第5話 始まりの日の約束
ドスゥゥゥゥゥゥゥン!!
腹に響く重低音が響く
(フム、我は重く低い怨嗟の合唱という音を纏い、この世界の悪を総べる、右目の魔眼は全てを焼く
左手の包帯を解けば暗黒の・・・)
正直確認にいくのが面倒なので妄想で意識をそらす
「はぁ~、しょうがない行くか」
めっちゃ億劫だが、一応この国に雇われているのであんまり関係を悪化させたくない
そんな理由から我らが宿舎の騎士団訓練場の中庭に向かった
謁見から1週間、国の依頼で山賊狩りや、モンスターの駆除など便利屋みたいに扱われている
まあ報酬も高いので特に文句はないが
面倒と言えば、貴族達がやたら絡んでくることぐらいかな
お見合いなんかどうだいから始まり、今度パーティーを開くんだ興味はないかいや個人的に雇われるつもりはないかや君はお金が好きかいだのあの手この手で団員達を引き抜こうとする
この試みは全部失敗に終わっている、そもそも大海の結束力は旗を作れる程度に高いのだ
それを金や物で釣ったところでビクともせんわ
そうそう、謁見の最中にステラ達が手に入れた情報で周辺地理やこの大陸の情勢なんかも一応把握している
この戦いが終わったら皆と隣の大陸に行くのもいいかもな
そんな風に未来の青写真を描きながら音源の所に向かう
「おお~、健康に悪そうだ」
可視化した魔力が周囲を漂う
一見、小さな光が空に昇っていく光景は幻想的だが
こんな高濃度の魔力を生物が浴びれば一発でこの世界からさようならしてしまう
「あ、マスターお元気ですか」
右手にお札のような物を握りながらこちらに笑顔で振り返る
「まあ、元気だな
それよりさっきの音はなんだ?」
頭を左拳で小突きながらいう
「実験に失敗しちゃったんです、テヘッ☆」
激しくイラッとしたがそれはいいだろう
「頼むから騒ぎを起こすなよ
ただでさえ貴族から目を付けられて文句が出てるのに
レンが過労死するぞ」
「あはは、そのいっそ清々しいほど完全に他人任せな所がマスターらしいですね」
「ところでその手に持っているやつはなんだ」
最初から気になっていたことについて質問する
「ああこれですか、新しい憑代式を試そうとしてたんですけど魔力を少し込めすぎました」
ここで魔法について説明しよう
魔法は大きく分けて3種類
降霊式、詠唱式、憑代式である
まずは降霊式について
これは存在的に上位者の善神や悪神などの主に神などの体の一部を魔力を対価に借り受ける方法だ
基本的に我招くは〇神の〇〇で始まる
長所としては発動までの時間が短く威力が魔法というカテゴリーにおいて最強なこと
短所としてはあほみたいに魔力を食うし、そもそも習得するために上位者に認められなくてはならないため習得しているものの絶対数が少ないこと
ちなみに大海では全員少なくとも1つは降霊式を使える
次に詠唱式について
これは現代と古代で分類が分かれるがまあそのことはおいておこう
詠唱式は魔力を使って霊界に現象を起こし、その現象を現界にひっぱて来ることだ
長所としては魔力の使用量が少なく、適性があればほとんどの人が使用できること
短所としては詠唱中無防備であったりあまり応用が利かないこと
最後に憑代式
杖や剣、本に靴、珍しいものでは血液など、特に形や材料などの制限がなく魔力をながせば勝手に魔法が発動する物の総称
長所としては誰でも魔力さえあれば使えるという簡易性と、ものによっては下位降霊式に勝るとも劣らないものがあること、さらに魔力が流れれば瞬時に発動すること
短所としては物によるが全体として連続使用に向かないこと
注意してもらいたいのが魔法陣も憑代式に分類されるが魔法陣がなくとも長年魔力を浴び続ければ憑代式扱いになるということ
「ふーん、で効果はなんなんだ」
「加速ですね、一瞬だけ使用者の行動を早めます」
「珍しくまともな物作ってるな」
もう一つだけ魔法について
魔法は自然に干渉する自然干渉式と生物に干渉する生物干渉式の2つが有名
概念干渉式の存在もCFOでは伝わっていた
「なっ、それは聞きづてなりませんよ
全部私の技術の結晶です」
「いやでも、ラ行を言おうとするとハ行になる薬とか、嘘をつくと気持ちよくなる薬とかはどうかと思う」
「それだってすごいでしょ、特定の行動に対する条件発動に、特定の形がないものを与える技術
そもそも効果も大事ですがその技術に目を向けなさすぎです」
「わ、わかっただからそんなに怒るな
オレが悪かった」
「むう、まあいいですけどね」
ユズキはふいに言葉を切り何かを期待するような目で見る
「マスターとこんな話してると出会ったころを思い出しますね」
「ああ、オレがまだ一人だった時に一番最初に出会ったのがユズキだもんな」
「そうですよあの時も私の作品をバカにしましたよね」
二人の間に懐かしい空気が流れる
ユズキの雰囲気は迷子のように寂しそうだった
「マクスウェア坑道での約束覚えてますか?」
マクスウェア坑道はオレが新しいボスへ挑む資格を手に入れるために挑んだあるクエストのモンスターが住み着いていたところである
その頃は本当に物理攻撃しかできなかったので魔法使いのユズキに手伝ってもらったのだ
(や、やべぇー約束ってなんだ)
焦りながらもここで何それおいしいの?とか茶化してはいけない程度の冷静さはあったので素直に答える
「ごめん、約束って何だったっけ」
その一言を引き金にユズキは泣き声を上げ始める
「マスターのバカ!!」
オレがその行動にあたふたしていると間の悪いことにウルザがやってくる
「ど、どうしたユズキ体調でも悪いのか!!」
その叫び声につられステラもやってくる
「どうしたのじゃウル・・・」
ステラは泣いてるユズキとその横をあたふたしてるオレを見る
もう一度オレを見て叫ぶ
「マスターがユズキのことをいじめてるのじゃーー!!」
叫び声が訓練所に響き渡る
「姉さんに何しやがった!!」
「ゆーちゃんをいじめるなんてマスターはお仕置きですね」
「ユ、ユズキさんが泣いてる」
近くに居る気配が集まってくる
「ちょっと待てオレの話を聞け!!!!!!!」
「「「問答無用じゃ(です)(だ)!!」」」
その言葉が聞こえた瞬間オレの地獄のマラソンが始まった
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「あーはっはっは、いいぜこういうのは嫌いじゃないぜ
野郎ども囲い込め」
機嫌が今まで見た中でもかなりいいラウルの声が響く
「てめぇーはなんで参加してるんだよ!!」
オレは多方向から襲い掛かる団員達を時に投げ、時にこかし、時に意識を奪う
「あー、そんなもん楽しそうだからに決まってんだろ」
直観に任せ右に体を投げ出す
「な、なんであれが避けれるんじゃ」
猫耳がほとんど目に見えない速さで横を駆け抜ける
「うるせぇ!!そんなことどうでもいいからこの状況なんとかしろ」
息つく間もなく吹く攻撃の嵐
オレは自分の手札を確認する
そもそも速さは絶対にステラに勝てないので無視
腕力は残念だがあんまり重要ではない
圧倒的な察知能力これがいまの均衡状態を生んでいる
(魔法か・・・)
躊躇は一瞬、行動の初動を開始する
「我招くは魔神の覇気、其の覇道は天を覆い尽くす」
「や、やばいのじゃ全員総攻撃」
ジンマシンでも使わなかったオレの切り札
「大いなる志、運命の道を切り開く」
なぜ使わなかったて?
耐えられる武器がないんだよこの状態の力に
「ユレン」
ヒュウマンという種族特性と高レベルという二つの要因が生み出す無駄に豊富な魔力をひたすらぶっこむ
生み出されるのはステラが鈍足に感じる程の神速
まあ、すごい僕は覇王で運命なんてへちゃらさ☆みたいなカッコつけた詠唱だけど効果は全身体能力の莫大な強化のみだぁからな~
べ、別にいいんだよオレのあるスキルで物理的な攻撃以外はへちゃらだからな
ちなみに効果がCFO内最高なのに一種類だけだからかなり燃費がよくて半日くらいはこのままでも平気だな
ステラ達を振り切って余裕がでたので魔法を解いて座り込む
「普通に腹減ったな」
半日くらい森を駆けずり回らされ疲労がピークに達している
「マスターか、よく逃げ切ったな」
後ろを振り返ると珍しく愉快そうなレンが立っていた
「ああ、何回かひやっとした場面があったがな」
あくびが口から漏れる
「ハハッ、まあ、いい運動になっただろう
そんなことより腹減ってるだろ、ほれ」
レンがパンを投げ渡してくる
なに、こいつなんで優しいんだ?
オレのこと好きなのか?
どうでもいいことを考えながらパンを頬張る
「人心地ついたらユズキに謝りに行けよ
あれから部屋に引きこもってるからな」
「・・・わかってるよ」
「そうか、じゃあオレからゆうことは特にない」
それだけ言うとその場からレンは去って行った
(約束って帰り道のことだよなぁ~)
わずかに残る短い、しかし大切な始まりの日の約束に思いをはせる
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騎士団訓練場の女性用の建物に入る
上の階から聞こえる嗚咽を聞きながら階段をのぼる
嗚咽が漏れる部屋のドアを開ける
「ユズキ・・・」
シーツを抱き寄せ、月明りに照らされながら泣くその姿は見るものを魅了する不思議な色香を放ていた
「グスッ、かってにグスッはいってこないでください」
こちらを一切見ずにかけられる言葉に少し傷つく
ここで本当の英雄や勇者なら、壁ドンで愛を囁くなり、髪を撫でて仲直りとかできるんだろうがこれが今の全力
だまって隣に座り空いてる掌を握った
少し体を強張らせたがそのまましばらく静寂が二人を優しく包みこむ
落ち着いたのを見計らいオレは口を開く
「オレさ、ヨルムンガンドとの戦いの中でさくやの声を聴いたんだ」
反応は特に見られないがそのまま続ける
「結局最後の最後までさくやのこと気づけなかったんだ」
オレの脳裏に、今も鮮明に残る泣き虫の、寂しがりやな相棒の声が響く
「でな泣かせちゃったんだ」
少し泣きそうになる
「オレにずっと名前を呼んで欲しかったんだってさ」
掌が強く握り返される
「一人で寂しかったって」
自然と涙がこぼれる
「あの時もう仲間を悲しませないって誓ったのに」
なぜ、今オレはこんな話をしてるんだろう
そもそもこの話をユズキに話して何を期待してる
「もういいです!!」
ユズキが優しく、母が子にするように優しく抱き留める
「確かに約束忘れたのは悲しかったです
だけどマスターがそんな顔をすると
感じたことがないほど大きな痛みが走るんです」
室内に二人の泣き声が響く
泣き声が枯れ果てたとタイミングでオレはきりだす
「許してくれるか」
ユズキはその少し怯えた表情を見て安心させたい一心で笑顔をつくる
「はい、マスターがダメダメなのは知ってます
それでも絶対に、絶対に嫌いになったりしませんよ」
ユズキが一呼吸おく
「だって、だって私マスターのこと愛してますから」
その言葉を言ってユズキは全部吹っ切れたのか
オレが泣きやむまでずっと抱きしめてくれた
オレはこの時学んだんだ
人を慰めるのに一番効果的な方法はなにかって?
泣き落としに決まってんだろ!!
自分のこの圧倒的な頭の良さに悲しくなった
皮肉だがな!!
この後、数日はユズキが妻のように優しくされたり
微笑まれる度に胸が痛くなったのはオレだけの秘密a
CFOの知識辞典
今回も引き続き大海の主要メンバーの武器について
イムプルスス・・・ラウルのハンマー
CFOの期間限定クエスト<取り止めのないハンマーボーイ>の獲得ポイント1位に与えられる本に記載された製法で製作可能な武器、鉱石を食べさせるとその鉱石に合った能力を発現する
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