第2話 形無き誓い
3日前―――――
その日王城は慌ただしく人々が行きかっていた
会議室で中年の男が口を開く
「国境付近の集団についての情報はまだ集まらんのか」
忌々しそうに持っていた報告書を机に叩きつける
「申し分けありません、所属を示す旗が掲げられていたので諜報部隊に問合せたのですがどの国にも、少なくともヴィルヘムニアやラザフォード、ルキニアの三国には関係しないのではないかと思われます」
そうだろうなと報告を受ける中年の男、チュダック王国騎士団元帥ゲイル=ガルシエルは納得する
「それは当然だろう、ヴィルヘムニアは北の帝国からの圧力に押されているしラザフォードは精霊樹の異変、ルキニアは王位継承権を理由に権力闘争、なにより三ヵ国とも昨年この国と講和を結んだばかりでわざわざケンカを売るような真似をする理由がない」
そうありえないのだ、お互い戦争により深い傷を負ったばかりか国内に病を抱えているのだから
最初に答えた青年がその答えを予測していたのかすかさず口を開く
「はいですので我々が争って一番得をするジルシーナの秘密部隊ではないでしょうか」
甘いとゲイルはその推論を切って捨てる
確かに損得勘定はとても単純であるがゆえに人の行動方針に大きな影響を及ぼす
しかしだ、それはあの国が今のような状況でなければだ
「確かにこの国のドラゴンネストは軍事的にすさまじい価値を持つだろう
しかしあそこは連合を潰すまで決して止まらんだろうな
それにそもそもこの国が地上から消えれば三王国の圧力をもろに受けるし
なによりあちら側のサルバドル教の勢力が増えるのをいい顔するわけないだろう」
ここで少しこの大陸の地理関係とこの世界の宗教について触れたい
この大陸の主要な国は6つ
チュダック、ヴィルヘムニア、ラザフォード、ルキニア、ジルシーナ、アケネイア
この国達が覇権を争い戦争を続けている
他にこの大陸で存在感を放っている小国は3つ
獣王連合、サルバドル教国、六道連盟
地理関係としてはチュダックを挟んで三王国が北に、ジルシーナが南に存在している
三王国をさらに北に進むとアケネイア帝国と六道連盟がある
ジルシーナを北に進めば獣王連合がある
チュダックの西には海があり、東にはサルバドル教国がある
次に宗教について
この世界には4大宗教が存在する
主神ウラノスを中心とするフリューゲル神群を崇め種族差別のないウラノス教
主神リオンを中心とするベルンシュタイン神群を崇めビーストとドラグーンこそもっとも偉大な存在と主張するシュラハト教
精霊と妖精が世界を形作っていてその守護者がエルフだと主張するソフィア教
そして今回問題になっている唯一神クラウンを信仰し世界最大規模を誇るサルバドル教
この宗教の大きな特徴はヒュウマンとデーモンで真っ向から主張が食い違うところだ
ヒュウマンの主張ではヒュウマンこそ始まりの種族なのだという
デーモンの主張では我ら種族の他の種族に類を見ない多様性こそ神が一番自分達を愛している証拠だという
もう少しだけこの大陸の宗教について理解を深めよう
チュダック王国と六道連盟はウラノス教、獣王連合はシュラハト教、ラザフォードはソフィア教
他の主要国はサルバドル教である
少し長くなったが次の2点を押さえていてもらいたい
ウラノスは基本的に平等を謡うので他宗教から毛嫌いされる
サルバドル教を信奉するヒュウマンとデーモンが出会えば物を投げれば下に落ちる程度の確率で殺し合いが始まるぐらい仲良しだということ
「そもそもワシは件の者たちが争いを起こそうとしているように見えんが、ゲイルはどう思っているのじゃ」
すでに70歳を超えた老人の声が室内に響く
「それは不自然でしょう
誰だって朝起きて庭に見知らぬ武器を持った者が現れれば警戒もするでしょう」
「まあ、わからんこともないが報告によればやっているのは狩り人の真似ごとぐらいじゃろうが
本当に戦いに来たんなら相手の準備が整う前に攻めてくるじゃろうし
そもそも挑発と仮定してもこんな戦争終結したての厳戒態勢の中気づかれずにこの国に侵入するよりもっと簡単で効果的な方法がいくらでもあるじゃろうに
そう例えばこの国から嫁いだ王族でも公開処刑とかじゃな」
そういったのは筆頭宮廷魔術師、周辺国から彩害という通り名で恐れられているアーベント=アハド
国王がもっとも信頼を置いているものであり、国王のもっとも古き友でもある
「ぬう、確かに最初の隠密行動と矛盾しますな」
それっきり薄氷のような、誰がが言葉を発せばすぐに壊れてしまう不自然な沈黙が室内を満たす
会議開始当初から口を一切開かなかった部屋の主がついに重い腰を上げる
「その者達に使者を遣わす」
一言で簡潔に方針のみを告げる
チュダック王国国王ジハード=ルー=ズィーゲル
今年齢50を数えながらもまったく枯れ果てることのない強い意志をその眼に映す
国民全てから反逆王と呼ばれ尊敬を一身に纏う
過去の悪しき因習を粉々に破壊する姿は悪徳貴族を震えあがらせ国のために努力するものの希望になった
「まぁ、妥当じゃろうな問題は書面じゃな」
結局、会議をしても情報がなさすぎてどうしようもないというのがこの場に集まるものの本音であるし軍なんぞ送って他の国を刺激したくないのだ
「では、それはわたしが担当しましょう」
そう言って小太りな文官が名乗りをあげる
「よかろう
くれぐれも相手を刺激せんようにな」
そこから運命の歯車が回りはじめた
「騎士団の―――――――」
「魔術士で――――――――」
運命は大海の名を世界に轟かせるある戦いへとゆっくりと向かっていた
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現在――――
「ケッ、気に入らねぇな
ようは従うか死ぬか選べってことだろうが」
「まぁ、そういうなラウル
突然現れた拙者たちを警戒しているんだろう」
オレは退屈なので咳をするふりをして右手に握った干し肉の欠片を口に含む
「わたしはこの話受けてもいいと思いますよ」
しゃべりながらユズキが机の下でオレのイスを蹴って肉を催促してくるので
一欠片ユズキに放り投げる
「へぇ、そりゃあどうしてだ」
人を殺せそうな視線を対面に座るラウルが机の下のオレの干し肉を見つめてくるので
半径10メートルなら無詠唱で使える転移魔法でラウルの掌に渡す
「確かに拙者もきになるな」
ラウルの横にいるウルザが物欲しそうにラウルが隠れて食べる肉片を見ているので転移
「まだこの世界についての知識がまったくない私たちが情報の集まる王都に行くことができますからね」
(訳:新しい魔法の知識があるかなワクワク)
レンが口を開く
「確かに、王都に連行される間にステラとオレの部隊から数人選んで潜伏させればいいだろうな」
不思議に思いオレはいっこうに肉を催促しにこないステラに視線をむける
・・・・・・・持参ですか
「もぐもぐいいのじゃ、もぐもぐ妾自ら行くのじゃもぐもぐ」
この会議(笑)が開かれている理由はついさっきもたらされた書簡に対しての返答についてである
書簡には小難しく、わかりづらい表現で
君たち突然現れたけど何が目的なの?それとどこの所属?
そこに居座られると国の関係が悪化するから王都まで来てね
このままなら力づくで排除するよ
という旨の短い内容が上から目線なのに丁寧なやたら長い文で記されている
まあ、そもそもオレが会議に出席しても役に立たないのだが
相手が敵対するなら戦い、そうじゃないならフル無視するという行動を常にとってきたので政治的な取引がどうとか、お偉いさんとの謁見がどうのとか状況証拠的に言葉の裏を読むだとか基本的にあんまり詳しくないのだ
別に考えれないわけじゃないぞ
そう考えれないわけじゃない・・・・・よね
あまつさえ周りを見渡せばレン以外は脳筋に肉塊スキー、魔法厨に腹ペコ、それに一騎打ち侍など無駄にバラエティー豊なのにろくなのがいない
ここで我らが傭兵団<大海>のさわりの部分だけを説明しよう
大海は6つの隊総勢486人で構成されている
総勢131名、ラウル隊こと大海の物資の生産から管理までを一手に引き受け、ドワーフやエルフが多い大海のお母さん
総勢71名、レン隊こと大海の事務的な処理を一手に担い、中近距離に特化した武器の使い手が多い大海のお父さん
総勢101名、ユズキ隊こと大海の最大火力で、エルフとフェアリーが多い大海の長女
総勢81名、ウルザ隊こと大海の最前線部隊で、ドラグーンとビースト、デーモンで構成される大海の長男
総勢101名、ステラ隊こと大海の情報部隊であり、全種族が所属する大海の次女
え?じゃあお前はどこにいるんだって
バッか、傷つくだろうぼっちだよ言わせんな
思えば小学生の通信簿にも一人が楽しいですかとかかれるぐらいには社交的だった
皮肉とかじゃなくて、本物のぼっちには先生が当たり障りのない生活態度とか学習態度を褒めるんだよ
よって、逆説的にオレは別に社交性がないわけでわないことを証明する QED
話が逸れたがオレが一人の理由は単純に強さが違うからだ
ひたすらボーナスポイントをSTRに4、SPDに2と振り続けたことにより手に入れたボスと真正面から武器を合わせられる力、ステラ程でもないがプレイヤーでも屈指の速さ
まあすべてオレの高レベルありきの話だが
(はあぁ~)
行動方針は決まったが、今から気が重くて心の中でため息が漏れる
(まっ、大海があなどられない程度に頑張ろう)
それだけ決意すると天幕のなかにこれからの予定などを副官と話し合っているレンを残してそとに向かった
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また説明で申し訳ないが、アイテムボックスについてどんなイメージを持っているだろうか
容量が無限だろうなと予測するのではないか
じゃあそれはなぜかということを特に深く考えずにはいはいファンタジーファンタジーとながされているだろう
がしかし、CFOでは入る質量がレベル依存で決まる
いい所はNPCでも全員アイテムボックスを持っているところ
悪い所はそもそも容量が小さくオレでだいたい300キロで隊長格で200キロあとは100キロくらいだということ
また体積ではなく質量で入る量が決まること
ここで、質量で決まるんなら大きいものでもきにせずにぶち込めるぜヒャッハ―とか思うかも知れない
しかし、大きな物は必然的に質量が増えるし、武器や防具などに使われる俗にいうファンタジー鉱石なるものが結構重いのでかなりシビアに持っていくものを選ばなければならない
これらが、オレ達が狩りをしたり野草を採集したりしなければならなかった理由だ
まあそれはいいだろう
ではなにがいいたいかって
オレは予備の武器がないのだ
さっき説明したようにファンタジー金属はとても重いのだ
オレの武器はなにか、大剣である
それに追い打ちをかけるように重さを無視で頑丈さをひたすら追求したのだ
答えはお察しいただけるだろう
そんなことを考えつつ自分の持ち物を上品にアイテムボックスにぶちこみ、天幕を流れるような手つきでたたみ回収班に丸投げし、予備で持っていたカーキのローブをスタイリッシュに羽織る
その足で行軍用の食料を確保しに行く
それは人間というにはあまりに、神々しく、美しく、愛らしく、神秘的だった
猫耳がな
笑顔で質問する
「うん、来る前からわかってたけどな一応理由を聞いてやろう」
ビクッと肩を震わせこちらを振り返るステラ
「な、なんじゃマスター
まるで妾がなにかしようとしているように聞こえるぞ」
器用に尻尾をそっぽに向け「私怒ってるんだからね」といっているようだ
「そっかそっかごめんなオレの気のせいか」
オレが誤るとステラは調子に乗っていう
「そうじゃ、そうじゃマスターは妾に対する認識を改めるべきじゃ」
納得するようにブンブン首を振る
「わかったよ
それとおいしかったか」
「うんおいし「やっぱ食ってんじゃねーか!!」
ステラを捕まえ猫耳を乱暴に撫でまわす
「いたいのじゃ―――!!
優しく扱うのじゃ」
「うるせぇ、いつもいつもオレを誘惑しやがって
悪いのはこの猫耳かこの猫耳なんですか」
周りからはいつものことだと生ぬるい視線を送られている
そんな二人の戯れを置き去りに粛々と王都に向かう準備が行われていく
誰もが不安と期待を胸に王都に思いをはせるなか幼女の悲鳴と青年の咆哮が木霊する
これを聞いて不安が消し飛び温かい雰囲気が満たされる
こんなどうしようもないけど大切な家族を守ろうと
いつも嫌な雰囲気を壊してくれてありがとうと
なにがあってもみんなでかえってこようと
そう声にならない声で誓いを胸に刻み込み
そして誰かがいったんだ
「おまわりさんこっちです」
その声は青空に吸い込まれて消えていった
CFOの知識辞典
CFOではたくさんの職業が存在していますが
今回は近接と遠距離の基本クラス2つの職について説明しましょう
剣士
これがないとファンタジーは成立しないんじゃないかというほど定番
タイプは装備によっていろいろ
重装備で壁になるもよし
軽装で一撃の威力を追及するヒットアンドアウェーを選択するもよし
いやいやオレは素手で戦うんだ
など剣士というより戦士のほうが正しいかもしれない職業
まあでも覚える大多数のスキルは剣に対するものではあります
魔法使い
30歳まで男性に神から与えられし秘宝を守り抜けば転職できるといわれている職業であり、小さなお友達も大きなお友達にも大人気の職業
習得可能属性はランダムに数も種類も決定される
プレイヤーで確認されている習得魔法の最高種類は6つ
上位クラスになればなるほど特定の魔法に特化していく傾向があります