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空想遊戯見聞録

MEGATEN

作者: 三枝 四葉

氷の鞭の様に風が吹き込む季節。

しかし、年がら年中、争い事が絶えないこの時代に、季節の移り変わりを感じられるものは無かった。

中でも、この二国は氷以上に冷たい関係にあった……。


シャチク共和国――

“シゴトの為に生きている訳じゃない、ジブンの為に生きているんだ”を信条に。

一つの大きな国に囲まれる様な形で、国の南は広大な海に面している、かなり小さな国……。

そんな国を囲んでいるのが……


ショクバ帝国――

圧倒的な軍事力を保持し、色々な国から恐れられている、シャチク共和国の敵国……。


シャチク共和国とショクバ帝国は、これまで何度も戦争を繰り返し続けていた……。

そんな中、“戦争の無い時代を目指す為に、全ての国に和平を”と唱え続ける国があった。


シュトケン王国――

建ち並ぶ壮大な歴史的建造物は、和平意義を世界に向けたメッセージ、らしい。

そんな建造物を幾つも造り上げる程の、高度な文明技術を誇る国……。

どんな国に対しても、温かい目を向ける程の大きな懐を持ち、シャチク共和国の友好国でもあった。



シュトケン王国は、シャチク共和国とショクバ帝国の二国に和平協定を結ばせる様、懸命に訴え続けた。

しかし、和平意義を唱える事は、圧倒的な軍事力が無駄になると感じたショクバ帝国にとって、邪魔な存在でしかならなかったのだ。

第二次ストライキ大戦の始まりを告げるその日、ショクバ帝国は大軍を率いてシュトケン王国に向け、進軍を開始させる。

シュトケン王国は懸命に応戦するも、ショクバ帝国の圧倒的な軍事力に苦戦を強いられた。



数ヶ月後――、シュトケン王国の王都トウキョウは陥落。

その数日後、謎の大地震が発生すると、シュトケン王国があったその場所は何も無かった様に忽然と姿を消し、広大な荒地になっていた。


そして世界は再び、憎しみと悲しみの連鎖に包まれていく。

シュトケン王国は、世界にとって夢物語に過ぎない伝説の国として、一冊の書物に名だけを残し、暫く姿を現す事は無かった……。






※ ※ ※






その壮大な遺跡を見つけたのは、第五次ストライキ大戦の戦後の事……。

シャチク共和国のハンター達はショクバ帝国の厳しい目を潜り抜け、その帝国の北地へ探索に出掛けていた。


シャチク共和国の者でもある私もハンターの一人として、帝国の北地をただ一人歩いていた。

未だ見ぬ土地を目指して――。




「何とかショクバ帝国の目を誤魔化して、潜り抜ける事が出来て良かった……」


仲間を連れていると、私も含めて彼らの身を守れる程、私にそんな余裕は無い。

自分の身を守る事だけで精一杯だ。だから、一人だけで国から旅立って来た。


「しかし、此処まで来たとしても、奴らの目を気にしなくては。奴らは地獄耳ならぬ地獄目の様な監視で、もしかしたら何処かで見張っているかもしれない。警戒を怠らず、注意して進もう……」


私は奥深くへ歩を進めた。




当然、一人なので、自分の身は自分で守らないといけない。

道中には様々なモンスターに遭遇する事もある。奥地に眠る何かを守るかの様に、番人として立ちはだかる。愛用の曲刀で一振り交えては逃げ、また一振り交えては逃げのヒットアンドアウェイ。


それを暫く続けていると、モンスターの姿を全く見なくなる様になった。

それでも私は奥深くへ、次々と歩を進めた。その途中――




「む……、霧か……!」


霧に囲まれてしまった。それもかなり濃い白に。

あまり動くと退き返せなくなるだろう。


「しかし……、何方にしても退き返せない。あのショクバ帝国の厳重な警備をまた上手く潜り抜ける事はもう出来ない……」


私は首を横に振る事で、元来た道へ退き返そうという弱音な気持ちを振り払う。


「それに……私は、故郷へ帰れなくなるかもしれないという覚悟と、……必要な荷物は全て持って旅立って来たじゃないか」


改めて決心した様に頷くと、退き返す事無く、その場に留まる事無く、そのまま歩を進めた。






※ ※ ※






どれくらい進んだだろうか。

兎に角、大きく時間が経ったのと、その時間の分だけ先を進んだのは確かだ。

しかし、相変わらず、濃厚な白が周囲を埋め尽くしていた。それでも私は懸命に歩を進める。




「……あれは?」


深い霧の奥で、直線状の黒い影が幾つか姿を見せた。


あの時、足場を気にして進めば良かっただろうか。

この後、地面へ吸い込まれる様に、私は……




落ちた。


……少し進んだ先に崖があったのだ。


しかし、私はハンターとしての感を働かせ、咄嗟に手を伸ばして崖の縁につかまり、更に下へ落ちる事を防いだ。

それから歯を食いしばり、腕に力を入れて命懸けで登った。


「ハァ、ハァ……。……此処に、……崖が、あった、とは……。……しかし」


改めて崖上から一望すると、霧の中から建造物らしきものが姿を覗かせた。

足場に気を付けて、周囲を見回して、あの建造物に近付ける道を探し、ゆっくり進む。



その建造物の根元らしき場所に辿り着くと、とんでもない事に気が付いた。

旅立った時は大きかったのに、小さくなってしまったバッグから、一冊の書物を取り出す。

その書物から絵のあるページを開き、目の前の建造物と見比べる。


開いたページの絵にある建造物の看板と、目の前の建造物の看板に刻まれている文字が一致した。

それが――




“MEGATEN”


シュトケン王国の王都トウキョウで有名な建造物の名……。

上を見上げるが、霧に寄って、どれくらいの高さがあるのか分からない。


此処は……、数年前に世界から忽然と姿を消した、シュトケン王国の跡地ではないだろうか?

きっと、そうに違いない。


遺跡は何処まで拡がっているのか、数ヵ月経っても全てを見切れなさそうなくらいの規模で、時が止まっていたかの様に、建造物達は不思議なくらいに原形を保っていた。


私はこの地に留まり、研究を始める事にした。






※ ※ ※






研究を始めてから数ヵ月後――


この地に何人かの同士が集まり始めた。その中の一人が伝書鳩を連れており、遺跡の事を認めた伝書を鳩に持たせ、深い霧の中へ飛ばさせた。

また暫くして、伝書が無事にシャチク共和国に届いた報せを、飛ばさせた伝書鳩で受け取る。遺跡についての噂が広まった様だった。


数多のダンジョンが存在する――シュトケン王国の跡地らしき遺跡。

その噂はショクバ帝国の者達の耳にも届いていた様だった。集まった同士の中にスパイが居て、彼が影で噂を広めていたのだ。


色々な宝が眠っている可能性があると見出したショクバ帝国は、遺跡へ向けて、大規模な軍隊の派遣を始めたのだ。

そんなやり方にシャチク共和国の者達は不満を感じ、ショクバ帝国に向けて戦争を開始する。



しかし、ショクバ帝国の圧倒的な軍事力に誰も叶う筈も無かった……。


その結果、シャチク共和国は――敗北。

私も含め、生き残りのシャチク共和国の者達は、ショクバ帝国に領土や人権などの全てを委ねられる事で、何も抵抗する事無く終わる……筈だった。



また遺跡の様に忽然と現れた、謎の国の使者……。

“全世界の中立国であるセイフ公国の使者”と名乗る者から、“シャチク共和国とショクバ帝国は、見つけた遺跡の地を分割し、其々が持つ”という御触れが貼り出された。

セイフ公国について誰に訊ねても、『聞いた事が無い国だ』と述べた。勿論、私も初めて、この国の名を聞いた。何処かの国が革命を起こし、つい最近出来たばかりの国だろうか?


やはり、ショクバ帝国はこれに対して不満を持っており、何人かがセイフ公国の者へ攻撃を仕掛けようとするが、何故か抵抗出来ずに終わったそうだ。

この事について不思議に気になったので私は、ショクバ帝国でも人が良さそうな一人に恐る恐る訊ねてみた。特に一時的な和平協定を結んだ訳では無いが、訊ねてみた彼もまた不思議だが、武器を持っていなかったからだ。きっと攻撃はしてこないだろうと思って、訊ねてみた。

彼が云うには、『見えない壁の様な物に拒まれた』と。


謎は色々深まるが、二国はこのまま御触れに従う事になり、絶妙なバランスを遂げる事になった。




そんな中、遺跡の遥か奥で、未だかつてとない異形の地が見つけ出されたのだった――。

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