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開店前

 広い国道から一本横道にはいったところにお店はある。

 近くには数件の一戸建て住宅しかないため、この建物は小さいながらも目立つ存在だ。正面がすべてスリガラスなことや背の高い看板を出していることやも目立つ要因のひとつかもしれない。

 看板にも書かれているお店の名前は、私の苗字とその後ろに『美容室』とつけただけの簡単なものだ。

 耳障りの良い素敵な言葉を、舌がからまりそうな外国の言葉でつづるのは性に合わなかった。

 お店の前には、車二台しかはいることのできない駐車場。

 お店の横には、洗濯機と物干し台がおかれた洗濯場 兼 小さな庭。

 お店の後ろには、お店と同じサイズの自宅。

 基本的に、その三箇所の往復が私の生活だ。

 自宅を出て大きく伸びをした。

 新鮮な外の空気をめいっぱい吸い込むと、一日の始まりを全身で感じることができる。

 洗濯場を通りぬけながら、空を見上げる。

 雲ひとつない快晴だ、洗濯物もよくかわくだろう。

 そして、お店の前へとたどり着いた。

 通勤時間は、徒歩一分とでもいうところだ。

 お店は自宅と併設されてはいるもののつながってはいない。

 従業員用入り口などもなく、お客さんと同じように私も玄関からお店にはいることになっている。

 カギをトビラに差し込んだとき、ふと、自分の姿が映りこんでいるガラスに目が留まった。

 見上げ、見下ろし、一歩ひいて、正面のガラス全体を見渡した。

 手をのばし、ガラスの表面を人差し指で軽くなでる。

 なであげた指先が茶色くなり、なでられたガラスにキレイな線がはいった。

 昨日は気づかなかったが、前面のガラスが土ぼこりでうっすらと汚れているのだ。

 朝陽に照らされて目立っているのだと思う。

 これで今日の予定にガラスのふき掃除も追加されてしまった。

 ――まぁ、いつかはやることなのだから。

 そう受け入れて気を取りなおし、カギをまわしてガラスのトビラを押し開いた。

 朝一番のお店の中は独特のニオイがする。

 髪に使う薬剤やスプレーや整髪料や、それらのほか、たくさんのニオイが混じり合いこもっている。

 それに加えて、日曜日に使ったたくさんのタオルなどもあるのでなおさらだ。

 玄関を開け放したまま、窓をすべて開き空気を入れかえる。

 ニオイの抜け切るのを待たず、さっそく開店前の準備を始めた。

 外が明るいのでお店の電灯はまだつけない。

 お客さんがいれば別だが、私だけならつけなくても問題はない。

 洗濯カゴへ使用済みのタオルをつめながら、

 ――一気にまとめて一回で、いや、半分にして二回か。

 タオルの量から洗濯機をまわす算段をつける。

 つめ終えたカゴを抱えて外へ出た。

 やはり外は日差しがまぶしく、そして、暖かい。

 今日はよく晴れている、洗濯物の二回や三回ぐらい余裕でかわいてくれそうだ。

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