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collect fraud online  作者: haruki
第1章 チュダック編
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第4話 想いと月

 (速いな)


 ウルザが左上段から2本の長剣をタイミングをずらしながら振り下ろしてくる


 後ろではすでにステラがスタートを切ってこちらに向かってくるのを風が知らせる


 まずはウルザの対処からだ

 大きく一歩だけ左にズレ剣を避ける


 ウルザの体の左真横スレスレを縫うようにレンの槍が迫ってくる


 なんとなく石畳を叩く音で察していたがやはりレンがいた


 このタイミングでレンの前からの点での攻撃とステラの後ろから右への攻撃が重なる

 さらにウルザの左肩からの猛烈なタックルで上にしか避けれない


 上は下策

 空中でも移動する方法があるがすでにユズキが魔法を待機状態で起動しながらオレの転移を妨害するようにその膨大な魔力の波動を展開している


 手薄なステラの方を突破すれば後方にラウルがハンマーを構えているのを鉱石の匂いが教えてくれる


 (流石だな、だが甘い!!)


 ゲームの現実化に伴いオレの強さは変化したのか


 その答えは強くなっただ

 現実化に伴い切られれば痛いし、魔法が当たれば当然しばらくはまともに動けない

 しかし、現実化によって情報量が圧倒的に増えたのだ

 CFOは確かにほとんど現実を模していた

 風が吹き、味覚が再現され、触られれば圧力を感じる

 そこまで再現しても不完全

 心臓の鼓動による動きの変化、匂いによる存在感の発露、熱によって生じる生物の気配

 こんなものでは語りつくせない様々な要素が追加された


 物体の行動とは連続性を必ず伴う

 例えば新幹線が真っ直ぐ進んでいて急に直角には曲がれないだろう

 例えばスペースシャトルが空に打ち上げられたあと急に真下に落ちることはないだろう

 そう単純な運動では預言と言っていいほどの制度で次の行動を予測できるのだ


 ウルザはすでに左足のつま先を内側に捻り、回転してユズキとオレの間の射線の確保をするだろう

 

 レンがオレから向かって右側に石畳を擦る摩擦音がかすかに聞こえる

 

 ステラの一気に呼吸を吐いて体を脱力し、次、最速の足技を撃つ予備動作が読み取れる


 ユズキの待機魔法が発動したのを魔力波が教えてくれる


 ラウルがステラを突破しても当たるようにすでにハンマーを振り始めたことを空気の悲鳴が教えてくれる


 全てがわかるのだ相手がオレが避けるのを予想し次の動作をすでに決定していることが


 オレはまずウルザをレンの方向に引っ張る

 その勢いのままステラの腹に裏拳を叩きこむ

 

 ウルザにユズキの魔法が命中する

 

 オレはレンの懐に踏み込みぶん殴る

 

 レンが訓練場の壁を4枚ぶち抜きとまる

 

 それを視界の端にとらえラウルに向かって地を舐めるように疾走する

 

 (ぶち抜く!!)


 ラウルと真正面からハンマーと拳を合わせる


 メキャリ!!


 拳から鳴ってはいけない音がなる   

 しかしそのおかげでラウルが体制を崩す

 後頭部に無事な方の鉄拳をあらん限りの力で激突させる


 床を貫きラウルは地下室に落ちていく


 まだ止まれない


 ユズキが降霊式で魔術を発動

 おそらく土神だろう

 屋根のない空から山が降ってくる


 (おもしれぇ)


 獰猛な笑みがこぼれる


 ひたすら拳を連打する

 折れているのも構わず拳を目の前の山に押し付ける

 体に荒れ狂う熱を、心を満たす闘争心を、勝利へのあくなき願いをその拳にこめる


 「アァァァァァアアアアアアアア!!!!!!!!」


 山を砕く砕く砕く砕く砕く砕く砕く砕く砕く砕く砕く砕く砕く砕く砕く砕く砕く砕く砕く砕く砕く砕く砕く砕く砕く砕く砕く砕く砕く砕く砕く砕く砕く砕く砕く砕く砕く砕く砕く砕く砕く砕く砕く砕く砕く砕く砕く砕く砕く砕く砕く砕く砕く


 山が砕け散った後には拳がほとんど原型を残さず腕の先に拳のような形をした赤い丸を付けた万延の笑みを顔にはりつけた無傷の青年が立っていた


 「降参ですね」


 ユズキはそう言って静かに杖を下ろす

 その身にはほとんど魔力を感じなかった


 (あと片付けどうしよう) 


 壁は粉々、床が割れて地下室がこんにちは、砕いて飛び散った土が周囲を覆い尽くす

 

 この光景のなか空に浮かぶ太陽だけが最初の形がわかる姿で青年の勝利を祝福した


***********************************************


 謁見でユズキが激怒してから落ち着くまで本当に大変だった


 やたら魔法をぶっ放そうとするユズキ


 ウルザもかなり怒っていたのかユズキに礼を言い始める


 王座周辺の貴族は軒並み脱糞しながら気絶


 おっさんとじいさん、王だけが意識を保ったが完全に怯えている


 ラウルはそれを見て爆笑しながら床を叩き転げまわって室内の物を破壊しまくる始末


 室内を満たす地獄絵図


 オレがどれだけ苦労したかわかってもらえただろうか


 そのまま逃げるように王城を抜け出して騎士団の訓練場に向かった


 まだユズキの機嫌が直らなかったので「じゃあ、いつもの訓練でもやればいいんじゃないっすか」と一人の団員が提案してさっきの流れになってさっきの戦闘というわけだ


 そんな今までの行動を振り返る


 「まあ、素手での訓練になって良しとしようか」


 現在はすでに後片付けを終え各々が夕食後の穏やかな時間を過ごしている


 なんとなく夜風に当たりたくなり中庭にいく


 木の下で誰かが一人座っていた


 オレは引き寄せられるようにそこに向かっていった


 「あん、マスターじゃねえか」


 ラウルが一人杯を片手に酒を飲んでいた


 「珍しいな、お前はいっつも最初に騒ぎ始めるのに」


 オレはそう言いながらその横に腰を下ろす


 ラウルはもう一つの杯をオレに渡しながら言う


 「オレにだって一人になりたいときがあんだよ」


 それっきり酒を飲み、酒を注ぐ音のみが響く


 ラウルが静寂を破る


 「おめぇ、なんか隠してるだろう」


 ラウルがこちらを向かずそう言い放つ


 「えっ」


 突然すぎる言葉にとっさに言葉を返せない


 「何を悩んでやがる」


 ラウルの深い青色の目が見定めるようにこちらを見る


 なんとなく居心地が悪くなって空を見上げる


 曇っていて月は見えなかった


 「別に悩みなんてないな」


 「じゃあ、なんで謁見のメンバーを指定した」


 務めて平静を装い答えを返す


 「たまにはリーダーらしきことをやってみたくてな

  気まぐれだよ、気まぐれ」


 ラウルはそれでもこちらを見ることをやめない


 「気まぐれか、ならなんでレンを選ばなかった

  こういうことに一番向いているのはレンだろう」


 間を持たすように酒で口を湿らす


 「だんまりか、オレらが相談もできないほど頼りないか」


 「違う!!」


 反射的に強く否定する


 「なら言ってみろ、伝えたくても伝えられないなんてこともあんだよ

  だから悩んだらさっさと誰かに話せ

  ああ、くそオレは何言ってんだ」


 不器用なりに慰めてくれる姿になんとなく嬉しくなる

 オレはラウルの方に顔を向けぬまま言う


 「もしオレがこの世界にみんなを引っ張り込んだ原因かも知れないと言ったらどうする」


 CFOの人気の秘訣はNPCの人間と見まごうごとき動きや思考なのだ

 楽しいときは笑い、悲しいときは泣く

 誰かの成功をみんなで喜び、亡くなった人をみんなで悼む

 それだけに留まらずNPCには家族がいるんだ

 両親も、兄弟も、子供も、友達もなんら現実の人間と変わらないのだ

 そう、オレは彼ら、彼女らが人間に見えるのだ

 なのにオレが仲間たちの世界を奪ったのだ

 故意にやったわけではなくとも、あのままではあの世界が少なくともサーバーから消えていたとしても仲間たちの家族を奪ったのだ

 あのまま世界にいた方が幸せだったのではないか

 そんな疑問を冷静になってから考えずにはいられなかった

 だから自分でなんでもできるようになってみんなに楽をして欲しかった


 そんな自分でも消化しきれず持て余した思いを稚拙な言葉で吐き出す


 「あいつらな、同じようなこと言ってたは」


 さらに、言葉を続ける


 「マスターは特別だから俺達に引っ張られてこの世界に来ちまったんじゃねぇかってな

  あいつらこんなわけもわからん状況になってもまずはお前の心配したんだぞ」


 ラウルが杯をあおる


 「泣いてる奴もいたし特になにも思ってないやつもいた

  それぞれがバラバラの行動してたな

  でもお前があの国境で現れたとき嬉しくて泣いてない奴なんていなかった」


 雲が少し晴れ、月の端っこが姿を見せる


 「家族を奪ったかもしらんが、お前は俺達に家族を与えてくれたんだ」


 後ろから温かいものに抱きしめられる


 「マスターは悩んでたんですね気づいてあげられなくてごめんなさい」


 ユズキが鼻声でそういう


 膝の上に軽く柔らかいものがのる


 「妾が辛いとき助けてくれるのはいつもマスターじゃ

  だから辛いときは妾が支えてやるのじゃ」


 頭を撫でられる


 「拙者は既に魂をマスターに差し出しました

  どこまでも、どこまでもお供します」


 片膝をついてウルザは言う


 「まあ、親友だしな最後まで付き合ってやるよ」


 レンが軽い調子で言葉をなげかける


 その後もみんなが声をかけてくる


 涙をこらえることができなかった


 三流ドラマのようななんの捻りもない風景


 泣き声が周囲に広がっていく


 オレはひとりじゃないんだ

 だってどんな所でも仲間が付いてきてくれると

 どんな困難でも仲間が助けてくれると

 立ち直れなくなっても仲間が支えてくれると


 感情を泣き声に乗せ全部吐き出す


 思うんだ

 

 たまにはこんな日があってもいいか


 既に空には雲がなくなっていた

 

 杯の水面には満月がくっきりはっきり映っていた

CFOの知識辞典

 今回は大海の主要メンバーの武器について

 ガイル・ラべク・・・レンの槍

 竜殺しの聖人ゲオルギウスをモデルにしたCFOの巨人族と竜の争いを描いたクエスト<かくして英雄は眠る>を成功すると手に入る報酬のゲオルギウスの骨をラウルが削りだしたもの、槍には強烈な竜殺しと神殺しの属性が付与されている

 ウェルシーブニク・・・ユズキの杖

 ヨーロッパ中世の伝説上の魔法使いクリスチャン・ローゼンクロイツをモデルにした魔法使いの過去を解き明かす<古代の英知の継承>の完全クリア報酬、この杖のみで使える魔法クロス・ローゼリンドは3大処理落ち技でありCFO屈指の美しいグラフィックを誇る

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