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俺の黒歴史ノートが異世界で魔導書になっていました:連載版  作者: きり
第2章 平和な学園に落ちる影! 学園テロリスト編
6/30

2-3

 昔、魔法だとか魔術だとかそう言う物に憧れた。そして憧れのままに友人とその話で盛り上がったり某有名ドラまた魔導師の呪文詠唱を暗記したり友人とオリジナル魔法とか考えたりした。けどそれは小学生の頃の話だ。

 中学生……それも小学生気分が抜けてくる二年生くらいになってくると流石にそれを堂々とやるのは恥ずかしくなってきたりするものだ。思春期特有のカッコつけというのだろうか? 表向きは『はっ、そんなもん卒業したぜ』的な雰囲気を醸し出しちょっと硬派な俺を演じつつ、その裏ではこっそり楽しむのだ。勿論人によりタイミングはバラバラかもしれないが、きっとそんな人間は多いだろう。少なくとも俺はそうだった。

 だから学校で読む本もファン○ジア文庫とは別にダミーのト○・クランシーとか持って行って、『何読んでるの?』と聞かれたときに咄嗟に入れ替えて『これ読んでる俺君ちょっとすごい』みたいな事やってた。馬鹿か俺。そこまでして学校でラノベ読みたかったか俺。しかもト○・クランシーって結局そういう系統なのか俺!

 そんな俺の痛々しい中学生時代だったが小学生の頃とは違い、よりリアル思考に近づく様にはなっていた。いやまあ魔術とか言ってる時点でリアルもクソも無いのだが、所謂『現実的なカッコよさ』に憧れるのだ。そしてそんな憧れを満たすのに尤も簡単な要素が一つあった。

 それが銃だったのだ。


「その結果がご覧の有様だよ!」

「開き直るな!?」


 御剣が階段を駆け下りてくる。思わずビビる俺をフェノンが庇う様に前に出た。


「カズキ! 私が時間を稼ぐから魔術を使え!」

「いやけどここでそんなもんやったら校舎が崩れるんじゃ……」

「言ってる場合か!」


 ごもっとも。

 本当なら前衛と後衛は逆な気がしたが俺に接近戦なんてまともにできません。フェノンもそれを知っているので前に出たのだろう。なら今はフェノンを壁にして魔術を使うしかない。……情けないとか思わないもん!


「男の癖に女の影に隠れるのか。情けない奴だな」

「うるせえ! 現代っ子のモヤシっぷり舐めんな!」


 自分の創り出したキャラに痛い所を突かれるという二重の苦しみに涙目になりつつ俺は詠唱を開始した。


「閃天交差し我放つ――」

「遅い」


 駆け下りてきた御剣とフェノンがぶつかりあう。フェノンは咄嗟に掌打を繰り出した様だが、御剣はそれをいともたやすく裁くと腰だめに拳を構え、


「御剣流体術、白塵掌!」

「くっ!?」

「死を具現する破竜の―――ってうおおお!?」


フェノンの腹部にそれを叩き込んだ。咄嗟にフェノンもガードした様だったが、馬鹿みたいな威力のそれによりフェノンがこちらに吹き飛ばされてきた。咄嗟に詠唱を中止してフェノンを受け止める。


「くっ、なんだあの力は……。そして相変わらずの雰囲気技名は」

「すんません、ほんとすんません!」


 ええそうですよ俺が考えたオリ古武術のオリ技です。ああ、頭が痛い!


「その程度か?」


 そして御剣はいかにも『やれやれ』と言った様子でこちらを見下ろしている。どうしよう、あいつ殴りたい。


「こうなったらカズキ、お前の出番だ。お前が記憶しているオリ武術で対抗してみろ。肉体への反動と筋肉痛は心配するな。後で笑ってやる」

「さも当然の様に何言ってるんですかねえ!?」


 フェノンは相変わらずの平常運転だった。だが今の様子だと魔術を使おうとしてもまた邪魔される気がする。だったら俺より詠唱が早いフェノンに任せるべきなのだろうがそうなると俺があいつ相手に時間を稼がなくてはいけない訳で。 


「少し時間を稼ぐだけでいい。私に考えがある」

「マジで? 信じるよ? 俺マジで信じるよ?」

「当然だ」


 ふっ、とフェノンが笑う。それに頼もしさと若干の不安を感じつつ俺は仕方なしに前に出た。


「へえ? 今度はアンタがやるんだ」

「……何でゼロスと言い、コイツと言い……! 向かい合うと尚更頭が痛くなる……っ!」


 斜に構えてるのがカッコイイと思ってたのだろうか。思ってたんだろうなあ……。


「来な、相手になってやるよ」

「だああああああ、もう喋んなお前! お前が何か言う度に死にたくなるんだよこん畜生ぉぉぉぉぉぉ!?」


 もう自棄だ。俺は御剣に向かって飛び出しつつ、必死になって思い出した今の自分でもできそうな技を繰り出す!


「喰らえ、極めし二重の一撃!」


 俺の両手が怪しげに光る。そしてその拳を御剣に向けて振りかぶり、


「御剣流体術、黒塵蹴!」

「げふっ!?」


 あっさりと返り討ちにされた。

 さっきのフェノンと同じく吹っ飛ばされた俺はフェノンの近くまで転がっていく。そんな俺をフェノンが呆れた様に見下ろしていた。


「おい、何だ今の無駄に手だけは光っていたけどそれ以外はどうにもならないへっぴり腰のパクリくさいパンチは」

「ぱ、パンチだけならいけるかなって……」


 当然の様に駄目だったけど俺頑張ったよ? 魔術の時よりは大分羞恥心捨てて頑張ったよ? けど何でだろう、慣れれば慣れる程何か大切なものを失ってる気がするのは。


「だがよくやった。時間は稼げた」

「……そいやお前何やってたの? 呪文詠唱もしてないし」


 てっきり俺を肉壁にして呪文詠唱すると思ってたんだが。……当然の様に自分が肉壁になる事を受け入れていた自分が怖い。


「一撃で仕留められるとは限らなかったからな。だから時間稼ぎの方法を考えた」


 そうしてフェノンが足元を示す。何だ? いつの間にか変な魔法陣の様なものが……ってちょっと待て!?


「カズキの妄想魔術シリーズの一つであろう召喚魔術によって出でよ、カズキが設定した死の迷宮を守護するカズキが妄想した無駄に刺々しい形状のカズキが創り出した堅牢なる巨人! ゴーレムよ!」

「いちいち人の名前入れてんじゃねええええええええええええ!?」


 俺の叫びも空しく、光る魔法陣から深い茶色で無駄に刺々しい巨人が現れた。しかもその表面には相変わらずの雰囲気言語が刻まれている。それが重々しく光るたびに俺はその場に崩れ落ちそうになるのを咄嗟に堪えた。


「なんだコイツは!?」


 流石に御剣も驚いている。そんな奴を尻目にフェノンが俺の襟首を掴んだ。


「今の内に撤退するぞ。カズキが設定した死の迷宮を守護するカズキが妄想した無駄に刺々しい形状のカズキが創り出した堅牢なる巨人であるゴーレムよが時間を稼いているうちに!」

「お前はっ! ほんっっっとうにお前って奴はぁぁぁぁぁっぁ!」


 襟首を掴まれ引きずられている中、俺の呪詛の声とフェノンが呼び出したゴーレムが動き出す音が廊下に響いていた。




「ここまでくれば時間は稼げるだろう」

「つ、疲れた……」


 あれから俺達はゴーレムが時間を稼いでいる内に1階まで逃げてきた。今は家庭科室の隣にある準備室で息を顰めている。


「つーかフェノン、お前よくあんなの覚えてたな……。創った俺でさえあの魔法陣の形とかまったく覚えて無かったのに」

「大前の黒歴史ノートは数ページは分散していると言っただろう。その内の1枚を見た事があったのでな」


 見た頃あるってそんだけで覚えてのかよ……。魔女だのなんだの言われてるだけあるって事かー。


「それよりカズキ、いい加減この状況を説明しろ。そろそろ検討は付いているのだろな?」

「う……」


 フェノンの睨みに俺は思わず声を漏らす。確かに心当たりはある。当初は気づかなかったが御剣の登場により思い出したのだ。


「多分、法魔四天王シルフェル配下の魔盾七塵将カビル直下の幻魔三魔人じゃないかなーと……」

「…………またそれか。というか剣や弓ならまだしもメイン盾な将軍が七人いるのは軍としてどうなんだ?」


 言わないで! それは俺も思ってたから! 


「それで結局どういうことなのだ?」

「えーとですね、その幻魔三魔人の魔術で《魅幻陣》ってのがあるもんで。内容的には三人が創り出した幻影世界に対象を引きずり込んでその世界の『役』にするっていう感じの術なんだけど……」

「成程。その幻影世界に選ばれたのがお前がせっせと書き溜めた妄想小説でありさっきの奴がその当時のお前の憧れを自己投影した主人公と言う事でありそれをまたしても誰かがコスプレ実演していると言う事か…………凄まじいな」

「言うなあああああああああああああああ!?」


 おかしいな? 目から汗が止まらないよジャイアン。


「しかし……ふむ、そうだな。おい、カズキ。泣いていないで質問に答えろ」

「な、何? これ以上虐めないでくれると嬉しいなって」

「気持ち悪いからその喋り方は止めろ。それよりお前のその妄想小説だとあの主人公以外の主要人物は誰だ?」

「へ? そ、そりゃやっぱりヒロインのツンデレ幼馴染とか悪友でウィザード級の腕前を持つハッカーとか、主人公を目の敵にしてるけど実はその奔放な生き方に憧れている生徒会長とか……とか……とかっ……!」


 何故だ。自分が作った設定なのにこれほどムカついてくるのは。何なんだこのリア充は。爆ぜろ、爆ぜてしまえ! どうしてお前の役が俺に周ってこなかった! 中学高校とそれなりに楽しかったけど彼女と登下校とか生徒会長とハプニングドッキリとか全く無かったぞ! だって生徒会長男だったし!


「よし殺そう」

「またしても思考がダークサイドに堕ちてるがまあいい。街中に人が居なかったり兵士達が姿を消したのはおそらく私達同様この世界に捕らえられたからだろう。恐らくはあの生徒達か……。しかし、ふむ……そうだな」

「ど、どうしたフェノン。なんだかすごい悪い顔をしてるんだが」


 目の前のフェノンはその美しい顔にどこか黒い笑みを浮かべて何かを考えている様なのだがちょっと怖い。普通に笑えばとても可愛いのに今は完全に悪人の顔だ。もったいないなー。


「一つ、思いついた。上手くいけば状況を一気に瓦解できる。カズキ、その《魅幻陣》とやらの解除方法はあるのか?」

「一応は。要は幻魔三魔人を倒せばいけるけど」

「ほう。例えば魔術でこの学園を吹き飛ばすのはどうだ?」

「どうだろ……流石にそんな状況までは設定して無かったからなあ。だけど校舎内に取り込まれた人たちが居たら巻き添えで不味いかも……」


 フェノンの言う通りあの生徒達が取り込まれた市民や兵士達だったとして、それで全部とは限らないのだ。そんな俺の言葉にフェノンは小さく頷くと立ち上がった。


「ならばまずはそいつらを探すぞ。私が囮になってやる。だからお前は校舎内を捜索しろ。ここの校舎はお前の学校そのものなんだろう? ならばお前の方が適任だ」

「え、マジで? というか囮って何だよ。いくら俺でも流石にそれは止めるぞ」

「その三魔人とやらが生徒や覆面の中に紛れている可能性もあるのだ。だから私はそちらを調べる。お前は他に取り込まれた奴が居ないか確認しつつ、敵を探せ」


 いや確かにそれはわかるけどさ……。囮っていう事は危険な方じゃん。それを任せると言うのはちょっと。それに一人ってのは流石に不安過ぎるんだが……。

 だが俺のそんな葛藤を見越したかの様にフェノンはにやり、と笑った。


「どうした怖いのか? ならばゲームと行こう。敵を見つけだし先にこの《魅幻陣》を解けば勝ち。負けた方は―――」

「一つだけ言う事を聞くっていうアレか!? アレなんだな!?」


 俺は勢いよく立ち上がった! 何故だろう、力が満ちてくる!


「お、おいカズキ―――」

「よし行くぞフェノン! そして待ってろフェノン! 俺の思春期はまだ終わってねえぞ!」

「それってつまりお前の厨二病もまだ―――」

「こうはしていられない! 手早くこのクソッタレ空間から抜け出して俺はこの手で幸せを掴みとる!」


 やる気が満ち溢れてくる。俺は振り返り唖然としているフェノンに親指を立てると勢いよく部屋を飛び出した!


「…………負けた方が飯を奢ると言いたかったのだが」


 そんな言葉が背後から聞こえた気がしたがきっと幻聴だよね! おのれ幻魔三魔人め! 俺の夢を邪魔するか!


思春期>恐怖

カズキ君は平常運転です

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