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キリが良いので少し短め
「さて……」
飛び出してきてきたは良いが俺は大層困っていた。敵や捕らわれた人を探せと言われても学校はそれなりに広いのだ。それにあちこちに覆面テロリストがうろついている。一応仲間と言う事になっているらしいが安心は出来ない。あくまでここは敵の術中なのだから、いつ裏切られてもおかしくないだろう。味方はフェノンだけと思うべきだ。
じゃあどこに行こう? とりあえず人が隠れていそうなところと言えば教室だろうか? あとはトイレとか。
とりあえず止まっていは何も始まらない。御剣や、他の覆面達に見つからない様に慎重に周囲を確認しつつ俺は進んでいく。
「フェノンは大丈夫なのかね」
先程は思わず勢いで出てしまったが彼女の方が危険なのは確実だ。囮として何をするのかは分からないが、ああいうからには目立つことをするのだろう。故に心配である。
だからこそもし隠れている敵がいるなら早急に見つけ出してこの世界から抜け出さなければなら無い。フェノンの為にも、そして俺の為にも!
そんな事を考えつつ歩いていた時だ。不意に前方の教室の扉が開いた。
「ったくトーヤの奴。面倒なことを任せるなあ」
「げ……」
思わず足を止めた俺の前に現れたのは眼鏡をかけた少年だ。この学園の制服を着ているそいつは髪が伸びっぱなしのボサボサであり、非常に野暮ったい。制服もヨレヨレである。だがそいつは確かな足取りで俺の前に立ちはだかった。
「まあ、親友の頼みとあっちゃ断れないんだよね、僕」
「い、いつか出てくるかと思ってたけど想像以上に早かった……!」
このタイミングで出てきたのだ。それによく見ればこいつが出てきたのは情報処理室。つまりはパソコンのある部屋だ。つまりこいつは……
「ウィザード級のハッカー……嶽洞院兼介」
「おや? 僕の事を知っている様だね? なら自己紹介は無しだ。君はここで眠ってもらうよ!」
そう言うと嶽洞院はポケットからスマホを取り出し、軽くタップした。その瞬間、いきなり俺の真上に設置されていたスプリンクラー作動し、水が撒き散らされた。
「冷たっ!?」
「それは序の口さ!」
嶽洞院が更にスマホの画面上に指を滑らせる。すると今度は廊下の角を勢いよく曲がって機械仕掛けのポリバケツ―――最新式全自動掃除機達が現れた! ってちょっと待て!
「待てコラぁ!? そんなハイテク装備俺の学校には無かったぞ!?」
「何を言っているのかな? ここは最新鋭の設備がふんだんに詰め込まれた私立崑崙学園だと言う事を忘れたのかな!」
忘れてました! そうえいばそんな設定でした俺の馬鹿! あと日本なのに崑崙学園とかもう馬鹿っぽいとしかいいようが無い!
「だ、だけどたかがルンバの進化系に過ぎないんだよバーカ! そんなもんにやられる訳無―――」
「それはどうかな? α1行け!」
α1って……。そんな俺の思いを余所に命令を受けた全自動掃除機軍団が洒落になら無いスピードで突っ込んできた! 慌てて俺は直ぐ近くの扉から情報処理室の中に跳び込む。
紙一重の差で俺の横を横切っていった全自動掃除機軍団は目標を見失い壁にぶつかると凄まじい轟音と撒き散らして大破した。何あれ……? 俺あんなエキサイティングな掃除機知らないですけど。
「危ねえ!? 何だよアレ!? 何を掃除する気だよ!? つーか唯の掃除機じゃねえのかよ!」
「簡単さ。僕が少し改造したのさ。僕はエンジニアの資格も持っているからね。後はプログラムを弄ればこんなもんさ」
「簡単じゃねえよ! つーか適当過ぎるだろその設定!? ウィザードとかエンジニアとかそれっぽい単語並べれば許されると思ってんのか!? …………思ってましたすいません!」
誰か、誰かタイムマシンをくれ。それがあるなら間違いなく俺は過去の自分を説教しに行くから! いい加減整合性とか理屈らしい理屈とかそう言う物を覚えろ過去の俺!
「まだまだ行くよ!」
嶽洞院が更にスマホに指を滑らせると、情報処理室の各机に設置されていたデスクトップPCが一斉に起動した。そして直ぐにそれはスパークを始めると爆発し始めた! って、
「絶対おかしいだろこれはぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
ウィザード級って言うかもう完全に唯の魔術師じゃん! どういう理屈なんだよコレは!?
「それは僕がウィザード級だからだ」
「うるせぇぇぇぇぇぇぇ!」
涙目で過去の自分と目の前の嶽洞院を呪いつつ、俺は次々と爆発していくパソコン間を走り抜け命からがら情報処理室から飛び出した。もうやだ、理屈もクソも無さすぎる! そしてそれを考えたの自分自身だと言う事実にガチで死にたくなってくる! これ以上は耐えられん! 俺は涙に濡れる目を拭い嶽洞院を睨みつける
「クソがぁぁぁもうキレたぞ! キレたからな!? まとめて消し炭にしてやらぁぁ!! 覚悟しやがれインテリ野郎!」
「行け、β1、γ3、θ2」
どこからか湧いてきた例の全自動掃除機が再び迫ってくる。対して俺は自分でもすっかり忘れていた腰から下げていた自動小銃を手に取るとその銃口を全自動掃除機に向け引き金を引く。……あれ?
「弾が出ない!?」
よくよく考えれば当然だ。何故かテロリスト役にされているがこの世界を創りだした幻魔三魔人からすれば俺達は敵なのだ。敵に態々武器を渡す馬鹿はいない。
「あ」
そしてそんな思考が隙となった。俺は勢いよく迫る全自動掃除機の突撃を避けることが出来ずその直撃を受けてしまった。全身に走る激痛と、痛みに息が止まる。俺の体はまるで蹴られたボールのように宙に飛ばされ、そして数メートルは飛んだかと思うと、その先にあった扉をぶち破り部屋の中へと転がっていった。
「痛ってぇぇぇぇぇ!?」
痛い、苦しい、泣きたい。つーか泣いてる。幸い血を吐いたとかそういう事は無いが痛いものは痛い。そのせいでどんどん気分が沈んでいく。
なんで俺こんな事になってんの? いきなり変な世界に連れてこられたかと思ったら絶え間なく精神攻撃受け続けて挙句の果てがこれだよ? もうちょっと世界は優しくても良いんじゃないか? 俺が何したってんだ。
駄目だ、痛みのせいでどんどんネガティブになっている。だけど元々俺は唯の現代っ子。そもそもこんな戦いに向いてるとは思えないんだ。そういう思いだからこそそれを妄想にぶつけていた訳だし。自分が出来ない事や届かない事を夢想する。それが妄想ってもんだろ?
「ここまでだね。トーヤから殺しはするなって言われてるから大人しく来てもらうよ」
嶽洞院が笑いながら静かに歩み寄ってくる。ああ、腹が立つのにもうどうにも力が出ない。ゼロス達の時のように心が折れかけているのだ。それも今回は肉体の痛みも合わさっているから尚更辛い。
「君を捕まえたらもう一人の女の方もだね。まったく、同じ学園生なのにテロリストに協力するなんて信じられてないよ」
ああ、そういう設定だったのか。そう言えばそんなキャラも書いていた気がする。そのキャラは確か途中で……そうだ、殺されるんだった。つまりそれが俺らか。けどこいつらの目的は俺を捕らえる事だし殺される心配は―――
『カズキ』
―――――いやちょっと待て。確かに俺は捕まったら過去の黒歴史翻訳と言うある意味精神崩壊ものの拷問を受ける。だけど一応生かされるのだろう。けど、
『ほら、カズキ。今日も来てやったぞ』
『お前の世界は中々面白いな』
『全く……馬鹿が』
脳裏に浮かぶ相棒の声。フェノンはどうなるんだ? あいつの命の保証が無いじゃないか。それってつまり…………殺される? それは、それは幾らなんでも、
「嫌だなあ……」
「何?」
痛む体をなけなしの根性で支える。腹を押さえながらもゆっくりと俺は起きあがった。そうだ、俺はこんな所で負ける訳にはいかない。俺には。俺には大切な、何よりも大切な目的があるんだ。
震えながら、床に手を付き体を支える俺の視界にある物が写った。それはホワイトボードマーカー。俺が扉ぶち破って転がり込んだこの教室の備品だろう。それを見て、そして今までの事を思い出して俺はふとある事に気づく。
「理屈じゃない……つまり……」
出来るかどうか分からない。だが確信めいたものがある。それを信じて俺はサインペンを掴み、そして立ち上がった。
「俺はまだ、やられる訳にはいかない」
「へえ? それでどうするのかな?」
きっと魔術は詠唱中に潰される。体術はからっきし。フェノンみたいに魔法陣を覚えているわけでも無い。腰に差したままのデザートイーグル・ヘルカスタムは使えたもんじゃない。ならば、ならばもうこれしかない。
「俺は、俺の夢を果たすまでお前らに捕まる訳にはいかない。だからこそ……」
マーカーのキャップを開け、そして俺はある場所にある物を書いた。それを行うのは耐え難い苦痛と葛藤が伴ったが、俺は夢の為にそれらに耐えそして書ききった。
「俺は……戦う!」
瞬間だ。俺の周囲の大気が渦巻き、そして黒い炎が巻きあがった。
「な、なんだと!?」
嶽洞院が目を見開き後ずさる。それほどまでに俺の姿が衝撃的なのだろう。それがおかしくてつい笑ってしまう。肩が震え、心の奥底から湧き上ってくる激しい感情が俺の中を燃え上がらせる。
「そうだ、俺は戦う。戦って、勝利してそして―――」
左腕をかざし、宣言する!
「必ずフェノンの胸を揉みしだく! その為なら自ら痛い子にだってなってやらぁぁぁぁぁ!」
「は?」
絶叫しつつ俺は走り出す! そしてそんな俺の額でたった今ホワイトボートマーカーで書き込んだある図形が炎を上げる! そう、その図形とは…………眼。
俺の予想は合っていた。この世界では俺の黒歴史ノートを再現すればするほど強くなる。つまり、額にそれを書き記した俺は地獄の底から湧きあがる黒き炎を操る戦士となる!
「邪炎王の力を力を舐めんなよコラァァァ!?」
ハヤシ・カズキ、19歳。第三の眼、開眼しました。
自ら全力で痛い子になった俺は溢れる羞恥心を力に変えて嶽洞院へと襲い掛かった。
だけどどうしてだろう? 涙が溢れて止まらないや。
俺の脳裏では故郷の母が俺の額を見て呆れる姿が浮かんでいた。やめて、そんな目で見ないで!
小学校の時、額に第三の眼開眼して帰ったら母親に叱られました