黒と白とピンク
第1話はこれで終わりです。
次の日、メイリンは昼まで寝ていた。
二ヶ月間もの間、テントで簡易ベッドの生活を続けて、ひさしぶりの自室のダブルベッドは逆に寝付けなかった。もしかするといままでの作戦で精神が興奮していたのかも知れないと寝ぼけた頭で思った。
起き抜けに熱いシャワーを浴び、遠征の疲労と埃を洗い流した彼女は部屋履きのショーツとタンクトップのまま、ソファに腰掛け、いくつものビデオゲームやDVDレコーダーと接続した大型テレビをつけた。
空腹を感じていたが、食堂に行くために着替えるのが面倒だった。
しかし冷蔵庫は空である。
空腹に負けた彼女は私服のデニムのホットパンツをはき、上はそのままで、部屋を出た。
本部の寄宿舎は年若い少女たちのため、男子禁制であり、多少ラフな服装でも許される空気があった。
食堂には人の姿は少なく、メイリンと同じように寝坊を決め込んだ部隊の子たちが二人ほど見えた。
メイリンを見つけ、立ち上がった二人に微笑みながら手で制したメイリンはカフェテリアの食べ物が並んだカウンターに向かった。
ブラウンシュガーのかかったコーンフレークと新鮮なミルク、そして熱々のソーセージ、もちろんケチャップは増量だ。それになまなま焼けの分厚いベーコン、スクランブルエッグに、マッシュポテトを山盛りにしたメイリンのトレイは、あっという間にメイリンの胃に納まり、食後のグレープジュースを一気に飲み干した。
「はぁ。生き返った。」
もう一度カウンターに並び、ストロベリーとチョコレートのアイスクリームの大型カップを持ってきたメイリンは頭の中のスケジュール帳を再確認した。
きょうは完全オフだけど、あしたはしずかのお葬式があるためにそれを隊員に伝える。あしたはお葬式に参列したあと、ドクターにヴァレリアの容態を聞いてと……。
そういえば、新しい洋服も買ってないし、ゲームだって新作が出ているはず。メールボックスには友だちから送ってもらった映画やコンサート、アニメのDVDがたくさん入っているはずだし、ママたちにも電話をしなくちゃいけない、三ヶ月は準待機状態だけど、トレーニングもしないとすぐに太っちゃう。ああ、部隊の子たちのトレーニングもしなくちゃいけないし……もう、いやっ!! 面倒だわ。なんも考えたくない。
もう友だちたちだって、みんなボーイフレンドを作っているし、わたしは退役するまで同じ年の男の子に出会うチャンスなんて天文学的確率しか無いわよね。どうするのかしら? 魔法少女のなかで疑似恋愛をする子たちもいるけど、それもなんかねぇ。はあぁ。
メイリンはアイスのカップの中を覗いた。ふたつともからだった。立ち上がり、今度はバニラのソフトクリームサンデーを取ってきた。
ふぅ、カロリー消費はハンパ無いのに、どうして太るのかなぁ。
こんどドクターに聴いてみよう。
食事を終えた二人がやってきた。
ベトナム出身のムイとフランスはプロヴァンス出身のシャーリーだ。
かぐやよりややスモーキーな色だが、彼女以上に滑らかな肌をしたムイとそばかすの散ったいたずらっぽい顔立ちのシャーリーは遠征中でも仲が良かった。きっと同じ部屋だからだろう。二人もラフなルームウェア姿だった。
「おはよう。二人もいま起きたの?」
「はい。寝坊しました。」
「わたしもよ。きょうはオフだから、ゆっくりなさい。あと、ほかのみんなに会ったら伝えて欲しいのだけど、あしたシェラの部隊の子のお葬式があるから、スケジュールを空けとくように。細かいことが決まり次第、メールでまた伝えるわ。」
慣れた口調で同僚の死亡を伝える自分にちょっとぞっとしながら、二人の部下に伝えると、シャーリーが不安な表情を見せた。
「しずかって子。知ってる?」
「わたし、知ってます。」
ムイがぼそぼそと答えた。たしか新兵だったということだったから、ムイと同期になるのかも知れない。
「そう。ショック?」
「…はい。」
ムイの幼い顔が歪んだ。
メイリンはムイの両手を力強く握り締めた。
「気を落とさないで。つらくなったら、わたしにいつでも教えてちょうだい。あなたのお話を聞いてあげる。抱えきれないようだったら、一緒に先生のところにゆきましょう。
「はい。ありがとうございます。」
メイリンは立ち上がって、小さなからだを抱きしめた。まだ肉の薄い、華奢なからだだった。細いムイの腕がメイリンに回った。
こんな小さい子が、友だちの戦死を嘆かなければいけないなんて。何かが間違っている。メイリンの腕に力がこもった。
「あなたは大丈夫よ。わたしたちが守ってあげる。そして、あなたもわたしたちを守る手伝いをしてちょうだい。」
「………………………………ふぇっ………エェェェェェェン。」
ムイはメイリンの胸に顔を埋め、泣き出した。メイリンは背中を叩きながら、ムイを宥めた。
こんな言葉なんか、なんの保障にもならないのに。それはムイも知っているはずだけど、それにすがらないと心を安定させることができない。わたしもそう。
しばらく、そうしていたが、はずかしそうにムイが離れた。
メイリンはムイのつややかな黒髪にキスをした。
「ゆっくり休みなさい。外に出かけたいんだったら、いつでも私に連絡して。外出許可を出してあげる。」
「ありがとうございます。」
ムイはあたまを下げ、しずかに彼女を待っていたシャーリーとともに食堂を出た。
メイリンも、残ったソフトクリームサンデーを食べる気がせず、トレイを下げて、自室に戻った。
歯を磨きながら、メールを打ち、部隊員に送り、あとは外に出ることも無く、部屋の中で、友人に送ってもらったアニメのDVDを見続けていた。
はぁ。ボーイフレンドとか、欲しいなぁ。ママでもいい、誰かに抱きしめて欲しい。
魔法少女たちに礼装は無い。
彼女らは変身し、兵装と呼ぶ、鮮やかな色彩に少女趣味のコスチュームを身に纏う。
はじめ、多国籍軍の高官たちは苦虫をつぶしたような表情だったが、彼女らが自分たちの仲間の死を悼むために弔砲、弔銃を撃つにはこの姿になるしか無く、納得するしか無かった。
また本来、尉官より下の階級では行われない弔砲、弔銃も自分たちの娘や孫娘よりも幼い彼女たちが命をかけて人類を守ったことから、多国籍軍の兵士たちから賛意が広がり、どの階級でも行われることが認められた。
若く美しい魔法少女たちは部隊ごとに整列した。
このような場でなければ、とても華やかな光景だろう。
シェラの部隊が鎮魂碑の前に並んだ。
彫りの深い、エキゾチックなシェラの表情から、なにもうかがえない。
部隊の砲台たちがシェラの命令に従い、杖をかまえた。
静まり返った会場で、曇天に向かって一度の斉射が行われた。
五色の光の束が空に向かって撃たれた。
雲を蒸発させ、青い空が覗き、そこから金色の光が降り注いだ。
シェナは、天使の階段を見つめながら、頬に流れる涙を拭おうとはしなかった。
砲台の少女たちも頬を濡らしながらも整列を維持し、姿勢を崩すことは無かった。
彼女らの様子は数十台のテレビカメラと、数えきれないほどのカメラが全世界へと伝え、決め顔のアンカーたちが同情と敵への憎悪を訴えた。
憂鬱な表情のメイリンはFN FALを手に本部の医療棟に向かった。もちろん、弾倉は外し、空の状態にし、ロックはかけてある。
驚く看護師たちを尻目に、ヴァレリアの病室に入った。
「隊長。」
「元気そうね。ヴァレリア。」
青い目を細めて微笑んだヴァレリアだったが、メイリンが手にしている小銃を見て、顔を強張らせた。
「まだ、怖い?」
「い、いいえ。…もう、平気です。歩けるようになったら、トレーニングをつんで、すぐに復帰します。」
必死な表情で、すがりつくような声のヴァレリアにメイリンは顔を歪ませたが、すぐにいつもの表情に戻った。
メイリンは右手だけで、FALを構えた。
いくら弾が入っていなくとも、銃を人に向ける行為が危険なことは、合衆国南部出身のメイリンは父親から骨身に叩き込まれた常識である。
父の教えに逆らって、メイリンがした行為にヴァレリアは悲鳴を上げて身を伏せた。
「やめて!!」
「ごめんね、ヴァレリア。でも、もうあなたは昔のあなたではないのよ。その恐怖心が判断を鈍らせ、ひいては仲間を危険に導いてしまうのよ。もう、あなたは闘うことはできないわ。」
「そんな……隊長…。」
「もう、あなたは普通の女の子に戻っていいのよ。」
「でも!! わたし、ここから見捨てられたら、また、あの孤児院に戻るんですか!? そんなのいや!! あんなところ、戻りたくない!! ここに置かせてください!! 隊長!! お願いです!!!」
ヴァレリアは身元不明のまま、孤児院に預けられた。魔法少女の才能が見いだされるまで、小間使いのように働かされ、栄養不足で病気がちなために養女として、身元を預かる人にも恵まれなかった。
気の弱かった彼女は男の子たちにいじめられていたらしい。
メイリンは彼女を自分の部隊に迎え入れる前に読んだプロフィールが頭に浮かんだ。ヴァレリアが戻りたくないと言ったのはうそではない。でも、もうここに置くことはできないのよ。
「ヴァレリア・スミス上等兵。あなたは名誉除隊となり、国連および関連機関、そして国籍を有する英国より年金が支給されます。また、英国からは、あなたの魔法少女としてのキャリアを重んじ、望む学校での教育を受ける権利が与えられます。」
「そんなのいらないです!! わたしの居場所はここです!! 隊長の下にいさせてください!!」
ヴァレリアの必死の懇願にも動じず、メイリンは淡々と説明を続けた。
「また、あなたの居住の自由は守られますが、成人による後見人は除隊後、存在しないために後見人として、英国政府より弁護士をつける準備があります。その他にも、自国、他国に関わらず、あなたを養女としたい申し出がいくつもあります。」
「養女って! そんな……、そんな人もいるんですか? わたし、いつも、痩せっぽちでみっともないって…養女の候補にも挙がらなかったのに……。」
自分の容姿に自信の無いヴァレリアだったが、入隊時の栄養不足で青白く幽霊のような姿が健康的に管理された食生活と運動のために、いまでは薔薇色の頬とチェリーのような唇をし、これから先が楽しみな美しい少女になっていた。
「たくさんあるわ。名前は言えないけど、貴族の方からもあるし、外国ではアラブの王様からだってあるわよ。夢みたいよね。わたしも見せてもらったんだけど、ひとつおすすめかなぁって思うのがあるのよ。」
「……どこ?」
食いついたわね!
メイリンは心の中で叫んだが、父親に連れて行ってもらった魚釣りの時の教訓を思い出した。『メイリン、ヒットしても慌てず、クールに相手にあわせるんだ。そうすれば、相手が自分から近寄ってくれるさ。』
淡々とした口調を変えずにメイリンは彼女を引きつけようと試みた。
「たまたま、あなたの生まれたコーンウォールの農家なんだけど、いい人そうよ。」
「会ってもいないのに……。」
「来ているわよ。」
「えっ!?」
メイリンが招き入れた青年は、2メートル近い屈強な肉体を詰め襟の軍服に身をつつみ、鋭い目つきをした軍人だった。
「お、お兄ちゃん?」
「ヴァレリア……。」
軍帽を脱いだホークス軍曹は彼女の名を呼んだきり、あとの言葉が出ない様子だった。
目を閉じ、手にしていた小さな野花で作られた不格好なブーケをヴァレリアにさし出し、彼女に謝罪した。
「すまなかった。お、おれは、ヴァレリアの……その、居場所を失わせるようなことをしてしまった。……ご、誤射については何もいいわけできない。このおれが……ビビっちまって……。あぁ、ちくしょう、うまくいえねぇ……。ヴァレリア……、おれにきみへの償いをさせてもらえるチャンスをくれないか? お、おれの命をヴァレリアのために差し出す。だから、おれにヴァレリアを、これからのきみを守らせて欲しいんだ。」
不器用な軍人の必死の言葉に、ブーケを受け取ったベッド上の少女は頬を紅潮させて、両目を潤ませた。
メイリンはヴァレリアに向かってうなずいた。
「で、でも、隊長は農家って……お兄ちゃんはSASでしょう?」
「おれも、そろそろ潮時だ。コーンウォールにある実家に戻ろうと考えている。なにより、ヴァレリアの側にいたいんだ。」
「ホークス軍曹は独身なので、ヴァレリアを養女にはできないの。だから、軍曹のご両親に引き取ってもらうことになるわね。名実共に兄妹になるわよ、ヴァレリア。」
メイリンは口べたな軍曹の補足をした。
やや考える様子を見せたバレリアは手にした不格好なブーケを見つめていた。
「……お兄ちゃん。」
「なんだ? ヴァレリア。」
「このブーケ……?」
「お、おれが……つ、作った。」
日に焼けた頬を赤くしたホークス軍曹は太い指で頭をかいた。
メイリンはヴァレリアの手元にあるブーケをあらためて見た。
本部の花壇やきれいな野花を必死で摘み、レースでくるんだ小さなブーケを作る軍曹はとてもキュートだったに違いない。
改めて、いい人だとメイリンは思った。
ヴァレリアはブーケに顔を近づけて、香りを吸い込んだ。
「ありがとう。でも、わたしから、条件をつけてもいい?」
「ああ、なんでもいい。ヴァレリアの気がすむなら、おれはなんでもする。なんなら一人でソマリアだっていってみせる。」
安堵の表情を浮かべたホークス軍曹は白い軍服につつまれた厚い胸板を叩いたが、ヴァレリアは首を横に振って天使の笑顔を見せた。
「ちがうわ! わたしを放っておいて、そんなところに行ったら怒るから! わたし、お兄ちゃんのパパやママの養女にはなれないわ。」
「えっ? そ、そんな……。」
目の前ですべてが許され、天国の門が開いたと思ったホークス軍曹は地獄のどん底に落とされたような表情に変化した。
仕事中ではいつも厳しい表情で無口なのに、ヴァレリアといるときは違うんだ。メイリンは密かに感心していた。
「一緒に住んであげるけど、あと四年待ってね。わたしが十六才になったら、お兄ちゃんが申し込んでくれたように結婚してあげる。」
「えっ!?」
メイリンの目の前で大の男が腰を抜かした。メイリンもなにが起こっているか、よくわからなかった。
「お兄ちゃんのステキなプロポーズ、録音しておけばよかった!! もちろん、オーケーよ!!」
メイリンはホークス軍曹の言葉を思い返した。「おれの命をヴァレリアのために差し出す。」、「これからのきみを守らせてくれ。」、「ヴァレリアの側にいたい。」……。
かなり情熱的な言葉よね。
時と場合、そして二人のことを知らなければ、ホークス軍曹はそのまま警察に突き出されて、ペドフィリアの烙印を押され、体内にGPSを埋め込まれてしまうに違いない。
口べたにも程がある。
でも、誠意は暑苦しいほど、伝わったわね。ちがった意味で。
夢みるヴァレリアがコロッと参っちゃったのも仕方が無いか。
ホークス軍曹はどうするんだろう。
「うぅ……、そ、それが、ヴァレリアの望みだったら……。おれは全力で応えるぜ!! 浮気もしねぇ。ヴァレリアのきらいな煙草もやめる。人からHENTAIと罵られてもかまわねぇ。ヴァレリア、きみにおれのこれからのすべてを捧げる。どうぞ、このおれと結婚してください。」
「お兄ちゃん……。」
ヴァレリアは目を伏せ、うれしそうにうなずいた。頬が燃え上がるように赤く、瞳は幸福で輝いている。
十二才の子がこれほど色気を醸し出すなんて……ヴァレリア、恐ろしい子!!
その日の午後、定例のお茶会でメイリンの報告を聴いたアリス、ヒルデガルト、かぐやはそれぞれ、違った反応を見せた。
頬を染め、そっとため息をついたアリス。
言語行為とコミュニケーションについて深い考察をはじめたヒルデガルト。
大笑いをしたかぐや。
「ヒィーヒィー、ことし、サイコーにうけた話よ! ジュッ、十二才の魔法少女にプロポーズしたSASなんて……ふ、不名誉除隊ものよ!! ヒィー、ヒィー!! …うぇ、ゲボッ、エホッ……」
笑い発作でむせはじめたかぐやは無視して、メイリンはどうなのとアリスに尋ねた。
「なにが?」
「彼よ。ほんとうに不名誉除隊ものなの?」
「う〜ん。黙っていれば、別に問題になるわけでもないし、アメリカと違って、一種の騎士道物語の一つとして受け止められるかも。まあ、どちらにしても広報部隊がきれいにおさめてくれるでしょう。」
「さすが、紳士の国。イギリスはわたしたちの斜め上をいってるわ。」
アリスはかぐやを睨みつけた。その時、ヒルデガルトが呟いた。
「天に召されるその時まで、本物の恋を知らずに生きる人もいる。生まれ落ちたその時に、運命の人と出会うこともある。ヴァレリアは幸せ者。」
「ヒゥ……ヒィーーーーッ、へゥ……ハハハハハハッ!! ヒルデガルトが…鉄血ヒルデガルトが…し、詩人になった。アーーーーーハハハハハハッ!! ウェッ……ゲボゲホ……。」
「ほんとうね。ヴァレリアはしあわせよね。……ほぅ。」
アリスはかぐやを無視しつづけ、ヒルデガルトの言葉に深くうなずいた。
ヒルデガルトがマーガレットの絵付けされたカップを手に、窓辺に立った。
彼女に視線の先には、小さな噴水に続く庭園の石畳の道を小型の車いすを押した大きな兵士の姿があった。
メイリンも気が付き、アリスとともにヒルデガルトのとなりに並んだ。かぐやは笑い疲れて、テーブルに突っ伏していた。
ブルネットの長い髪をカチューシャで束ねた少女は振り向き、彼の顔を仰ぎ見た。
何かを話しかけている様子だったが、彼は車いすのブレーキをかけ、彼女の前に回った。
片膝をつき、大きなからだをかがめた彼は車いすのフットプレートを外し、少女の足を優しく地面におろした。そして、右手を差し出した。
車いすの彼女はその手に自分の手を重ね、立ち上がった。
離れたところにいるメイリンたちの目からもわかるほど、震える足で数歩歩き出したヴァレリアは、三人の隊長に気が付いたようで、彼女らに手を振った。
それがバランスを崩したようで、ヴァレリアが前のめりに倒れた。
「あっ!…………イタッ!!」
メイリンは自分が三層の防爆/防弾ガラスによって隔てられていることを忘れて駆け出そうとして、ぶつかった。
だが、ヴァレリアの小さなからだはホークス軍曹の厚い胸板によって支えられた。
彼は、ヴァレリアのからだをまるで鳥の羽のように軽々と持ち上げた。
ヴァレリアはうれしそうに彼の首に両腕をまわし、頬にキスをした。
「キュゥウン!!」
桃色の声が響いた。
驚いてみたそこにはアリスが自分を抱きしめ、身をよじって、二人の様子を穴があくように見つめている姿があった。
「アリス……」
「壊れた。」