる症状はやまない。
湯気の立つ食卓。
いつもならその芳しい香りで食欲をそそるはず。
匂いがわからない!
湯気を立てるスープも、焼いたばかりの肉も魚も、ほかほかの白いご飯も、いつもならば芳醇な香りでもって私を誘うはずが、この詰まった鼻では匂いがわからない!!
更には、一歩外へと足を踏み出せばひどくなる症状。
あの愛しき店へはかくも困難な道程だったとは……。
私は一人、寝室で項垂れた。
これは、絶望の病に身を侵された一人の悲しい備忘録である。