エピローグ カズキさんボーナスステージ
今日は全部で3つ投稿しているのでまだの方は5-4からどうぞ
『次は~秋葉原~秋葉原~』
「っ、おっと」
電車のアナウンスに慌てて跳び起きると俺は鞄を手に立ち上がる。それとほぼ同時に電車は停止し扉が開いた。
「眠い……」
あくびを噛み殺しながらのたのたと降りつつ携帯を確認する。そこには最近話題の通話アプリがメッセージの着信を主張していた。その相手は加藤だ。
「もうついてるのか。じゃ、いくかね」
大学の講義のテキストで微妙に思い鞄を煩わしく感じつつ目的地を目指す。そう、目的地は秋葉原駅電気街口だ。
人通りの多い改札を抜け視線を巡らせると目的の2人の姿が目に入った。あちらもこちらに気づいたのか手を振っている。
「よ、悪い待たせた」
「僕もさっき来たばかりだし問題ないよ。ってこの会話男同志でやるとキモいな」
「確かに」
俺が声をかけた相手、それは加藤である。加藤も大学帰りなので鞄を手にしているがそれ以外はラフな服装だ。そしてその加藤の隣にはもう一人、男が立っている。
「何故俺がこのような所に……」
「よう、村田。お前も相変わらずだな」
「林…………」
そう、魔王様こと村田である。
あの後、眼を覚ました村田はそれはもう錯乱状態だった。そして懲りずに俺にあーだのこーだの言ってきていたのだが、それをフェノンの蹴りが遮り再び気絶した。
そして再度目を覚ました後に、フェノンとククスさん。その部下の魔女部隊の方たちの『極めて物理的だけど大抵の人は素直な良い子になるためになるお話』によって村田が平静を取り戻した。まあもっとも、俺に負けた時点で俺にもう一度本気で喧嘩を売る気は無くなっていた様だけど。
そして俺と村田は、破限魔術師として覚醒した俺の思いつき魔術によってこの世界に戻ってくる事ができたのだ。我ながら適当な説明だが本当にそうとしか言えないのだから仕方がない。まあ俺としてもあんなに探し求めていた転送魔術がこんなにあっさり実現できた時は顔を引き攣らせたけど。
そして戻ってきた俺たちだがそこで面白いというかご都合主義な展開が待っていた。何でも、俺達が召喚された瞬間からほんの数時間しか経っていなかったのだ。もうここまで来るとご都合主義万歳だったが助かった事は事実。どうやら元々召喚された際の時間軸も微妙に違うようで、俺と村田は別々に召喚されたが村田は少し過去に飛ばされていたらしい。なので二人とも行方不明者扱いになる事も無く、無事に社会復帰できた。
いや、これは少し違う。実は村田には大きな問題が発生していた。
「そう怖い顔すんなよ。お前の為に今日は加藤も付きあわせてんだぞ」
「ふん、この俺がお前の様な奴の言葉など…………って俺は何でこんな喋り方をぉぉぉ!?」
「ははは、なんかしばらく見ないうちに村田面白いキャラになってんなあ」
頭を抱えて蹲る村田を見て加藤が笑う。うん、俺もそう思う。
「どうやら色々あった様で厨二病を患ったみたいでな。リハリビの為にも今日は秋葉原で最先端のOTAKU文化に触れさせてやろうかと」
「今更だけどこれってリハリビというかより悪化させる方向じゃないの?」
加藤のもっともな質問に俺は首を振りつつ笑顔で答えた。
「染まりきっちゃえば恥ずかしくなくなるだろ?」
「…………なんだか林の言動の端に微妙な悪意が見える気がする」
やだなぁ、別に憂さ晴らしなんてしてないよ? それに趣味が増えるのは良いことだよね!
「な、なんだと!? おい林! 貴様が手を貸してくれるというからこの俺は恥を忍んでだな……!」
「あーほらほら村田。喋り方が微妙に魔王のままだぞ。中途半端が一番いけないんだ。やるなら徹底的にな?」
「お、おのれぇ……!」
「まあ、僕は見てる分には楽しいから良いか。それより林、村田! まずはまんだ○けに行くよ。僕の娘の新しい服買いたいんだ」
「加藤、お前はお前でブレないよなあ……」
そんな事を言いつつ、俺達三人は秋葉原の町へと繰り出していく。
因みに余談ではあるが、そのまんだ○けにてネタでコスプレ衣装を買わせた事がきっかけて、村田はのちに伝説の魔王系コスプレイヤー≪カイザー・オブ・ムラタ≫としてコスプレ業界を震撼させることになるのだが、まあどうでもいい事である。
日も落ちて街灯が灯りはじめたころ、俺は自宅の最寄駅にようやく到着した。鞄は色々買ったものを押し込んでいるので行きよりも重くなっている。
「さて、晩飯はどうするか…………あれ?」
改札を出て自宅へ戻ろうとした矢先、ある光景が目に留まる。
黒い長髪ときめ細やかな肌。すらりとした体型と、その中でも存在を主張する二つの山。白と黒のワンピースを着たその女性と、その女性に話しかける男たちの姿だった。
「なあ、いいから行こうぜ? ぜってぇ楽しいからさ」
「そうそう。おねーさんめっちゃ綺麗じゃん。俺おねーさんみたいな人初めて見てさ、こう、なに? 運命って感じ」
「…………」
「まずい……」
その光景を見て俺は焦った。そして慌てて駆け寄ろうとするが、それより早くチャラ男の手が女性の肩に触れようとして、
「死ね」
それより早く放たれた女性の貫き手がチャラ男の鳩尾にめり込んだ。
「がはっ!?」
崩れ落ちるチャラ男。その姿に仲間のチャラ男が一瞬呆然とし、そして直ぐに顔を怒気で赤くした。
「なんだテメエ! 調子に乗ってると――」
「ああそうだな。調子に乗ったサルは死ね」
再びの貫き手。二人目のチャラ男も情けなく崩れ落ちた。残りの面子はあまりにも鮮やかなその手腕に口をあんぐりとあけている。
そんな光景に頭痛を感じつつ、俺はそこに近づいていくと声をかけた。
「フェノン」
「む? カズキか。早かったな」
俺の声に振り返った女性――フェノンは先ほどまでとは打って変わって小さく微笑んだ。その顔に一瞬見とれそうになるが今はそれどころではない。俺は近づいていくと聞いてみる事にする。
「何やってんだフェノン。こんな所で」
「お前がもうすぐ帰ると言っていたからな。買い物ついでに迎えに来たのだ」
確かに、フェノンの足元にはスーパーの袋が置いてある。この袋は駅前の激安スーパーの物だろう。こいつも大分順応してきたなあと思いつつ、俺は小さく頷くと袋を手に取った。
「そうか、じゃあ早く帰ろう今すぐ帰ろう。これ以上この怖い方たちが興奮しないうちにね?」
「ただのチンピラいしか見えんが。まあカズキがそういうのならいいだろう。この世界の事はカズキの方が詳しいのだから」
フェノンも頷くと俺に続こうとする。だがその光景を見ていたチャラ男達は納得がいかないと言った様子で俺の肩を掴みあげた。
「おいちょっと待てよ! まさかこんな美人のねーちゃんのツレがコイツだと!? ふざけんな!」
「なんだよコイツ、ダッセェガキじゃねえか」
「オタクくせぇ服だな。なあねーちゃん、そりゃ俺達も強引だったかもしれないけどよ、相手はちゃんと選べよ」
言われ放題だなぁ俺。だけど悲しきかな。否定できる要素はあまりないので苦笑しかできない。それに相手はこちらをビビらせようともしているようだが、あの異世界で色々やってきたせいでクソ度胸だけはついたのでたいして怖くは無かった。面倒ではあるが。
だがフェノンは気に召さなかったらしい。何かを考えるようなそぶりを見せると、肩を掴まれていた俺を強引に引き寄せ、そして腕を組んだ。
「お、おいフェノン!?」
らしくないその様子に俺も慌てるがフェノンは離さない。いや、それどころか更に密着するとにやり、と笑った。何か嫌な予感がする。
「さあカズキ帰るぞ。しかし今日は少し寒いな。風呂の準備はしてあるから帰ったら入る事にしよう――――――一緒に」
「ぶほっ!?」
思わず咽た。見ればチャラ男達も呆然としている。
「どうしたカズキ? 好きだろう? 一緒に入るのは。こないだも――」
「さあフェノンさん! 帰りましょうか!? 今すぐに可及的速やかに! ね!?」
がしっとフェノンの腕を拘束すると俺は一目散に走りだした。その背後から『嘘だろ!?』だとか『あんな奴かあんな美人と!?』だとかいうチャラ男達の悲鳴が聞こえた気がした。
それから少し走り続けて。ある程度距離を取った所で漸く俺は止まった。ゼエハアと息を切らしていると目の前にペットボトルが差し出される。
「ふむ、中々面白い反応だったな」
「フェノン……お前な……」
差し出したのは当然フェノンだ。どこにそんなもの持っていたのかと思っているとフェノンが地面に置かれたスーパーの袋を指さしていた。ああそういうことね。
「挑発してどうするんだよ……。しかもあんなこと言って」
「? 何か勘違いしていないか?」
え? と振り向いた俺の頬をフェノンの指が滑る。
「私はお前を誘惑したつもりだったが」
「っ」
妖艶な笑みを浮かべる表情に思わず肩が震えた。何このフェノンさん。乙女思考なフェノンさんはどこに行ったの!?
「何を驚いている。言っただろう、私は尽くす女だと」
「お、おう……」
その言葉に偽りは無かった。だってそうだろ? フェノンは元の世界を捨ててまで、この俺と一緒にこっちの世界に来てくれたんだから。
元の世界に戻る算段が付いた時、俺は非常に迷ったのだ。確かに戻りたい。だけどそうなればフェノンはどうするのだろうか、と。お互いの気持ちはもうわかっている。だからこその葛藤。だがそんな俺の疑問をフェノンはあっさりと切り捨てた。
『ついていくに決まっているだろう。今更一人で行くなど言ったら殺すぞ』
フェノンさん、アンタ漢だよ。いや女だけどさ。
そんな訳でフェノンは俺と一緒にこちらの世界にやってきたのだ。かれこれ3か月前の話である。
そして最大の問題は戸籍関連であったがこれは予想外の解決がされた。それはこの世界に戻った次の日の朝だ。俺は大学入学と共に一人暮らしをしている為にアパート暮らしだったのだが、そのポストに封筒が入っていた。差出人不明のそれを開けてみると、中にあったのは何とフェノンの戸籍やら何やら、必要な物がそろった書類一式。呆然とする俺達だったが、その書類の他に入っていた一枚のメモを見て俺は差出人を理解した。だってそのメモにはこう書かれていたのだ。
『楽しませてくれたお礼です』
女神様パネェ。しかもご都合主義って奴をよく理解しておられる。
そんなこんなでフェノンは生活に必要な書類や基盤をあっさり手に入れたのである。
ああそうだ。魔王軍とアテン大陸同盟とやらのその後だが。
ぶっちゃけ知らん。
それもその筈。俺とフェノンは村田を元の世界に戻し、あの魔王城あとを焼き払った後にすぐこちらに来たのだ。あの好き勝手やってくれた連中がどうなったのかは本当に知らない。だがまあククスさんとかもいるし何とかなるんじゃないかなぁと思ってる。
無責任と思われるかもしれないが知ったことではない。もとより半分強制みたいなもんだったし。
「しかしフェノン、本当に良かったのか」
「なんだ今更。その問答は決着がついただろう」
再び歩き出した俺達。家に向かう途中の商店街は人も疎らだ。元よりそんなに栄えている商店街ではないから当然と言えば当然。だがそのお蔭で腕を組んで歩いても通行人の邪魔をすることは無いのは利点だろう。
「まあ確かにお前は所々間抜けな所があるし、発想は時たまイカれている。なんだかんだ言いつつもエロスが大好きで時たま私も驚かされる。」
「…………」
だって、普段は厳しいフェノンだけどその時だけは本当に可愛らしくてこう、その……とにかくアレなんですよ!?
「だがそれを承知で私もお前に惚れたのだ。馬鹿で突拍子も無いが、やるときはしっかりやる。そんなお前にな。だから今の生活に私は満足している」
「……そっか」
そこまで言ってくれるならばもう言う事は無いだろう。俺はそんなフェノンの信頼に応えられるよう、色々頑張っていこう。具体的に何をすればいいかなんてわからない。けどいつか描いたあの妄想の様に、黒歴史ノートの内容の様に、馬鹿馬鹿しくて恥ずかしくて、時たま頭の痛くなるような人生でも最後はハッピーエンドを目指していこう。限界にぶち当たってもそれを突破するぐらいの勢いで。それこそが破限魔術師、ハヤシカズキなのだ。
「良い顔だな、カズキ」
「そうか?」
「ああ、そうだ。だからこそ、一緒にこの世界に来た甲斐があるというものだ」
いつの間にか俺の顔を覗き込んでいたフェノンが小さく笑う。そしてゆっくりと俺に顔を近づけてきて――
『次のニュースです。本日14時ごろ。五反田区にて一風変わった騒動がありました。騒動の中心に居たのは20代前半位の女性と、男達です。彼らは妙な服装……俗にいうコスプレをしたまま走り回り、意味不明な事を叫んでいたとの事です』
『怖いですねえ。けど一体何を叫んでいたのですか?』
『ここに視聴者から寄せられた携帯の動画があります。ご覧ください』
『カズ――様~ フェノ――様~ど~こ~で―――すか~!? なんか、大変な事にぃぃぃぃ~!?』
『破限――師! 魔王――破れても――我々が――!』
『…………一体どういう意味なんでしょうか?』
『わかりません。何かの催しなのかもしれませんが、本人たちが忽然の姿を消してしまったので事情聴取も出来なかったそうです』
『不思議な事ともあるんですねえ』
「…………」
「…………」
商店街の電気屋。そのショーウィンドウに飾られるTVに映るニュースに俺とフェノンは釘付けになっていた。
「な、なあフェノン…………」
「ま、まさかな…………?」
テロップには『真昼の珍騒動! コスプレ集団謎の鬼ごっこ!?』。それを見て俺と、フェノンの額に冷や汗が流れた。いやまさかそんな。大体どうやってここに? いや違う。きっとアレはただのコスプレだ。自分の名前を呼ばれた気もするけどただの聞き間違いだ。何か走っていた人物に見覚えがある気がするけど疲れてるんだ俺は。うん、そうだそうに違いない。早く帰ってフェノンと風呂入って寝よう。うんそれがいい。
「フェノン」
「……ああ」
俺達はテレビから視線を逸らすと全速力で帰宅する!
「と、ところでカズキ、ずっと気になっていたんだが」
「なんだ!?」
走りながら振り返ると、フェノンは首を傾げながら、
「法魔四天王、出てこなかったな」
「あ」
完
はい、ということでおしまいです。最後に出てきた人たちはいったい何者なんですかねぇ まあ完全に蛇足です。カズキさんの受難は終わらない。
それでもイチャイチャしてるし±ゼロってことです
そしてここまでお付き合いしていただいた方々、ありがとうございます。元々は短編だったこの作品がここまで続いたのは皆様のおかげです。
この作品で書きたかったのは黒歴史って痛いけど楽しいこともあるよね、って事です。後になって思い返すと痛々しくて悶絶するけど、それを考えていた時、書いていた時は確かに楽しかったと思うんですよ。
それを後になってから馬鹿馬鹿しい、厨二病乙ってだけで否定するのはなんか悲しいなあと。友人と一緒にドラグスレイブの詠唱覚えたり、ウルズ7に感化されて『肯定だ』とか言ってみたり二重の極みを試してみたりカズマに憧れてあの特徴的な拳の握り方真似てみたり……うん、楽しかったよ? その筈
とまあそんな感じの思いもあったりした作品でしたが完結できてよかったです。後半はコメディ要素があまり入れられなかったのが心残りですが、その分、書きたいことに費やせました。
気が向いたら番外編的なものを書くかもしれませんが完全に蛇足なのでひとまずは終了です。この後はなろうでは敷居の高いSFものでも書きたいなぁとか思いつつ、
皆さん、お付き合い頂きありがとうございました。