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5-2

「出たな破限魔術師! 予想外にド変態ぶりに驚いているが貴様はこの私達、法魔四天王の――」

「求めよ! 悦楽の記憶、無限の想像、遥かに重なりし夢想の果てに汝の魂は自ら溺れ砕け散る! 喰らえ、≪SODスピリット・オン・ディストラクション≫!」


 襲い掛かってくる法魔四天王以下略に俺はピンク色の魔術をぶち込む。直撃した敵は恍惚とした表情を浮かべつつ果てていくが、その背後から別の敵が飛び出してきた。


「破限魔術師! 貴様を捕えれば我々の勝利だ!」

「させませんよ! カズキ様の捨て身の詠唱時間は私達が稼ぎます! 魔女娘部隊、ゴー!」


 俺を守る様に前に飛び出すのはこちらの主力の一つ。下は12。上は29歳までが連なる魔甲少将部隊。年甲斐も無く、世界観の違い故か羞恥心も無い彼女たちはハジけた表情で魔法のステッキ(ピンクの金槌)を振るう。因みに年齢は少女じゃなくて少将だからセーフなのだ。きっとそうなのだ。そうに違いない。


「魔甲少将、それは日々繰り広げられる政争に揉まれ日々すれていく少女の姿」

「だけど本当の心はピュアなままだった……っ!」

「それを再現した私達のピュアな殺意、受けなさい!」


 純粋って言葉は白とは限らない。まじりけのないことを指す言葉がそれならば、例えばどす黒い殺意だってきっと純粋なんだろう。いや、なんとなく思っただけだ。というか折角フォローしたのに自分たちで少女とか言っちゃってるし。だがそんな彼女たちのお蔭で稼げた時間を俺は詠唱に注ぐ!


「祖は電子の海に漂う者達! 交叉せし禁忌を掲げ、屈折せし光の彼方に汝は夢を夢想する! そして訪れるは賢者の時間! 来たれ、≪狩火暗(カリビアン)灰烈(パイレーツ)混夢(コム)≫!」


 俺がドピンクの金槌を振るうと、その先に闇が広がりそして『扉』が開く。その扉はどこか靄がかかっており全容は見えない。そう、例えるならモザイクの様に光が屈折しているのだ。そしてそのモザイクを突き破り現れたのは剣や槍といった武器を手にした骸骨の戦士達。そう、これは召喚魔術だ。その姿を見た法魔以下略達が目を見張る。


「なんだ!? あの卑猥な雰囲気のする光から出てきた化け物共は!?」

「交叉せし禁忌……海賊旗とX指定をかけたその力を思い知れ!」


 モザイクから湧き出た骸骨戦士たちが一斉に敵に取り掛かる。そして当然俺もだ。


 魔王城を前にした決戦。最早俺は出し惜しみをする気は無い。ありとあらゆる術を使ってでもフェノンを取り戻す!

 そんな俺の前に今度は弓を構えた七人七色の敵が立ちふさがる。


「舐めるなよ破限魔術師! 我々魔弓七塵将が相手に――」

「≪クリティカルパーセンテージ・NINETY≫!」

 

 俺もピンクの金槌を掲げ叫ぶ。邪魔する奴は容赦しない。

 ピンクの金槌が光りはじめ血を求めて唸り始める。そう、乙女の金槌は鈍感だけど気になるあの子を振り向かせるために時たま血を求めるのだ――!


「≪愛・血灸爆(爆裂する乙女の愛情)≫!」


 天高く跳躍して光を炎に変えた金槌を全力で振るう。その瞬間、魔弓七塵将を中心として炎が膨れ上がり、そして大爆発を引き起こした。


「馬鹿なあああああああああ!?」


 信じられない、と言った表情で吹っ飛んでいく魔弓七塵将を横目に俺はふわりと鋼鉄のフリルを靡かせて着地する。だが今度はそこに剣を持った男が突っ込んできた。


「やるな! ならこの魔剣七塵将が一人、光剣のガーディスが受けて立つ!」

「お前かあああああああああ」


 迫るのは白銀の長髪をなびかせるイケメン野郎魔剣七塵将のガーディス。俺も金槌を振るって対抗する。両者の武器がぶつかり合い、衝撃で弾かれて一端距離を取る。


「お前か! 遂に出てきやがったな!? そもそもテメエが悪夢の始まり一つじゃねえか!」

「何の話だ……?」


 訝しげに眉を潜めるガーディスの姿に俺の怒りが更に高まる。だってそうだろ? 最初に会った破軍三鬼衆のゼロスとかの上にコイツが居たわけで。つまりコイツの命令でゼロス達がやってきて俺のトラウマ抉り始めた訳だ。


「俺の涙と羞恥心、そのツケを払ええええええええええ!」

「だからなんなんだ!?」


 ちっ、あくまでシラを切る気か! 相変わらず無駄にゴテゴテ装飾された剣を持っていやがるくせに! 俺が考えたんだけどね! ははっ、殺せー!


「なんだか知らんが貴様は倒す! 喰らえ光剣≪ハイペリオンブレイド≫!」

「むず痒くなって引き籠りたくなるからここにきて小学生の考えそうな技名使ってくんじゃねえぇぇぇ!?」


 ガーディスが放ったのは文字通り光り輝く刃。あれに直撃すればただでは済まないだろう。だが今の俺に涙はあっても躊躇いは無い! 俺は叫びながら両手にジャラジャラ巻いた鎖を解き放ち、その下の地肌に描き込まれた黒い龍を呼び起こす! そして額に描かれた第三の眼もまた炎を湧き上がらせ光輝く!


「黒の九七番――≪邪炎窟閻陣(じゃえんそうえんじん)≫!」


 俺の両腕、そして額から放たれた黒い炎が規則性を持って中空を奔る。そしてその奔った軌跡には炎が残り、やがてそれは一つの魔方陣を形成した。


「≪Dance(悪夢と) with nightmare(踊れ)≫」


 俺の呪文と共に広がるのは闇。もうこれでもかと黒く、厨二な少年ならばワクワクしそうな程の深淵。当然だ。だって中学生の頃考えたんだもん!

 そしてその闇はガーディスの光の一撃を容易く受け止め、そして一気に闇へと浸食していく。

 己の技を受け止めるばかりか、浸食されている事にガーディスが目を見開いた。


「な、何ぃぃぃぃ!?」

「厨二病の業の深さを舐めるなよ……。黒とか闇とかアカシックレコードとかタナトスとかアビスとかそんな感じの言葉に常に敏感なその感性。その集大成たる邪炎の力を思い知れ!」


 ガーディスの放った光を取り込んだ邪炎はその勢いを強めるとそのままガーディスを飲み込んでいく。


「ば、馬鹿な……」


 そんなありきたりな叫びを残し、ガーディスは闇に飲まれて消えていった。


「お、おお!? カズキ様!? 殺りましたか!? 遂に一線超えましたか!?」


 そんな光景を見ていたらしいククスさんが興奮気味に聞いてくる。というかなんでそんなに楽しそうなんですかねあなた。


「別に殺してない。あの技は闇ごと敵を『この世で最も恐ろしい場所』に送り込む技なんだ。だからあいつは今頃地獄を見ている筈――ん?」


 ニヒルに笑いながら答える俺だったがそこで妙な感覚に襲われた。なんだろう、このもぞり、というかごわごわ、というかそんな感覚がするのだ。俺の下半身から。


「か、カズキ様!?」

「ん?」


 ククスさんの奇妙な悲鳴に首を傾げつつ俺は視線を下方へ移す。そこにあったのはピンクと鉄の鋼鉄の乙女衣装と謎の呪術的なアクセサリー。その姿を見ただけで俺は心の柱はピサの斜塔の如く傾いたが、問題なのはそこじゃない。その鋼鉄の乙女衣装の一つであるスカート。すね毛全開の俺の両足を申し訳程度に隠す俺の最後の砦。そこに黒い渦が生まれていた。渦は徐々に大きくなり、やがて『ぺっ』と何かを吐きだした。


「くっ、おのれ! いったい何をしたあの男―――」


 それは、つい先ほど闇に飲まれた筈のガーディスで。俺の両脚の間の闇から放り出されたガーディスの顔は俺の鋼鉄の乙女衣装の中に突っ込まれていた。


 因みに、以前も言ったことがあるがスカートの中身も乙女仕様である。

 

「ぐああああああああああああああなんだこの地獄はああああああああ!?」

「こっちの台詞だあああああああああああああああああああああ!?」


 人の股座に顔を突っ込んで股間近くで悲鳴を上げるガーディスに俺は容赦なく膝蹴りを叩き込んだ。


「ぐほぅぉ!?」


 良い声を出してガーディスが吹っ飛んでいく。

 そしてぜえはあと荒く息を付く俺の隣ではククスさんが顔を青くして頷いていた。


「な、成程……今この世界で最も恐ろしい場所、つまり地獄はそこだったということなんですね……」

 

 俺は両手で顔を覆った。





「随分な変態ぶりだな、林」


 色々な物を失いつつも進む俺とククスさんは遂に魔王城の入口まで辿り着いた。背後の方では兵士達と七塵将達が未だ戦火を交えている。そして彼らが囮になってくれたからこそ俺とククスさんはここまでこれた。そして入り口を開けるとそこはかなり広いホールの様な空間であり、そこに村田の姿があった。


「なんとでも言いやがれ。俺は必ずフェノンを救う」

「セリフだけは勇ましいが恰好が恰好なだけにやはりただのド変態にしか見えんがな」

「言うなあああああああああああああああああ!」


 叫びながら俺は村田目掛けて駆け出し金槌を振るう。一方村田は腕を軽く振ると虚空から漆黒の大剣を召喚し俺の一撃を受け止めた。なにそれずるいカッコいい。


「テメエだって、頭に角生やしていかにもなマント羽織ってんじゃねえか! 同類だ同類!」

「抜かせ! 俺は貴様の様にド変態にはなってない! 頭の角だって付け角だ! 第一元はと言えば貴様の黒歴史ノートのせいだろうがああああああああ!」


 お互いに言いたい事と、武器をぶつけ合い一端離れる。腕は痺れるが大丈夫だ。前回とは違い力では負けてない。


「何を言われようと関係ない! 俺はお前を倒す」

「それは無理だな!」

「それはどうかな! 黒の七二番――≪邪炎闘針蓮≫!」


 俺の両腕と第三の眼が光り炎が沸き出す。その炎は針の様に鋭さを持った形状を幾多にも作り上げると村田目掛けて放たれた。だが村田は余裕の表情を浮かべると厳かに腕を振るう。


「≪失せよ―――≫」


 村田の呪文はそれだけ。それだけなのに俺の放った炎の針はまるで何かに押しつぶされたかのようにひしゃげ、そして霧散する。ならば、


「これならどうだ!? ≪クリティカルパーセンテージ・HUNDRED≫!」


 ピンクの金槌が今までで最高の輝きを放つ。その光と共に金槌が巨大化し、炎と風が巻き起こり描かれたベンゾウさんマークも荒ぶり始めそして俺の服も一部が吹き飛ぶ!


「総体重は乙女の秘密。秘密を知るのは―――敗者のみ! 全力圧壊! ≪ルナティックフォールプレッシャー≫!」


 全ての光が重さと化して、必殺必圧の一撃を村田目掛けて振り落とす。だがそれでも村田は動じない。


「≪されど、汝は、我が手の平で踊る≫」


 厨二病的な呪文を村田が吐いた瞬間、俺の振り落としてた圧力と重力の塊たる金槌が突如その重みを消した。

 嘘だ!? と思う間もなく重みを無くした俺目掛けて村田が酷薄な笑みを浮かべ俺に手を向けた。


「吹き飛べ≪汝放たれる闇の黒槍≫」

「がはっ!?」


 村田の手から放たれたのは闇色の槍の様な光。それをモロに喰らい俺は入り口近くの壁まで吹き飛ばされ背中を壁に打ち付けてしまう。


「ぐっ……そのどことなくパクリ匂いのする術は……」

「お前の黒歴史ノートにあった術だな」


 ああそうだろうよ! ファンタジア文庫っ子なら某ドラまたと並んで憧れる、一度はやってみたい魔術シリーズの一つ。グロ魔術師殿のアレのパクリだよ! だって憧れちゃったんだから仕方ないじゃない!


「カズキ様、ここは私が!」


 荒く呼吸する俺の横を駆け抜けククスさんが村田へ迫る。その両手には新たな釘バッドを携えている。


「懲りずに来たか、釘パットの魔女」

「その名を呼ぶなあああアアアアアアアアアア!?」


 一瞬で頭に血が上ったらしいククスさんが両手の釘バッドを振りかぶる。だが村田は余裕の笑みで、


「≪墜ちよ≫」

「ぴぎゅ!?」


 たった一言でククスさんは妙な悲鳴を上げて床に沈んだ……。というか、だ。


「ククスさん!? アンタ前回と全く同じじゃないか! 前々からちょっと思ってたけど実はアンタ馬鹿だろ!?」

「何故でしょうか……カズキ様にそれを言われると通常の3倍くらい傷つくのは……っ」


 床でピクピク震えながら何かぼやいているククスさんを無視して俺は改めてムラタを見やる。あいつは相変わらず余裕の表情でこちらを見つめていた。

 いくらなんでもおかしい。強すぎる。俺だって色々捨ててハイブリット黒歴史装備で挑んでいるのに全く歯が立たない。こんな事がありえるのか……?

 そんな俺の疑問に気づいたのか村田はバカにしたように笑う。


「不思議そうだな、林。さしずめ俺の強さが理解できないといった所か」

「…………ああそうだ。お前、一体どんな手品を使った?」


 同じように俺の黒歴史ノートを再現しているのなら、ここまで明確な差は出ない筈だ。いくら俺以上にノートを読み込んでいようとも、ここまで差が付くのは納得がいかない。

 そんな俺の疑問に対し、村田は小さく笑うと懐から一枚の紙を取り出し俺に放る。ただの紙の筈なのにそれはまるで何かの力が働いているのか、真っ直ぐと俺に向かい、そして足元に落ちた。


「そこに答えがある。貴様がいくら足掻こうともどうしようもない答えがな」

「何を……?」


 俺は不思議に思いながらも村田が放った紙を手に取りそれに目を落とし、そして震えた。

 そういうことか。そういう事だったのか。俺が、俺が村田に勝てない理由。村田がこれほどまでに強い理由。その全ての理由がその紙には記されていた。

 村田が放った紙。それは俺の黒歴史ノートの写しであり、そこにはこう書かれていたのだ。


『ま王→さい強』


「どないせっちゃうんやあああああああああああああああああああああ!?」


 過去の俺の馬鹿! 馬鹿!

SOD意味が分からなかった人は18歳を過ぎてからお父さんに笑顔で聞いてみよう! もう一つの術も呪文を現代風に訳すと色々危ないかもNE(笑顔

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