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アナッシィの憂鬱

 そろそろストックが尽きそう。


 索敵及び戦況の把握と確率論的予測による情報提供を担う魔法少女でも特殊な技能の持ち主のアナッシィたちはプライベートでも情報収集癖があります。


 彼女らを通じた魔法少女たちの日常の断片です。


 夢の中で、ベッキーは新入りの砲台、ムイと一緒にベッドで戯れあっていた。

 南国のモカ色をした肌。東洋人らしいきめ細かさと吸い付くような柔らかさはまるで骨が無いようだ。杏仁のような目の鳶色の瞳を覗くと吸い込まれそうだ。

 フフフと笑い、顔、耳、首、鎖骨、ムイの柔らかく、湿った唇がベッキーの白い肌を通り過ぎた跡を残してゆく。

 くすぐったさと、もっと強い甘い刺激に集中するため、ベッキーは目を閉じた。徐々にベッキーの年のわりに成長した胸へと唇が近付いてくる。

 「あっ…………。」

 思わず声が漏れた。

 「かっわいい〜。」

 …あれ? どっかで聞いた声。でも、確実にムイではないわね。この…セクシーな声は……。

 「ふふふ…、ばぁ!」

 「ちょっと!!」

 夢の中で、思わずツッコミを入れ、目を開けると、そこにはルームメイトでアリス中尉の部隊のアナッシィであるジュリエッタ・オリベッティの顔があった。

 「な、なんで、あんたがいるのよ!! ここはわたしの夢の中よ!!」

 「んふふ〜。いいじゃない。一緒に楽しみましょう。」

 そういってジュリーはわたしの首に両腕をまわして、グラマラスな胸を押し付けた。肉食系少女のラ・フランスの香りに包まれる。

 一瞬、くらっと来た。でも、でも、なんなのよ!?

 ありえない!!

 わたしはまた目を閉じて、必死に目が覚めるように意志を集中した。

 目の前が暗くなって、思いっきり腹筋に力を込めた。

 「…ップハァ!!」

 現実に戻ったわたしは毛布をはねのけて、起き上がった。

 「はぁ、はぁ、はぁ……。」

 部屋の反対でおっきな口を開いて、眠りこけている赤毛のジェノバ女の能天気な寝顔に枕をぶつけてやった。

 ボスン!という音と共に枕が高い鼻に当たり、ジュリーは跳ね起きた。

 「なにすんのよ!?」

 「それはこっちの台詞でしょ!! 人の夢の中に入ってこないで!!」

 「わたしだって、ダンディなおじさまとのデートを邪魔されているんですからね!!」

 ジュリーがわたしの枕を投げ返してきた。

 わたしはそれをよけると、ジュリーの枕に追撃された。

 「プフッ!」

 「ヤーイ。」

 ジュリーは極めつけのヘン顔でわたしをからかった。

 「だから、周波数が一緒のアナッシィと相部屋になりたくなかったのよ!! 夢で混線してしまうなんてきいたことがないわ!!」

 「ベッキーだって、ムイとエッチなことをする夢を見てたじゃない!!」

 「あんたの夢に引っ張られたのよ!! もう、どこまでがわたしの夢だか、あんたの夢だかわからないじゃない!!」

 「むぅー!!」

 「くぅー!!」

 ジュリーとにらめっこしていると、わたしの目覚まし時計が鳴り出した。

 「…休戦よ。」

 「…いいわ。」

 ため息が出る。きょうからまたトレーニングが再開されるのに、朝からこんなことで体力を消耗したくないわ。

 顔を洗ってから、クローゼットを開いて、支給されているカーキ色のトレーニングパンツと白のTシャツを取り出し、パジャマを脱ぎ捨てた。最近、成長曲線に鈍りを見せてきた胸を押さえるのに、ネイビーのスポーツブラをつけ、トレーニングウェアに着替えていると、ジュリーに名前を呼ばれた。

 「なに?」

 Tシャツに袖を通すと、ジュリーが小瓶を投げてきた。

 受け止めるとココナッツの香りがかすかに漂った。

 「…日焼け止め?」

 「天気がいいのよ。つけておかないと皮膚がんになっちゃうわよ。」

 「ありがとう。」

 ジュリーは丹念に化粧水をパッティングしている。なんか、気合いが入っているなぁ。

 「どっか行くの?」

 「うん。ニューヨークの国連総会の警護任務。面倒だけど、スーツのかっこいいおじさまたちを眺めて、目の保養してるわ。」

 「あっそ。」

 20も年上からスタートなんて、わたしの理解を超えているわね。どこがいいのやら。


 「ほら! タラタラしない!! この三日の休暇でたるんだからだを元に戻すのよ!!」 

 「は〜い。」

 グラウンド周回も、もう五周目。ムイたち低年齢組が一足先に休憩しているのを横目にわたしたちはあと五周も走らなきゃならない。

 サングラスにウサギのキャップを被った鬼のメイリンがわたしたちのとなりを見張りながらついてくる。彼女も同じように走っているのに疲れた様子がみじんも見られない。

 ハァ、ハァ、ハァ………。

 だいたい、アナッシィって『対象αーオブジェクト・アルファー』の出現予測や出現地の探索、それから敵の能力の分析に、MAHO-SYOUJOたちを狙う悪い大人たちがいないか持ち前の探索能力と分析能力が重要であって、力任せに魔力を叩き込む砲台たちとは違って、知的な業務なのに……。

 「ベッキー!!」

 「は、はいっ!!」

 「あなた方、アナッシィは疲れたらどうなるの!?」

 「えっ? え〜と、索敵範囲が狭まったり、予測値の計算が遅くなります!」

 「それは部隊に対してどのような影響があるの!?」

 「は、はい! 未確認の敵に襲われたり、データの提出が遅れて、部隊長の判断に影響が出て部隊全部に危険をあたえます!」

 「だったら、あなたがたはその能力を長時間フルに使えるように、もっと体力が必要となると思わない!?」

 「はい!! 隊長の言う通りです!!」

 「だったら、もう一周追加!!」

 「え〜……、は、はい!! ありがとうございます!!」

 メ、メイリンのオニーー!! サディストーー!! 

 となりのサーシャがウィンクをした。エキゾチックな子が好みのわたしだけど、雪の妖精のようなロシア娘も大好きだ。透けるように透明な白い頬が日差しと運動で真っ赤になっている。

 わたしもウィンクを返した。

 切りがいいところでとメイリンに言われ、結局15周も走らされたわたしは、二人組になって体操しているチームの横で一人芝生にぶっ倒れていた。

 ウプッ……朝のオレンジの酸味が逆流してのどの奥が焼けそうだ。

 「ベッキー以外、集合!」

 副長のサーシャが号令をかけた。砲台の子たちがサーシャの前に整列した。

 「これから、紅白戦を行います。」

 「えぇー!!」

 隊員たちのブーイングがグラウンドに響いた。紅白戦って、MAHO-SYOUJOたちの模擬戦なんだけど、チームに別れて、互いに攻撃しあうものなのよね。

 実践的なカンや動き、能力を養うのに最適な方法として、日本出身のMAHO-SYOUJOたちが広めた訓練法なんだけど、けっこう評判が悪い。

 だって、同じチームの女の子たちと誰が好き好んで闘おうとするのよ。

 日本人って、やっぱりアグレッシブ。

 でも、いつの間にか、みんなエキサイトしちゃって、中には喧嘩になっちゃうこともあるし、はたから見ていると、キャットファイトみたいでおもしろい。わたしはそんな趣味は無いけどね。もっと文化的で穏やかなのが好み。

 さっき、サーシャがわたしをはぶいた理由はアナッシィは部隊に一人しかいないし、広域および空間的な位置把握とそれに基づいて確率論的な敵の戦術予測ができるので入ったチームが断然、有利になっちゃう。

 なので、わたしは自分のトレーニングに入ることにした。

 メイリンに別メニューを申告したわたしは、ヘンシンした。

 わたしはメイリンと同じUSの出身だけど、南部のお嬢様スカーレット・オハラのメイリンとは違ってNYCのブロンクス出身だから、よくなんで、ワルキューレのコスなの? って聴かれる。

 けど、わたしだってわかんない。

 MAHO-SYOUJOのコスは2タイプあって、自分のイメージを元にコスが決められちゃう子。これはメイリンやムイがあてはまる。メイリンのドレスは南北戦争の頃の南部のいいとこのお嬢様のドレスが元になっている。これは彼女の出身が南部でも有名な名家であることを表している。ベトナム出身のムイのアオザイ風のセクシーなコスもおんなじ。

 そして、もう一つは能力や特性にあわせられたコスが出現する子。これがわたしやサーシャになる。わたしは空を駆けて上空から探索を行うのが北欧神話の戦乙女って呼ばれるワルキューレをイメージさせるから、こんな羽のついたメットとサンダルになめし革のような鎧のコスになる。サーシャは分厚く堅牢な多重シールドを張る。それがまるで薔薇の花のようだから薔薇の蕾のようなドレスになっているらしい。

 意外と、わたしたちのコスに注目するとその能力やその子の性格が見えてくる。

 そして、普段の服からコスへのヘンシン中はほとんど意識がない。なんにもすることがない晴れた休日の午後にベッドでごろごろテレビを見ているようなトロトロした感じがする。

 ノーマルの状態からコスになるまで、実測では2.4μsが平均値なんだけど、体感では15秒くらいあるような気がする。

 だから、ウトウトして、ハッと目が覚めた感じでコスになっている。時おり、ポーズを取っている子もいる。あれは見ていてはずかしいけど、本人もけっこうヤバい心境らしい。

 棒立ちでヘンシンが終わり、あちこち確かめてみる。ヘルメットの羽も問題なく動くし、動かしたらかるく浮かぶ。

 なんか、調子がいい。

 限界突破するにはいい日かも。

 「じゃ、いきますか。」

 誰に言うわけでもないけど、口に出してから、芝生を駆け出す。

 八歩めで、足が何も無い宙にかかる。マッチョな兵隊さん二人が手を組んだ上に足をかけて、彼らの力で空を飛ばされるようなかんじで空に駆け上がる。

 ヘルメットとサンダルの羽を大きく羽ばたかせる。

 ぐんぐんと上昇速度が上がる。

 雲一つない。

 わたし一人きりだ。

 視界が青に染まる。

 20,000フィート、30,000フィート、40,000フィート、45,000フィート、50,000フィート、55,000フィート、60,000フィート……。

 いままでの限界であった43,800フィートをかるく超え、目視で星が見えるような高度までたどり着いた。ここまでたどり着いたアナッシィは数えるほどのはずだ。

 まずは一つの目標まで達したわたしはそこで滞空した。

 ふわりふわりと浮かんだわたしに高々度での低温度や低酸素、与圧服での空気塞栓と言った危険は無い。

 よく分からないけど、シールドがわたしをいつでも地上と同じ一気圧でわたしが適温と思う温度にしてくれる。もちろん紫外線や有害な放射線からも守ってくれるので、ヘンシンしちゃったら、UVケアは必要ない。

 ただ、酸素はどうしているんだろう? そこは誰もわかんないみたい。

 基地の管制センターにいる子に現在位置を報告して安全を確認してもらい、続いてメイリンに限界突破を報告した。

 「よかったわね。」との簡単な褒め言葉をいただいたわたしはつぎに探査をはじめてみる。

 これにかんしては説明しようが無い。

 目は開いているけど、もう一つの視界が開けているかんじ。それもわたしを中心にして、完全な球形の視界が開けている。その中にあるものはどの位置にあるか分るし、その中にいる誰かを起点にしてどこにいるかも言える。

 頭の中でチャンネルを変えると、それらの動線も光の残像のように見えるし、予測される動きの線も見える。これは相手の運動性能とそれまでの動きをデータとして、確率の高い動きを予測している。だから、すごく精度の高いカンみたいなもの。でもこれはテストの予想には使えないんだな。

 わたしのアナッシィとしての能力はこんなかんじ。

 うむ、やっぱり狭いか。だいたい、100メートルくらいか。

 力を抜き、羽が落ちるようにゆっくりと落下し、通常の探索を行う高度4,300フィートくらいにすると半径160kmぐらいまで見ることができる。

 これではっきりしたことは、わたしのフォースの量は一定で、これの割合を高度にふるか、探索にふるかなどによってほかの能力は制限を受ける。

 ま、そんなところよね。

 納得したので、地表の模擬戦の様子を見ると、二人一組のペアに変わったようで、メンターのティーナと新人のムイ、アレクサンドラとナターシャ、チュンとアニエス、桃佳とサンディに別れていた。副長のサーシャは審判をしている。

 まだヒヨッコのムイはティーナとペアを組んだようね。ティーナもムイがお気に入りのようだし。

 チュンとアニエス、桃佳とサンディのチームがタッグを組んだようだけど、そこにアレクサンドラとナターシャチームが合流して、1対3になったわね。

 まあ、それだけティーナが強いって証拠なんだけど、個人技も解放されているみたいだから、それでやっとこイーブンってとこかしら。

 うちのチームで砲台適性を持つ子ってじつは少なくて、ムイとアニエス、そして桃佳くらい。他の子たちは接近戦とか、防御、遊撃のほうが向いている。

 チュンのドーム型のシールドに守られたアニエスが杖をかまえた。

 ムイもティーナの前で膝をついて杖をかまえているが、桃佳はムイたちの右、他の子たちも二人を取り囲むように立っている。

 「こりゃ、負けね。」

 わたしは空で肩をすくめた。

 ティーナも唇の両端を釣り上げた。薄いシースルーのマントをなびかせてターンを決めた。マントの裾からハリネズミのように槍が生成された。

 ティーナの右手が降り、一斉に槍が相手チームに向かった。

 「きゃー!!」

 「ティーナのバカー!!」

 「いやー!!!」

 もちろんシールドを破るようなほどの威力を込めていないけど、二人を囲んだみんなのシールドに槍が突き刺さり、火花を散らせている。

 

 決着がついたようなので、わたしはまた広範囲探索モードに切り替えた。

 すると、この基地に向かってくる一台の車両を発見した。どうやら普通のSUVだ。

 「ん……?」

 この基地に至る道は基地の10㎞手前ですべて進入禁止だ。基地は基地で、わたしの住んでいたニューヨーク市と同じだけの面積がある。普通の車がやってくるはずはないし、わたしたちが居住している施設を目指す理由が無い。

 疑問を感じたわたしは車に焦点を当ててみた。

 「運転しているのは、アジア系ね。後ろの二人も……そうね。運転手と後ろの一人が男? そして……ッツ!」

 目を殴られたような衝撃にわたしはバランスを崩し、15フィートほど落下した。どうやら、わたしの視線に気が付いて、逆探知をかけてきたようだ。

 アナッシィ仲間や多少は探知が使えるようなMAHO-SYOUJOならこんな真似はしない。

 シールドに力を傾斜させつつ高高度に逃げた。そして、メイリンに緊急連絡を取った。

 「どうしたの?」

 「コード・バイオレット・ワン(所属不明の魔法少女一名)。ジャブをうたれたわ。」

 「……!!」メイリンの驚愕がダイレクトに伝わってきた。「大丈夫? 被害は無い?」 

 「もちろん。探索のピンを強めにうたれただけよ。」

 「よかった。すぐに確認するわ。あなたは身を守りつつ、監視を続けてちょうだい。」

 「イエス、マム。」

 MAHO-SYOUJOたちのすべてが国連所属の部隊ではない。

 人類の危機であるこの期に及んでまだ、国家や民族にこだわるような連中もいる。彼らの中だけでMAHO-SYOUJOの部隊の編制を行い、自分たちの指導者が許可した地域だけ国連の委託に応じて出動させる。わたしたちと彼女らは公式、非公式でもやり取りしたことがない。

 その他にも、うわさには野良MAHO-SYOUJOもいると言う。

 ただ、いくら彼女らでもわたしたちに攻撃をするようなバカな真似はしない。たかが一つの国や組織が世界に喧嘩を売るか?ってはなしよ。

 でも、北東アジアとアフリカのある地域では、国連の魔法少女たちが殲滅されたことがあるらしい……。

 彼女らを乗せた車はスピードを落とすことなく、ゲートに向かっている。

 「ベッキー。」

 「はい。」

 「監視を解除。事実関係を確認したいから、降りてきてちょうだい。」

 「イエス、マム。」

 わたしが降りてゆくと、メイリンはいまにも地面につばを吐きそうな表情だった。メイリンの前で直立不動で、報告をすませると、メイリンは本部に連絡を取った。

 「……わかりました。」

 「ベッキー。本部から、覗き趣味もほどほどにと言われたわ。」

 「申し訳ありませんでした。」

 「いいえ。おもしろいこともわかったわ。まったく、おじさまたちの秘密主義には飽き飽きだわ。あなたがちょっかいだした子は新入りよ。」

 「へぇ。そのわりには礼儀知らずでしたけど。」

 「天然物らしいわ。野生の天才ってところかしら。」

 ……ってことは、なんの教育も受けずに能力を発動させたってこと? ほんとうに天才ね。

 「うちにくるんですか?」

 「どうして、そう思うの?」

 「だって、基地の部隊で欠員があるのはうちだけじゃないですか。シエラ中尉の部隊は解散されて部隊員が他の部隊に再編成されたばかりですし。」

 メイリンが頭を抱えてため息をついた。

 「どうしてアナッシィって耳が早いのかしら。まだ内々示前の情報じゃない。」

 「えへへ……」

 「秘密よ。と言っても、どうせすぐにアナッシィのコミュニティに流れるんでしょうけど、第一候補はうちよ。でもさっきも言ったけど、天然物だからまずは教育からよ。英語どころか母国語も訛りがきつくて理解が難しいそうよ。きっと、早くても三ヶ月後くらいね。その頃にはまた状況の変化にあわせて配属先を変えるかも知れないわ。」

 「ありがとうございます。」

 「では午前の訓練は終わりよ。シャワーを浴びて、カロリー補給をしてきなさい。」

 「イエス、マム!」


 汗を流したわたしは食堂に向かうとメイリンとその仲間の中尉たちがテーブルを囲んでいた。わたしは日本風のカレーにサニーサイドアップをトッピングしてさりげなく彼女らの後ろに座った。気が付かなかったが、先客がテーブルにいた。

 「……また日本娘か?」

 「そうみたいね。さすが、魔法少女の名付け親の国ね。コンスタントに供給してくれるわ。」

 彼女というより、彼と呼びたいその子はメイリンの親友のアリス中尉の副官だ。魔法少女としては遅咲きで15歳のときに生まれ故郷のブエノスアイレスで最後のスクリーニング検査で可能性を見いだされ、ステーツに来た子だ。スパニッシュのエレガントさがマニッシュに炸裂したハンサムさんだ。

 彼女はわたしの唇に人差し指を押し当てて、静かにするように促した。

 「70m超級の対象αを一人で殲滅したって?」

 「それだけではないわ。独力で変身を行って、攻撃魔法も一人で行ったそうよ。シールドも遠距離砲撃や近接攻撃もこなせるそうよ。」

 「うちらの上の世代のようね。」

 「……そうなんだけど……あの頃は失敗も多くて、消えた子もいたって……」

 「運がいい子ね。」

 「…………そうね。」

 トレイを持ち上げるがちゃがちゃした音とともに中尉たちが去っていった。

 「どう?」

 「どうって、いいことじゃない?」

 「いいことだけど、またハポネスだ。なんかあるのかね、あの国は?たとえば魔女っ子を人工的に生み出すとか」

 「それは科学的に否定されたわよ。遺伝子レベルでわたしたちとそうでない子たちの差はないことがわかったし、わたしたちに共通した因子もないわ。スピリチュアルとか宗教的な差なんてあるわけないし。」

 「まあ、そうだな。」

 笑いながら彼女も席を立ったけど、この疑問はサイダーの泡のように浮き上がっては消えて行く話題なのよね。対象αーオブジェクト・アルファーは世界同時多発的に出現したけど、はじめて撃破できたのは東京に近い町だったとか。いまでこそ、ステーツが中心になって魔法少女のアーミーを編成しているけど、それまでは嫌々そうに日本が中心になっていたんだとか。

 もう日本列島は駄目みたいだけど、それでも日本人の魔法少女を出す比率は突出しているって聞いたことがある。

 まあ、何か持ってそうな国ではあるんだよね。これだけ魔法少女を出しているし、あそこのノーブルたちは女性が多いのに、一人も魔法少女がいないとか。最近でも姫の結婚式があった日、折り悪く大雨だったのに彼女がテレビカメラの前に出てくると雨がやんで日が差し込んでたり。フツーじゃないってネットでも話題になっていたっけ。アーヤシーナー(棒)。

 まっ、いいや。

 疲れたから、寝よっと。

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