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5-3

 小学生の頃。


 ま王→さい強

 やみの世界をせいふくしたま属(誤字)の王。あん黒術『ラグナロク・ゼロ・ダークフレイム』をあやつり、その力は世界さい強のドラゴン、『ドラグディグニティ』すらいっしゅんで倒す事ができる。



 中学生の頃。


 魔王:第三の平行世界≪イシュ・パンドラ≫より現れた世界の破滅の体現。元々は人間だったが人の心の闇とカルマに絶望し、自らも闇に染まる。第九十九結界魔導を操り、聖王国アライズを一時壊滅させる。だがその際に神天子アンジェルの願いと守護星ヴェスペリアの導きによりカオスの扉より召喚された少年、冥桐院・神徒と対面を果たす。神徒の中に眠る失われし第零式結界魔導の力に気づいた魔王は神徒を天敵と見なし殺害を目論む。しかしそれが逆に神徒の第零式結界魔導の力を発現させ、神徒は≪聖錬血刀≫を用いて魔王に対抗していく。世界はそんな異常な力を持った二人によってゲシュタルトしていく……。



 高校生の頃。


 魔王。異世界で勇者との戦いの末、力のぶつかり合いによって生まれた次元の歪に飲み込まれ現代日本に飛ばされる。しかもその際に苛められっ子の少年と融合してしまう。魔王が融合したことにより少年は二重人格となり、その異常な変化に周囲は驚き、困惑していく。魔王は元に戻る術が分からない以上、この体で地球征服を目論むがそれを元の人格の少年が拒み上手くいかない。元苛められっ子と元異世界を恐怖に陥れた魔王。そんな凸凹コンビが今日も学校で騒ぎを起こす! 頑張れ魔王。頑張れ少年。ひとまずの課題は明日のファミレスバイトで笑顔を振りまくことが出来るかだ!




「と、これがお前の黒歴史ノートにあった魔王の記述(抜粋)だ」

「言うなああああああ!? 目の前でそれを晒すなああああああああああああ!?」


 知り合いに黒歴史を晒されるという最高峰の悪夢に俺は頭を抱えて身悶えた。これ以上の地獄がこの世にあるのかって位、そりゃもう身悶えた。

 小学生の頃はまだいい! いや、良くないけどまだ多少なりと可愛げがある! けど中学生、テメエは駄目だ。今改めて聞かされると頭痛のタネしかねえよ! 何であんなに無駄に漢字が多いんだよ! ヴェスペリアの導きって何だ!? 零式結界魔導で聖錬血刀ってもう意味がわかんねえよ! そして高校生、一週回って別ジャンル模索したのは分かるけど自分で『!』とかつけないで! 後から知ると悶えるからさあ!?


「つ、つまり村田……。お前はさい強でま属(誤字)の王でラグナロク・ゼロ・ダークフレイムを操る破滅の体現で第九十九結界魔導を操るファミレス店員だという事か……っ」

「誰がそんなイロモノだぁぁぁぁ!」

「お前が言った事だろうがぁぁぁぁぁ!?」


 精一杯のツッコミを胸に、振りかぶったピンクの金槌で村田へ突撃する。だが村田も漆黒の大剣でそれを受け止めた。お互いの力がわずかに拮抗するが、すぐに押し負けてしまい俺は再び背後に吹っ飛ばされる。


「くっ、こんなイロモノに成り果てた奴だってのに強い……っ」

「貴様にだけは言われたくないわ林ぃぃぃぃ!」


 こめかみに青筋を浮かべた村田が手を上に翳すと、邪炎とはまた少し違った黒い炎がそこに生まれる。不味い!?


「≪ラグナロク・ゼロ・ダァァァァクフレイムゥゥゥゥ≫!」

「ぬおおおおおおお!?」


 叫びと共に漆黒の炎が俺に放たれた。咄嗟に金槌を放り捨てて俺は横に跳ぶ。つい数瞬前まで自分が居た場所を黒の炎が通り過ぎていき、その軌道上にあった棄てられた金槌は一瞬で炎に飲み込まれると崩れ落ちた。なにこれやべえ!?


「避けたか……だが無様な顔だなあ林? その顔を見れただけでも俺は楽しい。だが、まだ足りない……」

「くそ、喋り方まで厨二全開魔王に成り下がって……いや、成りあがってやがる……」


 それほどまでに、自分より先に召喚されてからのこの世界での生活は苦痛だったという事なのか!? 俺たちの事を毛嫌いし馬鹿にしていた筈の奴があそこまで痛々しい子になってしまうほど……! その事に関しては正直罪悪感が拭えない。直接的でなくても村田をあんなにしてしまったのは俺のノートが原因なのだから。けどだからと言ってあいつの恨み全てを受けいれてやる訳にはいかない。


「村田! 確かにお前の境遇は不憫に思うし正直俺もちょっと悪いかなーとは思っている! だがだからと言ってこんな事をして何になる!? ここは協力してノートを解読して一緒に元の世界に戻って加藤と一緒にドール話に華を咲かせることが先決じゃないのか!?」

「貴様らと一緒にするな! まだ絶望が足りないようだな……ならこれならどうだ?」


 何故か更に怒り始めた村田が指をパチン、と鳴らすと村田の背後から新たな人影が現れた。そしてその姿に俺は目を見張る。


「フェノン!?」

「フェノン様!?」

「…………」


 そう、現れたのはフェノンだ。いつもの黒の法衣に身を包んだフェノンだが俺の声には全く反応していない。まさか!?


「そうだ。最後の最後まで抵抗していたがつい先ほど洗脳は完了した。もうこの女はお前のことなど覚えていない」

「そんな……」


 ある程度は覚悟していた。覚悟していた筈なのに、その言葉は思っていた以上に俺の心に重くのしかかり、眩暈がした。


「そ、そんなフェノン様!? くっ、カズキ様! まだ諦めては行けませんよ! あのフェノン様の事です。本当はまだ洗脳なんかされてなくて機を伺っているだけかもしれません!」

「お、おお! そうだな! フェノンがそう簡単にやられる訳が――」

「―――氷結」


 へ? と俺とククスさんが目を向けるとフェノンの姿が黒い光りに包まれそしてその姿を変えた。そう、その姿とは、


「戦場に咲く戦慄の華。魔法魔女ピュアブラックリリー」


 フェノンのトラウマ。可愛らしいフリルがふんだんにあしらわれたゴスロリ姿とツインテール。そして手にもつ魔女っ娘箒。そう、魔法魔女ピュアブラックリリーそのものだった。


「……あの姿を自ら晒すという事は間違いない! フェノンは完全に洗脳されている!?」

 

 俺は確信した。でなければフェノンがあの格好に自らなる訳が無い! そんな俺の絶望の顔に満足したのか、村田はフェノンに命じた。


「やれ」

「……」


 ひゅん、という音が聞こえた時、俺の腹にフェノンの箒がめり込んでいた。


「かはっ!?」

「……≪ブラック・リリック≫」


 一瞬で距離を詰めたフェノンが俺の腹に箒を叩き付けた状態のままこちらを見る。その眼には光は無く、フェノンの意識が無いことを否が応でも理解させられた。そしてフェノンの呪文と同時に箒から黒い光が溢れていく。


「≪ピュアシャドウキリリング≫」


 箒から溢れた光が直接俺の腹に叩き込まれた。俺は声を漏らすことも出来ぬまま吹き飛ばされる。だがフェノンの追撃は止まらない。吹き飛んだ俺を追うように加速すると箒をくるりと回し、俺の身体を上に叩き上げたかと思えば返す箒で今度は叩き落とした。更に床に叩き付けられた俺にトドメとばかりに蹴りを叩き込んできた。俺は為す術も無く床を転がり激痛に身悶えてしまう。


「がはっ……!? 痛ってぇ……」


 な、なんだこれ。今まで直接戦う場面が殆ど無かったから知らなかったけどめちゃくちゃ強いじゃねえか! というかこんなに強いんならやっぱり今までも俺が戦うより、フェノンが戦った方が色々早く片付いていた気がするんだが……。


「ふはははは! 良い様だな林!」


 村田は何だかテンション高めに高笑いしている。正直先ほどまでの罪悪感が吹き飛ぶほどにムカつくが今は後回しだ。それよりフェノンをなんとかしなければ……。


「か、カズキ様! 何か洗脳を解く方法とかないんですか!?」


 相変わらず床で潰れたままのククスさんの言葉に俺は脂汗を流す。そんな都合のいい魔術は……あったかもしれないけど覚えていないのだ。あるとすれば……


「い、一応心当たりは」

「あるんですか!? ならそれをやりましょう!」

「ほう?」


 ぱぁ、とククスさんの顔に笑顔が浮かぶ。一方村田はまるで馬鹿にするようにこちらを見ていた。そしてフェノンも光の無い瞳でこちらをじっと見つめている。そんな視線を受け止めつつ俺は小さく頷く。


「こういう時のお約束では、何か本人にとって衝撃的な事をすれば思い出すと相場が決まっているんだ」

「なんですかその適当な方法は!?」

「仕方ないじゃん! それくらいしか思い浮かばないんだよ!?」


 後はほら、洗脳された相手に対して想いで語って心揺さぶったりとかそんな感じの方法しか思い浮かばない。だって定番だし!


「とりあえず物は試しだ! さっきのガーディスみたいに≪邪炎窟閻陣≫でこの世の地獄に叩き込めばフェノンだって正気にもどるかもしれない!」

「それだけはやめて上げてください!? 今さっきこの世の地獄はカズキ様のスカートの下、すね毛とギャランドゥと○毛が立ち込める蒸れた股間の間だと証明されてたじゃないですか!? そんなところにフェノン様を送り込んだら正気に戻っても自殺しかねませんよ!? というか私なら死ねます!」

「色々言ってること酷くないですかねえ!?」

「で、作戦会議は終わりか?」


 村田の言葉にフェノンが反応し再び箒を構えた。俺も慌てて身構えるが正直どうすればいいのかわからない。≪邪炎窟閻陣≫以外でフェノンに衝撃を与える方法なんて……


「待てよ……」


 ふと、気づく。衝撃を与えればいい。それは分かった。そしてこれはフェノンの為でもある。それは当然だ。ならばある程度何をやっても許されるのでは? いや、だからと言って正気に戻ったフェノンが自殺するような方法は論外だが、なら別の方法なら良いという訳だ。


「そうか……ギリギリのラインを越えなければ何をやっても許される状況なのか……っ!」

「か、カズキ様? 何か突然不穏な事を口走ってませんか!?」


 大丈夫だ、問題ない。俺は一つの可能性を思いつく。確かにこの方法なら衝撃的だしフェノンも元にもどるかもしれない。俺は決意固めるとフェノンと改めて対峙した。


「フェノン! 俺はお前を必ず救う。例えどんな手を使ってでも!」

「随分と自信があるようだな林。だが無駄な事だ。やれ、女!」


 村田が嘲る様に笑い命令するとフェノンが動き出す。先ほどと同じように風を切り、一瞬で距離を詰めてくる。だが俺は今度はそれをしっかりと見据えながらあえて避ける事はしなかった。


「カズキ様!?」


 ククスさんの叫びを聞きながらも、眼は迫りくるフェノンから逸らさない。そしてフェノンが俺の目の前まで辿り着きその箒を突きだしてくる。


「ぐっぅ……!?」


 腹部に衝撃。その強烈な衝撃に息が止まり、肺の空気を吐きだしてしまう。呼吸をしたいのに出来ない、そんな感覚に襲われて苦しい。だが覚悟していただけあって何とか耐えれた。俺は自らの腹に叩き込まれた箒を震える手で掴むと、至近距離でフェノンと視線を合わせる。


「よお、フェノン。なんだよその様は……」

「…………」


 無言。だけどいい。こんなの予想通りだ。


「人のいう事をホイホイ聞くなんてお前らしくない……。お前はもっと我儘で、ドSな女だろ?」


 そう、それこそが俺の知るフェノンだ。我儘でドSで。けど何だかんだで優しいのは知っている。こんな俺と一緒に居てくれただけでどんなに救われた事か。


「いつもいつも人をからかってきやがって。けどその度に俺は言ったよな? 結局実行には移せなかったけど俺はずっとお前に言い続けてきた筈だ……!」

「……?」


 一瞬だけ、光りの無いフェノンの瞳に困惑が浮かんだ。それを見て俺は確信する。確かにフェノンに意識は無いが、全く無い訳でも無いのだと。ならばきっとこれは効果があることだ。そうに違いない。これは人助けであるから何をやっても許されるのだと。


「わからないか? なら身を以て味あわせてやるっ」


 俺は未だに腹に突きこまれ、徐々に力が増していく箒を決して逃すまいと握りしめる。両手で箒を握っていたフェノンも力を籠めてくるがそれこそが狙い。今のフェノンは両手が塞がっているのだ。だから俺は咄嗟に左手を離し、そしてそれを前方に突き出した。


とったぞっ(・・・・・)!」


 伸ばした俺の手は吸い込まれる様にフェノンに――その胸部に向かいそして……掴んだ。そう、フェノンの胸を俺は掴んだのだ。そして力の限りそれを、全力で、一片の躊躇いも無く、揉みしだく!


「っしゃあああああ遂に揉んだぞ俺はぁぁぁぁぁ!」


 左手に伝わる感触。それはこう、なんというか、あれだ。大変よろしゅうございます。

 俺は二度と来ないかもしれないこの好機を逃すまいと更に力を込めようとして、ふとフェノンと眼があった。フェノンの眼は驚愕に揺れており、続いて先ほどまで無感動だった眼が徐々に吊り上っていき―――そして光が灯った。


「………………って、何をしているのだお前はあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」

「ふごっ!?」


 腹に突きこまれていた箒が引かれたと思ったのも束の間。顔を真っ赤にしたフェノンの張り手が俺の頬にぶち込まれた。


「馬鹿か!? 馬鹿なのかお前は!? 他にやりようは無かったのか!?」

「お、落ち着けフェノン! 結果オーライだ! 俺も得したしフェノンも元に戻って一石二鳥だろ!?」

「だからって、だからって……!」


 崩れ落ちた俺の胸倉を掴んで抗議するフェノンだが、その顔は赤くしかも目じりにちょっぴり涙が浮かんでいた。だがいつものフェノンだ。俺はその結果に満足し頷く。

 一方、村田とククスさんもあり得ない物を見たような目で顔を強張らせていた。


「そんな!? あんなアホな理由で元に戻っただと!?」

「こ、これが鉄板、これがテンプレご都合主義、これがお約束の力なんですかカズキ様!?」


 正直俺も驚いてるけどね! あと恥ずかしがって顔が赤いフェノンの顔が近くにあっていい匂いもするので正直色々役得ですね!


「け、けど無事でよかったぞフェノン。俺も断腸の思いで揉んだ甲斐があった」

「にやけながら言うセリフかそれは!?」


 ガクガクと俺の襟首を掴んでシェイクしてくるフェノン。だが本当に良かった。これで後は村田を――


「こんな馬鹿げた事、認められるかぁぁぁ!」

「っ、!? フェノン!」


 顔を上げた俺が見た光景。それは怒りに顔を赤くした村田が漆黒の大剣を振り上げ、そして投げつける姿だった。咄嗟に俺はフェノンを突き飛ばす。そして自分も逃げようとするが、先ほどの痛みのせいでからだがいう事を利かず、


「カズキ!?」


 フェノンの叫びと同じくして、俺の胸に大剣が突き刺さった。





「あれ?」


 気が付くと俺は妙な空間に居た。壁も天井も床も真っ白と言った奇妙な空間だ。そこにいつの間にか突っ立ていたのだ。


「なんだ一体?」


 意味がわからない。確か俺はフェノンの胸を揉んで正気に戻して、そしたらキレた村田に剣を投げられて…………あれ? 突き刺さった後からの記憶が無い。

 というか村田の野郎。俺が死んだら黒歴史ノートの解読も糞も無いと思うんだが何してくれてんだあの野郎。


「けどなんだろうなここ。なんとなく覚えがある様な無いようなこの雰囲気は……」


 疑問に首を捻りつつとりあえず何かを探そうと歩き出そうとした時だった。俺の背に声がかかる。


「目覚めましたね」

「へ?」


 思わず振り向くと、いつのまにかそこには白い長髪を靡かせる美しい女性の姿があった。来ている服も白く、そして所々にどこか高貴な装飾が施されている。年齢は分からない。十代の様に見えるし、二十代にも見える。

 そんな美しい女性は、その姿に違わぬソプラノの声で俺にこう告げた。


「貴方は本来死ぬはずではありませんでした。ですがちょっとした事故により死んでしまった。そのお詫びに元の世界以外で新しい人生を歩ませてあげましょう!」

「――――――――――」


 天を、見上げる。シミ一つない天井は真っ白でどこまで伸びているのかわからない。もしかしたら天井自体が無いのかもしれない。そんな忌々しい程白い天から眼を外し、目の前の女性を見てふう、とため息を付き、そしてくるりと踵を返すと両手を腰だめに構えて大きく息を吸った。

 大丈夫、俺の気持ちはきっと誰もが理解してくれる。だから思いっきり言ってやろう。今の俺の心境を。、


「ここまで来て神転だとぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!?」


 正直俺はキレても良いと思う。


皆大好き神様転生の時間

普通なら主人公に剣が突き刺さった所で次話につながるところなんだろうなあ


予定では何気に最終章なのであと2,3話で終わらせる予定です

最後までお付き合い頂ければ幸いです

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