朝
目覚ましのアラームが鳴り響いている。
枕元の携帯電話だ。
寝たままの体勢で腕を伸ばし携帯電話をつかむと、手探りでアラームを解除しスヌーズ機能を切った。
まぶたも重く、意識もはっきりせず、もうしばらくこのまま動きたくない。が、そういうわけにはいかない。
布団をはがし、横へ転がるようにして、ベットから抜け出た。
ゆっくりと立ち上がると、半分寝ぼけたような状態のまま、最低限の身支度をすませる。
そして、台所で朝食の準備を始める。
とはいうものの、トースターにパンを突っ込み、冷蔵庫から野菜ジュースと調理済みの半熟卵を取り出すだけだ。
気だるくそれらを終えると、キッチンのテレビをつけてイスに座る。
焼きあがるまでの休息だ。
背もたれに寄りかかって目をつむり、夢うつつの意識のままテレビの内容に耳をすませる。
内容には、私自身それほどの興味はない。
だが、私がお店で相手にするお客さんは、この手の話題をタネにした世間話が好きなのだ。
こちらから振るにしても、むこうから振られるにしても、知っていればスムーズな会話をすることができる。
テレビが取り扱っている広く一般的な情報は基本的に頭にいれておかなければならない。
まぶたの裏に朝陽を感じながらテレビの音を聞き流しているうちに、徐々に頭がさえてくる。
頭のなかで、お店の予約を確認する。
――本日、月曜日の予約はなし。
昨日と一昨日、つまり土曜日と日曜日にお客さんの予約を集中させて一気にやつけておいたのだ。
予約はなくともお店は開かなくてはならない。
営業時間中に電話をしてきて、シャンプーだけ、カットだけやって欲しいというお客さんも少なくはない。
そんなお客さんを待つだけの、いつもどおりの開店休業状態だ。
――今日はゆっくりできそうだ。
思わずクチのはしがもちあがってしまう。
頭のなかで、今度は私の予定を確認する。
使用済みのタオルの山が洗ってもらうのを待っている。
そして、ロッドとピンを洗い、パーマに使ったペーパーを伸ばし――
まだまだやることは山積みだが、そこまで考えた時点ですでに気がめいってきた。
――やはり今日はゆっくりできそうにない。
ぬか喜びの反動だったこともあり、全身が強烈な疲労感に包まれ始める。
昨日がんばったから今日は休みでいいんじゃないか、という考えすら頭をよぎる。
とりとめもなく思い悩んでいるうちに、意識がふわふわとしてきた。
考えることすら、億劫になってきた。もう、このまま、眠ってしまおう……
ふいに、パンの焼ける香ばしいニオイが鼻先に感じられた。
チンッ
と、トースターがパンが焼きあがったことを知らせてくれる。
とたんに、
カラダの疲れも、
気分のくもりも、
頭の眠気も、
自分を支配していたすべてがふき飛んでいた。
どうやら、一瞬だけ眠り、音ですぐに目覚めさせられたようだ。
そのおかげで、自分でも驚くほどにスッキリとしている。
――どうせお客さんは来ないのだから、順番に片づけていこう。
そんな前向きとも後ろ向きともとれない意識で全身が満たされている。
このテンションを失わないように勢いをつけて立ち上がった。
トースターから焦げ気味のトーストを皿に移し、そのうえで半熟卵をつぶす。
最後に、野菜ジュースをコップへ注ぎ、それらすべてをテーブルへ並べた。
でき上がった朝食を前に、両手を合わせて目をつむる。
「いただきますっ」




