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4-3

あけましておめでとうございます

帰省中に少しかけたので滑り込み投稿

 それは運命の出会いだったのかもしれない。


 だってそうだろう? 俺がこの世界に来て、この世界の不条理に心が折れかけた時救ってくれたのは、彼女の存在だったのだから。

 絶望の中で立つ気力を無くした俺を救ってくれたもの。それは夢。それは希望。幼き頃に詰め込んだ甘酸っぱい青春の塊。その存在を知ることができたからこそ、俺は立ち上がれたんだ。

 そう、それはいわば恩人。俺を救ってくれた救世主の様な存在。だから俺はそんな相手に向かってこう告げた。


「…………流石にないわ~」

「おおぉいカズキィッ!?」


 凄まじい勢いでフェノンに肩を掴まれた。


「痛いぞフェノン」

「しれっとした顔で言うな! というかお前は何を口走っている」

「いやだって流石にあれは……。何と言うか二次元から三次元に移ったら失望した感じ? 実写版のコレジャナイ感っていうのが」

「この世界でお前だけはその台詞を言ってはならないだろうが!?」


俺の肩をガクガクと揺すりながら叫ぶフェノン。そんな彼女越しにシーズルの方を見ると呆然とした顔でプルプルと震えていた。


「いいかよく見ろカズキ、あの女の変態的な格好を。呪術的でイカれたメイク。どこぞの未開部族でももうちょっと考えるだろうと思わせる配色。野生動物も逃げ出す禍々しい気配。同じ女としてあんな恰好するくらいなら死んだ方がマシだと思わせるほどの破壊力。社会性の抹消。自己の消失。倒錯して変態趣味に走った哀れな独身三十路間近の痛女にしか見えないだろうが!」

「それを言うなああああああああああああああああああ!?」


 涙を流しながらシーズルがどこからともなく弓を取り出すと矢を放ってきた。俺とフェノン。そして横に居たククスさんは慌ててその場を飛び退く。


「貴様ぁ! 貴様らだけはあああああああ!?」

「見ろ、あの女の悲痛な叫びを。あれはお前の責任だぞ」

「いや、どちらかと言うとトドメさしたのフェノンだろ!」


 とか言ってる間にもキレてるシーズルが弓を放ってくるので俺達は走って避けながらも距離を取る。


「カズキ様……流石に私もアレは無いかと……」

「いや俺も正直悪かったと思って騙されたショックとか色々飛んでしまったんだが」

「というかカズキ。過去のお前はあんなのに欲情していたのか……?」

「うわぁ、それはキツッ!? キツ過ぎですよカズキ様! 正直ドン引きなんですけど」

「いやね!? 俺だってそう思うよ!? 思うけどさ!?」


 というかこの世界の人達って糞恥ずかしい呪文とか魔法少女にはなるくせにエロ関係は耐性無いのかよ! そういえばゼロスも『破廉恥な格好』とか言ってたし!


「ならカズキ、一体お前はどんな変態趣味を発露させてあの露出痛女を生み出した? というか過去のお前って本当に正気だったのか?」

「思春期の小学生舐めんなよ!? いいか! あの頃の小学生は今みたいにネットで検索お手軽エロ画像なんて有り得なかったんだよ! 道端に落ちているエロ本を何度も往復して横目で見たり! 漫画やアニメで時たま訪れるほんのわずかなピンクな画像に全てを賭けていたんだぞ!? らんまに地獄先生40炎が新世紀してふしぎ遊戯にAIが止まらなくてラブひなったりしつつそこで訪れる一瞬のエロスを大切にしていたんだ! 洋画でラブシーンなんて始まろうもんなら興味ない振りしつつも心の中ではヴァジュラ・オンしてたんだよ! そんな思春期真っ盛りの小学生がエロスを描いた結果があれだ! ヴァジュラ・オン・アァァァク!」

「知るかああああああ!?」

「私を無視するなあああああああああああああああ! お前ら、あいつを殺せええええ」


 シーズルが弓を棄て号令を放つと、それまでシーズルの背後でドンドコ太鼓を叩きつつ謎のコーラスをしていた半裸の男たちが襲い掛かってきた! 


「うわ怖っ!? 怖!? なんだアレ化け物か!?」

「お前が生み出したものだろうが! ちっ、ククス!」

「あの数を一人でですか!? 私の釘バットは血を求めていますけど流石にちょっと難しい気が……」

「援護はしてやる。お前がひきつけている間に殲滅してやる――――カズキが」

「俺かよ!?」

「了解しました。ならちょっとドついてきます!」


 どこからともなく釘バットを取り出すとククスさんは『ヒャーハッー』と叫びながら敵の群れの中に突入していった。うん、あの人も最近よくわからない。


「よしカズキ。ククスが生贄になってる間にあの露出痛女をとっとと吹っ飛ばせ。どうせあいつも三人組だろうし残り二人が出てくる前に先に仕留めるぞ。その後お前の趣味について存分に弄り倒してやる」

「お、おう。何か言葉の端々に突っ込みたくなるけど了解だ」


 俺は頷くと一歩前に出る。視界の端で血しぶきが上がり、謎の高笑いと男たちの悲鳴が聞こえてきた気がしたが俺は何も見ていない聞いていない。


「ククククク、この日をどれだけ待ちわびた事か。秘密部隊に抜擢されたあの日、私は感動した。私の力が役に立つときが来たと。私に脚光が浴びたと! だが現実はどうだ!? 貴様の生み出した魔縛教典のせいで私はこんな格好をするハメになった! 確かに強くはなった……強くはなったがその分私の女子力は下がった! この恨み、貴様を殺して晴らさせてもらう!」

「うわあ凄いやりにくい! というかお前らの目的って俺の捕獲じゃなかったのか!?」

「知らん! 命令など知った事ではない。私はお前を殺す……!」


 俺は冷や汗を流しつつ背後のフェノンに振り返る。


「あのーフェノンさん。あの人目がマジなんだけど……」

「だろうな。同じ女として気持ちはわからないでもない」

「いやいやいや!? フェノンさん味方ですよねえ!?」

「味方だ。殺させはしない。殺させはしないがお前の変態的な趣味には正直ドン引きしている」

「やめて! 俺だってアレは実際見たら正直引いたからこれ以上傷を抉るのはやめて!?」


 何だろうこの四面楚歌。とりあえずとっととあいつを倒そう。そんな俺に構わずシーズルは懐から数枚の紙切れを取り出した。


「貴様を倒す為、『あの方』から預かってきたこれの力を試してやろう」

「なんだそのコナン君の敵キャラみたいな名称」


 だがそんなもので俺はやられない。何せここ最近精神ダメージが多すぎた反動で、ちょっとやそっとの厨二呪文なんてもう何とも思わなくなってきたもんね! 慣れって怖いね! 俺はシーズルの動きには警戒しつつもゆっくりと呪文詠唱を始め――


「≪人類統制機構≫」

「ぶほっぉ!?」

「カズキ?」


 シーズルが突然発した単語。それを聴いた途端俺は思わず咽た。


「≪天徒≫≪零徒≫≪根源返し≫≪破砕眼≫≪紅覇蓮≫」

「ぐがああああああああああああああああ!?」

「カズキ!? 一体どうした!?」

「ふはははは! あの方の言うとおりだ! この呪文(・・)は破限魔術師に良く効くらしいな!」


 俺は息も絶え絶えに蹲る。そんな俺を気遣うように背中に手を当ててくれていたフェノンがシーズルを睨んだ。


「貴様、一体何をした……?」

「ふん、知れた事! 破限魔術師にしか効かないが凄まじい呪いを与える呪文を唱えただけさ!」

「呪文……? そうなのか、カズキ?」

「…………うん」


 何てものを、何てものを取り出しやがったあの女! いや、違う。今まで出てこなかったのが不思議なくらいなんだ。ここでそれを出してくるなんて……。


「あれは……あれは俺の未完小説の設定だ……やだもう死にたい」

「またそのパターンか!? ……いやだがちょっと待て。それなら今までだって似たようなのがあっただろう? 何故そこまでダメージを負う?」


 そう、確かに今までもあった。ゼロスの存在とかさ、学園テロリストだとかさ。色々あったよ? けどね。あれは一味違うの。


「ゼロスは小学生時代の妄想……。学園テロだって中学の時の小説。けどね。あれは違う、あれは違うんだ……」

「おいまさか」


 フェノンも気づいた様だ。その顔が引きつっていく。そんなフェノンに俺は頷いた。


「あれは高校時代の俺の最後の妄想集大成小説の設定なんだよ!? わかるかこの気持ち!? 小学生時代はなんとなく強そうな感じのカッコいい物を作ろうとした! 中学生時代はオレカッコいい的な妄想を小説にしたりした! けどな、高校はまた違うんだよ!? ちょっと大人になってきて変に知識とかつけてしまった分、難しい単語とかややこしい設定とか型月ネタとか織り交ぜ初めて別段の痛さなんだよおおおおお!? それを今になって聞かされる事の苦しみが分かるか!?」

「くっ、つい先日まさにそんな設定の姿を見られた身としては否定できないっ……!」

「ふははははは! 良くわからんが効いてる様なのでどんどん行くぞ! ≪番人アダトによるグラン・ドぅ・トゥール≫≪祖は古寄りの運命≫≪天桜管理者≫≪構成術式≫!」

「ぎゃああああああああああああ!?」


今まではなんだかんだでわかりやすい痛ネタだった

けど高校時代になると無理やり難しい言葉を使ってなんとなくすごいじゃね? 感をUPさせている。その破壊力に俺は泣いた。ここにきて原点回帰的な攻撃を受けるとは思いもよらなかった。というかマジでやめてお願いですほんと。


「ちっ、カズキは戦えんか。なら私が――」

「魔女! お前の対策も私は預かっている!」

「何だと?」


 シーズルが怪しく笑い懐から何かを取り出した。


「それは写身晶? それが何だと――」

「ここに保存されているもののタイトルはな! ≪全盛期の魔女フェノン伝説≫だ」

「いやああああああああああああああああああああああ!?」


 フェノンが頭を抱えて俺の隣で蹲った。その顔は真っ青になりガタガタと震えている。


「ふぇ、フェノンの全盛期ってつまり……」

「そうだ! そこの魔女の過去の姿だ! …………正直何故これがそんなに怖いのかはよく分からんがあの方が言うのだからやはり正しかった様だな!」

「やめて……見せないで……見せないで……」


 全盛期のフェノンって事は18歳くらいの時にピュアブラックリリーになってヒャーハーしてた時の事か! まさかまたその傷を抉ってくるなんて。お蔭でフェノンまでもが戦闘不能になってしまった。不味い、これは不味い! 

 しかしおかしいぞ。この世界の痛さは俺とフェノンしか理解していない筈。なのにあいつはその痛さを武器にして俺達を苦しめてくる。しかもシーズル本人はその痛さを理解していない様に見える。一体どういう事だ?


「呆けている暇があるのかあ!?」

「っ!?」


 いつの間にか目の前に来ていたシーズルが足を振り上げる。ゴッ、と衝撃と痛みが顎に走り俺は数メートルを転がった。どうやら蹴られたらしい。


「痛ってえええ!? て、テメエッ!」

「おおっと動くな破限魔術師!」


 流石に俺でもここまでやられたら叫んでばかりは居られない。直ぐに立ち上がり飛びかかろうとしたが、その前にシーズルがフェノンを捕えていた。


「っ、貴様――」

「暴れるなよ魔女。お前には特等席でこれを見せてやる」

「や、やめろ!?」


 シーズルは一瞬でフェノンの腕を縛り上げるとその眼前に写身晶を掲げた。途端にフェノンの顔が真っ青になりガタガタと震え始めた。いかん、俺とは違って元々フェノンはこの世界の住人。耐性が無さすぎて精神ダメージがデカすぎるらしい。こないだは何とか持ち直したがやっぱり完全克服は出来なかったか!


「フェノンを離せ」

「嫌だね。この魔女も同罪だ。こいつも罰する必要がある!」

「ふざけんな! そんな薄い本展開させてたまるかよ! いくら俺だってフェノンがガチでピンチなら過去の黒歴史だって乗り越え―――」

「そうだな、まずはこの女には私と同じ格好をさせよう」


「――――――――――――――――――――――――――――――――――――」


 ひゅう、と風が吹き抜けた。とても心地の良い風だ。何故だか心が洗われるようで、俺はその心地よさに目を細めた。風の精霊が俺の耳元で囁いている。ああ、わかってるよ。俺は大丈夫。はは、この可愛いやつめ。


「カ、カズキ……?」


 フェノンが俺の名を呼ぶ。現実に戻ってきた俺が見たその顔は不安で彩られている。当然だろう。だが安心しろ。俺がその不安を拭い去ってやる。

 俺は構えを解くと、フェノンを安心させるように満面の笑みを浮かべ、


「大丈夫、フェノンのスタイルならその女よりずっと似合うから」

「カズキィィィィィィィイィィィィィィィィィィィイ!?」


引っ越しの為に片づけしてたらマジモンの黒歴史ノートが出てきました。

もうね、本物は破壊力がパネェです。何がパネェってね、普通のキャンパスノートの表紙に自分の字でこう書いてあったんですよ。


『do one's best OK? 3 2 1 Go!』


もう勘弁して下さい。表紙の段階で心を折ってくるとかどういう事よそもそもどういう意味だよエキサイト先生に聞いちまったよなんでカウントしてるんだよGOってなんだよGOってどこに行くんだよ帰ってこい昔の俺現実はそっちじゃない。

そんな過去の自分に悶えつつその中にあった単語を今回の話に使用したりしました。カズキの叫びは半分私の叫びです。俺はマゾか


という事で明日から新天地なのでドタバタでちょっぴり更新空きます

まだ住むところすら決まってないのでしばらくホテル暮らし。待ってろ手羽先

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