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4-6

 いつの時代だってそういう奴は居た。


 人やその友人が仲良く趣味の話をしてる時に、上から目線で馬鹿にする嫌な奴。別に何か迷惑をかけている訳ではない。確かに、世の中には趣味の話や世界に没頭して迷惑をかける奴も居る。だが少なくとも俺や加藤。その周りの連中はそういうタイプでは無かった。他者の迷惑にならない所で、自分達だけで盛り上がる。決して強要はしない。強要してくるオタクなどただの迷惑だという事は承知しているからだ。

 だというのに態々やってきて嫌味を言うような奴。ダサいだとか馬鹿馬鹿しいだとか、嫌見たらしく言ってきて馬鹿にしてくる様な連中。しかもそういう奴に限って何故か顔が良い。全く持って腹立たしい。故に俺や加藤、山田に田中はそういう奴を苦手としていた。いやだってほら? 趣味にケチ付けられるとムカつくんじゃん?

 

「つまりそれが村田だ」

「ちょっと待てカズキ!?」


 俺の説明に何故かフェノンが吠えた。


「おかしいだろう。それはいくらなんでもおかしいだろう!?」

「何言ってんだフェノン。どこからどう見ても村田じゃないか」

「いやだから誰だそいつは!? 普通ここまでの展開とか色々考えたら出てくるのは加藤じゃないのか!?」


 ああ、どうやらフェノンは加藤と思ってたのか。しかしそれはあり得ないだろう。


「何言ってんだフェノン。もし加藤なら俺に喧嘩売る暇あったら画面の向こう側に妹作ってるに決まってるだろ」

「知るかあああああああああああああああ!?」


 相変わらず縛られたままのフェノンがじたばたと暴れていた。何がそんなに気に食わないんだろうか?


「加藤か、懐かしい名だな」


 一方村田は村田でなんか遠い目をしていた。だが直ぐに表情を引き締めると俺を睨みつける。


「会いたかったぞ林。この日をどれだけ待ち望んだか」

「む、村田? お前確かに嫌な奴だったけどそんな喋り方だったっけ? というかその恰好……」


 俺は村田の変わり様に思わず呻いてしまった。何せ今の村田は色々おかしい。喋り方は何故か芝居かかってるし、服装は刺々しい肩パットに漆黒のマント。ジャラジャラした謎の宝石類で装飾された服装。髪は元々の黒のままだが、なんと頭には角まで生えている。そしてムカつくことに整った顔立ちの相貌は赤く煌めいていた。これは一体……。それにさっき魔王がなんだかって言ってた気が……。


「村田、お前何故そんなイカれた格好を!?」

「ベルトをビシバシ巻いてシルバーアクセサリーをジャラジャラつけて指無し皮手袋を嵌めたお前にだけは言われたくない!」

「そうだった!?」


 そうだった。最近邪炎眼発動したり魔甲少将になったりしてたから忘れがちだったけど通常時の俺もガッツリ厨二仕様だったのを忘れてた。けど指無し皮手袋ってなんかカッコいいじゃん!


「け、けど村田。まさかお前まで俺みたいにこの世界に召喚されたのか?」


 それが一番考えられる可能性だ。というかそれ以外にコイツが居る理由がわからん。何故コイツなのかという理由はわからんが。

 だが俺の問いに村田は小馬鹿にした様な笑みを浮かべながら首を振った。


「違うな林。俺はお前と同じように召喚されたのではない。お前が(・・・)俺と同じように召喚されたのだ」

「え?」


 どういう事だ? 俺が村田と同じように? という事はまさかこいつは……!


「気づいた様だな。そうだ! 俺はお前より先にこの世界に魔王として召喚されたのだ! それも二年前にな!」

「に、二年!?」


 ばさぁ、とマントを翻し叫んだ村田の言葉に俺は戦慄する。二年? 二年もこんな頭おかしい世界で? え、マジで?


「二年……? そういえば魔縛教典が奪われたのも確か二年前だった筈だ」


 フェノンも目を丸くしている。というか奪われて二年も経ってたのかよ! よく無事だったな人類!


「何もわからず魔王として召喚され、そして二年という歳月の中で俺は変わってしまった。元の世界に戻る方法を探るため、お前の書いたという頭のおかしい黒歴史ノートをただひたすら、ただただひたすらに読み続けた! 夏場の公園で干上がったミミズの様な文字をひたすら解読し! 脳ミソが沸いているとしか思えないような小説や設定すらも暗記し! 自らもその厨二全開な魔術やらなんやらを実践しつつただひたすらに読み続けた! いつしか俺は疎んでいたお前の考えた妄想をその身で実現するようになっていき、口調は変わり部下は妙なのが増え、そして心身ともに魔王になりつつあった! この俺の気持ちが分かるか!?」

「やめて! ここまで来て改めて俺に現実を見せつけないで!?」


 村田は泣いていた。それは二年という歳月により変わってしまった己に対してか。

 そして俺も泣いていた。過去の自分の所業を知り合いに読まれていたという残酷すぎる仕打ちに。


「…………だがそんな俺にもようやく良い知らせが来た。そうだ、林。お前の召喚だ」


 村田はぐっ、と拳を握りそして笑みを浮かべる。


「他でもない、お前が書いた黒歴史ノートだ。 ならばその解読もお前なら出来る筈。その為に部下達にはお前の連行を命じたが」


 そこでちらり、と村田は桃色大三元に視線を向けた。彼女達はビクッ、と肩を震わせ慌ててそこに跪いた。だが村田は軽く手を振り『構わん』と静かに告げる。


「これは俺のミスだったな。まさか召喚されて間もないお前がここまで戦えるとは思っていなかった。だからこそ俺が来たのだがな」

「そ、そうなのか……? というか! だったら素直に言ってこいよ! 俺だって帰りたいんだからお前が奪ったあのノートを俺に帰してくれれば万事解決じゃねえか!」


 そうだよ、良く考えたらそうじゃないか。俺の黒歴史ノートに異世界召喚の記述があったかどうかは正直覚えてないが、だったら村田がそれを持ってきて俺に見せれば良いだけじゃないか。

 だが俺のそんな叫びに村田はプルプルと肩を震わせていた。あれ?


「黙れ……。確かに、確かにお前と協力すればそれも可能だったかもしれない。だがな、俺は貴様と協力することなど真っ平ごめんだ! 俺を、俺をこんな状況に落とした元凶たる貴様に復讐しなければ気が済まないんだよ!」

「ちょっと待て!? 確かに気の毒だとは思うけどそもそもお前が召喚されたのは俺のせいじゃ…………って俺のノートが魔術の原点ならやっぱり俺のせい!?」

「そういうことだ! だから、だからお前は貴様が苦しむ姿が見たんだよおおおおおおお!?」

「おおおおおお落ち着け村田!? 途中から呼び方が貴様になってるし思考が完全に魔王そのものに!?」

「黙れええええええええええええ!」


 村田が叫びながら虚空に指を走らせ始めた。あれは誰もが一度は考える魔法形態、虚空に紋章を描く事で発動する描画魔術!?


「≪地獄(ゲヘナ)の炎に抱かれて塵芥となれ為れ!≫」

「ぬおおおおおお!?」


 村田の描いた紋章から赤黒い炎が生み出され俺とククスさんに向かって放たれた。慌てて横に飛んで避けるが、その炎は俺だけを狙って蛇の様に曲がり襲い掛かってきた。


「があああ!?」

「カズキ!?」


 炎が直撃し、全身が熱と痛みに晒される。その激痛に泣きそうになりながらも俺は地面を転がった。


「っ、……村田!? テメエ殺す気か――」

「そう簡単には殺さない。お前をとことん苦しめるまではなあ!?」

「げふっ!?」


 いつの間にか目の前に現れてた村田のつま先が腹に叩き込まれた。蹴り飛ばされた俺は地面を再度転がる。


「――っは!? っ……!?」


 腹を蹴られた痛みでうまく呼吸が出来ない。そんな俺に村田は更に蹴りを叩き込もうとしてきた。


「させませんよ!」


 そんな村田の前にククスさんが割り込んできた。釘バットは既にその手に無く、変わりにどこから取り出したのかナイフを持っていた。


「カズキ様のお知り合いでもこれ以上は――」

「《墜ちろ》」

「きゃあ!?」


 村田が一言発した途端、ククスさんの身体が突然崩れ落ちた。


「っ……、ククスさん!? い、今のは……!?」

「精霊と契約することで使用可能になる自然の理を曲げる奇跡。≪言霊≫だ。近づかなければ使えないが、条件さえ満たせばもっともはやく力を行使できる」


 村田が大して興味が無いように倒れたククスさんを見やる。ククスさんは体に力が入らないのか地面に伏したまま村田を見上げていた。


「ぐぐぐ、そ、そんな……。精霊なんて本当に居る訳……」

「ああそうだな。居なかった。だから創った。他でもない、そこの男が創った創精魔術でな」

「な、なんだと……」


 た、確かに言霊も、創精魔術も言われてみれば思い出す。だけどその詳しい内容までは流石に覚えきれていない。そもそも今まで俺が覚えていて使ってきたのは、俺の黒歴史ノートの中でも印象深いものばかりだったからだ。全ての内容を完璧に覚えている訳ではないのである。


「さて……」


 村田がこちらに改めて視線を寄越した。その姿を見て俺は震える。


 強い。


 既に村田は俺以上に、俺の黒歴史ノートを把握している。俺がまともに覚えておらず出来ない事も、こいつはマスターしている。それはつまり、俺と村田の間には圧倒的な差があるという事だ。


「カズキ、逃げろ!」

「フェノン……」


 フェノンも気づいたのだろう。未だに捕まったままではあるが焦った顔で叫んでいる。だけどさ、


「お前を置いて、逃げれるわけないだろ……」


 確かに村田は強い。だけど、だからと言って大切な相棒を見捨てて逃げるなんて出来る訳が無い。流石にここでその選択肢だけは無いだろう。いつになくシリアスな俺の思考がそう言っている。


「…………ほう?」


 そんな俺の姿を見ていた村田がどこか嗜虐的な笑みを浮かべた。その顔には同郷の者とは思えないほどの悪寒を感じた。


「随分とあの女を気にしているようだな。成程、あれがお前の支えか」

「何……?」


 何だ? 何を言っているんだこいつは? そんな俺の混乱を余所に村田は振り返り、フェノンの姿を見て、嗤った。


「正直、お前をどれだけ痛めつけても俺の二年間の苦しみを味あわせる事は出来ないと思っていた。だがそうだな……。ならば方法を変えるまでだ。覚えているか林? お前の黒歴史ノートにはな、洗脳魔術(・・・・)もあったという事を」

「――――――っ、テメエ!?」


 村田が何をやろうとしているのかを理解して、俺の頭が真っ白になった。そんな俺の顔を見て村田は愉悦に満ちた笑みを浮かべる。そしてフェノンを拘束した状態の桃色大三元に声をかけた。


「お前達、そいつを連れて帰るぞ」

「ま、魔王様? しかし破限魔術師は……?」

「今はいい。その方が面白い」

「ふっざけんなああああああ!」


 痛みも何もかも忘れて俺は村田へと飛びかかろうとする。だがそれより早く村田が手を翳すのが早かった。


「《弾けろ》」

「がはっ!?」


 あと一歩、あと一歩というところで放たれた村田の言霊により俺は言葉通り弾き飛ばされた。無様に地面を転がり全身が擦り傷だらけになるが、それがどうした。それよりもフェノンが――


「良い顔だな!」


 起き上ろうとした瞬間、後頭部に衝撃。距離を詰めた村田の足が落とされたのだ。ぐわんぐわんと脳内で音が響き、地面に崩れ落ちる。それでも、それでもと起き上ろうと顔を上げると、そこにあったのは村田のサディスティックな笑みだった。


「そうだ、その顔だ。二年間の俺の地獄。その復讐としてその顔は実に好ましい」


 そう言って俺に近づき、そして無慈悲に告げた。


「お前も地獄を見るが良い」

「フェノ――」


 名前を呼ぶことは叶わず、再度振り落とされた村田の足によって俺は意識を刈り取られた。






「痛っ…………」


 私は未だに痛む体をさすりつつ、ため息を付いた。

 日は既に落ち、私の周囲ではテントが張られ各所には松明が炊かれている。その周囲では最近炊事以外では役に立たない兵士たちが走り回っていた。


「ククス様」


 その中の一人が私の下に駆け寄ってくる。その顔はどこか浮かない。そしてそれは私も同じだろう。


「あの……フェノン様は……。それに破限魔術師様も」

「大丈夫です。必ず元通りになりますのであなたたちは自分の仕事をして下さい」

「…………わかりました」


 納得したわけではないだろう。だがその兵士は頷くと自らの持ち場に戻っていった。その後ろ姿にため息を付き、そして私はあるテントに目を向けた。

 少しだけ豪奢な作りのそのテントは、カズキ様やフェノン様が使用していたものだ。無論、寝所は別だったけど二人が話すときは良くあのテントで話していた。だが今あのテントにはカズキ様一人しかいない。


 あの後、カズキ様が意識を失った後、魔王のムラタとか言う男はフェノン様を連れ去ってしまった。そして私は何もできなかった。≪言霊≫とか言う不可思議な魔術によって動きを奪われた私はただその姿を見ている事しかできなかった。

 そしてカズキ様も。意識を取り戻したカズキ様は現状を把握すると、今まで見たこと無い程激高し、そして自らを責めていた。カズキ様だけのせいではないと、そう言ったけれども首を振り、そして後から合流した兵士達がテントを立てるとその中に引き籠ってしまった。


「どうしましょう……」


 フェノン様は助ける。それは当然だ。だがあの魔王の力は想像を超えていた。あのカズキ様も全く歯が立たないほどに。そんな相手にどうやって勝てばいいのか? この問題を先ほどから数時間、永遠と考えているが答えは出ない。一体どうすれば……。

 悩みつつ、それでも今のままではいけないだろうという結論に至る。何をするにしてもまずはカズキ様を復活させなければ。沈んでいてもフェノン様は取り戻せないのだ。だから少し厳しくしてでもカズキ様も立ち直らせよう。それに怪我の治療だってまだまともに出来ていないのだ。まずはそれを理由に話だけでも聞いてもらおう。

 私は決心するとカズキ様の居るテントへ近づく。そして中に入ろうとしたところで、そのテントからカズキ様が出てきた。


「っ、カズキ様!?」


 予想外のその状況に思わず声が裏返る。そして私の声に気づいたのか、周りの兵士達も作業を辞め一斉に注目した。だが当のカズキ様は俯いており、その表情は見えない。


「あ、あのカズキ様……」


 やはりまだ堪えているのだろう。同じ世界の人間があそこまで自分を恨み、そしてフェノンさまを連れ去り洗脳するという言葉に。そして全く敵わなかった己自身に。そんなカズキ様にどんな言葉をかければいいのか? いざ目の前にしてみて私は言葉に詰まってしまう。

 だがそんな私を余所に、カズキ様は顔を上げ、そしてその顔を見て私は思わず震えた。


 昏い。昏い光を目に宿しながらもカズキ様は真っ直ぐにこちらを見返してきたのだ。そしてその視線を、自分を見つめる兵士達へも移し、そして数秒間の間睥睨すると、深く、重みのある言葉を発した。


「――――――――――力が欲しいか」


加藤じゃなかった理由⇒そんなことより妹攻略しようぜ!

そしていつになくシリアス。


と見せかけて最後は鉄板。

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