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俺の黒歴史ノートが異世界で魔導書になっていました:連載版  作者: きり
第2章 平和な学園に落ちる影! 学園テロリスト編
9/30

2-6

今回はちょっと真面目

 子供の頃、俺は戦隊ヒーローが大好きだった。

 毎年毎年、手を変え品を変え発表されるヒーローたち。基本は五色を冠しているが、時たま最初は三色だったり逆に六色七色に増えて行ったりするアレだ。

 新たなヒーローが出る度に喜び、毎回お約束で巨大化する敵に巨大ロボで対抗するその姿に憧れ、玩具も両親にねだったりした。そして友達とごっこ遊びをしたものだ。この件に関しては今思い出してもそれほど恥ずかしいとは思わない。だって本当に子どもの頃の、そしてほとんどの少年が通る道だからだ。流石にそのレベルになれば『ああ、そんな事もあったなあ』と気恥ずかしくも懐かしさに笑う事が出来る。それ位好きだから今だってファイ○マンからガ○レンジャーの主題歌は余裕で歌える。

 そんな俺はいつの日か両親に遊園地に連れて行ってもらいヒーローショーをみせて貰った。その時のショーは天聖戦隊オリレンジャーだった。簡単な内容を言うと4tトラックに轢かれて死んだ主人公が何故か天界で天使に地球の平和を託され、新たな力を得た地上の天使、オリレッドとして戦う話だった。その仲間には水族館に亀を輸送してた電車に轢かれて同じく天聖したオリブルーや、カレー宅配のバイクに轢かれたオリイエロー等。そして敵は地獄の魔王デコトーラだ。

 話を戻そう。俺はそのショーを見て大層興奮していたと思う。テレビでしか見たこと無かったヒーローが、目の前で天聖で得た力で地獄の敵を倒しているのだ。子供で興奮しない奴は居ないだろ?

 そしてショーの終了後、興奮する俺を暖かい眼で見守りながら親父は俺に聞いたんだ。


『カズキは大人になったら何になりたい?』


 今思えばこれは卑怯である。ヒーローショーを見終わったばかりの子供にその質問。もはやどんな返答が返ってくるかわかってるじゃないか。というかむしろ誘導尋問に近い。おのれ親父め、いたいけな子供を謀ったな。

 そして当時の俺は当然の如く親父のそれに引っかかった。その時の俺の頭の中では圧倒的な力で地獄の無法者を倒していくヒーローの姿が輝いていたのだから。だから俺はこう、答えたんだ。


『地上に舞い降りた聖なる戦士、オリレッドになる!』





 そして現在。


「地獄より召喚せし邪炎……正義も悪も、白も黒も関係なく灰塵と化すその力にひれ伏せ」

「な、なんだあの邪悪な炎は!? それにこの圧倒的に悍ましい波動……。まさかあれは破限魔術師か!?」

「カ、カズキ……? 遂に壊れて……?」


 御剣とフェノンが驚いた顔で俺を見ている。なりきる事で強くなる。この世界のイカレた法則を全力で体現している今の俺の姿、闇夜に紛れる邪炎の執行人としての姿を。

 物理室で見かけたカーテンをマントの様に羽織り、家庭科室で見つけた裁断バサミで一部を切ってマフラー代わりに。腕の鎖も何かの実験に使う為か物理室にあった物。そして両腕の紋様はいかにもそれっぽい紋様を書いたのだ……油性ペンで。もう一度言おう、油性ペンだ。さっきまでのチャチで消えやすいボードマーカーでは無い。油性ペンでだ!

 そして額にも俺は書き込んだ。油性ペンで。消えにくいそれで。強く、しっかりと、太く書き記した。そう、第三の眼……邪炎眼を。油性ペンでぇ!

 まさしく今の俺の姿は闇夜に紛れる邪炎の執行人。それは御剣凍耶と同じく、俺が中学生の事に書いたもう一つの妄想小説。幼くして両親を殺された悲劇の主人公、相獄黒曜(そうごくこくよう)が両親が残した魔導書から邪炎王の事を知り契約を交わす。そして邪炎王の力を得た黒曜はその力を持って復讐を行っていくのだ。しかし日頃は正体を隠し何食わぬ顔で学園に通っており、必要に応じて闇夜に紛れる邪炎の執行人となり刑を執行するのだ! はははは、殺せー!?


「行くぞ――その罪と罰その身にとくと味わえ」


 おとうさん、お宅の息子は今立派に地獄の炎使いやってます。






「だ、だが賢い選択とは言えないな破限魔術師!」


 あれ? なんか御剣の雰囲気がさっきと何か違う。さっきはいけ好かないニヒルなガキだったのに今はどこかの三下の様な雰囲気だ。けど今はどうでもいいや。それより一秒でも早くこの姿から抜け出す為にもコイツを倒すべきだろう。俺の精神の為に。

 そんな俺の思いを余所に、御剣が指を鳴らす。すると先ほどまでは仲間(という設定だった)筈の覆面テロリストたちがあちこちから現れた。ある者は俺の足下の屋上の扉から。あるものは俺の開けた穴から。まるで飛び出す様にぞろぞろと現れてくる。


「アクション!」


 アクションて。御剣が再びぱちんと指を鳴らすが全然意味がわからない。だが変化はあった。三下っぽかった御剣の雰囲気が変わり例のいけ好かない少年のそれに戻る。いけ好かないって言っても俺が創ったんだけどね! はは、死ね!


「来たなテロリスト共。俺の学園で好き勝手やった落とし前、つけてもらおうか」

「お前らにだけには言われたかねえええええええええ!?」


 俺は涙を振り切りつつ腕を振るう。今の俺のなりきっている闇夜に紛れる邪炎の執行人こと相獄黒曜、格好はともかく利点はある。呪文詠唱が必要ないキャラなのだ。

 振るった俺の右腕から黒い炎が放たれる。御剣はそれを背後に跳んで難なく躱したが覆面達は一歩遅れた。炎に包まれた覆面達が泡を食って逃げ惑う。


「ぐおおおおお!? 貴様! 我らを裏切るつもりか!?」

「外道め!」

「やかましいわ!」


 元は市民か兵士のどちらかで本来なら味方なのかもしれないが今は関係ない。どれだけ役になりきっていようとも俺の敵である事には変わりない。だから容赦なく邪炎をぶち込む。ただし、少し控えめだが。それでも覆面達は次々と倒れていく。


「仲間すらその手にかけるか、外道だな!」

「うるせえ! どこまでも人の精神抉ってきやがって!」


 御剣は銃を撃ってきた。だが今の俺にそれは通じない。何故なら周囲を渦巻く邪炎が銃弾を焼き尽くすからだ。ヤケクソになった俺は強い。その度に何かを失っているがそれは極力考えない!


「黒の三番―――獄鎖炎縛陣(ごくさえんばくじん)


 俺は雰囲気だけが先行する呪文を唱えつつ、腕に巻いた鎖を振り解いた。その鎖に邪炎が纏いまるで蛇の様なしなりを見せて御剣に襲い掛かる。


「御剣流体術、緑塵裂破(りょくじんれっぱ)!」


 御剣の両腕が何やら光り、そして繰り出された掌底が空を切り裂き俺の放った鎖を打ち払う。何あれずるい。


「ふん、御剣流は古来は都に蔓延る妖怪共を討ち払ったとも言われている。そんな炎を恐れはしない」

「そういえばそんな設定もあったなあ…………」


 もうなんでもアリじゃねえか。俺は過去の自分の節操の無さに涙した。


「隙だらけだな!」

「やっべ!?」


 そんな俺の放心の隙に御剣がこちらに肉薄する。屋上を蹴り、給水塔の壁を駆けあがってきた。ちょっとカッコイイだなんて思ってない。思ってないんだからね!


「白塵掌!」

「黒の二番――炎獄壁!」


 咄嗟に呪文を唱え炎の壁でそれを防ぎつつ、俺は給水塔から飛び降りた。おかしい、俺だってチート化してる筈なのに御剣の方が強い気がする。それはつまりなりきりっぷりが足りないと言う事か? これ以上まだ俺に苦しめと言うのか!?


「油断するな、カズキ!」


 フェノンの声にはっ、として振り向くとまだ倒れていなかった覆面達が自動小銃の銃口を俺に向けていた。


「裏切り者め!」

「ぬおおおおおお!?」


 一斉に放たれる銃弾。幸いと炎に守られている為にダメージは無いが正直ビビった。だいたい何だよ裏切り者って。設定上は裏切るのはリーダーの筈だろ? 

 けどよく考えたらここは敵の作りだした都合のいい世界なのだ。そんな設定抵当に改編されているのかもしれない。しかしだとすると何で俺には影響がないんだ? やっぱ創造主には逆らえないっていう厨二的な設定があったのか? 


「よそ見とは余裕だな!」


 頭上からの声。見上げれば踵落しの態勢で給水塔から御剣が落ちてきていた。まずい、避けられない。俺は咄嗟に両腕を交差しそれを受け止めた。だが腕にかかる衝撃と激痛は現代社会のインテリ派な俺には耐え難いものだった。


「痛ってええええええ!?」


 思わず悲鳴を上げつつ適当に炎をばら撒いて牽制しつつ後退する。なにコレマジで痛いんですけど。というか右腕からゴキッって音がしたんですけどなんか本気で痛いんですけど!


「カズキ!」


 フェノンの声。痛みに涙目になりつつも振り向いて俺は少し顔を曇らせた。ここに来たときに気づいては居たが今のフェノンは縛られているうえに肩から血を流しているのだ。それに顔色もあまり良くない。


「痛そうだなあ……」


 ああ、本当に。痛そうだ。現在進行形の俺の恰好の痛さじゃなくって現実的な痛さだ。それを見てなんだか頭が冷えてきた。恥ずかしいのなんだの言ったって結局それは現実的なそれとは違うのだ。そしてその痛みを相棒が――この世界で何時も一緒に居てくれている相棒が味わっている。だったら俺の痛みなんて、たいしたことじゃないじゃないか。


「もう終わりだな。お前らの企みも」


 御剣がゆっくりとこちらに近づいてくる。その背後には覆面達。冷静になってきた頭でその光景を見て、俺は今度こそ本当に覚悟を決めた。


「一つ、良い事を教えてやる」


 右腕を庇いながらゆっくりと立ち上がる。


「あれは中一の頃だ。当時の俺は二刀流に憧れて真似しようとした事がある」

「何?」

「カズキ?」

「新聞紙を丸めて剣代わりにだなんてチャチな真似じゃない。掃除の時間のモップを使って、加藤と一緒に二刀流の練習をしては女子にチクられ先生に怒られた。そして罰として居残り掃除をさせられても俺達は懲りずに続けた」

「いや、そもそも加藤って誰だ」

「俺達は努力した。あらゆる方法を考え、修行と称して飯だって両手を使って食べたし、体育の授業で剣道の時が当然の如く竹刀を両手に先生に挑み、そしてボロ雑巾にされた」

「先生もお気の毒に……」

「そして努力を続けた俺と加藤は卒業式の日、ついにそれをマスターした。そして誓い合ったんだ。この力はいざと言う時に使おうと」

「三年間もやってたのか……!?」

「友と誓い合ったその力。解放したのは高校一年の時、スポーツ大会で卓球にエントリーした俺は封印せし左手を開放し周囲を驚かしそして勝利した! その力、お前らにも見せてやる!」

「いざと言う時という話はどこに行った!?」


 時節入るフェノンのツッコミを無視して俺は封印されし左腕を天高く掲げた! そしてその手に握るのは魔銃、デザートイーグル・ヘルカスタム! 何を隠そう、このデザートイーグル・ヘルカスタムこそが闇夜に紛れる邪炎の執行人の武器として設定された物なのだから! そして闇夜に紛れる邪炎の執行人は―――左利きだ!


「ふん、たかが拳銃に何が出来るんだ? いい加減諦めろ、テロリスト!」


 小馬鹿にした様に笑う御剣。それに対して俺はニヒルな笑みを浮かべて銃口を向けた。


「もう二つ、言いたいことがあった。これは相獄黒曜としてじゃなくてハヤシ・カズキとしての意見だ」


 俺の周囲を渦巻く炎が勢いを増していく。額の第三の眼が黒い光を放ち、両腕に書き込まれた雰囲気紋様からも光と炎が溢れだす。そしてそれらの炎と光はデザートイーグル・ヘルカスタムに収束していく。


「一つ、『学園黙示録・ガンメタルブレイブ』を再現するにはお前らは俺達に拘り過ぎた」

「何……? 何の話―――」

「あの作品を本気で再現するならもっと女子を出すべきだった。保健室で寝ていて難を逃れた不良女子とか先生に用事を頼まれて荷物を運んでいた図書委員の眼鏡委員長とか。テロリストの中にもボンキュッボンなビッチ女とかだ。それが無いからお前らの世界は完璧じゃ無かった。だからこそ俺には効かなかったんだ。なぜなら全体的にむさ苦しかったから!」


 俺が考えた世界なら。俺のもってるイメージの方が強いに決まっている。何も知らない市民や兵士達は『そういう世界だ』という認識を埋め込まれてそのまま役に従う様にされたが、俺はこの世界が本来の『学園黙示録・ガンメタルブレイブ』の世界とは『なんか違う』と言う事に心の底で気づいていたんだ。だから効かなかった。そしてフェノンも俺と同調した事があるから効果が薄かったに違いない。逆に言うならもし本当に不良娘とか眼鏡委員長とか出て来たら騙された自信があります。ええ、そりゃもう。


「そしてもう一つ。こっちの方が重要だけどさ」


 収束していく炎が愈々い唸りと轟音を撒きらす。段々と顔色が悪くなってきた御剣に、俺はずっと思っていた事を吐きだした。


「人の相棒に何してくれとんじゃああああああああああああああああ!」


 俺は絶叫と共に引き金を引く。そのあとに訪れるであろう反動の痛みを知った上でだ。

 そして放たれた闇夜に紛れる邪炎の執行人の必殺の術。黒の九九番――邪炎獄刑砲が放たれた。それは邪炎を極限まで収束した全てを灰塵と化しその灰すらも地獄へ送り届け永久に苦しませると言う何とも中学生が考えそうだがえげつない術である。銃口から放たれたそれは俺の目の前の視界を覆う程の太さを見せ御剣に回避する隙さえ与えない程の速度で御剣を飲みこんでいく。


「があああああああああああああ!?」


 何ともいい声を上げて御剣が悲鳴を上げるがその声もやがて聞こえなくなっていった。そして凄まじい勢いで放たれたその一撃は屋上にも爪痕を残す。俺を起点に前方の空間は見ごろに焼け爛れ、今も余波である炎があちこちで上がっている。屋上の扉があった給水塔はもはや影も形も無い。代わりにあるのは文字通り黒こげになった御剣の姿だ。そしてその姿が変化しない事で俺は確信した。あいつこそ法魔四天王シルフェル配下の魔盾七塵将カビル直下の幻魔三魔人の一人に違いない。何故分かったかと言うと。この世界で強制的に役を与えられている奴は、倒れるとゼロスみたいに姿が変わるからだ。事実、余波に巻き込まれ倒れた覆面達も兵士の姿に変わっていた。


「さて……」


 俺は努めて冷静にそれを確認するとうんと頷き、


「痛ってええええええええええええええええええええええええ!? 死ぬ!? この痛みはマジで死ぬぅぅぅぅぅ!?」


 御剣の蹴りと今の銃撃の反動で凄まじい痛みを主張する両腕を抱えて大声で悲鳴を上げた。


「全く、馬鹿者が」


 呆れていて、それでいてどこか嬉しそうな声のフェノンの声が聞こえると同時、術者が倒れたせいで制御を失ったこの世界が崩れていった。


何がツライかってルビふるたびに何やってんだ俺感が


敵は何気にまだ一人残ってます


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