第3話 ちょっくら脅す
あなたは言葉と行動どちらをより意識するだろうか
例えば、別に怒ってないよといいつつ殴りかかられたらどうだろう
おなかがすいてないよと言いながらしきりにおなかがなっていたらどうだろうか
別に気にしていないといいつつ血が滲むまで掌を握りしめていたらどうだろうか
悲しくなんかないといいつつ涙を流していたらどうか
あなたは相手の言葉をそのまま受け取りますか?
なんてすでに役に立たないことをオレは考える
周りを見れば恐怖に染まった顔、顔、顔・・・
もう観察なんかしなくともわかる室内のアウェイ感
こんな状況を生み出すハメになった意見をどうどうと述べる奴はアメリカン
イェ――――――ァ!!
(たすけて)
そう思いながらオレは今までの経緯について思いをはせる
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野営地の撤収を終えたオレ達は使者の後につき従い目の前にいる団体の方向に向かう
「そちらの代表者は前に出てもらえるか」
馬に乗った2メートル程だろうか、大柄の中年の男が目の前の集団から進み出てくる
「ああ、オレが一応代表だ」
少し驚いた顔をする
男はやはりここで問題を起こしたくないのか誠実な態度を崩さない
「そうか、まずは名乗ろう
チュダック王国騎士団元帥ゲイル=ガルシエルだ」
「オレは<大海>という傭兵団の代表のハルだよろしく」
「ああ、よろしく頼む
それにしてもその若さで傭兵団の代表か」
「ああ、まあ確かに若いが皆に支えられながらやってるよ」
「そうか、まあいいだろう
では今から王都へ騎士団が先導するそれに付いて来てもらおう」
「わかった」
(得体の知れない相手に背後を取らすのかこのおっさん、バカには見えないし単純に自分たちの力に自信があるのかそれとも・・・まあ、いいここらへんはレンの仕事だ)
そう思いレンをちら見するとすでに考え込んでいた
言いたいことは全て言ったのかおっさんは集団の方向に向かっていった
それを合図に王都に向かって全員が進み始める
しばらく歩いているとユズキとウルザが近づいてくる
「全体的に魔力はうちと比べるとあんまり高くないですね、戦闘になってもあんまり脅威ではないですね」
「最初にでてきた男はなかなかやりますな、拙者ほどではないにせよ団員でもかなり手こずるでしょうですが、軍の練度はまだまだですな」
そもそもうちと比べる事態があてにならんがな
どんだけ竜だの神だの悪魔だの狩ったり、戦争に参加したことか
「わかった心配ないと思うが油断するなよ、なめてかかると痛い目を見そうだ」
「もちろん、わかってますよ」
「無論」
それだけ返事を返すと二人は自分の部隊に戻っていく
そのあと半日程進むと野営を行う旨の伝言があったので天幕の設営を行った
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彼は悩んでいた
(なんという力だ、あいつらは本当に人間なのか
しかもなんだあのアイテムボックスとやらは)
最初にあの集団を見た感想は驚愕だった
そして、自分の手が震えていることに気づき自分が恐怖しているのだと悟った
(あれを敵に回せばこの国が終わるな
しかし、もし味方につけたなら)
彼は思はずため息を吐く
思えば彼が騎士団元帥になってから問題ばかり起きている
貴族の子息と平民の騎士団員の対立
サルバドル教国の侵略
そして昨年起こった三国との戦争
(大丈夫今回もうまくいくはずだ)
彼はおもむろに家族の写真を手にもつ
15歳になる長男は今も王都の学校で士官になるために訓練に打ち込んでいる
あまり戦うのが得意ではないが頭が回る
そして母譲りの優しさを受け継いだことによるたくさんの人望
バカ親とののしられようともきっと将来すごい人物になると言い切れる自慢の息子
まだ9歳の笑うとその緑の瞳にいたずっらぽい光を宿すかわいいかわいい大切な娘
将来は母に似て美人になるであろう
そしていつも自分を支えてくれた妻
正直自分にはもったいないほどできた人だ
あまり家にも帰れず寂しい思いをさせただろう
それでも自分を見捨てなかった
彼にはそれだけで十分でありとてもうれしかった
家族のことを考えるだけで無限の力湧き上がりさっきまでの不安が嘘のように消え去る
彼は思う
絶対にこの傭兵団を味方に付けようと
家族が愛する国を守ろうと
思考の迷路にはまりそうになるのを無理やり止める
(まずは信頼関係の構築からだな)
彼はちょうど後ろに天幕を張る集団に向かって歩いていく
その後ろ姿は何かを守ろうとする気高く大きな父の背中だった
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この3日間で思った事だがおっさんはとってもいいやつだ
文頭にどうでもとか、都合のとかがつかない
友達になりたくなる良いやつだ
話題も豊富でよく笑い
周りをいつのまにか元気にしてくれる
おっさんのおかげで初日の騎士団員がこちらを警戒するような行動もかなり減った
あとは娘と妻の自慢がなけりゃあな
今度紹介してくれと言った時のあの特定の感情に狂った眼
なんて答えりゃあ正解なんだよ
それはいいとして
どうもオレ達を味方に引き込もうとしているようだ
しきりにこの国の良いところを話す
このことだけならああこの人この国が好きなんだなと思うが
周辺国家の悪口はどうなんだろうな
なんでこんな素性もわからん奴を?
みたいな疑問はない
なぜなら酒を一緒に飲んだときその疑問を口にすると真顔でお前らみたいな化け物敵にまわせるかと言われた
正直な話、特定の国に味方する気はないのだが
そんなとりとめのないことを考えていると大きな街が見えてくる
あれが恐らく王都だろうな
まだ遠いので細かいことはわからんがとりあえず大きいな
平凡で悪いが大きいぐらいしかでてこない
だんだん近づいて行くと王都へ向かう人と王都から出ていく人の流れが街道を埋め尽くす
一応石畳が引かれて雨の日でも道はぐずぐずにならないだろう
門の真ん前まで進む
騎士団とその後ろに付いていくオレ達からみんな距離をとる
門の前まで行くとおっさんが声をかけてくる
「すまんがここで王城にいくものと騎士団の訓練場に行くもので分かれてもらえるか
訓練場には部屋を用意しているのでそこで待機してもらいたい」
「わかった、じゃあレンとステラは他のみんなを頼む
ウルザとユズキは付いてきてくれ
ラウルはえっと」
「なに黙ってやがるオレは王城に行くぞ」
「いや待て、お前昔貴族にぶち切れて床を叩き割っただろうが
お前は訓練場だな、うんそうしよう」
「ばかやろう、舐められたままでいれるか」
「いやでも」
レンが助け船をだす
「連れて行ってもいいんじゃないか、連れていかなくても勝手についていくだろうし」
「おう、わかってんじゃねぇか」
思わずため息を吐く
「頼むから大人しくしてくれよ」
「まかせろ、マスターこそ上手くやれよ」
そのまま道を歩く
王都は活気に溢れていた
男は元気に仕事に励み、女は買い物や井戸端会議に花を咲かす
商人は大声を上げて客を呼び込み、子供達は楽しそうにはしゃぎまわる
良い国なんだろうなと思う
そもそも王都しか見てないので地方に行けば
テンプレ貴族が町娘をさらってあんなことやこんなことをしたり
農民だと?そんなもんどんだけ殺しても生えてくんだろ
みたいな行動と考えが横行してるかもしれんがな
角を曲がると王城が目に入る
城は3つの塔によって構成されていた
尖塔群がどことなくオシャンティーだと思った
そのまま特に問題もなく城に入って待合室的なものに通される
「特に監視はされてないようですね」
「ああ、おっさんがなんか言ったのかもな」
全員が2つあるソファーに分かれて座る
「会談の件だが多分戦争に協力させようとしてくるだろうな」
「へぇ、オレらを利用するってことか」
ラウルは気にしていない風を装って聞く
「利用っていうか、まあ、依頼って感じじゃないか」
「表面上はそう来ますよね
あの元帥さんが私たちの危険性を伝えたら
そうとうなバカでもない限り敵には回そうとしないでしょうね」
「拙者も同意見です、あのものと話ましたが部下にも信頼されていて有能なのでしょうな」
ラウルも無言で肯定を示す
「みんなも同意見ならオレは今回協力してもいいと思う」
三人はうなずき続きを促す
「だからなるべく礼儀正しくする方針で頼む」
基本的にみんなはオレが決定したことを信頼してあんまり反対することはない
この信頼に答えれるようにこれからもがんばろうと気合を入れ直す
それからはどんな物資が不足してるかや団員達の体調など
事務的な会話が続く
ノックの音が響く
「謁見の準備が整いましたご案内します」
扉の向こう側から声が聞こえたので移動を開始する
王城というだけあって掃除が行き届いている
華美過ぎない絵や壺などの調度品
日の光を多く取り入れようとしているのか窓が多い
謁見の間に着くと先導していたメイドさんが振り返る
「この先で国王陛下がお待ちです」
それだけ言うと門の前にいる兵に合図を出す
二人がかりで門をゆっくり開く
門をくぐると一段高くなった王座の周りに貴族だろうか大勢の人がいる
CFOのイベントでもあったように膝をつき礼をする
「面をあげよ」
そう落ち着いた声で促された
(おっさんは以外と地位が高いんだな)
玉座の右側にすぐ傍におっさん玉座の左側のすぐ傍に目を見開いてユズキを凝視するじいさん
おそらくユズキの潜在魔力を嗅ぎ取ったか
じいさんに対して警戒を一段階強め王の言葉を待つ
「楽にせよ」
王がそういう
でもオレは知っているこれは例のフレーズの亜種であるとな
ではあるフレーズとはなにか
思い出すのは夕日に染められた教室に二人っきり、相手から呼び出された
何を言われるのか想像しまだ幼いオレの心臓は早鐘をうつ
この風景はのちのオレの人生観に大きな影響を与えた
相手はこう言ったんだ
「怒らないから言ってごらん」
衝撃であった神はいると思った
正直にいうだけでゆるされるのだ
人間に残された唯一の贖罪の道だとオレは惜しみない感謝を神に送った
まあ、このあと謎のボヤ騒ぎが周辺神社で起こったのは関係ない話だな
「このさいどうやってこの国に侵入したのかは問わん
不法入国の件も不問に処す
ただし、三国と教国に不穏な動きがある
その戦に参加してもらう」
きたかと思った
「わかりました
必ずやこの国に勝利をもたらしましょう」
ここで報酬を要求しないのがポイント
さいやく無報酬でも構わない
この国に恩を売るのが今回の目的
「500人足らずで何ができるというのだ
平民の分際で何を言っている」
そう答えたのは玉座の左側じいさんのすぐ隣の魔法使い風の男
この男にはユズキの潜在魔力が見えないようだ
隣のじいさんが慌てていう
「ジェナス卿彼らならそれが可能です」
「アーベント殿も歳で目が曇ったか」
バカにしたようにジェナスと呼ばれた青年が笑うと他のもの達も追従するように笑い声をあげる
オレはある意味感動していた
異世界に転移してやりたいこと2位を達成できるかも知れないのだ
そう悪徳貴族の鼻クラッシュ
だれもが夢を見るのではないか
別に自分に従わないものを叩き潰すのにここまでの快感を覚えない
文字通り戦場で叩き潰すのは別として
なぜこんなに快感を倍増されるのか
そんなものは明白であろうよ
学校の授業を抜け出している時にやる遊びがごっつい面白いように
富士山の山頂で飲むコーヒーがやたらめったら上手いように
宇宙で食べるものが食べただけで涙がでるように
そう付加価値である
わかりにくいならプールで食うカレーは美味いだろ?
そんなもんだ
その気分も次の言葉で粉々になったがな
「アーベント殿やゲイル殿を騙せても私は騙されんぞ
この国を食い物にしようとする害虫共が恥を知れ
貴様らの力など借りずともこの国は負けん
今なら地べたに這いつくばり許しを請えば楽に殺してやる」
吹き荒れる魔力の圧倒的な波動
所有者の気持ちを表すように肌を突き刺す
実は大海の主要メンバーのなかで一番キレやすいのはユズキである
ラウルもすぐにハンマーを振るうが必要とあれば我慢する
ユズキは決して仲間を屈辱する言葉を許さないのだ
彼女は身内を決して裏切らず自分の命と同じくらい大切にするのだ
大海のメンバーは全員そうだが彼女はその中でも群を抜く
ゆえに一度敵と認識するとどうなるか
「ゆ、ユズキ」
自分の声が震えるのを自覚する
「ふふっ、大丈夫ですよ」
何が?
そして物語は冒頭に戻る
CFOの知識辞典
今回はCFO内での組織について
組織の作り方は単純
人数を2人以上集めてシステム上の組織登録をするだけ
では組織登録の利点は何か
NPCに対するプレイヤー専用能力の一部付与とギルドホームの購入権である
これによりアイテムボックスや組織内でのみのチャットの使用権など
組織は一つにしか所属できずNPC側の承認が必要
大海クラスまで結束を高めると旗の作成が可能になる
旗があるというだけでその組織は一目置かれるし
旗を掲げ戦うと能力が増加する