プロローグ 完結編
戦闘において勝敗を決定する一番大切な要素とはなんだろうか敵を寄せ付けない圧倒的な技術だろうかそれとも敵から全く感知されない想像を絶する速さだろうか、もしくは敵を蹂躙しつくす莫大な魔力だろうか
ふとそんな疑問が頭をよぎる
CFO開始からずっと考えていた答えのない命題がそこにはあった
なぜ今それを考えたのか
おれは今一人で戦って弱気になっているのだろうか?
わずかな不快感を消し飛ばすため剣の柄を強く握りしめる
ここで戦闘能力について説明する前に少しだけCFOにおいてのマイキャラクターの能力について語りたい
まずは種族について
両親を7種族から選ぶことができるただし出身地は選べない、このシステムがボッチを加速し、父がエルフで母がドワーフなのに出身は海底都市とかいう問題を引き起こし運営が批判される原因になったのだ
そのことは今回はいいとして
想像できるかもしれないが、例えばエルフなら魔法砲台で素早い紙装甲で火が嫌いとか、ドワーフなら脳筋で鈍足鍛冶大好きで水嫌いなど種族によってだいたい長所と短所がわかる
次にレベルについて
レベルは上がるごとに種族によってHPとMPを除く基礎ステータスに加えられる値が固定されている
種族に関係なくレベル毎に上昇する基礎ステータスの合計は18で、ボーナスポイントが6ずつ手に入る
レベルの上限はとくにない
3番目に職業の熟練度について
それぞれの職業で熟練度1000が最高であり、その職にあった行動によって熟練度が加算される
例えば鍛冶師で料理しまくっても熟練度は変化しないということだ
例外として戦闘のみは職に関係なく熟練度を加算する
熟練度が高いほどステータスに補正がかかる
職業別に獲得できるスキルが異なるが、転職しても前職のスキルが引き継がれ装備可能
転職は神殿においてのみすることができる
魂の階位については今回考えている強さと関係ないので説明を省きたい
最後にスキルについて
スキルの入手法は3つ、職業の熟練度をあげる、特定のスキルを何度も使い派生させる、特定のクエストをクリアするのどれかである
スキルは10個までつけることができる
装備品についているスキルは別カウント
さてここまで長々と語ってきたが
まとめるとCFOの強さを決める主な要素は次の5つ
・種族の特性
・レベルの高さ
・職業の熟練度
・スキルの構成
・装備の強さ
ではここまで理解してもらったという前提でオレの考える一番大切な要素について語りたい
結論はどんなに多彩な技をもつモンスターでも、モンスター中最高の速さを持つものでも、莫大な魔力を支配する魔王でさえも全部叩き潰す最強の物理的な力だと思う
まあ、物理無効に出会えば役立たず、魔法で遠距離からの的だの、そもそも攻撃当たるのかなど欠点はかなり多い
そこで自分が考えられる問題に対して2つの回答を用意した
1つは、防御力を犠牲に素早さの獲得による手数の多さと命中力の増加
2つ目は、物理的な魔法攻撃の獲得による攻撃の多様化
まとめるとオレのCFOにおける戦闘の考え方は殴ってから考えるその一言に尽きる
さて少し話が変わるが
ここまでの話を聞いてまあ賛否両論はあれど少なくともゲームの攻略はできるだろうと考えてもらえないだろうか
だがこれが大きな落とし穴だった
そもそも何かに特化しようという考えの根底には仲間と分業すればいいんじゃないかという思想がないだろうか
たしかに従来のMMOならそれでプレイしてもあまり不都合は生じないだろう
だが、ここはぼっちオンラインなんてあだ名がつくいわくつきのゲーム
サービス開始1年から参加したプレイヤーなら問題ないだろう
しかし、初期は酷かった
なかなか会えない他プレイヤー、仲間になるNPCはもやしの雑魚しか仲間にならない、仮にプレイヤーに会ったとしてもセーブで街に戻され会いに行くのが面倒になるしまつ、さらに明らかに特定の種族を殺しにくるモンスターの存在によるヒュウマン以外はほぼクエストが進まない
ではこんな過酷な環境の中どうやって廃人でもないオレがトッププレイヤーにまでのし上がったのか
CFOは基本的にクエストをクリアするかボスを倒すかの2択で一番多く経験値を得られる
オレは後者を選んだ
なぜなら、何度でもボスは挑めるし経験値はクエストのようにばらつきがなく膨大
しかしそう単純な話でもなかった
ボスはかなり強い、序盤でボスを狩れるものは他のゲームからやってきた廃人ですら不可能でそうそうに諦められた
それに、装備の修理代や各種回復薬などの消耗品代など莫大な金が必要というシビアな条件
でもオレは絶対に諦めなかった
最初のころは周りに追い抜かれ一人取り残されレベルの上がらない日々の閉塞感
毎回挑んでは負け 本当に勝てるのだろうかという不安
それでもオレは繰り返す
ボスの動きを予測し対応
もっとも威力の高い剣の振り方の習得
技術を反射にまで至らすための苛烈な反復
そんな期間が半年程続きついにオレは成功をもぎ取った
圧倒的挌上との連戦によるプレイヤースキルの劇的な向上
ボスのレアドロップによる資金の獲得
なにより、次々により強いボスを倒すことによるレベルの急上昇
そしてサービス開始1年のアップデートまで1人で駆け抜けてきた
なぜ今そんなことを思い出すのだろうか
やはり1人で弱気になったのだろうか?
そうオレは安心したかったのだ
CFOが終わって仲間達がいなくなっても大丈夫だと
寂しくなんかないと
今も一人で最後の戦いに挑んでいるじゃないかと
そうオレは激しい戦いの音が響き渡る中で一人孤独と喪失感を持て余す
かくしてオレは一人走り出す
一人だと思うたび一番近くのだれかが泣いているような気がした
オレは思わず剣を強く強くその存在を確かめるように握りしめた
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目の前にたたずむは光輝く白き鱗をみにまとい周りに無意識の敬意を強要する、その大きすぎる巨躯は人々の暗闇の中で感じる理解できない不安をを呼び覚ます
人は膝を屈し許しを請うどうか命だけはと、せめて家族だけはと泣き叫ぶそれが当然だと見下しきった赤き眼
その名はヨルムンガンド、北欧神話の純血の巨人族ロキの子であり、北欧神話の主神であるアース神族のオーディンが将来大きな災厄を生むと冷たき海に捨てられながらも生き抜き、ラグナロクにおいて雷神トールを殺した竜
白き竜は地面に無造作に身を投げ出している
こう告げられているようだ
お前など取るに足らん存在だと
そんな挑発も受け流し小人は両手に持つ大剣を静かに構える
竜は大きさを推し量ることのできない諦念を身に宿す
小人は苦悩に満ちた表情をしている
これから始まる激戦にふさわし雰囲気なのだろうか
そんな疑問を置き去りに衝突は始まった
竜はその巨大な山と評することのできる程の大きな大きすぎる爪を振り下ろす
小人は真正面、愚直に大剣をただただ全身全霊を、あらん限りの力を、迷いを振り払うという願いを込めて振り下ろす
ドカァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!
響く衝突音はあまねく大地に響きわたる
オレはここにいると存在を大声で高らかに謡う
小人は避けない
竜が爪を振るえば真正面から弾丸のように接近しその剣を叩きつけ吹き飛ばされる
竜が尻尾を振るえばはじき返すように体を捻じり切らんばかりに捻りその勢いを利用し剣を横になぎ吹き飛ばされる
竜が牙を向けば空の果てまでうせろといわんばかりに切り上げを強行し地に叩きつけられる
小人は何度も何度も吹き飛ばされぼろぼろになる
しかし、竜も決して無傷ではない
金剛石より固きその鱗は砕け、その名に宿す途方もなく大きな杖の名を体現したその大きく太い尻尾の肉片が宙を舞う、牙は傷つき悲鳴を垂れ流す
何度も何度も小人も竜もお互いの武器を叩きつけ続ける
自分より遥かに小さく、そして卑小でありながら自分に立ち向かい続ける人間を見て竜は悟る
ああこいつは敵だと
こいつはオレを殺せると
こいつはオレと対等な存在だと
竜は自問する
こんなに戦いたいと思ったのはいつ以来だと
そんなどうでもいい疑問を捨て去る
竜は思う
自分は強くなりすぎたと
逆らう者はすべて叩き潰した容赦なく完膚なきまでに跡形もなく一切の慈悲もなく
いつしか自分を恐れて近寄らないものと戦わずして自分を殺そうとするものそのどちらかしか存在しなかった
竜は世界をくだらないものと切って捨てた
それからだ、常に世界は一色で塗り固められ、同じ形だけで描かれているように見えるようになったのは
だが目の前の小さきものによりその世界は粉々に砕かれる
一番最初に価値のないものとして見下し蔑み続けて来た人間にだ
最高の皮肉ではないか
感じられる世界が色を増やし形を複雑なものに変えていく
オレを殺してみろと
オレを踏み越えたさきが英雄の到達点だと
オレがお前を叩き潰すと
そんな思いが体を駆け巡る
体の中の熱を吐き出すように口を限界まで開き喉が裂けるのもお構いなしに血液とともに咆哮を解き放つ
竜はさらに加速する
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小人は満身創痍で立ち上がる
幾度となく吹き飛ばされたその身は幻痛を引き起こす
だがそんな痛みはまったくきにならない
体がどうしようもなく熱いのだ
心は進め進めとオレを殴りつける
感じることのできないはずの心臓の鼓動がオレをせかす
電子の世界の中でも確かな熱を感じる友の、仲間の、家族たちへの想い
そのすべてがオレをどこまでもどこまでも高ぶらせる
一番最後に感じた思いは勝ちたいという願い
思わず笑いがこぼれる
(ハハッ、これが一番おれらしいか)
埋蔵量のわからない勝利への願望という燃料をひたすら心にぶち込む
心臓が刻むビートはひたすら速度を上げる
体を荒れ狂う熱が勝てと殴りつける力を増し続ける
なにより勝ちたいという気持ちがオレの胸ぐらをつかみありえない力で引っ張ってオレをブン投げる
そんなどうしようもない衝動を抱え小人は走り出す
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戦場にはいつしか竜と小人がかき鳴らし乱暴に描く戦闘の光景のみが映し出される
見るもの聞くものすべてに幼き頃自分を信じ続けた自分を思い出させる
それはとても激しい戦いだ
小人が竜の爪をギリギリで躱し鱗に叩きつけ肉ごと骨ごとゴミに変えては避ける
また尻尾がくれば力に逆らわず衝突の衝撃のみを殺しそのまま押し流され動きが止まったところで剣閃を捻じ込む
避け始めたことにより攻撃のリズムが生まれ攻撃が加速していく
さっきまでは鱗を砕くのがやっとだった一撃が肉を断ち骨に悲鳴を上げさせ竜だったものをゴミ屑に変える
振り下ろし、突き刺し、横になぎ、振り上げ、蹴りをぶち込む・・・
何度も何度も仲間とともに積み上げた想いを
地をはきそうな研鑽の果てに捥ぎ取った技術を
今も荒れ狂う勝利の渇望を
今あるすべてを吐き出し続ける
譲れない
お互いの表情は最初がまるで嘘のように勝利に餓える豪快な笑みが形どられていた
幾度目かの衝突
お互いが弾き飛ばされる
見るものすべてが何の根拠もなく本能のみを頼りに理解する
次が最後だと
次始まればどちらかが死ぬまで止まらないと
竜と小人は向かい合う
竜の全身は傷をないところなどないという用に鱗は砕け片翼は根元から拉げ爪は歪に折れ曲がる、数多の敵に決して曲がり欠けることのなかった絶対の信頼を置いた牙は一本を残してすべて折れている
そんな姿でも竜はいつも自分を勝利に引っ張り上げてくれた牙を構える
この目の前にいる敵を食い千切るために
勝者はオレだと世界に刻み込むために
小人の身にまとっていたローブはすでに布きれとも呼べないほどズタズタになりどっかに消し飛んだ
体は傷に覆われ立っているのもやっとの有様
大剣ももうすぐ耐久値が尽きるほどガタガタ
それでも小人は構える10年間をともにして一度も名を呼ばなかった大剣を
別にこの剣が嫌いだとか剣なんて所詮消耗品だろとは思っていない
むしろ常にオレのことをそばで支えてくれた最高の仲間であり血なんかよりもっと太く濃い何かで繋がっているとさえ思っている
でも呼びたくなかった
いつも考えていた、この剣を含め他の仲間達はこの世界に生きているがオレは所詮仮初の来訪者で偽物でいつかこの世界を去るんだと
だから名前を呼ばなくてもいいならこいつもオレがいなくなっても新しい主を見つけれるんじゃないかと
でもこの戦いの中で感じていた予想に確信が持てた
相棒が寂しそうに悲しそうに呼びかけていたんだと
だから最後は相棒に笑ってもらいたいと思った
だからオレは名前を叫び振り下ろす
「さくやぁぁぁぁぁぁぁ!!」
大剣と牙は騒音をまき散らしかちあう
剣から声が聞こえる
竜と小人は吹き飛ぶ
やっと呼んでくれたと
両者が倒れ伏す
ずーと寂しかったと
どちらからともなく無理やり地面から体を引き剥がす
悲しくて泣いたときもあったと
お互いが死力を尽くし一撃を放とうとする
でも許してあげると
剣と牙が轟音をだして触れ合いそして
バイバイマスター楽しかったよ、それと愛してると
2つとも根元からへし折れる
人も竜もまたしても地面に這いつくばる
少しの静寂
おもむろに人が体を引き起こす
体を引きずりながら竜のもとへ向かう
竜のもとにたどり着くと折れた牙が頭に突き刺さっていた
それだけ確認すると力が抜け後ろに倒れこむ
その場所にはすべてを出し切り満足していった竜の亡骸と長年の思いを伝え満たされた大剣の残骸、そして戦いに勝利した人間だげがいた
人間はふと空を見上げる
何もなくどこまでもどこまでも一人ぼっちで蒼く蒼く澄んでいる空を見ると短い時間だが分かり合えた寂しがり屋で泣き虫の相棒の最後の涙参りの声を思い出す
いつのまにか返事を返していた
「バイバイさくや楽しかった、愛してたよ」
小人の顔には0と1で縁どられた温度も匂いもないくせに想いだけは溢れかえるほど籠った涙の川が流れていた
小人は一言だけ絞り出す
「ごめんな一人にして」
ふと小人はいつもの癖でウィンドを開く
視界の端にPM11.59という文字が引っ掛かる
それだけ見ると目を瞑り体から力を抜く
整理のつかない思いを抱えながら意識を手放した
今思えばこの時の行動が大問題を引き起こすことも知らず呑気に寝ているオレにあきれ返ったのは言うまでもない