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俺の黒歴史ノートが異世界で魔導書になっていました:連載版  作者: きり
第2章 平和な学園に落ちる影! 学園テロリスト編
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2-2

シリアス回? いいえ、新たな悪夢の始まりです

 フェノンに引きずられるようにしてゼロス達から逃げた……と言うかフェノンに逃がしてもらった俺は武器を買った街まで戻り、路地裏に身を潜めていた。俺の隣では額に汗を流しつつ冷たい眼でこちらを見下ろすフェノンが居てとても居心地が悪い。

因みに兵士たちはあの騒動の中逸れてしまった。直前まで何人かは傍にいたのだが気が付けば一人、また一人と分散してしまったのだ。近くには居るとは思うが……。


「正直に言うがお前にかける言葉が見つからない。とりあえず馬鹿と言えばいいか?」

「……くっ」


 因みに肩はフェノンが治療してくれました。勿論例の痛々しい呪文詠唱で。その事でフェノンの機嫌はすこぶる悪い。


「それで、肩はどうなんだ?」

「まだ少し痛いけど動かすには問題ない。いや、ほんとごめんなさい」


 流石に俺も反省した。素直にあの時魔術を使えば良かったのだ。フェノンだって本当にピンチなら手伝ってくれただろうに。


「しかしどうしようか。仲間とも逸れちまったし絶対ゼロス達俺の事探してるよな?」


 いやほんとマジでどうしようか。ぶっちゃけゼロス達三人組を相手取るだけなら俺とフェノンで何とかなる気がする。お互いの羞恥心と理性とプライドを犠牲にする必要はあるが、実際クリスとブライに関しては事実一発で仕留めた訳だし。

 ただ問題なのがここが街中と言う事だ。前回と同じ方法はやたらド派手な魔術ばかりなので絶対に周囲に影響が出る。一般市民巻き添えとか流石にそれは避けたい。俺だってそれ位の分別はある。じゃあもっと控えめの魔術を使えばいいかと言えば、そう上手くはいかない。自分でも忘れそうになるが俺は戦闘はド素人なのだ。周囲に被害を与えずにあいつらを倒すなんて方法に心当たりはない。だからこそ何時も大規模魔術で周辺丸ごと吹き飛ばしてたわけだし。

 そんな状態なのでここはやはりフェノンに頼むしかないかなーと思いつつちらりと顔を見ると何やら難しい顔で空を見上げていた。


「妙だ……人の気配が無い」

「気配?」


 なんかすごい強者っぽい事をフェノンが呟いているがぶっちゃけ俺には分かりません。ああ、だけど街中にしては少し静かすぎる気はするな。


「どうもおかしい。下手に動き回るより状況を知る必要が――」


 とフェノンが言いかけた時だ。突然周囲の空間が歪んだ。まるで上から何かに押しつぶされていくかのように世界が歪み、そして塗り替えられていく。


「何!? 今度は何!?」

「わからん……伏せろ!」


 フェノンが叫ぶと同時。俺達は眩い光に包まれた。





「痛っ……次から次へと何なんだよこれは……」


 俺はふら付きながら頭を押さえつつ周囲を見渡した。だが先程の光のせいで視界が完全に回復しておらず良く見えない。それでも、と探る様に手を動かすと何か温かいものが触れた。妙に柔らかく温かいこの感触。この展開はもしや…………!


「遂に俺はフェノンの胸を!」

「違うぞ馬鹿」


 手を思いっきり捻り上げられた。痛い痛い痛い!


「馬鹿やっていないで早く状況に気づけ。妙な雰囲気だ」

「痛たたた、何だよそれ……」


 ようやく話された手をさすりつつ、回復してきた目で周囲を見渡して、俺は硬直した。


「嘘だろ……?」


 それはありえない光景だった。確かにこの世界に来てから色々ありえないものやあって欲しく無かった現実を見てきたがこれはある意味別だ。だってこれは……


「学校……体育館か?」


 そう、それは俺の良く知る光景。日本の学校にある体育館のそれだったのだ。しかもご丁寧にブレザーを着た生徒達の姿まである。それはまさしく俺の中学時代に通っていた学校のそれである。そして俺達が立っているのはこの体育館で一番目立つ場所、檀上だ。


「学校……? そうえいばお前の記憶の中にこんなものがあったな」


 俺の記憶と一度同調しているフェノンも気づいたらしい。物珍しそうに周囲を見渡している。しかし何でいきなり学校? というかよく見るとこちらを見ている生徒達が何か怯えてるっぽいんですけど。


「それはこのせいじゃないか?」


 そう言ってひょい、とフェノンが持ち上げたのは何と自動小銃だった。


「何? っておい!? 何でお前銃なんて持ってんの!? ってか今更だけどその格好は!?」

「お前もだぞ」

「へ? ってマジだ!?」


 いつの間にか俺の足下には自動小銃が転がっていた。更に今更気づいたのだが、俺とフェノンも生徒達と同じブレザーを着ている。何時着替えたんだ俺?

それによく見ると俺とフェノンの外にも数名がこの壇上に上がっていた。上がっているのだけれど、彼らの姿は俺らとちょっと違う。


「なあフェノン。俺の眼がおかしく無ければ俺達と仲良く並んでいる皆さんがとても素敵な格好をしているのだけれど」

「奇遇だな。私も見事な強盗ルックだと感心していた所だ」


 目だし帽。手袋。そして自動小銃。これを強盗と言わずなんと呼べばいいのか。そんな格好の連中が俺達と一緒に並んでいる。何だろう、この光景にとてるもない既視感があるんだが。

 そんな俺の疑問は強盗ルックの一人が叫んだ一言で解決した。


「我々武装組織『赤い虎』! この学園は我々が占拠した!」

「諸君らには我々の崇高なる目的の為の人質となってもらう!」

「抵抗する者には死を! 制裁を!」


 どこかで聞いたことがある様な宣言と共に天井に向けて引き金が引かれた。途端に破裂音の様な銃声が響き生徒達が恐怖に揺れた。というかこれって……


「カズキ。私たちは学園を占拠した様だぞ?」

「何冷静に言っちゃってんの!?」


 気が付いたらテロリストになっていました。正直状況についていけません。

 あと胸じゃないならさっき触ったのは何だったのかが気になって状況に集中できない!


「とりあえずこんなアホな事に付き合う必要はないだろう。それよりこの状況を――」


 と、途中まで言いかけて突然フェノンの動きが止まった。あれ? 


「どうしたフェノン。口を開いたまま止まるなんてお前に似合わない間抜け面を突然するなんて」


 話しかけても返事が無い。まるで時が止まったかのようにまったく動かない。なにコレ面白い。俺は壇上にいる事も忘れてフェノンの頬をつついてみた。おお、柔らかい! 心なしか固まっているフェノンの眼つきが鋭くなった気がしたが気のせいだよねきっと!


「と、いうことはだ……」


 自然と俺の視線は下に移りフェノンの胸部に―――


「って流石にこれはないわ」


 いくらなんでも動けない女性相手にそれは変態的だろう。じゃあ動いてればいいのかって聞かれれば俺は全力で目を逸らす自信があるが。こういうのは勢いと雰囲気が大事なのだ。うん、そういう事にしておこう。

 ……………………けどちょっと位なら――――


「触ったら殺すぞ」

「わひぃ!? 急に喋るなよビビるだろうがあとごめんなさい!」


 急に動き出したフェノンにビビり俺は即座に飛び退いた。驚かせやがってこんにゃろう。


「ふん……」


 フェノンはこちらを睨みつけつつ手のひらを閉じたり開いたりとしている。何かのおまじない?


「不味いな……カズキ、お前は何ともないのか?」

「なんともないけど? どういう事?」

「突然体が動かなくなった。いや、違うな。本来しようとした事とは別に勝手に体が動こうとしていたと言うべきか……? どうにか抗おうとしたが動きを止めるだけで精一杯だった」


 ああ、それで固まっていたのか。しかし俺は何ともないんだが。


「今は大丈夫なのか?」

「ああ。お前に触れられた辺りから制御を取り戻した。……だが駄目だな。どうにも体が重い。まるで体中に何か糸の様なものを巻き付けられた様で気味が悪い」

「体中に糸……?」


 何だろう、その言葉に何かが引っかかる。何か大切な事を忘れている様な……。


「何をコソコソ話している! お前達は東棟の担当だ! 早く行け!」


 覆面リーダーが何やら叫んでいる。見れば他の覆面達もそれぞれの担当の場所へ移動を始めていた。そして何人かはここに残るらしい。というか今更だけど何で俺達だけ覆面ないの? 虐め? テロリスト間でもカーストとかやっぱあんの?


「どうするフェノン。流石にちょっとまずくね?」

「確かにな。私が上手く動けない以上、下手に動けばあの覆面連中が一斉に敵になった時カズキ一人で相手する事になる。それはそれで面白そうだがやめておいた方がいいだろう」

「一言多くありませんかねえ!?」


 けど意見には賛成だ。ぶっちゃけ俺一人であの連中相手にするとなると当然彼らも持ってる自動小銃で狙われる訳でぶっちゃけ勝てる気しません。ならばまずは奴らから離れて状況を知るべきだろう。おお、なんか真面目に戦ってるっぽくてテンション上がってきた!


 ……けどなーんか忘れてるんだよなあ?





 一応このワケわからん状況を調べる為にも俺達は大人しく従う事にした。律儀にも渡された地図を頼りにやってきた東棟はどうやら音楽室や技術室など特別教室が多い。そしてこの地図と造りを見てもやはり俺の通っていた中学と全く同じだ。

因みに覆面リーダーの話によればどうやら全校集会中だったらしいので生徒の姿は無い。じゃあこんな所見張ってどうすんだという気もするが外からの侵入者でも警戒しているのだろうか。


「しかしお前の記憶で多少は見ていたが面白い建物だな」

「そうか? 俺にとっては普通なんだけど」


 物珍しそうに周囲を見渡すフェノン。体はまだ本調子でないらしく動きにくそうにしているが、それ以上に興味が勝っている様だ。いつの間に変わっていた服装もそれなりに

気に入っている様でどこか楽しそうにも見える。あちこちに視線を彷徨わせては感心しているその姿だけ見れば美しさとどこか可愛らしさも感じる物なのだが。


「けど確かに面白かったなあ」


 こんな場所に居れば嫌でも昔の事を思い出す。友人達と馬鹿やったり部活の先輩後輩たちとアホやったりと苦い思い出も多いがそれと同じくらい楽しかったと思う。あいつら今頃何してるかなぁ。今となっては連絡は取れないが元気でやってくれていると良いんだけど。

 そんな事を考えつつ視線を巡らせていると、どこか顔を曇らせてこちらを見ているフェノンと目が合った。


「どしたの?」

「いや、なんでも無い」


 フェノンは直ぐに何時もの表情に戻ると周囲を見渡しつつ、ふむ、と頷いた。


「成程。カズキはこういう所であの黒歴史ノートをせっせと書いていたと思うと感慨深いな」

「だから一言多くありませんかねえ!?」


 こんにゃろう、ちょっと心配して損した。

 だがまあ今は思い出に浸っている訳にはいくまい。状況を把握して、対策を練らねば。俺達はいつもの応酬を交わしつつ周囲を調べるために探索に移った。

 ここに来るまでで分かった事はやはりこの学園は異常だと言う事だ。そもそも路地裏に居たのに突然ここに飛ばされたのだから異常も当たり前なのだが決定的なのは窓の外だ。


「見事に何もないよなあ」


 廊下の窓から見える外、グラウンドの向こうは真っ白な平面なのだ。これを異常と言わずなんと言う。しかし俺の心は妙に穏やかだった。それに気づいたらしいフェノンが胡乱気に尋ねてくる。


「随分と余裕だな。状況がわかっているのか?」


 む、失礼な。俺だってそれ位わかってるぞ? わかっているけど、


「ここにはヘンテコ魔術師もクサレ魔剣やら魔槍も無い。―――――――――平和だ」

「自動小銃を持ってる人間が言うセリフでは無いな」

「いやだってさ、そもそもこんな学園に自動小銃持ったテロリストってなあ? ありふれた設定すぎてどうにも緊張感……が……? ありふれ過ぎ……た……設……定?」


 あれ、ちょっと待て。今の状況を整理しろ。

 俺達はいきなり変な空間に飛ばされた。そして何故かそこで学園テロリストをやってる。ご丁寧に生徒達は全校集会中で体育館の中。故にテロリストはヒャーハーし放題。そう、ありふれた設定だ。だがありふれているからこそ足りない要素が一つあった……!


「な、なんだお前は!? ぐはぁぁぁぁぁぁぁ!?」


 俺が事実に近づきつつある中、それを待っていたかのように悲鳴が聞こえた。待て、このパターンってやっぱり……?


「上の階からか? しかしこの先は屋上だった筈じゃ……?」


 先程受け取った地図を確認してフェノンも警戒している。この特別教室が集まった東棟。俺達が今いるのは3階だがこれより上は屋上である。確か一緒に東棟の担当になった覆面テロリストの一人が屋上への階段を上がっていくのを見たが。

 そんな疑問に応える様にその階段から覆面テロリストが転げ落ちてきた。とてつもなく嫌な予感を感じつつ、恐る恐るテロリストが落ちてきた階段、その上へと視線を移し、俺は硬直した。


「やれやれ、折角いい天気だから昼寝してたっていうのに起こしやがって」


 そこにはこの学園のブレザーをきた少年が居た。軽く着崩したブレザー姿のその少年はいかにもめんどくさそうに頭をぽりぽりと掻きながら屋上へと続くドアに寄りかかっている。その瞳はいかにも面倒そうな雰囲気が溢れているがそれでいてこちらからは視線を外さないその姿。その姿に俺は戦慄してし、後ずさる。


「ふぇ、フェノン、まずい……!」

「おいどうした。あのガキが一体どうしたと言うのだ?」

「ガキとは失礼だな。けどお姉さんは綺麗だし俺の好みかな?」


 ふっ、とニヒルな笑みを浮かべる少年の言葉にフェノンが眉をしかめた。 そして俺は少年のその言葉に全身に鳥肌を立てた。これはある意味ゼロスと出会った時以上の恐怖だ。だって、だってあれは……!


「だがまああれだよな? 俺の学園で好き勝手やらせる訳にはいかないし、まあ面倒だけど相手してやるよ」


 自信に満ちた言葉。こちらを小馬鹿にするような態度。そして面倒だと言いながら結局こちらを相手取ろうとするその姿。間違いない。何故今まで気づかなかった!? ここまで状況が揃っていたら後出てくるのはアイツだって決まっていただろうがっ!


「さあ、楽しめせてくれよ?」


 少年がこちらへ向かって走り出す! もう間違いない、こいつは!


「俺の中学時代の妄想小説、『学園黙示録・ガンメタルブレイブ』の主人公! 母方の祖父の古武術を若干8歳で習得し飛び級で実はハーバード大学も卒業済みでありハワイで親父と一緒に銃を撃ちまくりその腕は五輪選手すらも超えると讃えられあらゆる武術を会得しFBIにも一目置かれ合衆国大統領とも酒を飲む仲でとある小国では救国の英雄とも呼ばれるけれども普段は面倒くさがりで成績や素行も悪いが実は誰よりも学園を愛し空を見つめるのが好きで屋上でよく昼寝をする少年、御剣凍耶だと!?」

「またそのパターンかっ!? というかお前は本当に碌なものを創らないな!?」

「俺も心底そう思う!」


 若干キレ気味のフェノンと叫び返す俺たちに、御剣凍耶が襲い掛かってきた! 


みんな大好き学園テロリスト編(棒

但し主人公テロリスト側


目指せ、心を抉るファンタジー

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