5-4
コメディ少な目
けどこれがやりたかった
「さあどんな世界にどんな能力を持って転生したいですか? ファンタジー世界でチート能力身に着けて奴隷を買って俺TUEEEEEハーレムですか? 生産系スキルで俺SUGEEEEEですか? ああ、正体を隠して学園に通う闇に生きるチラチラ系がいいですか? あ、ちなみに先ほども言いましたけど元の世界は駄目ですよ、ルールがあるので!」
「ちょっと待てぇぃ!」
なんだか楽しそうに好き勝手話し始めた目の前の女の話を遮ると、女はきょとん、とした顔で首を傾げた。
「どうしました? 貴方ほどの方ならこの状況にも慣れているでしょう?」
「その台詞にもツッコミどころがあるけどまず大切な事を確認したいっ」
いやね? 俺も分かっているけどさ? 一応、もしかしたら違うかもしれないし聞くべきだろう?
びしっ、と目の前の女を指さし俺は問う。
「アンタ誰だ?」
「神っぽい何か」
予想外に酷い回答に思わず俺は姿勢を崩した。
「なんだそれは!? どんな中途半端さだ!?」
「別に何でもいいですよ。神様でも女神様でも宇宙の心でも真理の番人でもプレ○リーでも。好きに呼んでいいですよ。やることはたいして変わりませんので」
「色々と酷い……」
がくり、と肩を落としつつふと思う。やっぱりコレ神転っぽい。けどそうなるとこの神転は俺の妄想の中の実現なのか、それとも本当に神様……と言うか神っぽい何かが存在してるのか?
「どちらでしょうねえ」
「っ!?」
クスクスと笑う神(仮)の姿に思わず鳥肌が経った。まさかこいつは……
「はい、心を読んでいますよ。それで貴方はどちらだと思います? 私は本当に存在していた神(仮)か? それとも――」
笑みが一瞬深まる。
「貴方の黒歴史ノートに書いてあった神転の再現なのか」
「…………」
「だんまり、いえ、わからないといった顔ですね。まあそうでしょう。けどそれは今はたいしたことじゃありませんよ。やることは変わりません。希望があれば特典付けて異世界へGOするだけです」
「随分とアバウトだなぁ」
「理由をつけすぎる事で首を絞めることだってあるんですよ。大事なのはいかに必要な情報を小出しにするかです」
なんだその理論。意味わかんねえ。しかも微妙に厨二っぽい返し方を見てるにやっぱりこの神(仮)もあのノートの再現な気が……。
「というか、だ。この展開って事はやっぱり俺は死んだのか?」
なんか相手のテンションに敬語を使うのも億劫なのでタメ口で話す事にした。そして気になっていた事を訊くと神(仮)が笑顔で頷いた。
「そうですよ。心臓に剣が突き刺さってあっさりと。半分くらいショック死でしたけどまあ事故みたいなものですよ」
「事故もなにも思いっきり剣ぶん投げられたんだが」
「死人に口なしです」
「……」
ぐうの音も出ない。
「そういうことなので過ぎた事は忘れてとっととどうするかを決めましょうか」
「いやだけどな、いきなり言われても……」
「貴方ほどの人が今更何を言っているんですか。希望はいくらでもあるでしょう? 例えば――」
そう言いながら神(仮)が手を振ると虚空から一冊のノートを取り出した。
「えーと、あ、これなんてどうでしょう。現代日本の様でちょっと科学が進歩した世界で特殊組織に所蔵するチート主人公、コードネーム≪狼牙≫とやらにそのままなる事もできますよ」
「待てコラァァァ!? 何だ!? そのノートは何だ!? とてつもなく嫌な予感と既視感がするそのノートは何だ!?」
「何って、あなたの書いた黒歴史ノートですよ」
それを聞いた瞬間俺は思わず神(仮)に飛びかかった。しかし掴む寸前、その姿が掻き消えてしまう。
「因みにこれはただの写しなので奪っても無駄ですよ」
「なんでだ!? なんでお前がそんなもん持っている!?」
いつの間にか背後に再び現れていた神(仮)はニコニコと笑っていた。
「これでも神っぽい何かなんでなんでもできるんですよ。それにこのノートは暇つぶしに読んでる分には非常に楽しかったですよ」
「嬉しくない! 全っ然嬉しくない!?」
いくら褒められようとそれは所詮黒歴史。娯楽として人に読まれていたとかなにそれ死にたい。まだ村田みたいに生き残るために読んでいてもらった方が健全だ……いや、やっぱりそっちも嫌だけど!
「まあそういう訳で諦めましょうか。転生するならこのノートにある様な世界を創って、そこに主人公として送ることもできますよ。――――とても魅力的でしょう?」
「うっ……」
まるで諭すかのように、それでいてどこか愉しむ様な声に思わず反応してしまう。というか今コイツ創るって言った? という事はもしや、
「もしかして今まで俺が居た世界ってお前が……? もしそうだと知れたのなら俺の溢れる怒りをお前にぶちまければジャスティスな気がしてきたんだが!」
「さあどうでしょうねえ? 貴方のノートがあったから私が生まれたのか。私が貴方のノートを見てあの世界を創ったのか」
答える気は無いという事らしい。なんだか余裕の笑みにだんだん腹が立ってきた。というかこれはあれか? 俗にいう神転漫才に付き合わされてるのか? という事はやっぱりノートが原因でこいつが生まれたのか? ああもうわけわかんねえ!
「それでどうします? どんな世界に行きますか?」
「どんなって……なんでそんなに押してくるんだ?」
「それが役目だからです。迷える子羊に翼を与えて時にはチートと言う名の角も与えてアイキャンフライさせるのが仕事なので」
「……」
もういい。なんか疲れた。それにここまで言うくらいだ。多分本当に目の前のこいつは神かなんかそっち系の人で、俺は本当に死んでしまって、そしてやり直しのチャンスが与えられたという事だろう。
だが気になるのはフェノン達の事だ。俺が死んだって事はあの場に残された事になる。その後が気になるが…………まあフェノンの記憶も戻ったしあいつは頭いいから大丈夫……か? 少なくとも村田と正面から戦うなんて事はしないだろうし、首尾よく逃げる事だろう。村田も俺が死んだらやる事なくなって追う必要も無い気がするし。ああ、けどフェノンの事だから一発村田をドつくくらいはしてそうだなあ。
それに転生か。そりゃ俺だってノートに色々書いてきたし、正直興味がある。しかも何でも好きな世界ときたもんだ。つまり、
「従順な金髪巨乳のメイドとにゃんにゃんしながら魔法学園に通って仕置き人をやる世界だとか銀髪剣士の少女とお互いに武器に変身しつつ変態錬金術師を追う世界とか竜人になって昔の傭兵仲間の和風剣士と帝国打倒の為に戦いつつにゃんにゃんする話とかもOKなのか……?」
「ええもちろん。他にも改造人間にされてしまうけれど敵の幹部と親密になり反旗を翻す戦記物だとか百合の力でパワーアップする巨大メカ、慟聖合神ユリネイザーの世界だとか魔王と副官が宇宙で戦艦相手にドンパチやる話でも全然OKです」
「お、おおう」
なんだろう、とてつもなく魅力的な提案に思えてきた。今まで居た世界が酷過ぎたせいか百倍もマシに思える。きっとそれらの世界では厨二的設定は残ってても、それを嬉々として誇る奴らだとか頭痛くなる装備と魔術をぶっぱなす連中とか思考が吹っ飛んだ変態達とかも居ないんだろうなぁ……あ、ユリネイザーは別か。
「どうです、魅力的でしょう?」
うん、確かに。もし本当にその世界に行けるというのならそれは凄いことだ。それは判っている。判っているんだけど、
「……なあ、本当に元の世界は駄目なのか? その元の世界っていうのも――」
「ええ。貴方が召喚される前の世界と、召喚されたあの世界。その両方は駄目です。ルールにも限界があるんですよ。一度魂が刻まれた世界に同じ魂を刻むことは出来ませんから」
また厨二設定かよ。しかも自分が考えた内容の。けどまあさっきも言ったがフェノンなら大丈夫だろう。それにそもそもあの生き地獄満載の世界にわざわざ戻りたいなんて……ねえ?
だってあれだぞ? あの世界で俺は今まで何やってきたよ? 痛々しいベルトとシルバーアクセサリー満載の黒い服着て痛々しい呪文放ったり、サインペンで額に第三の眼開眼したり、魔甲少将になって男を棄てたり、それら全部を組み合わせた振り切れたド変態になったり。ハハッ、思い出したらなんだか泣けてきた。そんな世界にわざわざ戻る? そんな、俺だってそこまでマゾじゃない。マゾじゃ……無い。
「大分気にしているようですね。ではこうしましょう。転生時には特典が3つ与えられるというお約束があります。そもそもなんで特典なのかとか言うツッコミは無しですよ? その一つを消費して、貴方が去ったあの世界を見てみますか?
「出来るのか!?」
自分でも驚くくらいに心が跳ねた。そんな俺の姿に神(仮)は頷く。
「ただしほんの少しだけです。本当なら以前の世界に関わる事自体禁止されているので」
そういうと神(仮)がパチン、と指を鳴らした。すると俺の目の前の空間が歪み、そしてその光景が目に入っり、
そして俺の思考は止まった。
『カズキッ!? おい、カズキッ!? 嘘……嘘だろうっ!? いつもみたいにまた変な方法で復活するんだろうっ!? カズキ……カズキ!?』
そこには、逃げ出すことも、村田をドつく事もせずに泣きながら俺の亡骸を抱くフェノンが居て、
『は、ははははは! やった……俺は、俺は……!』
どこか虚ろな眼で笑っている村田が居て、
『カズキ……様……?』
呆然とフェノンと俺の亡骸を見つめている釘パットの魔女……じゃなくてククスさんが居た。
「…………」
「はい、時間切れです」
時間にしてほんの数十秒だけ。神(仮)が再び指を鳴らすとその光景は消えた。
「さあこれで思い残すことはありませんね。 それで貴方はどうしますか?」
背後から神(仮)の声がかかる。その声に卑怯だ、と思わず唇をかみしめた。こんなものを見せておいて、あの場所へは戻れないから別の場所へ行けと言う。いくらなんでも酷過ぎる。
「どうしてですか? 戻りたくないんでしょう? あんな世界に。だって貴方は痛々しい呪文も痛々しい格好も嫌いなんですから」
「…………」
「嫌いな事を強要される世界なんていいじゃないですか。新しい世界では普通の格好で、普通にカッコよく、そして綺麗なヒロインと一緒に冒険だってできますよ? 最高ですね?」
本当に、そうなのか? いや、そうだと自分でも言っていた筈だ。言っていた筈なのに何かが引っかかる。残してきたフェノン達が心配? それもある。あんな姿を見てしまったのだ。心配に決まっている。だけどそれだけなのか? もっと、もっと根本的な所から何かが間違っている気がする。いや違う、何かに気づいていないというべきか。その疑問が頭から離れない。
「あ……」
ふと、思い出した。いつの日か加藤と話していた時の記憶。まだ加藤と出会って間もない頃、お互い意気投合して色々話した時の記憶だ。
確かその時、例の加藤の伝説――夕飯前にリビングでギャルゲー(対象妹)伝説の話を聞いたのだ。そしてその時、ひとしきり爆笑した後俺はあいつにこう聞いた筈だった。
『なんでそこまでしてやってたんだ?』
それに対して加藤の答えは至極単純明快だった。それは―――
「あー……そういうことかあ」
そんな簡単な事だったか。俺はやっとそれに気づき、そして思わず笑ってしまった。
「どうしました?」
「いや、なんていうかさ、ようやく気づいたというか思い出したというか。しかもその内容に我ながら呆れてきたところ」
くくく、と思わず声を漏らして笑ってしまう。だってそうだろう? 俺が至った結論は最も単純で、そしてあまりにも馬鹿馬鹿しいものだったのだから。
「なあ、あと二つ願いあるんだよな?」
「ええ。内容は決まりましたか?」
「ああ。まずは一つ。……服装を変えたい」
俺は笑いながら自らの姿を改めて見下ろす。実はこの世界に来た時から俺の姿は村田に殺された時と同じ服――つまり俺の黒歴史集大成仕様だったのだ。
「そんなんでいいんですか? ではどんな姿に?」
「ウニクロのジーンズとシャツ。ブンズのシューズと微妙にオシャレっぽいジャケット」
「へ? 本当にそれでいいんですか?」
「OK」
そう、問題ない。何せその恰好は俺の本当の普段の姿。オシャレが良くわからず出来あいの物を適当に来ている平凡ファッションなのだから。
神(仮)が指を鳴らすと俺の姿は黒歴史仕様から平凡仕様に瞬時に変わる。うん、やっぱりこれが落ち着く。
「それで、結局どうするか決まったのですか?」
「もちろん」
神(仮)問いに俺は頷きそしてまた笑った。
「確かにさ、俺の書いた黒歴史ノートは痛々しくてさ、今改めて読んだり読まれたりするととんでもなく恥ずかしくて死にそうなんだわ」
「ええ、それで?」
「馬鹿馬鹿しいし、痛々しいし。エロも満載でもうこれかいた時の俺って馬鹿なんじゃね? って心底そう思うよ」
「でしょうねえ」
「だけどさ、一つだけ気づいたことが……いや、思い出した事があるんだわ」
「ほう、それはなんですか?」
神(仮)はニコニコと笑いながら聞いている。それを見て俺は苦笑と共に確信した。この女はきっと最初から気づいていたに違いない。今思えば言い回しがどれもおかしかった。
元の世界に転生することはルールの限界だと言った。違反では無く限界だと。
最初はどこに転生するか? だったのに途中からどうするか? に変わっていた。まるで何かに気づいてくれとばかりに。
良いだろう。ならば言ってやる。俺が思い出した事。この神(仮)気づかせようとしていた事を。
そう、それは、
「確かに酷い内容だけどさ……それを考えて居た時、俺は心底楽しかったんだよ!」
そして、
「それは今でも変わらない! ああ、そうだよ! 本当に、本当に心の底から嫌っていたなら痛々しい格好も、魔術も、やれる訳が無かった! 恥ずかしいけどな、痛々しいけどな! 俺は心の奥底で本当は――――楽しんでいた!」
そう、それこそが俺と、そして加藤の答え。例え恥であろうとも、それを自分たちが楽しんでいるのならいいじゃないか。
「黒歴史? 確かに思い出したくない記憶は山ほどある! だが少なくとも俺があのノートに書き記した内容は恥ずかしさに満ちてはいるが楽しみにも溢れていた筈だった! そして何より、俺の考えた作品は設定も破綻していて誤字も多くてテンプレ展開も多かったかもしれないけどな、基本的にはハッピーエンドなんだよ! だからこそ、俺は認められない! フェノンが泣いて、そこで終わる物語なんて認められない!」
「ならば、どうしますか? 元の世界への転生は――」
「ルールの限界? ならばその限界を突破する!」
そう、俺だけがそれを出来る。答えは一番最初にあったのだ。ただ今までそれに気付いていなかっただけ。法魔四天王にも、魔王にも、フェノンにも、魔甲少将にもできなくても俺には出来るという確信がある! なぜならば、だ、
「俺は破限魔術師、ハヤシ・カズキ。その設定の俺に――限界は無い!」
「っ、正解です!」
神(仮)が満面の笑みを浮かべ手を振るう。すると俺の目の前に鉄の扉が現れた。だがその扉は鎖で雁字搦めに固められている。だがそれがどうした。俺は躊躇いなくその扉を全力で蹴破った。鎖が脆くも砕け散り虚空へと消えていく。
「さあ行ってらっしゃい。貴方の望む結果を得るために」
「厨二臭い台詞、嫌いじゃないね」
俺は苦笑しつつもしっかりとした足取りで扉の先へと進んでいく。その途中でふと思いつき、神(仮)へ振り向いた。
「あんた、結構おせっかいなんだな」
「され、なんの事でしょうか?」
ニコニコと笑いながら首を傾げる神(仮)。あくまで惚ける気だろう。だがまあいい。
「最後の願い、まだ残ってたよな。ならばお願いだ。そこで俺の姿をよく見て、暇つぶしに楽しんでくれ。それが創った本人としては最も嬉しい事だからさ。
「ええ、そうさせてもらいます」
あくまでニコニコ顔のその姿に俺も笑みを返し、
「行ってくるよ、女神様」
「……あら」
神(仮)……いや、女神のきょとんとした顔に満足すると俺は扉の先へと歩いて行った。
従順な金髪巨乳のメイド
>作者の趣味です。メイドは正義
銀髪剣士の少女とお互いに武器に変身しつつ変態錬金術師を追う世界
>リメイクして書き直したい。しかし需要はあるのだろうか
竜人になって昔の傭兵仲間の和風剣士と
>プロット途中で放置されてた
改造人間
>王道ですよね
ユリネイザー
>ダイミダラーに影響された、わけでは無く昔知り合った方と盛り上がって一緒に書こうかと話したりしてた作品。今は凍結中
魔王と副官が宇宙でドンパチ
>実は黒歴史の後に投稿しようかとチビチビ書いてたり
とまあコメディ少な目で珍しくうちのカズキさんが輝いているお話でした。
実はこの話がずっと書きたくて今までカズキに色々やらせてたり
黒歴史って本当に嫌な思い出も確かにあるけど、少なくとも幼いころに思い描いた妄想って恥ずかしいだけじゃなくて楽しいものも十分にあったと思うんですよね。自分もそうですし
そういう思いを書きたかったんです。