プロローグ 後編
2089年7月28日PM8時30分 アルモタヘイル大平原
side ラウル
「うぜぇ!!」
ラウルは吠えながらその手に持ったハンマーを向かってくる敵に振り下ろす
体に荒れ狂う熱に突き動かされるように
振り下ろし、横になぎ、振り上げ、振り下ろし・・・
ひたすら繰り返すそして一撃一撃は際限なくキレを増す
重い武器のはずなのにまるで木の棒きれを扱うかのようにはやくはやくはやく限界まで加速していく
そしてラウルは境地にいたる
戦いの中でのみ感じれる感覚、体が自分が思い描くように動く、体が軽い、敵の動きもよく見える
なにより喜ぶべきは自分が作った相棒との一体感
ハンマーは腕の延長であり自分はハンマーの延長である
そう感じるのだもっと振るえと、敵に鉄槌をくだせと
ラウルはこの時ゴーレムも操っている
ゴーレムは動かない掲げるその盾で攻撃を防ぎきる
一見簡単に見えるが本当に簡単なのだろうか
動いていない、確かにじぶんからは動かない
しかし攻撃を受ける瞬間受け止める角度をかえるのだ
決して正面から受けずうけながしつづける
いくらゴーレムが大柄で重くとも竜種やジャイアントの攻撃を正面から受けてはそう長くはもたない
だから、受け流す最少の力で最大の成果をだすために
ラウルは戦場で舞う
笑いを抑えきれず、獰猛な笑みをうかべながら
切りかかるものは武器ごと叩き潰し、魔法を撃ってくるものは近づいて叩き潰す
ラウルが通ったあとはひしゃげた肉の塊のみがのこる
ラウルの戦場でいつも残される風景
これを見てだれかがいった「肉塊王」と
無慈悲に、無関心に、戦場を舞うそのすがたにはぴったりの名だ
side レン
ピュッ
蒼き雨が降りしきるなかで
風を切る音が響く
あちこちから雄叫びが、魔法の爆発音がうなり声のなかで確かに響く命を奪う歌 それはとても美しく、どこか寂しげで、どうしようもなく冷たい
そう、きこえるのだ死ぬ間際にあるいは目の前でだれかが死ぬたびに
「遅いし無駄が多すぎる」
そう呟き、作業のように淡々と、的確に
槍を抜きかまえる
単純な動作、そこには訓練の成果がありありとうかんでいる
風が世界にふくように、月が夜を照らすように、雨が上から下におちるようにどこまでも自然でそうあることが世界の法則であるように突いてはもどす
そうして目的のところにつく
「まずは一あてしてみるか」
敵は神達の長ゼウスレンの相手にとって不足はない
ピュ
死の音が響く
だがそれは訪れない
(流石に速いな完全に見切られわざとギリギリでかわされた)
死の歌は止むことなく響きつずける
時に勇壮に、時に儚げに、時に雄々しく、時に漫然と敵を死にいざなう
「人のみでありながら神をも殺す資格を持つか
見事!!だがまだ足らん覚悟が、勇気が、努力が」
そう神は余裕の笑みさえ浮かべのたまう
「ではこちらからゆくぞ」
閃光、そう評するにたる剣戟
まばたきすら許さない死の光
振り下ろしたように見える剣は次の瞬間横にあり、ふり払われたようにみえた剣はすでに振り下ろされている
レンは必死に避け続ける
だが、その均衡が長くは続かないことは明らかである
このままでは負ける、それはあってはならないことだ主であり家族でありなにより唯一無二の親友であるものにたくされた使命を失敗するわけにはいかない
レンは決断した、ここが手札を切るタイミングだと
負けるとしてもすべてをだしきろうと
いや、差し違えてでも友の道をきりひらくと
「目覚めろヴィジュヌ」
インドラの力の象徴の1つとされる宝具のひとつ
あるクエストをクリアしたものにヴァジュラかヴィジュヌのどちらかの力の1部を獲得することができる
ヴァジュラの場合体外での雷の制御と生成ができるようになる
一方、ヴィジュヌの場合体内での雷の制御と生成ができるようになる
「ほう、インドラの加護か面白い」
それだけつぶやくと二人の戦いは再開した
体に光をまとうものと赤黒い雷をまとうものの衝突に大地は悲鳴を上げ続ける
何度も何度もあらん限りの力で相手を殺りにいく
お互い早すぎて相手の武器をほとんど認識できない
お互いの剣のさきが槍の先が霞む
ときおり繰り出される拳や蹴りでさえほとんど見えない
すべてあたれば戦いの趨勢を決めることができる必殺の一撃
ゆえに、体の支点のみを観察し避け続ける
先読み、動きだしを全神経を集中させとらえつづける
超越者たちのすべてをかけた乱舞
激しく、どこまでも激しく命の花を散らしていく
このままでは制限時間のあるレンの敗北は確定である
そう一人ならば
side ユズキ
「我招くは炎神の心臓、其の蒼き炎は魂を焼く」
ユズキの役目は範囲攻撃をすることが苦手でタイマンに特化したレンのつゆ払いであり、また、ゼウスに魔法で致命傷を与えることである
ゆえに、最初から全力で魔法を行使する
「燃える炎、意志を喰らう」
この魔法を選んだ理由は4つ
とにかく広範囲であること、また、一回の攻撃がながいこと、それに、詠唱が短いこと、なによりその圧倒的なまでの威力を有すること
「コロナ」
それは、とても幻想的な光景だった
落ちてくるのだ、天から
まるでちょっと散歩にでかけるようなきがるさで
おさなごが母に甘えるような無邪気さで
命をうばいに、蒼い炎が
確かに幻想的であるが、ひどく残酷な物語のようだ
目に映るものに等しく死を、絶望を、苦痛を、そして終わりを
まさに運命が計算され配置された物語
淡々と機械的にすすむ虐殺
魔法の種類についてはのちに語るのでここではこの魔法について
この魔法のおそろしいところはなんだろうか
空から降ってくること?範囲が広くて避けれないこと?なんでも燃やすところ?
残念ながらすべて不正解といえよう
ここですこし火についての質問だが
火とはなにか
人類は火を使うことによって発展してきた
主な用途は光源や暖房、調理に武器だろう
ここで、暖房について注目してもらいたい
例えば、真冬に部屋でこたつに入ってさらにストーブをつけ、熱々の鍋を食べ、厚着をしたとする
必然的に人の体温があがり、服を着ていることが耐えられず服を脱ぐだろう
では、魂に温度と感覚があり、魂のまわりの温度が上がればどうなるだろうか
結論は脱ぐのだ、肉体を
すさまじい光景だろう
形あるものが砂の山のように崩れなかからなにか光るものがでてき、そのひかりが蒼に埋め尽くされる
「やっぱり、よくききますね」
見つめる先には苦痛に顔をしかめながらも剣を振るうゼウスと勝利のみを見据え自分のため、仲間のために槍を振るい続けるレンの姿がうつる
お互いに苦しくてしかたがない
生理現象のように魂が肉体を脱ごうとする
だが、レンは事前に炎神アグニの加護をすこし借りているので幾分楽そうだ
一方、生身で蒼き炎に身をさらすゼウスはうめき声をもらしつずける
そしてその結果があらわれる
「あ、終わりましたね」
とてもあっけない幕切れだった
ゼウスの体が膨らみ破裂する、何かをいいのこすこともなく敗者はただ去って行った
「あとはまかせましたよ、マスター、みんな」
そういって魔法をとくと
勝利を祝うかのようなとても晴れやかな空がどこまでも広がっていた
side ステラ
ステラが敵に触れるたびに眠りに落ちるように倒れていく
なにが行われているのか説明の前に知ってもらいたいことがある
この世界は物質で構成された現界と魔力で構成された霊界の2つで形づくられている
では何が行われているのか
結論は霊界にある肉体を直接破壊しているのだ
これはとてつもなく高度な技術であり、また、ステラの特殊体質なしには成立しない技である
ここで、じゃあ肉体直接ぶっ壊すのと一緒だからそのうち起きあっがてくるから無駄に神経使ってんなっと思うかもしれない
確かに、腕が千切れようが、足がもげようが、頭がふっとぼうがそこらへんにあるエリクサーをかけるか、賢者の石でも叩きつけとけば勝手に生えるしなおるだろう
これは霊体においても適用される
しかし前提として霊界は刺激がすくなくとても安全なのだ結果霊体は特に強固になる理由もなく壊しやすくなる
また、ステラのまったく適性がなく波長が極端に短いのに魔力だけはあり得ないほどあるという体質も関係している
ステラの体質の長所とはなにか?
そもそも、魔力は属性と波長の長さで決定される
生き物は大体同じぐらいの波長の長さをしていてほんの少しづつ長さが違い少なくとも1属性適性をもつのである
ステラは適性がなく波長も短いその特性を利用して他の生き物の魔力をつくれるのだ
このことにより、直接相手の霊界の肉体に干渉することができる
同じ魔力でないと一切干渉をうけないという安全すぎる環境によりまったく鍛えられていない肉体に無理やり許容量を超える魔力がながしこまれればどうなるのだろうか
それは、砂漠が水を吸うように爆発的な崩壊がおこるのだ
犠牲者を量産しながらステラは目的へと突き進む
速さのために他のほとんどの能力を犠牲にしたその速さは神速
プレイヤーの間では公式チートとまでよばれている
ただただまっすぐ進む、障害をはねのけながら
その先で主が望む結果を生み出すために
side ウルザ
「よい気迫ではないか」
そこにたたずむは10メートルほどの黒いドラゴン
見ているだけで膝を屈してしまいそうになる王者の威厳
まきおこすは形あるものすべてを飲み込む圧倒的な災害と呼ぶにふさわしい破壊の嵐
その巨躯にまかせ尻尾を振り回し爪を振るい牙をむく
遮るものには何の慈悲もなく死を与える
小さきものも大きなものも関係なくひたすら逃げまどい許しをこう
その嵐を止めるものが現れる
その魔物は悪魔の支配者
巨大な2本の足で大地を踏みしめその身にまとうは黒色の甲冑、背の羽は太く黒くかなり大きい、全体的に人間のように見えるがその顔が決定的に違うと言っている
醜悪な髑髏で見るものに生理的嫌悪感を強烈にあたえる
この光景をみた人はきっとこういうだろう
ああ、これこそ悪魔だと
この世の悪意を一身にまといなを自分の道を突き進む悪意の化身
それはどこか気高くすらあった
両者は向かい合い動かない
先に動いたのウルザのほうだった
真正面からかみつこうとおそいかかる
あのおおきなゴミを磨り潰す
そんな叫びをあげるような獰猛な突進
悪魔はうごかない、そこが玉座であるかのようにどっしりと構える
ウルザが接触する瞬間爆発が響く
ルシファーの対物障壁によりはじかれたのだ
しかし、そんなことおかまいなしにウルザは尻尾を叩きつける
またしても障壁にはばまれる
されど、障壁をたたくことをやめない
この間になんどもなんどもウルザは黒い球体によって鱗を削られ翼をちぎられる
魔王の多彩で高威力を誇る魔法がウルザに降り注ぐ
だが、決して攻撃はやめない
尻尾の次は牙それがだめでも体当たりをぶちかます
何度も何度もあらん限りの力をこめて、自分のできるかぎり最高の一撃を出し続ける
信じるのだ、ともに困難だろうが絶望だろうが叩き潰し乗りこえてきた仲間を
そして待ちに待った時がきた
ふいに障壁がとぎれ悪魔の体が傾いた
その右足には子猫が拳を振りきった姿があった
ウルザにはこの隙だけで十分
今までの怒りと鬱憤をはらすかのように攻めたてる
体当たりで吹き飛ばし、それを尻尾で捕まえ地面にたたきつけ相手の羽をくいちぎりゴミのように蹴り飛ばす
ウルザはおもむろに口をひらき力をためる
竜種の最大の特徴とはブレスである
それぞれの竜の種族別にブレスの属性は変化する
ウルザはドラグーンなので本来ブレスをうつことはできない
だが、その身に宿す圧倒的な気を凝縮して擬似的にブレスを放てるようにした
そのブレスはもはや神級魔法と同等かそれ以上の威力をあらわした
世界が悲鳴をあげるただその音だけが響く
そのあとには何も残ってはいなかった
黒竜はまだ激闘を繰り広げる主の方角をみる
「マスター、拙者は使命をはたしました
どうか御無事で」
激しい戦場にありながらそこだけは立ち入ってはいけない聖域のような静けさに満ちていた